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2章
甘い夜と辛い朝
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奏の少し骨ばった大きな手が優しく私を撫でる。舌が全身を這う。
気持ち良くて、触れられることが嬉しくて嬌声が止められない。
付き合いはじめてまだ二日なのに、どんどん奏に染められていく。
初めて結ばれた男性だからだろうか。
伝わる甘い熱。
互いの境界が曖昧になって、ひとつに溶け合っていく。
「かな……でぇ」
「実梨」
背中に両手を回して名前を呼ぶ。奏は妖艶な声で密やかに耳元で名前を呼び返してくれる。
愛してると言われているように思えた。
求められて心が満たされる。
「みの、り……っ!」
最奥を突き上げた奏が果てたのと同時に、私も絶頂に達していた。
奏の部屋で、彼の腕の中で眠る。こんなに誰かの体温が心地よいなんて知らなかった。
❁❁❁❁❁❁❁❁
奏のおかげでかなり心が軽くなった状態で出勤できたのだけど。
朝一番に仕事用の携帯を見ると、新婦予定の大貫さんからかなりの数の着信があった。その影に隠れて、新郎予定の池澤さんからの着信も一件。
業務時間外は繋がらないと伝えていたのだけど、大貫さんがイライラしながらかけていたのかもしれないと思うと申し訳ない。他に話せる人もいなかったのだろう。
メールチェックすると、大貫さんから悲痛な叫びが届いていた。
要約すると急に池澤さんが別人のようになってしまった、ということだった。
メールを前に、思わず口角が下がってしまう。
一人で判断せず上司に相談しようと思った。梅原係長のデスクを見る。何やらパソコンで業務をしている。
邪魔になるかもしれないと一瞬迷ったけれど、ここで私一人で抱え込んで後々問題になる方が大変だ。
この様子だと最悪キャンセルもあり得る。
「係長、お時間よろしいですか?」
傍らに立つと係長は手を止めてこちらを見上げた。
思わず胸が高鳴る。今は仕事中だと自分に言い聞かせた。
「構わないが、昨日の件の続きか?」
係長はちっとも動揺する様子がない。ちょっと悔しい。
「はい」
平静を装って返事をした。係長は小さくため息をつく。
「一晩で悪い方向へ進んでいる様子か?」
「残念ながら……」
私もため息をついて肩を落とした。
「次の打ち合わせはいつだ?」
「日曜の十四時です」
前回が前回だったので、早めに打ち合わせを設定していた。それでも一週間ある。
係長はスマホの予定表を開いた。なんとなく私も覗いてしまう。
次の日曜日は一日予定がぎっしり詰まっていた。とてもじゃないけれど、私のフォローをしている余裕はなさそうだ。
「……坂本さんは担当の式があるしな」
他の二係のメンバー、私の同期の稲垣さんや後輩の東雲さんでは、多分私と同じように狼狽えてしまうと思う。一人で何とかするしかないと腹をくくる。
「二人とも難しい顔して、どうしたの?」
原田課長がひょっこりと現れた。これはありがたいと私は課長へ向き直る。
「原田課長、昨日お話した件ですが」
「あら、一晩で何かあった?」
「すごい数の着信と、大貫さんからの悲痛なメールが届いてました」
「あらあら、それはまずい展開ね」
口ではそう言っているけれど、課長からはあまり危機感を感じない。
だけど急にキリッとした上司の顔になった。
「是枝さん、あなたがその負のスパイラルに飲み込まれちゃだめよ。こちらは仕事。式がキャンセルになったり、お二人が破談したとしても、そこだけは忘れないで」
気持ち良くて、触れられることが嬉しくて嬌声が止められない。
付き合いはじめてまだ二日なのに、どんどん奏に染められていく。
初めて結ばれた男性だからだろうか。
伝わる甘い熱。
互いの境界が曖昧になって、ひとつに溶け合っていく。
「かな……でぇ」
「実梨」
背中に両手を回して名前を呼ぶ。奏は妖艶な声で密やかに耳元で名前を呼び返してくれる。
愛してると言われているように思えた。
求められて心が満たされる。
「みの、り……っ!」
最奥を突き上げた奏が果てたのと同時に、私も絶頂に達していた。
奏の部屋で、彼の腕の中で眠る。こんなに誰かの体温が心地よいなんて知らなかった。
❁❁❁❁❁❁❁❁
奏のおかげでかなり心が軽くなった状態で出勤できたのだけど。
朝一番に仕事用の携帯を見ると、新婦予定の大貫さんからかなりの数の着信があった。その影に隠れて、新郎予定の池澤さんからの着信も一件。
業務時間外は繋がらないと伝えていたのだけど、大貫さんがイライラしながらかけていたのかもしれないと思うと申し訳ない。他に話せる人もいなかったのだろう。
メールチェックすると、大貫さんから悲痛な叫びが届いていた。
要約すると急に池澤さんが別人のようになってしまった、ということだった。
メールを前に、思わず口角が下がってしまう。
一人で判断せず上司に相談しようと思った。梅原係長のデスクを見る。何やらパソコンで業務をしている。
邪魔になるかもしれないと一瞬迷ったけれど、ここで私一人で抱え込んで後々問題になる方が大変だ。
この様子だと最悪キャンセルもあり得る。
「係長、お時間よろしいですか?」
傍らに立つと係長は手を止めてこちらを見上げた。
思わず胸が高鳴る。今は仕事中だと自分に言い聞かせた。
「構わないが、昨日の件の続きか?」
係長はちっとも動揺する様子がない。ちょっと悔しい。
「はい」
平静を装って返事をした。係長は小さくため息をつく。
「一晩で悪い方向へ進んでいる様子か?」
「残念ながら……」
私もため息をついて肩を落とした。
「次の打ち合わせはいつだ?」
「日曜の十四時です」
前回が前回だったので、早めに打ち合わせを設定していた。それでも一週間ある。
係長はスマホの予定表を開いた。なんとなく私も覗いてしまう。
次の日曜日は一日予定がぎっしり詰まっていた。とてもじゃないけれど、私のフォローをしている余裕はなさそうだ。
「……坂本さんは担当の式があるしな」
他の二係のメンバー、私の同期の稲垣さんや後輩の東雲さんでは、多分私と同じように狼狽えてしまうと思う。一人で何とかするしかないと腹をくくる。
「二人とも難しい顔して、どうしたの?」
原田課長がひょっこりと現れた。これはありがたいと私は課長へ向き直る。
「原田課長、昨日お話した件ですが」
「あら、一晩で何かあった?」
「すごい数の着信と、大貫さんからの悲痛なメールが届いてました」
「あらあら、それはまずい展開ね」
口ではそう言っているけれど、課長からはあまり危機感を感じない。
だけど急にキリッとした上司の顔になった。
「是枝さん、あなたがその負のスパイラルに飲み込まれちゃだめよ。こちらは仕事。式がキャンセルになったり、お二人が破談したとしても、そこだけは忘れないで」
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