契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
71 / 129
第11話 Kaffee trinken

3.僕をひとりにしないで

しおりを挟む
夕食がすむと、尚一郎より先にソファーに座って、朋香は膝をぽんぽんした。

「朋香?」

「膝枕。
してあげますよ」

言葉にすると滅茶苦茶恥ずかしくて、顔が熱くなっていく。
でも今日は、尚一郎を甘やかせると決めたのだ。

「ありがとう」

にっこりと笑った尚一郎の顔が近づいてきたかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。

離れると、じっと見つめてくる。

視線を逸らせなくて見つめ返すと、尚一郎の両手が朋香の顔を挟んだ。

ゆっくりと目を閉じると、再び唇が重なった。

ちゅっ、ちゅっ、上唇を軽く喰んだりしながら繰り返される口付けは、次第に余裕のないものに変わっていく。
 
「……!」

唇を割って入ってきたぬめったそれに、尚一郎の首に腕を回して抱きついた。

あたまの片隅で、ここでこんなことをしていれば、使用人の誰かに見られるんじゃないか、そんなことを考えていたが、尚一郎に翻弄されているうちに消し飛んだ。

自分を性急に求める尚一郎はまるで……僕をひとりにしないで。
そう泣いているようで、朋香を悲しくさせる。

「……やっぱりやめよう」

「尚一郎さん?」

急に我に返ったかのように、離れた尚一郎に首を傾げてしまう。

「こんな、慰めてもらうように朋香を抱くのは嫌だよ。
ましてや、朋香との初めてがこんなのなんて。
朋香とはもっと、Romantische(ロマンチック)に愛し合いたい」

はっきり口に出されると恥ずかしくなる。
黙ってしまった朋香にちゅっと軽く口付けを落とすと、尚一郎は膝の上に抱き上げた。

「僕をぎゅっと抱きしめて。
そして愛してるって囁いて。
たとえそれが、嘘でもかまわないから」

レンズの向こうの少し潤んだ碧い瞳に、心臓が鷲掴みされたかのように苦しくなった。

「愛してる。
尚一郎さんを愛してる。
嘘じゃない、から」

首に腕を回してぎゅっと抱きしめると、尚一郎の背中がびくんと一瞬、震えた。

「……朋香は僕をひとりにしないよね。
僕も絶対に、朋香を守るから」

「尚一郎、さん?」

不安そうな声に顔をのぞき込むと、泣きそうな顔をしていた。
少しでも不安を取り除いてあげたくて、抱きしめる腕に力を入れる。

「私はずっと、尚一郎さんと一緒にいますから」

「Danke schoen(ありがとう),朋香」

尚一郎の過去になにがあったのか気になった。
いままでの話から、達之助に酷い目に遭わされてるのはなんとなくわかる。

朋香自身、きっと知っておいた方がいいことなのだとは思うが、つらそうな尚一郎に聞きづらかった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]

麻沙綺
恋愛
ごく普通の家庭で育っている女の子のはずが、実は……。 お兄ちゃんの親友に溺愛されるが、それを煩わしいとさえ感じてる主人公。いつしかそれが当たり前に……。 視線がコロコロ変わります。 なろうでもあげていますが、改稿しつつあげていきますので、なろうとは多少異なる部分もあると思いますが、宜しくお願い致します。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

史上最強最低男からの求愛〜今更貴方とはやり直せません!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
中高一貫校時代に愛し合ってた仲だけど、大学時代に史上最強最低な別れ方をし、わたしを男嫌いにした相手と復縁できますか?

処理中です...