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最終章 一番のサプライズ
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「すーみか」
戻ってきた紘希に声をかけられ、そちらを見る。
「え……」
そこに立っている人を見て、みるみる涙が溢れてきた
「おとう、さん……?」
なんで、父がここに?
もう、出所しているのは知っていた。
しかし父は私たちの元に帰ってきてくれないどころか、新しい居場所すら教えてくれなかった。
私たちを守るためだって、わかっている。
でも、それが酷く淋しかった。
「や、やあ。
純華。
ひさしぶり」
気まずいのか、後ろ頭を掻きながら父の目はあちこちを向き、視線は定まらない。
「ひさしぶりって、今までどうして……」
父へと伸ばした私の手は、ふるふると細かく震えていた。
もしかして幻かと思ったが父の腕は掴め、確かに彼はそこにいた。
「あー、えっと。
うん。
元気には、やってる」
へらっと父が情けなく笑った瞬間、感情が振り切れた。
「心配、してたんだよ!?
どうして連絡、くれなかったの!」
父の胸を叩き、感情をぶつける。
せっかくしてもらったメイクが崩れるなんてかまわずに、泣きじゃくった。
「あー、……ごめん」
申し訳なさそうに父が目を伏せる。
それでもう、なにも言えなくなった。
「でも、どうしてお父さんがここに?」
「その。
彼が」
父の目がちらっと、紘希へと向く。
「純華、口には出さなかったけど、お父さんに花嫁姿を見てほしいって思ってただろ?
だから探してきた」
照れくさそうに彼が、人差し指で頬を掻く。
それで胸が、温かいもので満たされていった。
「紘希……。
ありがとう、最高のサプライズだよ」
こんなにも紘希が、私のことを考えてくれているなんて思わなかった。
私、本当に素敵な人と結婚したんだな。
「その。
純華、結婚おめでとう。
家族に迷惑かけっぱなしの僕から祝われても嬉しくないだろうけど」
ぼそぼそと父が話す。
ひさしぶりに会う父は、一回り小さくなった気がした。
それだけ、苦労をしたのだろう。
「なに言ってんの。
お父さんに祝われるのが、最高のお祝いだよ。
それにお父さんは、私の誇りなんだから。
私たちに引け目なんて感じる必要はないんだよ」
父が私たちになんの相談もしてくれなかったのは淋しかったが、それでも自分の一生を棒に振るのに、あんな決断をした父が誇らしかった。
お父さんはこの世の誰よりも優しい人だ。
そう思っていたけれど、誰にも言えなくて苦しかった。
でも、今は紘希がわかってくれている。
「純華……」
父の目が潤んでいく。
でも、泣くのは今じゃない。
「ほら、私はいいからさ。
お母さんに謝んなよ。
今まで淋しい思いをさせてごめん、って」
いつの間にか紘希が連れてきてくれた母が、入り口に立っていた。
「あなた……」
母は目に涙をいっぱいに溜め、湧き上がる感情を必死に抑えている。
「おかえりなさい、あなた」
精一杯の顔で、母が父に微笑みかける。
「た、ただいま」
それに照れくさそうに父が答えた瞬間、母は大粒の涙を落として泣き出した。
父と母は積もる話もあるだろうからと、紘希が用意してくれた部屋へと行った。
「ありがとう、紘希。
父を連れてきてくれて」
泣きすぎて崩れたメイクを直してもらう。
「純華が会いたがっていたからな。
絶対に会わせてやりたかったんだ」
優しい、優しい、私の旦那様。
こんな紘希が、大好きだ。
「今日な、会社としてお父さんに謝罪したんだ」
「え?」
つい、鏡越しに紘希の顔を見ていた。
「俺の父さんも交えて話をして、純華のお父さんの名誉回復を約束した」
「そう、なん、だ」
彼のお父さんも交えてってことは、法的な話もしたってことだ。
じゃあ、お父さんは?
「真実が世間に公表される。
お父さんが人を刺したっていうのは消えないが、アイツに脅され続けて追い詰められていたっていう事実が出る」
「……そっか」
これで、横柄な態度を取り、言うことを聞かない人間には危害を加えてでも従わせようとするという、アイツにつけられた父に対する世間のイメージが消える。
また涙が出てきそうになって、慌てて鼻を啜った。
せっかくメイクを直してもらったのに、また崩すわけにはいかない。
「ありがとう、紘希。
本当になにからなにまで」
精一杯の感謝の気持ちで彼に頭を下げた。
アイツの口から謝罪さえあればいいと思っていた。
それは叶わなかったが、代わりにアイツの身内が謝ってくれた。
さらに、父の名誉回復まで。
こんなに嬉しいことはない。
「純華が謝る必要はない。
これは俺たちの責務だ」
「それでも。
ありがとう」
紘希には感謝してもしきれない。
こんなにしてくれる紘希に、私は一生かかって彼を幸せにし、この感謝を返していきたい。
「よせよ、照れくさい」
彼がぽりぽりと頬を掻く。
「それに本当の真実はお父さんがあかすのを望まれなかったからな。
アイツのせいとはいえ、俺たちはふたりの人間に一生消えない責めを負わせてしまった。
本当に申し訳ないと思っている」
紘希の顔は深い後悔で染まっていた。
彼は身内ではあるが、アイツではない。
それにあの当時は高校生で、なにかができたはずがない。
なのに彼はこうやって、自分たちの罪として背負ってくれている。
本当に大きな人で、個人としてはもちろん、これが経営者としての資質なんだと思う。
彼に、社長になるのを諦めさせなくてよかった。
戻ってきた紘希に声をかけられ、そちらを見る。
「え……」
そこに立っている人を見て、みるみる涙が溢れてきた
「おとう、さん……?」
なんで、父がここに?
もう、出所しているのは知っていた。
しかし父は私たちの元に帰ってきてくれないどころか、新しい居場所すら教えてくれなかった。
私たちを守るためだって、わかっている。
でも、それが酷く淋しかった。
「や、やあ。
純華。
ひさしぶり」
気まずいのか、後ろ頭を掻きながら父の目はあちこちを向き、視線は定まらない。
「ひさしぶりって、今までどうして……」
父へと伸ばした私の手は、ふるふると細かく震えていた。
もしかして幻かと思ったが父の腕は掴め、確かに彼はそこにいた。
「あー、えっと。
うん。
元気には、やってる」
へらっと父が情けなく笑った瞬間、感情が振り切れた。
「心配、してたんだよ!?
どうして連絡、くれなかったの!」
父の胸を叩き、感情をぶつける。
せっかくしてもらったメイクが崩れるなんてかまわずに、泣きじゃくった。
「あー、……ごめん」
申し訳なさそうに父が目を伏せる。
それでもう、なにも言えなくなった。
「でも、どうしてお父さんがここに?」
「その。
彼が」
父の目がちらっと、紘希へと向く。
「純華、口には出さなかったけど、お父さんに花嫁姿を見てほしいって思ってただろ?
だから探してきた」
照れくさそうに彼が、人差し指で頬を掻く。
それで胸が、温かいもので満たされていった。
「紘希……。
ありがとう、最高のサプライズだよ」
こんなにも紘希が、私のことを考えてくれているなんて思わなかった。
私、本当に素敵な人と結婚したんだな。
「その。
純華、結婚おめでとう。
家族に迷惑かけっぱなしの僕から祝われても嬉しくないだろうけど」
ぼそぼそと父が話す。
ひさしぶりに会う父は、一回り小さくなった気がした。
それだけ、苦労をしたのだろう。
「なに言ってんの。
お父さんに祝われるのが、最高のお祝いだよ。
それにお父さんは、私の誇りなんだから。
私たちに引け目なんて感じる必要はないんだよ」
父が私たちになんの相談もしてくれなかったのは淋しかったが、それでも自分の一生を棒に振るのに、あんな決断をした父が誇らしかった。
お父さんはこの世の誰よりも優しい人だ。
そう思っていたけれど、誰にも言えなくて苦しかった。
でも、今は紘希がわかってくれている。
「純華……」
父の目が潤んでいく。
でも、泣くのは今じゃない。
「ほら、私はいいからさ。
お母さんに謝んなよ。
今まで淋しい思いをさせてごめん、って」
いつの間にか紘希が連れてきてくれた母が、入り口に立っていた。
「あなた……」
母は目に涙をいっぱいに溜め、湧き上がる感情を必死に抑えている。
「おかえりなさい、あなた」
精一杯の顔で、母が父に微笑みかける。
「た、ただいま」
それに照れくさそうに父が答えた瞬間、母は大粒の涙を落として泣き出した。
父と母は積もる話もあるだろうからと、紘希が用意してくれた部屋へと行った。
「ありがとう、紘希。
父を連れてきてくれて」
泣きすぎて崩れたメイクを直してもらう。
「純華が会いたがっていたからな。
絶対に会わせてやりたかったんだ」
優しい、優しい、私の旦那様。
こんな紘希が、大好きだ。
「今日な、会社としてお父さんに謝罪したんだ」
「え?」
つい、鏡越しに紘希の顔を見ていた。
「俺の父さんも交えて話をして、純華のお父さんの名誉回復を約束した」
「そう、なん、だ」
彼のお父さんも交えてってことは、法的な話もしたってことだ。
じゃあ、お父さんは?
「真実が世間に公表される。
お父さんが人を刺したっていうのは消えないが、アイツに脅され続けて追い詰められていたっていう事実が出る」
「……そっか」
これで、横柄な態度を取り、言うことを聞かない人間には危害を加えてでも従わせようとするという、アイツにつけられた父に対する世間のイメージが消える。
また涙が出てきそうになって、慌てて鼻を啜った。
せっかくメイクを直してもらったのに、また崩すわけにはいかない。
「ありがとう、紘希。
本当になにからなにまで」
精一杯の感謝の気持ちで彼に頭を下げた。
アイツの口から謝罪さえあればいいと思っていた。
それは叶わなかったが、代わりにアイツの身内が謝ってくれた。
さらに、父の名誉回復まで。
こんなに嬉しいことはない。
「純華が謝る必要はない。
これは俺たちの責務だ」
「それでも。
ありがとう」
紘希には感謝してもしきれない。
こんなにしてくれる紘希に、私は一生かかって彼を幸せにし、この感謝を返していきたい。
「よせよ、照れくさい」
彼がぽりぽりと頬を掻く。
「それに本当の真実はお父さんがあかすのを望まれなかったからな。
アイツのせいとはいえ、俺たちはふたりの人間に一生消えない責めを負わせてしまった。
本当に申し訳ないと思っている」
紘希の顔は深い後悔で染まっていた。
彼は身内ではあるが、アイツではない。
それにあの当時は高校生で、なにかができたはずがない。
なのに彼はこうやって、自分たちの罪として背負ってくれている。
本当に大きな人で、個人としてはもちろん、これが経営者としての資質なんだと思う。
彼に、社長になるのを諦めさせなくてよかった。
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