契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第11話 Kaffee trinken

3.僕をひとりにしないで

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夕食がすむと、尚一郎より先にソファーに座って、朋香は膝をぽんぽんした。

「朋香?」

「膝枕。
してあげますよ」

言葉にすると滅茶苦茶恥ずかしくて、顔が熱くなっていく。
でも今日は、尚一郎を甘やかせると決めたのだ。

「ありがとう」

にっこりと笑った尚一郎の顔が近づいてきたかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。

離れると、じっと見つめてくる。

視線を逸らせなくて見つめ返すと、尚一郎の両手が朋香の顔を挟んだ。

ゆっくりと目を閉じると、再び唇が重なった。

ちゅっ、ちゅっ、上唇を軽く喰んだりしながら繰り返される口付けは、次第に余裕のないものに変わっていく。
 
「……!」

唇を割って入ってきたぬめったそれに、尚一郎の首に腕を回して抱きついた。

あたまの片隅で、ここでこんなことをしていれば、使用人の誰かに見られるんじゃないか、そんなことを考えていたが、尚一郎に翻弄されているうちに消し飛んだ。

自分を性急に求める尚一郎はまるで……僕をひとりにしないで。
そう泣いているようで、朋香を悲しくさせる。

「……やっぱりやめよう」

「尚一郎さん?」

急に我に返ったかのように、離れた尚一郎に首を傾げてしまう。

「こんな、慰めてもらうように朋香を抱くのは嫌だよ。
ましてや、朋香との初めてがこんなのなんて。
朋香とはもっと、Romantische(ロマンチック)に愛し合いたい」

はっきり口に出されると恥ずかしくなる。
黙ってしまった朋香にちゅっと軽く口付けを落とすと、尚一郎は膝の上に抱き上げた。

「僕をぎゅっと抱きしめて。
そして愛してるって囁いて。
たとえそれが、嘘でもかまわないから」

レンズの向こうの少し潤んだ碧い瞳に、心臓が鷲掴みされたかのように苦しくなった。

「愛してる。
尚一郎さんを愛してる。
嘘じゃない、から」

首に腕を回してぎゅっと抱きしめると、尚一郎の背中がびくんと一瞬、震えた。

「……朋香は僕をひとりにしないよね。
僕も絶対に、朋香を守るから」

「尚一郎、さん?」

不安そうな声に顔をのぞき込むと、泣きそうな顔をしていた。
少しでも不安を取り除いてあげたくて、抱きしめる腕に力を入れる。

「私はずっと、尚一郎さんと一緒にいますから」

「Danke schoen(ありがとう),朋香」

尚一郎の過去になにがあったのか気になった。
いままでの話から、達之助に酷い目に遭わされてるのはなんとなくわかる。

朋香自身、きっと知っておいた方がいいことなのだとは思うが、つらそうな尚一郎に聞きづらかった。
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