クロノベル ~時の鐘が鳴るとき~

ブンショウ

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第三話 横山の正体

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第三話    横山の正体


彰は右手の甲で眉間のシワを押し潰した。タイムキーパーという、聞いた事がない肩書きを聞いて知らず知らずのうちに眉間に力が入っていたからだ。眉間を隠しながら彰は聞いた。
「今日、一之瀬さんは来られないのですか?」

「それは私にも分かれへんのですわ。本日私は好さんにとある話を提案してくれへんかゆうて一之瀬に頼まれただけです。…。ままっ!好さん!まぁそちらにお座りになってください!」

「はい、失礼します。」
彰は、職業である警察官のニュアンスで、つい応えてしまった。重厚感のある本革のソファーに腰掛け、座った時のお尻の感触が高級品であることを感じさせた。ふと見ると目の前には彰と横山のコーヒーが既に用意されていた。

「今日はこちらまでお越しになっていただいてありがとうございますぅ。この場所までは迷わんと来られましたか?」

「はい。昨年度までの所属の近くだったので。」
2~3年おきに異動のある警察官は県内の様々な部署に異動する。そのため、その度にその土地に精通するので彰は県内に知らない場所は無かった。

「それは、良かったですわ。私はこの広島ゆうところは来たことあらへんのですわ。初めて路面電車に乗らしてもらいましたわ。あっ!コーヒー飲んでくださいね!」

彰はぬるくなったコーヒーを飲みながら聞いた。
「それで、、一之瀬さんの言ってた提案というのは一体何なんですか?」

「早速本題来ましたね!……。
単刀直入に言いますとね、あなたの当てた1億円はもう返ってきません!」

「えっ!?」彰は前のめりになった。

「販売員の女が奪った1億円、もうどこに行ったか分からんらしいですわ。とゆうか、女が海外に逃亡して居場所が分からんくなってしもうた、というのが正確な状況やと一之瀬が言うてました。」
横山はまるで他人事のように言い放った。

「それなら国際指名手配でも掛けてくださいよっ!!!それでなくても警察と協会は特別な協定を結んでいるはずですから!こういった事件があればすぐ警察と連携して捜査をできるはずですよねっ!インターポールに依頼して海外を捜索してもらえばいいんじゃないですかっ!?」彰は興奮して、喋りながらジェスチャーしだした。

「警察の仕組みは私もよく分かりませんがね、一之瀬が言うにはあの女は聞いたこともない国に逃亡したんじゃないか言うてましたわ。」

「うーん。んー。」
彰は警察学校の時の記憶を辿り、インターポールには非加盟国があるのを思い出した。非加盟国に逃亡されたらさすがのインターポールでも捜索は難しいことは警察官の彰は承知していた。

「悪知恵の働く女ですわ。」

「でも!私が当てた1億円ですから!委員会が補てんしてくれればいいんじゃないですか?」

「そこで今回、タイムキーパーの私が呼ばれたゆうことですわ好さん。」横山は少し自慢気な表情をした。

「??。
さっきから気になってたんですが、タイムキーパーって何なんです?この話し合い時間の管理ってことですか?」

「わっはっは」
横山は典型的な笑い方で笑ったが、すぐ真剣な顔つきになった。
「そんなかわいいもんじゃありませんよ好さん!私はひとりひとりの人生の時間を管理しとるんですわ。厳密に言えば時空の管理ですわ
!」

「わっはっは!」
彰にも典型的な笑いが伝染した。

「自分で言うのも何ですが、私は時空界で有名な時空管理士なんですよ?」横山の自慢気な表情が一段と増した。

「ああ、そうですか。。」
彰はくだらない話だとタカをくくって、目も合わせずに生返事した。

「好さん、私の話信じてへんと違いますか?」
横山の顔が得意気な表情に変化した。

「そりゃそうでしょ!こんな話、信じる方がオカシイでしょ!!」
1億円が返ってこないと言われた事と、横山の途方もない話に彰は苛立ちを隠せなかった。

「じゃあ、聞きますがね好さん。あなたの当たった宝くじを奪った女は、あなたが買った10枚の宝くじの中から当選券を照合機の中から奪ったと一之瀬から聞いていますが、間違いないですね?」
横山は探偵っぽい喋り方に変化していた。

「そうですけどぉ?」
何か問題でもぉ?を付け足そうかと思ったが辛うじて理性が働いた。

「モニターでその女、当選券一枚を照合機の中から一体どうやって見つけ出したと思ってます?」
横山探偵はいよいよ核心に迫ってきた。

「そりゃあ、当選番号を把握してたんでしょ!販売員なんですから!1等の番号くらい覚えられますよ!私がその女に宝くじを手渡した時に、10枚の中の1番上にある番号を見て、この中に1等があると分かったんでしょうよ!ほんで、照合機がちょうど当選番号になるタイミングを狙って、当選券の一枚をカウントする直前で照合機をストップさせたんですよ!それしか考えられません!!」

「好さん、あなた大切なこと忘れてますよ?」横山探偵は冷静に諭した。

「あぁん!?」
彰の感情はかなり高ぶっていた。

「好さん、あなたが買った宝くじはバラですよ。」
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