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最終章 心に決めた人
10-4
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次の休み、健太が望と美妃をうちに連れてきた。
ちなみに、あのあと父は健太たちにも謝ったらしく、今は実家に帰っている。
「親父が母さんとデートに行きたいっていうからさ。
清ねぇ、頼める?」
「あー、いいよー」
曖昧に笑って承知する。
あの家じゃ夫婦水入らずとかできないもんね。
ひさしぶりに父が帰ってきて真由さんも嬉しいだろうし、これくらい、いい。
「健太はどーするのー?」
「俺はバイト。
真はいつもどおりどっか行った。
巧は試験近いから勉強させてやりたいし」
持ってきた荷物を下ろし、もう健太は出ていく気だ。
「試験近いって、あんたもでしょ」
「俺はいいの。
じゃ、よろしく」
「はーい」
慌ただしく健太が出ていき、三人取り残された。
「そろそろお昼か。
望、なに食べたい?」
「オムライス!」
「了解」
定番のメニューが出てきて、笑いながら台所に立った。
お昼ご飯を食べさせたあとは、することがなくなる。
望はひとり、持ってきたおもちゃで遊んでくれて助かった。
最近、美妃は歩きはじめたので、目が離せない。
でも、よかったのかも。
ひとりじゃつい、いろいろ考えてしまう。
――それでも。
「さやねぇちゃん、みて!
ひゅうがおにぃちゃんのひこうきだよ!」
「え?
ああ、うん。
そうだねー」
望から声をかけられて、現実に戻ってくる。
ダメだ、また考えても仕方ないことをぐるぐる悩んでいた。
慌てて笑顔を作り、テレビへ視線を向ける。
録画してあったその番組には、我が社の飛行機が映っていた。
「さやねぇちゃん、げんき、ない?」
立ってきた望が、心配そうに私の顔をのぞき込む。
「そんなことないよ」
「だってさっきから、はぁーっ、はぁーっ、ってそればっかりだよ。
みきちゃん、おこんないし」
「えっ?」
望が視線を向けた先では、美妃がボックスからティッシュを全部出しているところだった。
「うわっ!
美妃、ストップ!」
慌てて止めたものの、全部出し切って満足したのか、美妃は嬉しそうに笑っている。
「あーあ」
今朝、開けたばかりだったのに。
でも、ぼーっとして気をつけられなかった私が悪い。
それに、怪我とかじゃなくてよかった。
ティッシュ出しで体力を使い切ったのか、美妃がうとうとしはじめたので布団を引いて寝かしつける。
このところずっと寝不足だったせいで、そのまま……寝落ちた。
「ごめん、望。
寝てた……。
望?
望!?」
目が覚めたらテレビはつけっぱなしだったが、望の姿がない。
トイレに行っているだけ。
そう言い聞かせて探すが、どこにもいない。
1DKの狭い部屋だ、探すところはそんなにない。
「望?
望、出てきて!」
無駄だとわかっていながら、何度も同じ場所を探す。
私が騒ぐものだから美妃が目を覚まし、泣きはじめた。
「ごめんね、美妃」
慌てて美妃を抱き締めて宥める。
そのときになって初めて、テーブルの上に置かれている紙に気づいた。
【ひゅうがおにぃちゃんのところへいってくるね】
それにはクレヨンを使ってたどたどしいひらがなでそう書いてあった。
「あの子、彪夏さんのところへ行くつもりなんだ」
でも、どうやって?
そもそも家の場所を知らない。
それに子供ひとりであんな遠くまで行けるとは思えない。
それでも望みをかけて、彪夏さんに電話した。
『清子?
どう……』
「望!
望、そっちに行ってないですか!?」
彪夏さんの言葉を遮って、焦って聞く。
『望?
来てないが。
望がどうかしたのか』
「わかりました、じゃあ!」
『清子!』
すぐに望を探しに行かなければと電話を切ろうとしたら、彪夏さんから強い声を出されて止まった。
『落ち着け。
落ち着いてなにがあったのか話せ』
「落ち着いていられるはずないじゃないですか!
寝落ちてるあいだに望がいなくなったなんて!」
なんで私は眠ってしまったんだろう。
悔やんでも悔やみきれない。
『わかった。
俺もすぐそっち行くから、とにかく落ち着け』
「でも!
でも!」
『いいから落ち着け。
わかったな』
「……はい」
彪夏さんの声はこんな状況なのにどこまでも冷静で、私にはわからなかった。
ちなみに、あのあと父は健太たちにも謝ったらしく、今は実家に帰っている。
「親父が母さんとデートに行きたいっていうからさ。
清ねぇ、頼める?」
「あー、いいよー」
曖昧に笑って承知する。
あの家じゃ夫婦水入らずとかできないもんね。
ひさしぶりに父が帰ってきて真由さんも嬉しいだろうし、これくらい、いい。
「健太はどーするのー?」
「俺はバイト。
真はいつもどおりどっか行った。
巧は試験近いから勉強させてやりたいし」
持ってきた荷物を下ろし、もう健太は出ていく気だ。
「試験近いって、あんたもでしょ」
「俺はいいの。
じゃ、よろしく」
「はーい」
慌ただしく健太が出ていき、三人取り残された。
「そろそろお昼か。
望、なに食べたい?」
「オムライス!」
「了解」
定番のメニューが出てきて、笑いながら台所に立った。
お昼ご飯を食べさせたあとは、することがなくなる。
望はひとり、持ってきたおもちゃで遊んでくれて助かった。
最近、美妃は歩きはじめたので、目が離せない。
でも、よかったのかも。
ひとりじゃつい、いろいろ考えてしまう。
――それでも。
「さやねぇちゃん、みて!
ひゅうがおにぃちゃんのひこうきだよ!」
「え?
ああ、うん。
そうだねー」
望から声をかけられて、現実に戻ってくる。
ダメだ、また考えても仕方ないことをぐるぐる悩んでいた。
慌てて笑顔を作り、テレビへ視線を向ける。
録画してあったその番組には、我が社の飛行機が映っていた。
「さやねぇちゃん、げんき、ない?」
立ってきた望が、心配そうに私の顔をのぞき込む。
「そんなことないよ」
「だってさっきから、はぁーっ、はぁーっ、ってそればっかりだよ。
みきちゃん、おこんないし」
「えっ?」
望が視線を向けた先では、美妃がボックスからティッシュを全部出しているところだった。
「うわっ!
美妃、ストップ!」
慌てて止めたものの、全部出し切って満足したのか、美妃は嬉しそうに笑っている。
「あーあ」
今朝、開けたばかりだったのに。
でも、ぼーっとして気をつけられなかった私が悪い。
それに、怪我とかじゃなくてよかった。
ティッシュ出しで体力を使い切ったのか、美妃がうとうとしはじめたので布団を引いて寝かしつける。
このところずっと寝不足だったせいで、そのまま……寝落ちた。
「ごめん、望。
寝てた……。
望?
望!?」
目が覚めたらテレビはつけっぱなしだったが、望の姿がない。
トイレに行っているだけ。
そう言い聞かせて探すが、どこにもいない。
1DKの狭い部屋だ、探すところはそんなにない。
「望?
望、出てきて!」
無駄だとわかっていながら、何度も同じ場所を探す。
私が騒ぐものだから美妃が目を覚まし、泣きはじめた。
「ごめんね、美妃」
慌てて美妃を抱き締めて宥める。
そのときになって初めて、テーブルの上に置かれている紙に気づいた。
【ひゅうがおにぃちゃんのところへいってくるね】
それにはクレヨンを使ってたどたどしいひらがなでそう書いてあった。
「あの子、彪夏さんのところへ行くつもりなんだ」
でも、どうやって?
そもそも家の場所を知らない。
それに子供ひとりであんな遠くまで行けるとは思えない。
それでも望みをかけて、彪夏さんに電話した。
『清子?
どう……』
「望!
望、そっちに行ってないですか!?」
彪夏さんの言葉を遮って、焦って聞く。
『望?
来てないが。
望がどうかしたのか』
「わかりました、じゃあ!」
『清子!』
すぐに望を探しに行かなければと電話を切ろうとしたら、彪夏さんから強い声を出されて止まった。
『落ち着け。
落ち着いてなにがあったのか話せ』
「落ち着いていられるはずないじゃないですか!
寝落ちてるあいだに望がいなくなったなんて!」
なんで私は眠ってしまったんだろう。
悔やんでも悔やみきれない。
『わかった。
俺もすぐそっち行くから、とにかく落ち着け』
「でも!
でも!」
『いいから落ち着け。
わかったな』
「……はい」
彪夏さんの声はこんな状況なのにどこまでも冷静で、私にはわからなかった。
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