クロノベル ~時の鐘が鳴るとき~

ブンショウ

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第二話 一之瀬の腹

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第二話  一之瀬の腹

「突然のお電話申し訳ありません。ただいまお時間大丈夫でしょうか。」

大丈夫だから電話出てるんだけどなと思いつつも「はい」と答えた。

「私共は宝くじの公平確保と当せん管理をやっている宝くじ運営管理委員会の者です。私、一之瀬は主に不正防止を担当しています。」
淡々と説明するその声は低く落ち着いた声なので最近流行りの詐欺ではないと察すると同時に、彰はすぐに疑問が湧いた。

「あのー。すいません。それよりも、なんで私の電話番号を知ってるんですか?宝くじ買っただけなので電話番号はどこかに書いたりはしてませんけど…。」

「これは大変失礼しました。お伝えが遅くなりました。
年明け5日、好さんは年越しジャンボの当せん確認で売り場窓口に並ばれてますね?」

仕事始めの日の後の新年会だったので5日だったようなという曖昧な記憶だったが、それよりも先の話が気になって仕方がなかった彰は「はい」と食い気味に返答した。

「好さんのすぐ後ろにたまたま並んでいた客がウチの委員会の職員だったんです。」

あの横柄なヤツが?の言葉を飲み込んで「そうなんですね。」と大人の対応をするのも彰は慣れたものだった。

「宝くじの販売・運営など、宝くじに関わる全ての職員は、宝くじを購入する際には購入した宝くじの番号を報告する義務があります。そして、宝くじ売り場には防犯の目的で必ず防犯カメラが設置されています。そのため、好さんのすぐ後ろに居たウチの職員が買った宝くじの番号から称号機の中に入っていた好さんの持っていた宝くじも特定できたんです。」

「なるほど…。それで?」

「カメラ映像から好さんが購入した宝くじは10枚だと分かりました。その10枚を照合機から抜き出して指紋鑑定を警察に依頼したんです。」

「け、警察に?」
彰は何ら悪い事もしていないのに警察というワードを聞いただけで心臓がドクンと鳴った。

「はい。過去に軽犯罪や交通違反などをした際に警察で取らされた拇印(ぼいん)は、ここ4.5年前で全てデータベース化されているので、警察に指紋の照合を依頼すると特定されるケースがあるんです。
好さんは過去に交通違反をしていたようですので、そこで好彰さんだと特定出来たんです。」

「はぁ。」
彰は指定方向外進入禁止の標識を見落としそこでネズミ捕りしていた警察に捕まったのが、悔しすぎて忘れられなかったのですぐに見当がついた。

「警察ってそんな簡単に個人情報を他機関に教えたりしますかね??この情報保護の時代に。」
彰は高ぶる感情を抑えつつ冷静に問いただした。

「警察とウチは特別な協定を結んであるんです。宝くじと犯罪は切っても切れない関係ですから。」

「ま、それは確かにそうでしょうね。でも、私の名前だけでなんで私の番号が分かったんです?」

「SNSです。私共の組織には人探しを専門にしている部署がありまして、そこに頼んだらすぐに好さんの職業が判明しました。そして、好さんには大変申し訳ありませんがその職場に電話して事情を説明して番号を教えて貰ったというのが経緯です。」

「え?職場にはどのように事情を説明したんです?」

「ご心配は要りません。そこは上手く説明しております。」

一之瀬の丁寧な口調と落ち着いた声色が彰を安心させた。

「それでは本題に参りますが、この度私共がなぜ好さんにご連絡差し上げたかをご説明します。」

「あっ!そうですね。お願いします。」
彰は、なぜ自分の番号が知られている事に気を取られて本題を忘れていた。

「年明け5日、好さんが売り場窓口へ並んだ時にいた販売員、変な素振りをしていなかったですか?」

「ん~。変な素振りとかは特段無かったように思うんですが…。強いて言えば、宝くじを機械にセットしてパラパラと数えている時に、販売員のおばさんが機械の中で紙が詰まったって言って少し待ちましたけど…。それくらいですかね。」

「好さん、それです!実は、その販売員が急に行方をくらましたんです!調査したらお客の当たった宝くじを窃盗してお金を受け取ったようなんです。少し前、委員会で把握している販売員の自宅に行ったんですが、既にもぬけの殻でした。もしかしたらもう日本には居ないかも知れません。」一之瀬にはさっきまでの冷静さが少し無くなっていた。

「ん?ん?あの~。という事は、私の持ってた宝くじは当たってたってことですか?」

「残念ながらその通りです。」

最初の、残念ながらがとてつもなく気になったが、それよりも気になった事を彰は真っ先に聞いた。「えっ?いくらですか?」

「1等の1億円です。」

「イチオクエン?」
彰はカタコトの日本語のような喋り方になった。

「はい。いや、それにしてもあの女、紙が詰まったことにして当たった宝くじを奪うとは…。紙が詰まるわけないじゃないですか!だってあの照合機はあの有名一流企業の製品ですよ?」
一之瀬は少しずつ興奮してきた。

いや、知らねーよ。の言葉も飲み込んで
「それで。私の当たった宝くじはどうなるんです??」
彰は通常の喋り方に戻っていた。

「私含め当委員会は、この件の事を好さんとじっくりお話しする必要があると思っています。お電話というのもなんですので、申し訳ありませんが委員会のあるビルまでお越しいただくことは可能でしょうか?」

「ん~。はい。」彰はビルの住所と会う日時、そして印鑑を持参する旨をメモして電話を切った。

2日後、、、、

一之瀬の居るビルは10階建ての大きなオフィスビルで、入口を入ると目の前に総合案内があった。その受付の女性を見た彰は、はっとした。

(ん!?恵実!?マスクしてるから分かんないけど…。目元がそっくりだ。いや、そんな訳ないか…。こんな所に居る訳ない。髪型も違うし…。)

「すいません。今日宝くじ運営管理委員会の一之瀬さんという方と会う約束をしています。」
彰は受付の女性にそう伝えたが、仕事柄こういう総合案内に行くことが無いのでどのように伝えたら良いのか分からず、子供じみていたなと少し恥ずかしくなった。

「5階になります。そちらの右手のエレベーターからお上がりください。」

5階へ着くとオフィス入口の横に宝くじ運営管理委員会と縦書きで書かれた看板があった。この看板を見て委員会が実在したと安心した。オフィス入口に入るとカウンターの向こうにいた事務員の女性と目が合った。

「すいません。今日、一之瀬さんと会う約束をしている好と申します。」

応接室に案内されドアを開けると「チリリン」と喫茶店のような音がドアから鳴った。部屋に入ると一人の男がいた。口は笑っているのに目は笑っていないなんとも作り笑顔っぽい顔でこちらを見ていた。

「一之瀬さんですか?」
彰はたまらず聞いた。

「いえ、私は一之瀬から依頼があって今日ここに来た、タイムキーパーの横山です。」
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