神祇地祇~穢れ、祓います!~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 〝さいきょう〟の刀

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そうこうしているうちに翌日、大晦日になった。

「決まったのかい」

「うっ」

朝の挨拶より先に私の顔を見た途端、祖母が言ってくる。

「お、お昼までには……」

きょときょととせわしなく視線を泳がせながら、椅子を引いて食卓に着く。

「早く決めておくれよ。
準備があるんだからね」

「う、うん」

私だって早く決めなければみんなに迷惑をかけるのはわかっていた。
それでも決められないものは決められないのだ。

祖母と曾祖母、私の三人で食卓を囲んで朝食が始まる。
刀のふたりはそのあいだ、近くに控えていた。
刀は人の形をしているとはいえ、食事が必要ない。
それでも嗜好品としてたまに、人間と同じものを食べる。
曾祖母の刀の春光は祖母の影響か和菓子が好きだし、祖母の刀である威宗は祖母と晩酌をしていたりする。
私は……母の刀のような男なら、一緒にカフェ巡りとかしたいなー。

「なんだい、ひとりでにやついて気持ち悪いね」

「はっ」

祖母が嫌そうにため息をつき、自分が妄想に耽っていたのに気づいて我に返った。

「……スミマセン」

小さくなって一粒ずつご飯を口に運ぶ。
……うん。
でも、それを現実にするために、なんとしても美しい刀を選ばねば。

朝食が済み、部屋に戻ってきて鍵の入る箱の前に座る。

「いい加減、選ばないといけないのはわかってるんだけど……」

夜から日付をまたいで年越しの儀がおこなわれる。
もちろん、私も出席だ。
午後になればその準備に追われるし、もう時間がないのはわかっていた。

「うーっ。
これか?
それともこれか?」

適当に掴んだ鍵を目の高さまで持ち上げ、問いかける。
しかしそれらが、なにか答えてくれるわけでもない。

「あーっ!
わかんなーい!」

ヤケになって部屋中に箱の中身をぶちまけた。
チャリチャリンとやかましく、鍵のぶつかる音が響き渡る。

「あの……」

そのタイミングでふすまの向こうから、控えめな威宗の声が聞こえてきた。

「よろしい、ですか……?」

躊躇い気味に声をかけてくるのは、今の派手な音が聞こえていたのだろう。

「いいよー」

私の返事を聞いてふすまを開けた威宗は、ぎょっとした顔をした。
まあ、鍵が部屋中に散らばっていればそうなるよね。

「大丈夫、ですか……?」

そろりと鍵を踏まないように気をつけながら、彼が入ってくる。

「あー……。
大丈夫、大丈夫」

とりあえず笑って誤魔化しておいたが、いまさらながらこれは後片付けが大変だ……。

花恵はなえ様がすい様より選んだ鍵を預かってこい、と」

言いながら威宗の目が周囲を見渡す。
この惨状ならどういう状況なのか理解しているのだろう。
ちなみに花恵とは祖母のことだ。

「その。
もう少し待ってくださるようにお願いしましょうか」

威宗が言いにくそうに提案してくれる。
その気遣いは大変ありがたい、が。

「んー、いいや」

曖昧に笑ってその申し出を断った。
きっとこのままではあと一時間もらおうと一週間もらおうと、永遠に決まらない気がする。
それに時間が延びれば延びるだけ、人に迷惑をかけるのだ。
だったらもう、腹を括るしかない。

「んーっと……」

目をつぶり、ゆっくりとあたりを探るように手を伸ばす。
そのうち指先にこつんとなにかがあたった。

「よしっ、これにする!」

思い切ってそれを掴み、持ち上げる。
これで鍵じゃなかったら笑うが、目を開けると間違いなく鍵を掴んでいた。
ぷらりと下がった木札には、【八二一】と書いてある。
それは私の誕生日、八月二十一日と同じ並びで、これもなにかの運命なのだろう。

「では、確かにお預かりいたしました」

「よろしくー」

私から鍵を受け取り、威宗は頭を下げて出ていった。
あとは明日の儀式で、好みの男が顕現するように祈るだけだ。

「その前に」

大量の鍵が散らばった部屋の中を見渡す。
これを片付けなければ。
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