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最終章 一番のサプライズ

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「純華。
僕はそろそろ失礼するよ」

話は済んだのか、そのうち再び父が顔を出した。

「え、帰るの!?
一緒にバージンロード、歩いてよ!」

てっきり、今日の式に出席してくれるとばかり思っていた。
なのに、帰るなんて。

「ほら。
彼に騙されるようにここに連れてこられたから、こんな格好だし」

困ったように笑う父は結婚式を想定していない、チノパンにシャツとラフな格好だった。

「それに犯罪者が父親として出席だなんて、純華も肩身が狭いだろ。
こうやって花嫁姿が見られただけで十分だ」

父は満足そうだが、私はそうじゃないのだ。

「私はお父さんとバージンロードを歩きたいの!
まわりがなんと思おうと関係ない。
言ったでしょ、お父さんは私の誇りだ、って」

「純華……」

父は悩むように、黙ってしまった。
きっと父だって、私の結婚式に出席したい気持ちはあるはずだ。
だから今、速攻で断らずに黙っているんだと思う。

「お父さん」

紘希に声をかけられ、父が頭を上げる。

「僕からもお願いです。
純華とバージンロードを歩いてやってください」

誠心誠意、彼は父へと頭を下げた。

「でも。
……いいんですか?」

父が申し訳なさそうに、おずおずと紘希をうかがう。

「はい。
僕も純華と同じ気持ちです。
まわりがどう思おうと関係ない。
お父さんは僕の、自慢の義父親ちちおやです」

力強く紘希が言い切る。
それで父の頑なな気持ちが、緩んだように見えた。

「じゃ、じゃあ。
ああ、でも。
僕はこんな格好だからな……」

ほっと嬉しそうに笑った父だが、自分の服装を思い出して情けない顔になる。

「大丈夫です、準備してありますから」

紘希が意味深に、片目をつぶってみせる。
きっと彼は、最初からその気だったのだ。
だから、普通なら入れない結婚式当日の朝に父との会見の場を設け、そのままここに連れてきた。
こんなの、素敵な旦那様過ぎて、何度でも惚れちゃうよ。

着替えた父と、聖堂のドアの前に立つ。
まさか、父と一緒にバージンロードが歩けるなんて思ってもいなかった。
今日一番の、サプライズだ。

ドアが開き、父に腕を取られて一歩を踏み出す。
その先では紘希と、彼とお揃いの衣装でおめかししたイブキが待っていた。
歩くあいだ、今までの出来事が頭の中を流れていく。
勢いで結婚したあと、紘希がアイツの身内と知り、即離婚しようとした。
紘希は全然、聞いてくれなかったな。
彼が私の理想の人間だと知り、結婚を受け入れたあとも、幸せに浸りながらすぐに来るだろう別ればかり考えていた。
でも、これからは――。

祭壇の前にふたりと一匹が並び、式が始まる。

「矢崎紘希に永遠の愛を誓いますか」

もう、彼と別れるなんて考えない。
死がふたりを分かつまで、私は紘希を永遠に愛し続ける。

「はい」

私は晴れやかな気分で、宣誓した。


【終】
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