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第七章 あなたが幸せだと私も幸せ

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「じゃあ僕は仕事に行ってくるけど。
絶対に、絶対に、ぜーったいに、家から出てはいけないよ?」

翌日、家を出ていく駒木さんにしつこいくらい、念押しされた。

「はい、わかりました」

「そう、絶対に駒木さんの家を出るな」

さらに彼を迎えに来ていた東本くんからもダメ押しされ、つい笑ってしまう。

「大丈夫だよ、絶対に出ないって。
それより朝ごはんとかありがとう」

今日はモーニングを食べにいく時間がないからと、東本くんが朝食用にサンドイッチと、お菓子やなんか買ってきてくれていた。

「いや、篠永の役に立てたんならいい」

照れくさそうに東本くんが後ろ頭を掻く。

「そこ!
仲良くするのは禁止だよ。
花夜乃さんは僕のだ」

後ろから腕がかかり、駒木さんが私を東本くんから引き離す。
つい、その顔を見上げていた。
こういうヤキモチ妬きなところ、可愛いとか言ったら、怒られちゃうかな。

「ん?
そんなに可愛い顔してたら、キスしちゃうよー」

今日は本気なのか、駒木さんの顔が近づいてくる。
思わず、目を閉じた……ものの。

「……へ?」

鼻の頭をぷにっと押されて、目を開ける。

「ほんとにキスするとでも思ったかい?
花夜乃さんが僕に本気になるまでは、しないって言っただろ」

からかうようにさらに数度押し、駒木さんは私から離れた。
顔を元に戻すと、あきらかにほっとしている東本くんが見えた。

「じゃあ、行ってくるよ。
お昼までに終わらせるから、お昼はどこか食べにいこう。
花夜乃さん、愛してるー」

私に投げキッスをし、駒木さんがリビングを出ていく。

「あ、待ってくださいよ。
じゃあな、篠永!」

そのあとを慌てて東本くんが追っていき、ひとりになった。

「……キス、しないんだ」

そっと自分の唇に触れてみる。
さっき私、駒木さんのキスを待っていた?
そしてしてもらえなくて今、がっかりしている?
確かに、駒木さんとならキスしてもいいかもとは思っていたけれど。

「うーん」

クッションを抱いて、ソファーで丸くなる。
私は駒木さんに恋をしている?
危機的状況になって助けてくれたのが駒木さんだから、これは吊り橋効果に過ぎないって言われたらそれまでだ。
でも、駒木さんが一緒にいてくれたら、落ち着ける自分もいる。

それじゃあ、東本くんは?
また会えたのは嬉しかった。
あのときのことを謝ってくれたもの嬉しかった。
今、私の心配をしてくれているのも。
しかし、それだけなのだ。
駒木さんみたいに、一緒にいたいって気持ちはない。

「……私は駒木さんが好き」

呟いてみたら、ほわっと胸が温かくなって、幸せな気持ちになった。
そっか。
これが恋なんだ。
全部片付いたら、駒木さんに気持ちを伝えよう。
東本くんには……きちんとお断りしなければ。

朝ごはんを食べてテレビでドラマを観ていたら、携帯が鳴った。
駒木さんからで今から帰るということだった。

「もうそんな時間なんだ……」

長時間テレビを観ていて凝り固まった身体を、大きく伸びをしてほぐす。
この家は大手サブスク動画配信会社のほぼすべてと契約している。
おかげで私が契約していない会社の、あれやこれが観られるとあって、つい集中していた。

軽く化粧をし直し、服も着替える。
ただ、休日着じゃなくてオフィスカジュアルなのがな……。
駒木さんに部屋に寄ってもらうように頼んでみようかな。
あ、でも、この分ならここにいるのはあと少しみたいだし……。

「……結婚してこのまま……」

それも、悪くない。

帰ってきたのは駒木さんひとりだった。

「東本くんは?」

「……花夜乃さんは僕より、東本くんのほうがいいのかい?」

みるみる駒木さんの機嫌が悪くなっていく。
彼は私がシートベルトを締めたのを確認し、車を出した。

「え、そんなわけじゃ。
一緒に仕事に行ったので、一緒に帰ってくるのかと思っただけで」

それになんだかんだいって、東本くんと駒木さん、仲がよさそうなんだもん。
駒木さんも他の人とは違い、気を許している感じがするし。

「僕は今日、オフで休日出勤だったけど、東本くんは最初からシフトが入っているからね。
今日は一日仕事だよ」

まだ駒木さんの機嫌は直らないらしく、若干怒っている。

「そうなんですね。
じゃあ、今日はもうお仕事片付けてきたし、邪魔されずにふたりっきりでデートできますね!」

少しはしゃいで彼をうかがう。
ちょっと、わざとらしすぎたかなと思ったものの。

「そうだね、今日はふたりっきりでゆっくりデートできるね」

へらっとだらしなく駒木さんの顔が崩れる。
案外、チョロかった。
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