神祇地祇~穢れ、祓います!~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第四章 刀の失踪

4-4

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仮設テントに戻ってきて、伶龍が私を椅子に座らせてくれる。

「やればできるじゃないかい!」

すぐに祖母が労うように、私の肩をバンバン叩いた。

「あー、うん」

それになんともいえない気持ちで、笑顔で応える。
あれは私が上手くやったんじゃない、伶龍が私がやりやすいように動いてくれたおかげだ。

「この調子で次も頼むよ」

「……うん」

今日の調子なら、このあいだ負けたA級にだって勝てるかもしれない。
でも伶龍、急にどうしちゃったんだろう?
あんなに自分勝手で協力なんてしてくれなかった彼の変化には、いまさらながら戸惑う。

「伶龍」

「な、なんだよ」

祖母から声をかけられ、伶龍は警戒している。

「今までいったい、どこでなにをしていたんだい」

祖母が伶龍に尋ねたそれは、私も聞きたいところだ。

「……修行」

伶龍の声は酷く小さい。
さらに彼には似合わない内容すぎて、その場の全員が顔を見合わせていた。

「悪いね、伶龍。
もう一度、言ってくれるかい?」

代表するかのように祖母が、伶龍に聞き返した次の瞬間。

「修行だよ、修行!
なんだよ、俺が修行しちゃ悪いかよ!」

顔を真っ赤にして怒り、伶龍がブチ切れた。

「いや、悪かないけどね……」

祖母は苦笑いだが、それしかできないのだろう。
私だって似たようなものだし。
威宗に宥められ、少しだけ冷静さを取り戻した伶龍は、ふて腐れたように再び口を開いた。

「……今まで俺は、穢れさえ倒せばいいと思ってた。
でも、翠が死にそうになって、目が覚めたっていうか……」

ぽつりぽつりと話す伶龍は自信なさげで、まったく今までの彼らしくない。

「翠を守って穢れも倒せなきゃ、ダメなんだって気づいた。
だ、だから、もっとちゃんと戦えるように修行をだな」

照れくさそうにぽりぽりと指先で伶龍が頬を掻く。
それがなぜか、可愛く見えた。

「伶龍!」

「おい!
くそっ、抱きつくな!」

思わず抱きついた私を、必死に伶龍が引き剥がす。
しかしかまわずにぐいぐいさらに抱きついた。

「これからは私を、守ってくれるんだ?」

「うっせー!
オマエが死んだら俺が消えるからであって、別にオマエのためじゃねぇんだからな!
ま、まんがの続きが気になるし!」

とうとう足まで使って引き剥がされ、仕方なく彼から離れる。

「はいはい。
そういうことにしておくよ」

「そういうこともどういうこともねぇんだよ!」

伶龍がキレ散らかし、祖母も威宗も笑っていた。

今日は穢れ討伐に成功し、除染も必要ないので柴倉さんからのお叱りもなく……嘘です。
伶龍共々、いつもどおりお説教をされた。

「ええ、ええ。
戻ってきたならいいんですよ、戻ってきたなら。
でも、修行に行くなら行くと、ひと言あってもよかったんじゃないですかね」

柴倉さんの前にふたり揃って正座する。
彼の言い分には私も同意だった。

「……修行に行くとか恥ずかしくて言えねーだろうがよ」

そっぽを向き、耳をほじりながら伶龍が興味なさそうに言う。
途端にはぁーっと、柴倉さんの口から当たりを真っ黒に染めそうなほど陰鬱なため息が落ちた。

「いったい、あなたの捜索にいくら使ったと思っているんです?
どれだけの人数があなたひとりのために動いたと?」

「別に捜してくれとか頼んでねーだろーがよ」

挑発するかのようにけっ、と伶龍が吐き捨てる。

「あなたはそれでよくても、我々はよくないんです!」

柴倉さんの怒号が響き、身体が大きく震えた。
伶龍も同じだったらしく、驚いた顔で柴倉さんを見上げている。

「あなたがいないと我々は穢れを祓えないのです。
それがどういう意味かわかりますか」

「それは……」

伶龍はそれっきり、黙ってしまった。
さすがに彼も、どういう事態なのか理解したらしい。

「神の御使いであるあなたに、一介の人間ごときの私などが説教など、烏滸がましいとわかっています。
しかし我々はあなたと、翠さんにこの国の未来を託すしかないんです。
ですからどうか、どうかよろしくお願いします」

親子ほど年が離れた私たちへ、柴倉さんが真摯に頭を下げる。
それで改めて、自分が背負っている責任の重さを知った。
伶龍も理解しているらしく、先程から黙っている。

「……俺も悪かった……デス」

ぼそりと伶龍が謝罪の言葉を落とし、思わずその顔を見ていた。

「あー……。
これからはもう少し、行動に気をつけ……マス」

決まり悪そうに頬を掻いている伶龍は、珍しく敬語で話している。
ただし、使い慣れていないせいで酷くぎこちないが。

「はい。
気をつけていただけると助かります」

再び頭を下げ、柴倉さんは去っていった。

「……今まで俺ら、滅茶苦茶迷惑かけてたんだな」

それは主に伶龍が好き勝手していたせいだと言いたくなったが、黙っておいた。
それに私だって、ただ唯々諾々と命じられるがままに穢れ討伐をするばかりで、なにも考えていなかった。

「そうだね。
これからは今までの汚名返上……ううん。
迷惑かけた分、恩を返せるように頑張ろう」

「だな」

伶龍が拳を突き出してくる。
少し考えて意味がわかり、私も拳を付き合わせた。
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