クロノベル ~時の鐘が鳴るとき~

ブンショウ

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第一話 宝くじ

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第一話 宝くじ

「ッッッて!!」
何かにつまずき振り返ると、それは高さ2センチほどの段差だった。どう歩けばあの低い段差につまずくものなのかと考えながら彰は歩みを進めた。
斜めがけしたショルダーバックが重たいせいか少し首が凝る。小さな段差につまずくことも首が凝ることも10年前はなかったのに、39歳になった彰は少しずつであるが、年齢を感じずにはいられなかった。そのせいか、無茶な酒の飲み方はせず、趣味のランニングでも前後では入念なストレッチをするようになったし、長距離運転をする場合には1時間おきにパーキングで休憩を取るなど、体のいたわり方がってきた年頃だった。考え方も昔と比べ随分と合理的になり、持ち歩くものは必要最低限がモットーで繁華街へ飲みに行く時は現金とバス乗車券だけを握りしめて出掛けるような大人だった。

この日、職場の新年会に参加した彰は上司からの「皆んな、二次会行くぞー!」の誘いを先読みし、会の前半で早々に上司にお酌し後半では上司から距離をとった。どこまでを新年会と称しているのか分からない新年会の二次会とやらをうまく交わし、逃げるように帰路についていた。謎の焦燥感のせいか足早に歩いたからつまずいたのだろうと、妙に自分を納得させるのが彰はいつもうまかった。

この日は珍しく財布と小銭入れを持ち歩いたことで重たさを増したショルダーバックは、一歩一歩が首に軽い負担をかけた。
少しでも荷物を軽くしたい光は財布を取り出し、期限が切れた割引券や意味もなくもらってしまったレシートをゴミ箱に捨てようとゴミ箱を探した。こんな紙切れを捨てた位で軽くなるわけがないと知りながらも、ゴミ箱を求めてコンビニへ立ち寄った。

予定通り割引券とレシートをゴミ箱へ捨てたところで他にも財布を圧迫しているものがあることに気付いた。酔った勢いで年末に買った、年明けドリームジャンボだった。

2週間前、、、、、
「株の投資は、世界の動向をずっと見ておかないと勝てないから、俺らみたいな公務員ではその時間が無さすぎるんだよ彰。勝てたとしても利益は少しだ。そのくせ買った株が上がるか下がるかずっとハラハラするから期待値なんかゼロに等しいんだぜ。だから割に合わない。期待値と結果の一番バランスがいいものがあるんだ。何だと思う?」

1mmも正解する気が無かった彰は、同期の沖野の質問に上の空で「さぁ?」と辛うじて応えた。

「ドリームジャンボ宝くじなんだよ。年末ジャンボ7億円が当たる確率は2000万分の1だけど、ドリームジャンボの1億円が当たる確率は500万分の1だからかなり当たりやすい。ロトなんかは当たりはデカいが確率がとてつもなく低いんだよ。」

「んんン…。」彰は眉を寄せながら斜め上を見つめた。

「ドリームジャンボ当たるは確率の高さと、当たるかもしれないというハラハラドキドキの期待値があるから、もし外れたとしてもその期待値にお金を払ったと思えば安いんだよ。ホラ、そこに宝くじ売り場があるから一緒に買おうぜ彰!俺も買うからさ!」

沖野の話に妙な納得感があったことと、その時の沖野の勢いから断る気力を計算して、仕方なくバラの宝くじを買った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

つい2週間前の事を思い出した彰は、この時の出来事を精算したい気持ちでコンビニ横の宝くじ売り場の窓口に並んだ。年明けという事もあり多くの客が列を成していたので、トロトロしようもんなら後列の者に舌打ちでもされそうな雰囲気だと彰は思った。

いよいよ自分の番が回ってきて、窓口の販売員に10枚を手渡した。販売員が自動照合機にセットし、「目の前のモニターをご覧になってください。」と声を掛けられた。そのモニターには、お調べ枚数、はずれ枚数、当せん枚数、高額当せん枚数の表示があり、さらに一番下に当せん金額の欄があった。称号機がパラパラとカウントを始めると同時にはずれ枚数の数字が1.2.3....と上がっていく。当たるはずが無いと知りながらもはずれ枚数が9までいったところでモニターがパッと真っ黒になった。販売員が焦ったように称号機の中を覗き、「お客様申し訳ありません。機械の中で一枚詰まってしまったようです。少々お待ちください。」と言いゴソゴソし始めた。
案の定、後列の客が「チッ」と舌打ちしてきたが、自分のせいではなかった彰は堂々とした気持ちで販売員の作業を待った。
「大変お待たせしました。詰まっていた一枚が取り出せましたのでもう一度モニターをご覧下さい。」
少しドラマチックな展開に彰は喉をゴクリと鳴らし、同期の沖野が言っていた言葉の意味がこの時初めて理解出来た。

「ただいま表示します。」

モニターを見ると、はずれ枚数10枚数と表示された。

「お客様、残念ですが、全枚数はずれとなりました。またのご利用お待ちしております。」

彰は後列の客のプレッシャーに押されるように窓口を後にした。「宝くじって絶対一枚当たるんじゃなかったっけ?」と歩きながら小言を言ったが、またあの行列に並ぶ体力の無かった彰は帰路についた。


―――
翌々日。

彰には恵実(めぐみ)という大切にしている人がいて、その日彰は自宅で、恵実と行きたいランチのお店をスマホで探していた。
《ランチ  個室》彰はいつものワードで検索をかけオシャレな店を見つけては恵実と一緒に幸せな時間を過ごしていた。
するとスマホが鳴って画面を見て見ると見知らぬ番号だった。彰は仕事の急用かも知れないと思いためらうことなく電話に出た。

「好(こう)さんの携帯電話でお間違いないでしょうか。」

彰のフルネームは好(こう)彰だった。
「はい」と答えながら聞いた事のない声主を記憶の中から照合したが見つかる気配が無かった。

「宝くじ運営管理監の一之瀬です。」

「………。は?」
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