家庭侵略されています!~魔王の逆異世界スローライフ~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 魔王の妻になりました

1-6

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「仲直りもできたし、出掛けないか?」

「いいけど。
でもその前に、このお金をこのまま置いておくのは……」

テーブルの上にある札束の山へ目を向ける。
これっていくらあるんだろう?

「なんか袋に入れておけばいいだろ」

さらっと言ってニキは適当な紙袋へそれを入れようとするが。
いやいやいや。
そんな危ないこと、できませんって。
そういやさっきもその紙袋から出てきたし、まさかあれに裸銭を詰めて、手に提げて帰ってきたとは思いたくない。

「銀行に行って口座……あ、けど今日は休みか……でも、ニキって口座作れるのかな……?」

「なにをブツブツ言ってるんだ?
ほら、これでいいだろ」

袋にお札を詰め終わり、ニキはドヤ顔で頭が痛い。
こんなに感覚がズレていてホストなんて上手くやれたんだろうか。
いや、こんなに稼げたんだから人気ホストだったんだろうけれど。

「ねえ。
お客様とはちゃんと話ができたの?」

「ん?
できたぞ。
『魔王キャラ、ウケるー!』とか言って、バンバン指名が入ったが?」

あー、うん。
話がズレていてもなりきりキャラとしてウケたんだ。
それはよかった……のか?

「しかし、金のためとはいえ苺以外の女にちやほやするのは不本意だし、ああいう目で見られて触られるのは虫唾が走るのでもうやらん」

本当に忌ま忌ましげにニキが吐き捨てる。
ホストはそれが仕事なんだし、仕方ないよね。

「苺、怒っているのか?」

「え?」

不安そうに彼から顔をのぞき込まれ、ホストをしているニキを想像してムカついている自分に気づいた。

「怒ってないよ」

とりあえず、笑って誤魔化す。
私は彼に恋愛感情などないはずだ。
なのになんで、ムカついているんだろう?

「さっきも言ったが、仕事とはいえ苺以外の女に媚を売るなど、苺が浮気だと責めるのなら俺は甘んじて受け入れる。
しかし、俺が好きな女は苺ただひとりだ。
他の女になど絶対に心は動かされない。
それだけは誓う」

私を見つめる、ニキの瞳は真剣だ。
どうして一回寝ただけの女に、そこまで誓えるのだろう。
あれか、この世界に来て初めて見たのが私だったからか。
それ以外、考えられない。

「浮気とか思ってないし、わかったから」

「よかった」

目尻を下げて安心したかのようにニキが笑う。
その笑顔に心臓が一回、大きく鼓動した気がした。
ううん、きっとこれは気のせいだ。

出掛けるのには同意して、準備を済ませる。

「なんでスーツ?
しかも、ホストっぽくないし」

着替えたニキはスーツ姿だった。
一分の隙もなく着込まれたそれはホストというより、ツノがなければ一流企業のビジネスマンかどこぞの御曹司に見える。
しかし、それしか着るものがないならわかるが、このあいだ普段着は買ったのだ。

「なんでって……。
こういうときはビシッと決めるもんだと言われたからな」

ぷいっと顔を背けたニキの耳が赤い。
なにか照れるような要素がどこにあるんだ?
しかも〝こういうとき〟というのがなんか引っかかる。

「ほら、いいから行くぞ」

「えっ、ちょっと!」

追い立てられるようにマンションを出た。
さらに行き先を決めているらしく、ニキは迷いなく私を連れて歩く。

「バスの乗り方とかいつのまに覚えたの?」

「出勤するのに必要だったからな」

話しているうちに次のバス停に着く。
乗ってきたお婆さんが席を探しているのに気づいたニキは、すぐに立ち上がった。

「どうぞ、お座りください」

爽やかに笑って彼が席を譲る。
お婆さんは礼を言ってそこに座った。

「ニキって魔王様らしくなく親切だよね」

いつも食べたあとの食器は洗ってくれていたし、使ったあとのベッドも整えてくれていた。
いまだって。

「なんか心外だな。
まあ、ここでも魔王は悪逆非道で人類の敵らしいから仕方ない」

ふふっと自嘲するように笑ったニキは傷ついているようで、胸が小さくツキンと痛んだ。

――魔族は仲良く穏やかに暮らしていた。
けれど勝手に魔族を恐れた人間が滅ぼしに。

ニキは前に、そう言っていた。
実際の自分を知らず、そういうイメージを持たれるのは嫌に決まっている。

「……なんか、ごめん」

「いや、別にいい」

凹んでしまった私を慰めるように、ニキの手が軽く頭をぽんぽんする。
これからは魔王フィルターなんてかけずに、ニキ自身を知っていこう。
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