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第四章 絶体絶命のときに救ってくれるのは……

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駒木さんが私を連れてきたのは、彼の家だった。

「セキュリティは万全だし、なにより僕がいるから安心だよ」

おどけるように彼が言い、ようやくぎこちないまでも少し笑えた。

私が落ち着くようにか、駒木さんはミルクたっぷりのカフェオレを淹れてくれた。
温かいそれが、身も心も満たしていく。
飲み終わって、ほっと息をついた。

「……今日は来てくれて、ありがとうございます」

警察官が、駒木さんが来なければ、最後までことにおよばれていた。
あの男のおぞましいものを、受け入れなければならなかった。
それに、もしかしたら殺されていたかもしれない。

「お礼なんていらないよ。
それが、僕らの義務だ。
それに僕のほうこそごめんね、遅くなって」

再び、彼が詫びてくれる。
それにううんと首を振った。
しかし、彼の謝罪は続いていく。

「電話に出ないからおかしいと思って、東本くんに近くの交番へ様子を見に行くように言ってくれと頼んで、警視庁を出たんだ」

ああ、駒木さんは気づいてくれていたんだ。
それだけで嬉しくて、涙が滲んでくる。

「二度目の電話は不自然な形で切れたし、何度かけ直しても繋がらない。
ただの気のせいであってくれと願ったよ」

彼の声は後悔で染まっていた。
それを聞くと、私までつらくなってくる。

「本当にごめん。
僕が、花夜乃さんを守れなくて、こんな目に遭わせて」

眼鏡の向こうで駒木さんの目がつらそうに歪んでいく。

「悪いのは駒木さんじゃない、ので」

駒木さんは悪くない。
それどころか私を助けてくれた。
悪いのはあの男だ。

「……あの男」

フードの陰から僅かに見えた冷たい目を思い出し、自分の身体を抱いていた。

「花夜乃、さん?」

私の様子がおかしいからか、駒木さんの声が心配そうになる。

「誰、だったんだろ……」

まるで、私に恨みを持っているような言い方だった。
私を知っている人?
でも、心当たりがない。

「今は無理に思い出さなくていいよ」

駒木さんの腕が、私を包み込む。

「今日はゆっくり休んで。
ね?」

優しく彼の手が私の背中をぽんぽんする。
それで再び恐怖に支配されかけていた心が、緩んだ。

食欲はあるか聞かれたが、なにも食べる気にはなれない。

「じゃあ、お風呂に入ってゆっくりしといで」

駒木さんはすぐに浴槽にお湯を張り、お風呂の準備をしてくれた。
さらに、このあいだの入浴剤を入れてくれる。

「なにかあったらそこのボタンを押して呼んで。
じゃあ、ごゆっくりー」

私を残し、彼が脱衣所を出ていく。
服を脱いで浴室に入り、あの男が触れた場所を皮膚がヒリヒリするまで何度も擦った。
おかげで、お湯に浸かると染みる。

「静か……」

広い浴室でひとりお風呂に浸かっていると、どうしてもさっきの出来事を思い出してしまう。
耐えきれなくなって、早々にお風呂を上がった。

「お風呂、ありがとうございました」

「もうあがったのかい?」

お風呂から出てきた私を見て、心配そうに眼鏡の下で駒木さんの眉が寄る。
私が長風呂なのはもう知っているし、こんなに早く出てきたらおかしいと思うだろう。

「それじゃあ、もう寝ようか」

「はい」

こんな状態じゃ眠れないだろうが、それでも横になるだけで違うかもしれない。

私を寝室に案内し、駒木さんは出ていった。
ひとりになると不安が押し寄せてくる。
駒木さんを探しに行こうかと思いベッドを降りかけたら、彼が戻ってきた。

「駒木さん」

見上げる私になにかを感じとったのか、彼が駆けるように私の傍に来てくれる。
持っていたペットボトルがその場に落ち、重い音を立てた。

「ごめん、ひとりにして」

ぎゅっと私を抱き締める彼は、後悔しているようだった。

「……大丈夫、です」

それに気づき、強がってみせる。

「無理、しなくていいから」

そっと彼の指が私の目尻を撫でる。
それが酷く、嬉しかった。

「よかったら、これ」

私の手を取り、駒木さんが薬のシートをのせる。

「安定剤。
気休めに過ぎないけど、少しくらい眠ったほうがいい」

落としたペットボトルを拾い、彼は私に渡してくれた。

「そうですね」

素直に、もらった薬を飲んで横になる。
駒木さんは私の枕元に座った。

「今日はずっと、傍にいてくれる?」

シャツを掴み、じっと彼を見つめる。

「うん、ずっと傍にいるから、安心していい」

彼の大きな手が私の瞼を閉じさせる。
そのまま、このあいだと同じように私の身体を軽くとん、とん、と叩いた。

「TwinkleTwinkle,littlestar……」

すぐに優しい、子守歌が聞こえてくる。
それは私の心をリラックスさせ、深い眠りへと誘った。
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