可愛い女性の作られ方

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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三.初めての週末――好きだけど好きじゃない

1.初めての週末

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週末まで、約束したことはなるだけ忘れることにして過ごした。

そうしないと、平常心でいられない。
加久田の奴はなにを企んでいるのか、会社ではいつも通りの物わかりのいい、有能な部下だった。
別段、メッセージやなんかでプライベートなことをいってくることもない。
なんか拍子抜けするほどいままで通りで……ちょっと怖い。


金曜日。
いつも通り人気のない、屋上でひとり弁当を食っていたら、加久田がコンビニの袋を片手にやってきた。

お昼はなにか用がない限り、弁当詰めてきてひとりで食っている。
私がここで弁当食っているの知っているのは、加久田だけだ。
だいぶ前に、ひょんなことでばれた。
それ以来、加久田はなぜか時々、ここに来る。

「先輩の今日のお弁当、なんですか?」

「……昨日の残り」
 
会社とはいえ、多少プライベート空間に近いような環境で、加久田とふたりっきりになるのは、なんか気まずい。

「なんか答えになってない気がしますが。
……やっぱり先輩のお弁当は、美味しそうですね」

「……褒めたって、分けてやらないからな」 

「ケチ。
まあいいや。
今晩は先輩のごはんだし」
 
私の隣に座ると、買ってきたおにぎりの包みを開けた。

「……やっぱり来るのか?」

「当たり前でしょう?
一回帰ってからいきますから、美味しいごはん、作っててください」

「……保証はしない」

「やっぱコンビニのおにぎりは味気ないですね。
このあいだ、先輩が握ってくれたおにぎりの方がよっぽど美味しい」

「……先、戻ってるな」

「……はい」
 
一度も顔を上げないまま、食べかけの弁当に蓋をして立ち上がる。
戻りながら、顔が熱くなってる自分に気が付いた。
誰にも見られたくなくて、階段を降りる途中で立ち止まる。
加久田がまだ、降りてこないことを祈りながら、心臓の鼓動が治まるように、深呼吸を繰り返し続けた。


気を抜くと不安定になりそうな気持ちを抑えつけて、どうにか午後の仕事をこなす。
定時を少し過ぎても、加久田はまだ、仕事をしていた。

「加久田。
あとどれくらいで終わりそうか?」 

「そーですね。
一時間、といったところでしょうか」
 
画面を睨みながら、私の方を振り向きもしない加久田。

「このデータ、なんか細かい修正が多くて。
手間取っちゃってます」

「半分よこせ。
ふたりで手分けしてやった方が早い」

「んー、というか、提出は月曜日でいいんですよね?」

「……ああ」

「なら、先帰っちゃってください。
俺、終わったら直でいきますから」

「なっ……!」
 
くるりと振り返った加久田は、いたずらっ子みたいに笑って、慌てている私を見た。

「……ご褒美、期待してますから」

「……うっ」
 
言い返そうとして、でも言葉にならなくて口をぱくぱくさせている私なんか無視して、加久田はまた、画面に向き直った。
真剣に仕事をしている顔を見ると、邪魔をするのも悪い気がして、そのまま黙って帰り支度をして会社を出た。 


スーパーで買い物。
あたまの中の冷蔵庫と今日の予定メニューを照らし合わせて、必要なものを買う。
ついでに、飲酒用の日本酒の残りが少なかったことを思い出し、酒屋に寄る。

私はお酒、特に日本酒が好きだが、量はさほど飲めない。
お銚子二本が適量だ。
冷酒だったらカップ酒一本がいいとこ。
でも、まわりはかなりの量飲めると誤解しているらしく、飲み会だと結構飲まされてあとが大変だからちょっと困っている。

店主お勧めのお手頃価格の酒を買って、クリーニング店にも寄って帰る。
このあいだ出した、加久田のスーツをまだ取りにいっていなかったから。
お店にいくと、店番をしていたのは娘さんの方でほっとした。
おばちゃんは世話好きだけど、娘さんの方は口数が少なくて、用件しか話さない。


家に帰って、日本酒と買ってきたものを冷蔵庫に入れておく。
すぐに調理開始するから大丈夫だとは思うけど、一応真夏なので、
ちょっとの間でも入れておいた方がいいかな、と。

普段着のTシャツにデニムに着替え、眼鏡は黒セル眼鏡に替える。キッチンに戻って調理開始。  

買ってきた海老の殻をむいて背わたを取り、適当に叩いてミンチ状にしておく。
玉ねぎをみじん切りして、海老と豚ミンチ、玉ねぎと調味料を混ぜ合わせて、買ってきた皮で包む。
キャベツを引いたお皿に載せて、とりあえず冷蔵庫。

人参と玉ねぎ、ピーマンを素揚げして、解凍した保存食のミートボールと甘酢ダレで和えて、酢豚ならぬ酢肉団子?

豆腐をレンジで軽くチンして水切り。
ねぎを刻んで、油にみじん切りしたにんにく・生姜を入れる。
匂いが立ってきたら、豚ミンチを入れて炒め、合わせていた調味料を入れて、豆腐を入れる。
ねぎを加えて、水溶き片栗粉でとろみをつけて、麻婆豆腐風。
風なのは、うちは山椒が入らないから。

多めの油に溶き卵を入れて、半熟のうちに温かいご飯を投入。
麻婆の残りのねぎと冷蔵庫に残っていたハムも入れ、鶏ガラスープの素で薄味に仕上げて、チャーハンのできあがり。
薄味、なのはおかずに合うように。

沸かしたお湯に鶏ガラスープの素入れて、戻したわかめを入れる。
こしょうで味を調えて、最後にごま油とごまを振ってわかめスープのできあがり。

時計見て、ちょうど良さそうだったので、冷蔵庫に入れといたお皿をレンジにかける。 
できあがりを知らせる音で、最後の一品、えびしゅうまい。

――ピンポーン

「せんぱーい、加久田でーす」

「開いてるよー」
 
加久田が来たので、お皿によそってテーブルに出す。
並べてみると……ちょっと作りすぎ?
なんで私、こんなに張り切っていっぱい作っちゃったんだろう?
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