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第六章 俺がオマエを死なせない
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仮設司令所はいつも以上に緊迫していた。
「住人の避難は済んだか!」
「アラートは出してあるんだよな?」
「また興味本位のNyanTuberやマスコミが潜り込んでいたら大事だぞ!
見回りをしっかりしろ!」
怒号が飛び交う仮設テントの、割り当てられた場所で私たち六人……三人と三振り?は、なぜかまったりお茶していた。
「やっぱり『藤懸屋』さんの羊羹は美味しいねぇ」
二口サイズの羊羹を食べながら、曾祖母が威宗の淹れてくれたお茶をのんびりと啜る。
「そうだねー。
……って。
ねぇ!
こんなに緊張感なくていいの!?」
ちらりとまわりで働いている人たちを見る。
彼らはピリピリと緊張していた。
「大穢れが来るんだよ、大穢れが!
なのにさぁ!」
「うるさい、黙れバカ孫!」
「あいたっ!」
ひとりで騒いでいたら、後ろから祖母にはたかれた。
「そこの今にも鉄砲玉みたいに飛び出していきそうなヤツも落ち着く」
さらにそわそわと行ったり来たりを繰り返していた伶龍の首根っこを掴み、祖母は強引に椅子に座らせた。
「でもよ……」
伶龍が唇を尖らせて恨みがましく祖母を見る。
それに祖母ははぁーっとため息を落とした。
「気持ちはわかるけど。
私らがわたわた慌ててたら、まわりは不安になるだろ。
どーんとかまえておきな」
苦笑いし、祖母は威宗から差し出されたお茶を受け取った。
「……そう、だね」
私も椅子に座り直し、置いてある羊羹の封を切る。
周囲の人間は大穢れの出現にかなりぴりついていた。
なのに巫女である私たちが狼狽えていれば、祖母が言うとおり不安になるだろう。
「でもばあちゃん、怖くないの?」
伶龍のおかげで落ち着いているとはいえ、それでも恐怖はやはり拭えない。
「怖かないさ。
……といったら、嘘になるねぇ」
よく見れば、お茶を飲む祖母の手は震えていた。
曾祖母もやはり。
「でもそんなことは言ってられないよ。
わかるだろ」
「うん」
頷く祖母に頷き返す。
通常の穢れでも祓えなければ小型台風並みの被害は出る。
大穢れとなれば地方がひとつなくなるほどの被害になるのだ。
怖じ気づいている場合ではない。
「大穢れが出現するまではしっかり英気を養い、まわりの安心させるのが私らの仕事だよ。
わかったかい?」
「うん、ばあちゃん」
もういまさら、じたばたやっても仕方ないのだ。
それでも六人で、最終の打ち合わせをする。
「私がメインで出るよ。
翠はバックアップ、母さんは私がもしもときはよろしく頼みます」
「わかったよ」
重々しく曾祖母が頷く。
もしものときって、祖母が動けなくなる――死ぬ事態も想定しているんだろうか。
「翠。
そんな顔しなさんな」
「だって……」
祖母の指摘で、自分が思い詰めた顔をしているの気づいた。
いつだって祖母は絶対に勝って帰ってきた。
祖母が穢れに破れて死ぬなんて、想像したこともない。
「まだわたしゃ死なないよ。
アンタの子を抱くまでは、安心して死ねやしない」
にやりと顔を歪め、悪戯っぽく祖母が笑う。
「そう、だね。
ちゃんとひ孫の顔を見せてあげるから、死なないでよね」
それで少しだけ、気持ちが緩んだ。
打ち合わせをしている私たちを職員たち、特に若い職員がチラチラとうかがう。
「……おい、あれが伝説の光子様か」
「……えっ、あの!?」
聞こえてくる声につい、苦笑いしてしまう。
曾祖母はすでに一応引退していて、今回のように大穢れが出たときしか出撃しない。
前回は五年前になる。
しかもそれはバックアップであって、実際に曾祖母が戦っているところを見た人間はもう、現場にはあまりいない。
祖母が活躍する前の話は伝説になっているようだ。
「花恵様と光子様が出るなら大丈夫だろ」
「そうだな」
緊張した面持ちだった若者たちが、少しだけだが安堵の表情になる。
実績とはそれだけでみんなを安心させられるのだと痛感した。
私も、こうなりたい。
「住人の避難は済んだか!」
「アラートは出してあるんだよな?」
「また興味本位のNyanTuberやマスコミが潜り込んでいたら大事だぞ!
見回りをしっかりしろ!」
怒号が飛び交う仮設テントの、割り当てられた場所で私たち六人……三人と三振り?は、なぜかまったりお茶していた。
「やっぱり『藤懸屋』さんの羊羹は美味しいねぇ」
二口サイズの羊羹を食べながら、曾祖母が威宗の淹れてくれたお茶をのんびりと啜る。
「そうだねー。
……って。
ねぇ!
こんなに緊張感なくていいの!?」
ちらりとまわりで働いている人たちを見る。
彼らはピリピリと緊張していた。
「大穢れが来るんだよ、大穢れが!
なのにさぁ!」
「うるさい、黙れバカ孫!」
「あいたっ!」
ひとりで騒いでいたら、後ろから祖母にはたかれた。
「そこの今にも鉄砲玉みたいに飛び出していきそうなヤツも落ち着く」
さらにそわそわと行ったり来たりを繰り返していた伶龍の首根っこを掴み、祖母は強引に椅子に座らせた。
「でもよ……」
伶龍が唇を尖らせて恨みがましく祖母を見る。
それに祖母ははぁーっとため息を落とした。
「気持ちはわかるけど。
私らがわたわた慌ててたら、まわりは不安になるだろ。
どーんとかまえておきな」
苦笑いし、祖母は威宗から差し出されたお茶を受け取った。
「……そう、だね」
私も椅子に座り直し、置いてある羊羹の封を切る。
周囲の人間は大穢れの出現にかなりぴりついていた。
なのに巫女である私たちが狼狽えていれば、祖母が言うとおり不安になるだろう。
「でもばあちゃん、怖くないの?」
伶龍のおかげで落ち着いているとはいえ、それでも恐怖はやはり拭えない。
「怖かないさ。
……といったら、嘘になるねぇ」
よく見れば、お茶を飲む祖母の手は震えていた。
曾祖母もやはり。
「でもそんなことは言ってられないよ。
わかるだろ」
「うん」
頷く祖母に頷き返す。
通常の穢れでも祓えなければ小型台風並みの被害は出る。
大穢れとなれば地方がひとつなくなるほどの被害になるのだ。
怖じ気づいている場合ではない。
「大穢れが出現するまではしっかり英気を養い、まわりの安心させるのが私らの仕事だよ。
わかったかい?」
「うん、ばあちゃん」
もういまさら、じたばたやっても仕方ないのだ。
それでも六人で、最終の打ち合わせをする。
「私がメインで出るよ。
翠はバックアップ、母さんは私がもしもときはよろしく頼みます」
「わかったよ」
重々しく曾祖母が頷く。
もしものときって、祖母が動けなくなる――死ぬ事態も想定しているんだろうか。
「翠。
そんな顔しなさんな」
「だって……」
祖母の指摘で、自分が思い詰めた顔をしているの気づいた。
いつだって祖母は絶対に勝って帰ってきた。
祖母が穢れに破れて死ぬなんて、想像したこともない。
「まだわたしゃ死なないよ。
アンタの子を抱くまでは、安心して死ねやしない」
にやりと顔を歪め、悪戯っぽく祖母が笑う。
「そう、だね。
ちゃんとひ孫の顔を見せてあげるから、死なないでよね」
それで少しだけ、気持ちが緩んだ。
打ち合わせをしている私たちを職員たち、特に若い職員がチラチラとうかがう。
「……おい、あれが伝説の光子様か」
「……えっ、あの!?」
聞こえてくる声につい、苦笑いしてしまう。
曾祖母はすでに一応引退していて、今回のように大穢れが出たときしか出撃しない。
前回は五年前になる。
しかもそれはバックアップであって、実際に曾祖母が戦っているところを見た人間はもう、現場にはあまりいない。
祖母が活躍する前の話は伝説になっているようだ。
「花恵様と光子様が出るなら大丈夫だろ」
「そうだな」
緊張した面持ちだった若者たちが、少しだけだが安堵の表情になる。
実績とはそれだけでみんなを安心させられるのだと痛感した。
私も、こうなりたい。
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