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第4章 王子様、登場
4-3 オムライスにケチャップのハートは必須です
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今日の晩ごはんはオムライスだった。
――オムライス。
悪い予感がなんとなくするのは、気のせいでしょうか……?
「いただきます」
傍に置かれたケチャップを私が掴むより早く、松岡くんがとりあげた。
「そういえばこの間、オムライスにハートを描いてくれなかったと拗ねておいででしたね」
にやり、意地悪く松岡くんの唇が歪む。
「あ、あれは……!」
もしかして、ニャンスタの投稿、全部チェックされた!?
バレた段階でさっさと削除すればよかったのだ。
でも、あれからいろいろあって完全に忘れていた。
ケチャップを奪う間もなく、あっという間に松岡くんがオムライスの上にハートを描いていく。
「これでよろしいですか」
「うっ。
……いい」
仕方ないのでおとなしく、椅子に座り直した。
「……こんな可愛いおねだりされたら、叶えてやりたくなるだろ」
耳もとで囁いて口付けを落とし、顔を離す。
見上げるとレンズ越しに目があった。
松岡くんが眼鏡をくいっと上げ、レンズが得意げに光る。
「……いただきます」
スプーンを掴んだ手は、指の先まで真っ赤になっていた。
ぎくしゃくと口に運んだオムライスの味は、全くわからない。
「大根と手羽のおでんを煮込んでいますので、明日、お召し上がりください」
「……うん」
オムライスの味はわからないが、味気ないというよりも幸せの味がする……などと考え、思わずオムライスに顔を突っ込みたくなるほど恥ずかしくなった。
「そうそう、あの投稿、是非続けてください」
「はいっ!?」
うっ、声が裏返った。
「ああいうのおもしろ……失礼」
ん?
いま、面白いって言おうとした!?
「見ていて微笑ましいですし、なによりバカップ……」
口もとを隠して俯いた松岡くんの肩は小刻みに震えている。
ええ、ええ、悪かったですね!
バカップルみたいで!
「失礼いたしました」
気持ちを切り替えるように松岡くんはこほんと小さく咳をしたけれど……全然失礼だとは思っていないよね?
「恋愛疑似体験なら、ああいう投稿は続けた方がそれっぽいと思いますので、是非続けてください」
「……わかった」
ただ単に、松岡くんが面白がりたいだけな気がしないでもないが、あれはあれで少し楽しかったからいいことにする。
「では、本日はこれで失礼させていただきます。
また来週、月曜日に」
「ご苦労様」
セバスチャンを抱いて玄関まで見送る。
いままで仕事部屋か茶の間から、顔を出すだけだったのに。
「おやすみ、紅夏」
靴を履いて土間に立つ松岡くんと上がり框に立つ私はほぼ、身長差がない。
なのに肩に手を置いた彼の顔がまっすぐに近づいてくる。
そういう決まりなんだし、ないとわかっていても慌てて目を閉じた、が。
――ちゅっ。
唇が額に触れて目を開ける。
「本当にキスするとでもお思いですか?」
松岡くんが僅かに右の口端を上げて笑い、途端にボッと顔が熱くなる。
「じゃあ仕事、頑張って。
でも、無理しないでください」
荷物を重そうに肩をかけ、ひらひらと手を振って帰っていく松岡くんをぼーっと見送った。
ぴしゃっと玄関が閉まり、気が抜けてその場に座り込もうとした瞬間。
「あ、戸締まりはしっかりしとけよ」
いきなりガラッと戸が開いて再び松岡くんが顔を出し、その場で飛び上がっていた。
松岡くんが帰り、携帯を手に取る。
「えっと……」
ニャンスタを立ち上げてオムライスの画像を選び、考える。
【今日はオムライス。
この間、ハートを描いてくれなかったって拗ねてたからって、今日は描いてくれたよ。
優しい、ダーリン】
いや、ちょっと待て。
あれのどこが優しいんだ?
私が恋愛に慣れていないのをいいことに、からかって遊んでいるとしか思えない。
削除、っと。
【今日はオムライス。
この間、ハートを描いてくれなかった拗ねてたからって、今日は描いてくれたよ。愛情オムライス♡
#彼の日#彼ごはん#オムライス#ケチャップのハート#ハート#ありがとダーリン#愛してる】
シェアボタンを押して一仕事終わった気分。
すぐにピコンピコンと通知音が鳴り出し、画面を見て……固まった。
【shituji-kaseifuさんがいいねしました】
【shituji-kaseifuさんがフォローしました】
【situji-kaseifuさんがコメントしました】
「うっ」
アカウントのアイコンは顔が写っていない執事服姿だったが、どう見てもあいつだ。
嫌な予感しかなく、そーっとコメントを開いてみる。
【今日は喜んでくれたみたいで嬉しいよ】
それだけ見ると優しい彼氏っぽい。
が、これは完全に捕捉しました宣言だ。
「どーしよう……」
一瞬、ブロックしようかとか思ったが、そうなったらそうなったでなにか言われそうで怖い。
「とりあえずリプ……」
携帯を掴んだままあたまを悩ませる。
新作のアイディア出しでだって、ここまで悩んだことはない。
「えっと……」
【今日のオムライスは特別おいしかった♡】
打った♡マークを速攻で消す。
【今日のオムライスは特別おいしかったよ】
よし、これで完璧だ。
幸せの味がするなんて、変なことを考えそうになったのは事実だし。
送信すると一気に気が抜けた。
今日は先にお風呂に入って、リラックスしてから仕事に取りかかろう。
――オムライス。
悪い予感がなんとなくするのは、気のせいでしょうか……?
「いただきます」
傍に置かれたケチャップを私が掴むより早く、松岡くんがとりあげた。
「そういえばこの間、オムライスにハートを描いてくれなかったと拗ねておいででしたね」
にやり、意地悪く松岡くんの唇が歪む。
「あ、あれは……!」
もしかして、ニャンスタの投稿、全部チェックされた!?
バレた段階でさっさと削除すればよかったのだ。
でも、あれからいろいろあって完全に忘れていた。
ケチャップを奪う間もなく、あっという間に松岡くんがオムライスの上にハートを描いていく。
「これでよろしいですか」
「うっ。
……いい」
仕方ないのでおとなしく、椅子に座り直した。
「……こんな可愛いおねだりされたら、叶えてやりたくなるだろ」
耳もとで囁いて口付けを落とし、顔を離す。
見上げるとレンズ越しに目があった。
松岡くんが眼鏡をくいっと上げ、レンズが得意げに光る。
「……いただきます」
スプーンを掴んだ手は、指の先まで真っ赤になっていた。
ぎくしゃくと口に運んだオムライスの味は、全くわからない。
「大根と手羽のおでんを煮込んでいますので、明日、お召し上がりください」
「……うん」
オムライスの味はわからないが、味気ないというよりも幸せの味がする……などと考え、思わずオムライスに顔を突っ込みたくなるほど恥ずかしくなった。
「そうそう、あの投稿、是非続けてください」
「はいっ!?」
うっ、声が裏返った。
「ああいうのおもしろ……失礼」
ん?
いま、面白いって言おうとした!?
「見ていて微笑ましいですし、なによりバカップ……」
口もとを隠して俯いた松岡くんの肩は小刻みに震えている。
ええ、ええ、悪かったですね!
バカップルみたいで!
「失礼いたしました」
気持ちを切り替えるように松岡くんはこほんと小さく咳をしたけれど……全然失礼だとは思っていないよね?
「恋愛疑似体験なら、ああいう投稿は続けた方がそれっぽいと思いますので、是非続けてください」
「……わかった」
ただ単に、松岡くんが面白がりたいだけな気がしないでもないが、あれはあれで少し楽しかったからいいことにする。
「では、本日はこれで失礼させていただきます。
また来週、月曜日に」
「ご苦労様」
セバスチャンを抱いて玄関まで見送る。
いままで仕事部屋か茶の間から、顔を出すだけだったのに。
「おやすみ、紅夏」
靴を履いて土間に立つ松岡くんと上がり框に立つ私はほぼ、身長差がない。
なのに肩に手を置いた彼の顔がまっすぐに近づいてくる。
そういう決まりなんだし、ないとわかっていても慌てて目を閉じた、が。
――ちゅっ。
唇が額に触れて目を開ける。
「本当にキスするとでもお思いですか?」
松岡くんが僅かに右の口端を上げて笑い、途端にボッと顔が熱くなる。
「じゃあ仕事、頑張って。
でも、無理しないでください」
荷物を重そうに肩をかけ、ひらひらと手を振って帰っていく松岡くんをぼーっと見送った。
ぴしゃっと玄関が閉まり、気が抜けてその場に座り込もうとした瞬間。
「あ、戸締まりはしっかりしとけよ」
いきなりガラッと戸が開いて再び松岡くんが顔を出し、その場で飛び上がっていた。
松岡くんが帰り、携帯を手に取る。
「えっと……」
ニャンスタを立ち上げてオムライスの画像を選び、考える。
【今日はオムライス。
この間、ハートを描いてくれなかったって拗ねてたからって、今日は描いてくれたよ。
優しい、ダーリン】
いや、ちょっと待て。
あれのどこが優しいんだ?
私が恋愛に慣れていないのをいいことに、からかって遊んでいるとしか思えない。
削除、っと。
【今日はオムライス。
この間、ハートを描いてくれなかった拗ねてたからって、今日は描いてくれたよ。愛情オムライス♡
#彼の日#彼ごはん#オムライス#ケチャップのハート#ハート#ありがとダーリン#愛してる】
シェアボタンを押して一仕事終わった気分。
すぐにピコンピコンと通知音が鳴り出し、画面を見て……固まった。
【shituji-kaseifuさんがいいねしました】
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「うっ」
アカウントのアイコンは顔が写っていない執事服姿だったが、どう見てもあいつだ。
嫌な予感しかなく、そーっとコメントを開いてみる。
【今日は喜んでくれたみたいで嬉しいよ】
それだけ見ると優しい彼氏っぽい。
が、これは完全に捕捉しました宣言だ。
「どーしよう……」
一瞬、ブロックしようかとか思ったが、そうなったらそうなったでなにか言われそうで怖い。
「とりあえずリプ……」
携帯を掴んだままあたまを悩ませる。
新作のアイディア出しでだって、ここまで悩んだことはない。
「えっと……」
【今日のオムライスは特別おいしかった♡】
打った♡マークを速攻で消す。
【今日のオムライスは特別おいしかったよ】
よし、これで完璧だ。
幸せの味がするなんて、変なことを考えそうになったのは事実だし。
送信すると一気に気が抜けた。
今日は先にお風呂に入って、リラックスしてから仕事に取りかかろう。
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