可愛い女性の作られ方

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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二.元彼の結婚式――押し倒されていた  

2.未練たらたらの結婚式

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次の週末。
加久田に借りたスーツを着て、裕紀の結婚披露宴に出席した。
同僚からは「とうとう男になったか」と大爆笑され、裕紀も笑っていた。
狙いはばっちり、ひたすら、道化に徹した。

……そうでもしないと冷静でいられない。


二次会に誘われたものの、断った。
断ったものの、家にひとりでいるのがなんとなく嫌で、どこかで飲むか、と店を探し始めたとき……視界に、知っている人がいた気がした。
慌てて探すと、加久田がひとりで歩いていた。

「加久田。
おーい、加久田!」

「篠崎先輩!?」
 
声を掛けると、驚いた顔で駆け寄ってきた。

「ひとりか?」

「はい。
……ってかほんとにその格好で、出席したんですね」

「あたりまえだろ。冗談とでも思ってたのか?
……なあ、暇ならその、ちょっと飲みに付き合わないか?」

「えっ。
いいんですか?」

「誘ってるのはこっちだし。
こんな格好の女と飲むのは嫌かもしれないが」  

「いいえ!
喜んでお供します!」

「よしっ!」
 
加久田とふたりで、適当な居酒屋に入る。
適当に料理と酒を頼んで、適当な莫迦話。
元気ばかりが空回りしている気はしていたけど、そこは気付かないふり。

二時間ほど飲んで店を出たけど、まだ飲み足りない気がしていた。
もう一軒、とも思ったけど、いい加減まわりの視線が鬱陶しくなってきてたので、なんとなく加久田を家に誘ってみる。

「その、加久田、よかったらうちで飲み直さないか?」

「……いいんですか?」

「あー、おまえも知っての通り、相変わらず汚い部屋だし、気の利いたもんなんて出ないけど。
それでいいなら」

「じゃあ、お邪魔します」

「うん」
 
一緒に電車に乗って二駅ほど移動する。
電車の中でも視線が鬱陶しい。

……そんなに女が男物のスーツ着ていちゃ悪いか?

マンションに向かう途中で、コンビニに寄る。
適当に酒やつまみを買い込んだ。       

「ほんと汚い部屋で悪いけど。
どうぞ」

「お邪魔します」
 
買ってきたビールなんかを冷蔵庫に入れ込んで、ついでに中から豆腐と大葉、トマトにアボカド、玉ねぎなんか取り出してみる。

ツナ缶を開けて、刻んだ大葉とマヨネーズで和えて、さらに刻んだトマトと一緒に豆腐に載せて一品。

アボカドスライスして、玉ねぎ・鰹節と合わせて、わさび醤油と一緒に出してもう一品。

もうちょっと作りたいとこだけど、使えそうな食材がこれだけしかなかった。

「え?
先輩、いまこれ、作ったんですか?」

「たいしたもんじゃなくて悪いが。
食べてていいから、ちょっと着替えさせてくれ」

「いいですよー。
いただきまーす」
 
食べ始めた加久田を横目に、寝室を閉めて部屋着に着替える。
戻ると加久田は、嬉しそうに料理……じゃないな。
つまみをつついていた。

「先輩!
滅茶苦茶おいしいです!」

「あー、そりゃ誰が作っても同じ味になると思うが……」

「いえいえ。
絶対おいしいですって!」       

……うん。
おまえもう既に、結構できあがっている?

冷蔵庫から買い置きの日本酒と食器棚からグラスを出して、ソファーの加久田の隣に座る。

「……そんなに旨いか?」

「はい!
おいしいです!」
 
上機嫌ににこにこ笑っている加久田は、結構可愛い。

……そういえば。

裕紀は作った料理、こんなふうに褒めくれたこと、一度もなかったな。
あ、だめだ。そんなこと考えていたら。

涙が出そうになって、酒と一緒に流し込む。
その後も、にこにこと笑い続ける加久田を眺めながら、ひたすら酒を流し込んでいた。

「……私だって」

「……先輩?」

「なんで?
私だって、ちゃんと家事、できるんだよ?」
 
……やばい。
なにいっているんだろ、私。
相当酒が回っている。

「片付けは苦手だけど、料理は得意だよ?
お洗濯だって、アイロンかけだって、ちゃんとできるし」
 
……黙れ、私。
黙れ。       

気持ちは焦るけれど、口は止まらない。

「そうですね。
このおつまみ、凄くおいしいです」

「おつまみじゃなくて、ちゃんとした、
料理だってできるよ?」

「知ってますよ。
いつも先輩のお弁当、おいしそうですから」

「がさつっていわれるけど、
いっぱいいっぱい考えてるんだよ?」

「わかってますよ。
先輩がきめ細かい気の使い方ができる人だって」

「私だって、私だって……」
 
……黙れ私。
これは加久田だ。
裕紀じゃない。

「……先輩。
そんな可愛いことばっかりいってると、
ちゅーしちゃいますよ」

「かくた……?」

「俺がいままで、どんだけ我慢してたと思ってるんですか?」

「なにいってんの……?」
 
……気が付いたら、ソファーに押し倒されていた。   

「知ってましたか?
同じ班に配属されたときから、先輩に憧れてたこと。
まわりの奴が先輩のこと、『中身が男』とかいってても俺は先輩が誰よりも女らしいこと、知ってました。
高城先輩と別れて、無理に男っぽくしようとしてる先輩みてて、つらかった」

「かくた……変だよ」

上からじっと、加久田が私の顔を見つめている。

「俺じゃない、あいつにいってるんだってわかってます。
でも、こんなふうにアピールされたら、もう無理です」

「酔ってるんだよね、かくた……?」

「……そんな潤んだ目で見つめられたら……我慢できない、っていってるでしょう?」
 
……一瞬だけ、泣き出しそうに顔を歪ませた加久田の唇が、私の唇にふれる。
抵抗しようとするのだけれど、久しぶりにするキスは信じられないほど気持ちよくて溺れてしまいそうだった。

「……かく、た……やっ……」
 
唇が離れて、拒否しようとしたのだけれど、甘い吐息をこぼすだけの結果になってしまう。

「……心配しなくてもうんと優しくして、気持ちよくしてあげますから……」

「かく……ん……」        

私の口を塞ぐように、また加久田の唇が重なる。
優しく優しく、激しく……そのまま私は溺れてしまって、……あとのことはよく、覚えていない。
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