神祇地祇~穢れ、祓います!~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第0章 穢れ討伐

0-1

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――おおぉぉぉーん。

地鳴りのような唸り声が響き渡る。
音の元は遙か遠くだが、私たちが待機している場所にまで聞こえてきた。
小学校の校庭に設置された仮設テント、周囲では作業服姿の人間が多数、忙しく働いている。

「……きた」

隣に立っていた若い男――伶龍れいりょうが唇を歪めてにやりと笑い、カチッと鯉口を切る鋭い音がした。
短髪に黒のスーツ姿、ぎょろりとした三白眼は彼のガラを悪く見せていた。
さらにかけている、太縁の黒眼鏡がそれを強調する。
実際、数えで二十歳になって彼とペアを組んでからというもの、彼のせいで私は災難続きだ。

「いい?
今日こそ私の指示に従って」

伶龍を注意する私はといえば、白の着物に緋袴……いわゆる、巫女装束だ。
これからの行動を考えればジャージにしてくれと言いたいところだが、これがきまりなのだから仕方ない。
それにもう、慣れた。
それでも長い黒髪は邪魔にならないように後ろで輪っかにして結わえている。

「聞いてるの?」

しかし彼から返事はない。
目をらんらんと輝かせ、腰を低くためてそのときを今か今かと待ちかまえている。
それを見て、小さくため息をついた。

「とにかく。
私の指示に従ってよね。
わかっ……」

ドーン!と大きな音がするとともに地面が揺れ、身体が浮く。

「見えた」

男の言葉どおり、立ち並ぶ住宅のあいだから二つに折れた、黒い棒状のものが何本も見えた。
しかもそれは五階建てのマンションと同じくらいの高さがあり、不気味に蠢いている。

「参る」

低く呟いたかと思ったら、伶龍が一歩踏み出した。
後ろ足が地面を勢いよく蹴り、弾丸のごとく一直線に〝それ〟に向かっていく。

「ちょ、待って!」

傍らに置いてあった弓を掴み、慌ててそのあとを追う。
しかし彼の姿はすでに、豆粒のように小さくなっていた。

――うぉぉーん!

少しして先程よりも甲高い、雄叫びが上がる。
すでに伶龍が、交戦状態になっているようだ。

「だから待ってって言ったのに!」

最速で棒状のものが集まる中心へと向かう。
そこには建売住宅サイズの、黒い靄状のものがあった。
棒状のものは足のようなもので、これは大きな蜘蛛のような形をしている。

「おとなしくやられろっ!」

無茶を言いながら先に到着していた伶龍が、それに向かって刀を振るっている。
刃がそれに当たるたび、キン、キン、と高い音がした。
靄に見えるアレは無数の蟲で、刀では歯が立たない。
なのに伶龍は無意味に、刀を振るい続けていた。

「ちょ、援護するから!」

周囲を見渡し、視界の開けた場所を素早く探す。
滑り込むようにそこへ移動し、弓をかまえて弦を絞った。
的は大きいので狙いを定める必要はない。
ひゅんと矢が空気を切る音がしたあと。

――うぉーん!

大きな雄叫びを上げ、それが身を捩ったように見えた。
矢の当たった周辺の蟲が、散っている。
それもそのはず、この矢は対蟲用の術を付加した特殊な矢なのだ。
一度は散った蟲たちだが、またすぐに集まり元の形を作った。
この矢には一時的に蟲を蹴散らす力しかない。
あの中に隠されている、核を破壊しなければ。

すぐに第二射を放ちたいが、私にかまわず刀を振るい続ける伶龍が邪魔だ。

「ちょ、邪魔!
どいて!」

「うっせぇっ!」

私を振り返りもせず、伶龍は強引に力で押していく。
その勢いには感情などないはずのそれもたじろいでいるように見えた。

「もうっ!」

短く愚痴を漏らし、弦を引く。
今度は伶龍に当たらないように慎重に狙いを定めた。
けれどちょこまかと彼は動き回り、難しい。

「少しくらいっ、じっとしててくれればいいの、にっ!」

放たれた矢は緩い放物線を描きながら空気を引き裂き飛んでいく。

――うぉぉーん!

矢が当たり、それが声を上げる。
伶龍の頬を矢が掠めたように見えたが……きっと気のせいということにしておこう。

続けざまに二本、ほぼ同じ場所に矢を打ち込む。
同時に蟲たちも散っていった。
おかげで。

「見えた!」

それの核である、赤い球状のものが姿を現した。

「あと、は……」

御符を矢に突き刺し、弓につがえる。
核に狙いを定め、弓を引き絞った瞬間。

「もらったーっ!」

「えっ、あっ!?」

跳躍した伶龍が、核へと刀を突き立てる。
思わず手を弓から離してしまい、矢は明後日の方向へと飛んでいく。
深々と刀の刺さった核から、ピシリとひび割れる音がした。

「ヤバッ!」

しかし時すでに遅し。
一気に収縮した核は溜め込んだエネルギーを放つように破裂した。
辺り一帯を血のように赤い雨が降り注ぐ。
当然、私もずぶ濡れだ。

「あーあ。
また怒られる……」

「ははははははっ。
倒してやったぞ!」

憂鬱なため息をつく私とは反対に、伶龍は勝ちどきを上げるかのごとく高らかに笑っていた。
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