6 / 26
第一章 魔王の妻になりました
1-6
しおりを挟む
「仲直りもできたし、出掛けないか?」
「いいけど。
でもその前に、このお金をこのまま置いておくのは……」
テーブルの上にある札束の山へ目を向ける。
これっていくらあるんだろう?
「なんか袋に入れておけばいいだろ」
さらっと言ってニキは適当な紙袋へそれを入れようとするが。
いやいやいや。
そんな危ないこと、できませんって。
そういやさっきもその紙袋から出てきたし、まさかあれに裸銭を詰めて、手に提げて帰ってきたとは思いたくない。
「銀行に行って口座……あ、けど今日は休みか……でも、ニキって口座作れるのかな……?」
「なにをブツブツ言ってるんだ?
ほら、これでいいだろ」
袋にお札を詰め終わり、ニキはドヤ顔で頭が痛い。
こんなに感覚がズレていてホストなんて上手くやれたんだろうか。
いや、こんなに稼げたんだから人気ホストだったんだろうけれど。
「ねえ。
お客様とはちゃんと話ができたの?」
「ん?
できたぞ。
『魔王キャラ、ウケるー!』とか言って、バンバン指名が入ったが?」
あー、うん。
話がズレていてもなりきりキャラとしてウケたんだ。
それはよかった……のか?
「しかし、金のためとはいえ苺以外の女にちやほやするのは不本意だし、ああいう目で見られて触られるのは虫唾が走るのでもうやらん」
本当に忌ま忌ましげにニキが吐き捨てる。
ホストはそれが仕事なんだし、仕方ないよね。
「苺、怒っているのか?」
「え?」
不安そうに彼から顔をのぞき込まれ、ホストをしているニキを想像してムカついている自分に気づいた。
「怒ってないよ」
とりあえず、笑って誤魔化す。
私は彼に恋愛感情などないはずだ。
なのになんで、ムカついているんだろう?
「さっきも言ったが、仕事とはいえ苺以外の女に媚を売るなど、苺が浮気だと責めるのなら俺は甘んじて受け入れる。
しかし、俺が好きな女は苺ただひとりだ。
他の女になど絶対に心は動かされない。
それだけは誓う」
私を見つめる、ニキの瞳は真剣だ。
どうして一回寝ただけの女に、そこまで誓えるのだろう。
あれか、この世界に来て初めて見たのが私だったからか。
それ以外、考えられない。
「浮気とか思ってないし、わかったから」
「よかった」
目尻を下げて安心したかのようにニキが笑う。
その笑顔に心臓が一回、大きく鼓動した気がした。
ううん、きっとこれは気のせいだ。
出掛けるのには同意して、準備を済ませる。
「なんでスーツ?
しかも、ホストっぽくないし」
着替えたニキはスーツ姿だった。
一分の隙もなく着込まれたそれはホストというより、ツノがなければ一流企業のビジネスマンかどこぞの御曹司に見える。
しかし、それしか着るものがないならわかるが、このあいだ普段着は買ったのだ。
「なんでって……。
こういうときはビシッと決めるもんだと言われたからな」
ぷいっと顔を背けたニキの耳が赤い。
なにか照れるような要素がどこにあるんだ?
しかも〝こういうとき〟というのがなんか引っかかる。
「ほら、いいから行くぞ」
「えっ、ちょっと!」
追い立てられるようにマンションを出た。
さらに行き先を決めているらしく、ニキは迷いなく私を連れて歩く。
「バスの乗り方とかいつのまに覚えたの?」
「出勤するのに必要だったからな」
話しているうちに次のバス停に着く。
乗ってきたお婆さんが席を探しているのに気づいたニキは、すぐに立ち上がった。
「どうぞ、お座りください」
爽やかに笑って彼が席を譲る。
お婆さんは礼を言ってそこに座った。
「ニキって魔王様らしくなく親切だよね」
いつも食べたあとの食器は洗ってくれていたし、使ったあとのベッドも整えてくれていた。
いまだって。
「なんか心外だな。
まあ、ここでも魔王は悪逆非道で人類の敵らしいから仕方ない」
ふふっと自嘲するように笑ったニキは傷ついているようで、胸が小さくツキンと痛んだ。
――魔族は仲良く穏やかに暮らしていた。
けれど勝手に魔族を恐れた人間が滅ぼしに。
ニキは前に、そう言っていた。
実際の自分を知らず、そういうイメージを持たれるのは嫌に決まっている。
「……なんか、ごめん」
「いや、別にいい」
凹んでしまった私を慰めるように、ニキの手が軽く頭をぽんぽんする。
これからは魔王フィルターなんてかけずに、ニキ自身を知っていこう。
「いいけど。
でもその前に、このお金をこのまま置いておくのは……」
テーブルの上にある札束の山へ目を向ける。
これっていくらあるんだろう?
「なんか袋に入れておけばいいだろ」
さらっと言ってニキは適当な紙袋へそれを入れようとするが。
いやいやいや。
そんな危ないこと、できませんって。
そういやさっきもその紙袋から出てきたし、まさかあれに裸銭を詰めて、手に提げて帰ってきたとは思いたくない。
「銀行に行って口座……あ、けど今日は休みか……でも、ニキって口座作れるのかな……?」
「なにをブツブツ言ってるんだ?
ほら、これでいいだろ」
袋にお札を詰め終わり、ニキはドヤ顔で頭が痛い。
こんなに感覚がズレていてホストなんて上手くやれたんだろうか。
いや、こんなに稼げたんだから人気ホストだったんだろうけれど。
「ねえ。
お客様とはちゃんと話ができたの?」
「ん?
できたぞ。
『魔王キャラ、ウケるー!』とか言って、バンバン指名が入ったが?」
あー、うん。
話がズレていてもなりきりキャラとしてウケたんだ。
それはよかった……のか?
「しかし、金のためとはいえ苺以外の女にちやほやするのは不本意だし、ああいう目で見られて触られるのは虫唾が走るのでもうやらん」
本当に忌ま忌ましげにニキが吐き捨てる。
ホストはそれが仕事なんだし、仕方ないよね。
「苺、怒っているのか?」
「え?」
不安そうに彼から顔をのぞき込まれ、ホストをしているニキを想像してムカついている自分に気づいた。
「怒ってないよ」
とりあえず、笑って誤魔化す。
私は彼に恋愛感情などないはずだ。
なのになんで、ムカついているんだろう?
「さっきも言ったが、仕事とはいえ苺以外の女に媚を売るなど、苺が浮気だと責めるのなら俺は甘んじて受け入れる。
しかし、俺が好きな女は苺ただひとりだ。
他の女になど絶対に心は動かされない。
それだけは誓う」
私を見つめる、ニキの瞳は真剣だ。
どうして一回寝ただけの女に、そこまで誓えるのだろう。
あれか、この世界に来て初めて見たのが私だったからか。
それ以外、考えられない。
「浮気とか思ってないし、わかったから」
「よかった」
目尻を下げて安心したかのようにニキが笑う。
その笑顔に心臓が一回、大きく鼓動した気がした。
ううん、きっとこれは気のせいだ。
出掛けるのには同意して、準備を済ませる。
「なんでスーツ?
しかも、ホストっぽくないし」
着替えたニキはスーツ姿だった。
一分の隙もなく着込まれたそれはホストというより、ツノがなければ一流企業のビジネスマンかどこぞの御曹司に見える。
しかし、それしか着るものがないならわかるが、このあいだ普段着は買ったのだ。
「なんでって……。
こういうときはビシッと決めるもんだと言われたからな」
ぷいっと顔を背けたニキの耳が赤い。
なにか照れるような要素がどこにあるんだ?
しかも〝こういうとき〟というのがなんか引っかかる。
「ほら、いいから行くぞ」
「えっ、ちょっと!」
追い立てられるようにマンションを出た。
さらに行き先を決めているらしく、ニキは迷いなく私を連れて歩く。
「バスの乗り方とかいつのまに覚えたの?」
「出勤するのに必要だったからな」
話しているうちに次のバス停に着く。
乗ってきたお婆さんが席を探しているのに気づいたニキは、すぐに立ち上がった。
「どうぞ、お座りください」
爽やかに笑って彼が席を譲る。
お婆さんは礼を言ってそこに座った。
「ニキって魔王様らしくなく親切だよね」
いつも食べたあとの食器は洗ってくれていたし、使ったあとのベッドも整えてくれていた。
いまだって。
「なんか心外だな。
まあ、ここでも魔王は悪逆非道で人類の敵らしいから仕方ない」
ふふっと自嘲するように笑ったニキは傷ついているようで、胸が小さくツキンと痛んだ。
――魔族は仲良く穏やかに暮らしていた。
けれど勝手に魔族を恐れた人間が滅ぼしに。
ニキは前に、そう言っていた。
実際の自分を知らず、そういうイメージを持たれるのは嫌に決まっている。
「……なんか、ごめん」
「いや、別にいい」
凹んでしまった私を慰めるように、ニキの手が軽く頭をぽんぽんする。
これからは魔王フィルターなんてかけずに、ニキ自身を知っていこう。
0
あなたにおすすめの小説
氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。
入海月子
恋愛
「もう、なんですぐ石になるのよ〜!」
没落貴族のサナリは突然、天才だけど人嫌いの魔術師シーファから世話係に指名された。面識もないのにと疑問に思うが、騙し取られた領地を取り戻すために引き受けることにする。
シーファは美形。でも、笑顔を見たことがないと言われるほどクール……なはずなのに、なぜかサナリには蕩ける笑みを見せる。
そのくせ、演習に出てくださいとお願いすると「やだ」と石(リアル)になって動かない。
なんでよ!?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。
そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。
勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。
※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。
これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。
急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。
2025/10/21 和泉 花奈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる