可愛い女性の作られ方

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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三.初めての週末――好きだけど好きじゃない

3.好きだけど好きじゃない

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私が朝食の片付けしている間に、加久田はワイシャツにスラックスだけで出ていった。

皿なんか洗い終わって、洗濯機も回しておこうと洗面所に行くと、しっかり私の歯ブラシが刺さっているコップに、知らない歯ブラシが差し込んであった。
さらに、T字カミソリとか、シェービングフォームなんかも置いてあって……あいつは、こっそりお泊まりセットを彼氏の家に置きたがる女子か?
洗濯物の中には流石に下着は入っていなくて、なんとなくほっとした。

暫くして帰ってきた加久田は、洗面所で着替えていた。
流石に、スラックスで片付けはいやだったらしい。
Tシャツに裾上げしないでいいよう、ハーフパンツになっていた。

「おまえ、その格好で帰りはどうするんだ?」 

「え?」

なにが?って顔で首傾げてるけど。
やっぱおまえ、考えていないんだろ。

「靴だよ、靴。
合わないだろ」

「あー、仕方ないのでもう一回、スーツに着替えます」
 
えへへじゃないよ、まったく。

「シャツ貸せ。
ついでに下着も出せ。
洗濯しといてやるから。
この天気なら、すぐ乾くだろ」

「……ありがとうございます」
 
さっき、洗濯機まわしかけて、保留にしといて正解。
こんなことになるんじゃないかって、思っていた。


その後。

途中で洗濯物干しつつ、加久田とふたりで部屋の片付けした。

「読んだ本はどうするんですか?」

「雑誌は業界誌を除いて処分。
本は手元に置いておきたいのを除いて古本屋に持っていくけど、それでも残りの本が多いときは、仕方ないから実家に送りつける」

「……怒られませんか?」   

「うちの両親はもう、諦めがついてる。
それに、本に一部屋もらう代わりに、庭に倉庫、建てておいたから」

「……微妙な親孝行ですね」
 
加久田は部屋を見てもわかるように片付けが上手いらしく、てきぱきと私の部屋を片付けていく。
私といえば、指摘されていた通り、たびたび本を読みふけり始めて、何度も注意を受ける羽目になった。


「その、すまんな。
手伝わせた上に、晩ごはんがこれ、とか」

「いーえー。
俺からやりたいっていったんですし。
それに、俺にとってごちそうは、一番は先輩が作ったごはんで、二番は先輩と食べるごはんです」
 
テーブルの上には、宅配ピザとビール。
部屋の中は相変わらず本が積んであったが、大半は処分・古書店行き・実家行きと分類してあった。

「いや、でも、助かった。
ひとりでやってたら絶対、一日で終わらないどころか、永遠に片付かなかった気がする」

「……なら、ご褒美おねだりしていいですか?」

「……な、ん、だ……?」
 
テーブルを回り込んだ加久田が迫ってくる。 
なんとなく後ろにじりじりと下がっていってしまう。
今日は、このあいだよりは長く下がれたものの、やっぱり背中は壁についてしまう。

「……優里」
 
掠れた声でそう囁かれて、思わずぎゅっと目を瞑る。

……でも。

いつまでたっても、思っていたことは起こらない。
恐る恐る目を開けると、加久田の奴が吹いた。

「キスするとでも思ってたんですか?
そうそうしませんって」
 
ケラケラ笑っている加久田を見て、ほっとして身体に入っていた力を抜く。

「……なんてね」

「んっ……!」
 
ほっとしたのも束の間、やっぱり唇を重ねられた。
毎度のことながら、私は溺れないように必死だ。

「……かく、た……!」
 
涙目で睨んでみたところで、効果はない。
余計に加久田を喜ばせるはめになる。

「今日も拒否、しなかったからいいんですよね?
それに、ご褒美欲しいっていったでしょう?」  

両手で、壁に手首を押さえつけられて、首筋に唇を落とされた。

「……かく、……まっ……」

「……待てませんよ」

「……やっ……シャワー、……浴びさせて」

「……はぁーっ。
いいですよ」
 
加久田から逃げるように浴室に行く。

身体が熱い。
まだ二度しか体を重ねたことがないのに体が、加久田にふれられることに喜んでいるのがわかる。

……私この先、どうなっちゃうんだろう?


浴室を出ると、ベッドに押し倒された。
溺れそうに激しいキスをされた。

「優里、いっぱいいっぱい感じてください。
身体で、俺のこと覚えて。
忘れられなくなるくらい、刻み込んで」
 
あとはひたすら、溺れないように必死で掴まっていた。
何度も、何度も、加久田の名前を呼んだ。

……貴尋、って。

気が狂いそうなほど気持ちよくて、ほんとに狂ってしまえたら楽なのに、って思った。   


加久田の腕の中でうとうとする。
何故か、体のだるさが心地いい。
夏だから、人の体温なんてただ暑いだけのはずなのに、どうしてだか、ひどく安心する。

「今日も可愛かったですよ、優里」
 
……おでこにチュッとキスされた。

「……そう、かな……」

「はい。
……もうゆっくり休んでください。
おやすみなさい」

「……おやすみ」

……そのままゆっくりと、穏やかな眠りに落ちていった。


翌朝。
加久田は私の作った朝食を喜んで食べて、私がアイロン掛けたシャツを喜んで着て、クリーニングから帰ってきたスーツをちょっと残念そうに持って帰った。

……いや。

最初の二つはかろうじて、理由はわからなくもない。
しかし、最後の一つはなんだ?
なんでクリーニングに出して返した服を、「なんで出しちゃったんですか?」って、残念がられなければいけないのだ?
まったくもって訳がわからん。 



 その後も。
職場では相変わらず、何事もなかったかのように過ごした。

……いや。

加久田の奴は平然とした顔しているんだけど私は妙に意識してしまって、平常心でいるようには勤めているんだけど、時々美咲ちゃんに不審がられる羽目になった。
しかもたまに、加久田の奴が「優里」とかさりげなく囁いてくるもんだからたまったもんじゃない。
その度に睨み付けてやるんだけど、逆効果にしかなっていない。


金曜日になると。
加久田はちゃっかりうちに来て、私の作ったごはんを嬉しそうに食べる。
たまに私の方が帰りが遅い日があるので、仕方なく合い鍵を渡している。
でも何故か、絶対に私より先に、家に入ろうとしない。

……なんでだろう?

そのあとは結局、いつもまあ、そうなってしまう。
私の身体は、確実に加久田にふれられる喜びを覚え込んでいっている。
先週よりも今週。今週よりも来週。
どんどん、気持ちよくなっていく、身体。

……心とは裏腹に。      

加久田のことは。
有能で物わかりのいい、よくできた部下だと思う。

……でも、そこまで。

それ以上の気持ちは、持てない。
というか、それ以上のことを考えようとすると、気持ちにブレーキがかかる。

……怖いと思う。

いままで何度も、「男とは付き合えない」そういわれて振られてきた。
今度こそ大丈夫、そう思った裕紀だってダメだった。
また、そういわれて振られたら?
しかも、今度の相手は年下だ。
加久田は私のこと、大事にしてくれる。
ちゃんと、女扱いしてくれる。

きっと。

加久田のこと好きになって、ちゃんと付き合ったら、加久田はいま以上に私のこと、大事にしてくれて、幸せになれるんだろうと思う。

……でも。

ダメになったら?

今度こそ、私はもう、立ち直れない。
生きていけなくなるかもしれない。
だから怖くて、好きだけど好きじゃない、いまの微妙な関係でいたい、って強く願っていた。
 
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