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第2章 猫は至上の生き物です
2-3 正体は……
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翌日の火曜日は桃谷さんが、暑気払いをしませんかと食事に呼んでくれた。
気分転換に少し早めに街に出て、ぶらぶらする。
……そういえば毎回、ケーキスタンド持ってくるの、大変だよね……。
なんとなくケーキスタンドを求めて街をうろついている自分に気づき、苦笑いしかできない。
結局、デパートでティセットにもあいそうな、シンプルな白のケーキスタンドを購入した。
うん、別に松岡さんのためじゃないとも。
楽しいアフタヌーンティのためだ。
「毎日暑いですね」
今日も桃谷さんは可愛くてちょっと眩しい。
「まだ八月に入ったばかりですもんね……」
おしぼりで手を拭きながら、桃谷さんはてきぱきと注文していく。
彼女は私がひきこもりだって知っているからこうやってときどき、なにかと理由をつけて呼び出してくれる。
「大藤先生、少し太りました?」
うっ、めざとい。
「そ、そうですかね」
自分でもうすうす気づいていただけに、ショックは大きい。
「んー、でも、前は不健康に痩せてる感じがあったんで、健康的になっていいんじゃないですかね」
にっこり笑う彼女に悪気はない。
そういえば彼女と食事に行くときはいつも肉だが、もしかして彼女なりの気遣いだった……とか?
今日も焼き肉だし。
「ハウスキーパー……もとい。
家政夫さん効果ですかね」
確かにそれしかないと思う。
いままでまともな食生活じゃなかったし。
「かも、ですね」
「よかったんじゃないですか、家政夫さん頼んで」
彼女は得意げだけど……私としては少し、複雑な心境。
よかったといえばよかったけど、悪かったといえば悪かったって感じだし。
「でも家政婦さんって男性もいるんですねー」
私も意外だったし、だからこんなことになってしまったんだけど。
実際聞いてみたら、同じ家政婦紹介所には松岡さんしか男性はいないらしい。
そのたったひとりを引き当ててしまうなんて……私は運がいいのか悪いのか。
「でもおかしいですよね、家政夫なのに執事コスプレしてるなんて!」
桃谷さんはおかしそうに笑っている。
が、普通はそうだろう。
そんなに執事になりたいのなら執事になればいい。
もしくは執事コスがしたいだけならプライベートでやるか、仕事にしたいなら執事カフェで働けばいい。
一度、聞いたのだけど。
「ご存じですか?
現在の執事は燕尾服など着ません」
「え、そうなんですか?」
執事といえばこんな格好をしていると思い込んでいただけに、意外だった。
「こんな目立つ格好の執事がついていれば、そこにセレブがいると宣伝しているも同じです」
「確かに……」
セレブはなにかと狙われやすいから、いわれてみればこんな目立つ人間を傍に置くなんてできないだろう。
「ですがこの格好は私の憧れです。
ですのでいくつかお誘いはありましたが、お断りしました」
「はいっ!?」
いやいやいや、ちょっと待って。
セレブの執事を断って家政夫をやっているのってちょっと、理解できない。
「じゃ、じゃあ、執事カフェに勤めるとか……?」
あそこだったら制服が執事服だから、家政夫よりはいいんじゃないかな……?
「確かに、この服か着られるならと執事カフェで働いたこともございます。
が、エンターテイメントとしてお嬢様の給仕につくのは本来の執事の仕事から、大きくかけ離れております」
それには激しく同意だけれど、でもだからといって。
「家政夫だって違うんじゃないですか……?」
はぁっと小さく、莫迦にしたようなため息が松岡さんの口から落ちて、ムッとした。
「執事の仕事には家政が含まれております。
それに生活サポートもとなると、かなりの割合が重なっております」
「……そうですか」
指を揃えてくいっと、眼鏡を松岡さんが押し上げる。
この人のこだわりは全くもって理解できない。
が、もう面倒なのでそれ以上、追求するのはやめておいた。
それになにが楽しいのかわからないが本人は納得の上で執事もどきの家政夫をやっているようだし、会社もそれを止めないのなら問題はないのだろう。
「まあ、もどきでも執事が傍にいるのは、いい刺激になっていいんじゃないですか」
「うっ」
意地悪く、桃谷さんがにやにやと笑う。
「次の作品、大藤先生にしては珍しく、王子ものじゃなく執事ものですもんね。
やっぱり彼がモデルですか?」
「そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか……」
否定しながらも目が泳ぐ。
空調が効いているのに変な汗をじっとりとかいていた。
「どっちにしろ、いい作品を書くためです!
がんがん彼を利用しましょう!」
「そ、そうですね……」
桃谷さんは陽気に笑っていられるが、私にとっては人事ではないのだ……。
駅からの道をほろ酔い加減で歩く。
コンビニに寄りデザートを買いかけて、やめた。
だって、圧倒的に松岡さんの作るスイーツの方がおいしいから。
「やっぱりやめとけばよかった……」
いまごろになってケーキスタンドの重さが腕にきた。
多少後悔しながら、隣家の前を通りかかる。
やはり門は固く閉ざされて売り家の看板がついているし、人の気配はない。
……やっぱり私の気のせい?
松岡さんが来るようになって、精神的にも疲れているしなー。
ケーキスタンドの入った紙袋を持ち直す。
――にゃぁ。
一歩、足を踏み出したところで止まった。
……にゃぁ?
猫でも住み着いているんだろうか。
そうだとしたらもしかして、塀の上を歩く猫を人影と見間違えたのかもしれない。
「なーんだ」
幽霊も、正体見たり枯れ尾花、じゃないけど。
納得できる答えが得られて、一気に気持ちが軽くなった。
気分転換に少し早めに街に出て、ぶらぶらする。
……そういえば毎回、ケーキスタンド持ってくるの、大変だよね……。
なんとなくケーキスタンドを求めて街をうろついている自分に気づき、苦笑いしかできない。
結局、デパートでティセットにもあいそうな、シンプルな白のケーキスタンドを購入した。
うん、別に松岡さんのためじゃないとも。
楽しいアフタヌーンティのためだ。
「毎日暑いですね」
今日も桃谷さんは可愛くてちょっと眩しい。
「まだ八月に入ったばかりですもんね……」
おしぼりで手を拭きながら、桃谷さんはてきぱきと注文していく。
彼女は私がひきこもりだって知っているからこうやってときどき、なにかと理由をつけて呼び出してくれる。
「大藤先生、少し太りました?」
うっ、めざとい。
「そ、そうですかね」
自分でもうすうす気づいていただけに、ショックは大きい。
「んー、でも、前は不健康に痩せてる感じがあったんで、健康的になっていいんじゃないですかね」
にっこり笑う彼女に悪気はない。
そういえば彼女と食事に行くときはいつも肉だが、もしかして彼女なりの気遣いだった……とか?
今日も焼き肉だし。
「ハウスキーパー……もとい。
家政夫さん効果ですかね」
確かにそれしかないと思う。
いままでまともな食生活じゃなかったし。
「かも、ですね」
「よかったんじゃないですか、家政夫さん頼んで」
彼女は得意げだけど……私としては少し、複雑な心境。
よかったといえばよかったけど、悪かったといえば悪かったって感じだし。
「でも家政婦さんって男性もいるんですねー」
私も意外だったし、だからこんなことになってしまったんだけど。
実際聞いてみたら、同じ家政婦紹介所には松岡さんしか男性はいないらしい。
そのたったひとりを引き当ててしまうなんて……私は運がいいのか悪いのか。
「でもおかしいですよね、家政夫なのに執事コスプレしてるなんて!」
桃谷さんはおかしそうに笑っている。
が、普通はそうだろう。
そんなに執事になりたいのなら執事になればいい。
もしくは執事コスがしたいだけならプライベートでやるか、仕事にしたいなら執事カフェで働けばいい。
一度、聞いたのだけど。
「ご存じですか?
現在の執事は燕尾服など着ません」
「え、そうなんですか?」
執事といえばこんな格好をしていると思い込んでいただけに、意外だった。
「こんな目立つ格好の執事がついていれば、そこにセレブがいると宣伝しているも同じです」
「確かに……」
セレブはなにかと狙われやすいから、いわれてみればこんな目立つ人間を傍に置くなんてできないだろう。
「ですがこの格好は私の憧れです。
ですのでいくつかお誘いはありましたが、お断りしました」
「はいっ!?」
いやいやいや、ちょっと待って。
セレブの執事を断って家政夫をやっているのってちょっと、理解できない。
「じゃ、じゃあ、執事カフェに勤めるとか……?」
あそこだったら制服が執事服だから、家政夫よりはいいんじゃないかな……?
「確かに、この服か着られるならと執事カフェで働いたこともございます。
が、エンターテイメントとしてお嬢様の給仕につくのは本来の執事の仕事から、大きくかけ離れております」
それには激しく同意だけれど、でもだからといって。
「家政夫だって違うんじゃないですか……?」
はぁっと小さく、莫迦にしたようなため息が松岡さんの口から落ちて、ムッとした。
「執事の仕事には家政が含まれております。
それに生活サポートもとなると、かなりの割合が重なっております」
「……そうですか」
指を揃えてくいっと、眼鏡を松岡さんが押し上げる。
この人のこだわりは全くもって理解できない。
が、もう面倒なのでそれ以上、追求するのはやめておいた。
それになにが楽しいのかわからないが本人は納得の上で執事もどきの家政夫をやっているようだし、会社もそれを止めないのなら問題はないのだろう。
「まあ、もどきでも執事が傍にいるのは、いい刺激になっていいんじゃないですか」
「うっ」
意地悪く、桃谷さんがにやにやと笑う。
「次の作品、大藤先生にしては珍しく、王子ものじゃなく執事ものですもんね。
やっぱり彼がモデルですか?」
「そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか……」
否定しながらも目が泳ぐ。
空調が効いているのに変な汗をじっとりとかいていた。
「どっちにしろ、いい作品を書くためです!
がんがん彼を利用しましょう!」
「そ、そうですね……」
桃谷さんは陽気に笑っていられるが、私にとっては人事ではないのだ……。
駅からの道をほろ酔い加減で歩く。
コンビニに寄りデザートを買いかけて、やめた。
だって、圧倒的に松岡さんの作るスイーツの方がおいしいから。
「やっぱりやめとけばよかった……」
いまごろになってケーキスタンドの重さが腕にきた。
多少後悔しながら、隣家の前を通りかかる。
やはり門は固く閉ざされて売り家の看板がついているし、人の気配はない。
……やっぱり私の気のせい?
松岡さんが来るようになって、精神的にも疲れているしなー。
ケーキスタンドの入った紙袋を持ち直す。
――にゃぁ。
一歩、足を踏み出したところで止まった。
……にゃぁ?
猫でも住み着いているんだろうか。
そうだとしたらもしかして、塀の上を歩く猫を人影と見間違えたのかもしれない。
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幽霊も、正体見たり枯れ尾花、じゃないけど。
納得できる答えが得られて、一気に気持ちが軽くなった。
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