祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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4章

恋の棘 6

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 誠史郎さんは深くため息を吐いて、天井を仰いだ。

「……八千代さんは、知り合ったとき既に病で余命幾ばくもありませんでした。彼は彼女の命が尽きるまで穏やかに共に過ごせれば良かった。……ですが、死なせてほしいと頼まれました」

「それで……」

 裕翔くんも全てを言葉にするのははばかられたみたいで、最後まで言わずに口籠った。

 誠史郎さんが再び大きく息を吐く。

「こんな話をするつもりはなかったのですが……」

 八千代さんは僅かな可能性にかけたのだと思う。吸血種になれば、レイさんとずっと一緒にいられる。だけどその願いは叶わなかった。

 それは私の想像だけど、胸が苦しくなる。

「どうしてそれが憎悪に繋がるんだろう?」

 裕翔くんが言葉にした疑問に戸惑ってしまう。私は露ほども疑問に感じなかった。

「殺してくれなんて願いは……」

 眞澄くんの言葉を遮るように裕翔くんは自分の髪をぐしゃぐしゃにする。

「うん、そうだとは思うけどさ。だけど、上手く言えないけど何か違う感じが……」

 ふと気がつくと、私が手を握ったままだった八千代さんが目を瞠っていた。

「もちろん、吸血種になれる可能性にかけたっていうのはわかるし、病気で辛かったっていうのもわかるけど」

「レイを、縛りたかった」

 八千代さんが無感情に呟く。その顔を見上げると、彼女は困惑していた。

「私は……彼を、私だけのものにしたかった……。吸血種になるつもりなんてなかった。私を死なせれば、彼はずっと私を忘れない。もしかしたら、私の後を追ってくれるかもしれないと思って……だけど……」

「玲は貴女の後を追いました」
「だけど、貴方は」

「何度も申し上げているように、私は西山誠史郎という別人です。玲は貴女が亡くなって、失意の中……」

 唇を結んだ誠史郎さんは、視線を落とすと眼鏡のブリッジに指先をかけて位置を調整する。

 八千代さんの手は微かに震えていた。

 レイさんの消せないきずになって、ずっと八千代さんだけのものにしたいというのは、確かに歪んだ愛情かもしれない。だけど。

「レイさんが大好きだったんですよね?ひとりで死んでしまうのが、怖かっただけですよね?」

 そうであってほしいと思ったけれど、彼女はそれを否定するために首を振る。

「違うの。たったひと月だったけど、レイといられて幸せだった。だから私は彼の幸せを願えなかった……。私だけを想い続けて、嘆き続けてもらいたかった。ずっと私だけの恋人でいてほしかった」

 死を目の前に、身体の衰弱と共に心も弱ってしまっていたのだと思う。

 私は何も言えなくて唇を噛んだ。もし同じ立場になったとき、八千代さんと同じような思いを抱かないとは限らない。

「……優しい子ね」

 ずっと冷たい光を放っていた八千代さんの瞳が、優しく細められた。そんなことない、と私はぶんぶんと何度も首を横に振る。

「私は全て、自分で穢してしまったの。彼への想いも、美しい思い出も、自分自身さえも」
「……そんなこと……!」

 いつの間にかインキュバスに力を注がれた彼女ではない、本当の八千代さんがそこにいた。

「そんなこと言わないでください! レイさんだって、悲しみます……」

 彼女の手を強く両手で握る。涙が一筋、勝手に零れ落ちた。
 きっと八千代さんの想いが私に流れ込んだのだと思う。

 偶然遺されたのが負の感情だっただけで、本当の八千代さんはきっと優しい女性だ。そうに決まっている。

「玲は、貴女を愛していました」

 誠史郎さんの冴えた声が八千代さんを射ぬく。
 八千代さんははっとしたように誠史郎さんに振り向いた。

「あなたがインキュバスに何を吹き込まれたのかは存じ上げませんが、玲は貴女を誰よりも大切に想っていました」
「……この子に会うまでは?」

 八千代さんは静謐せいひつな下弦の月のように寂しげに微笑んだ。

「玲はみさきさんに会ったことはありませんし、彼がみさきさんに惹かれることはなかったでしょう」
「……そう」

「そうですよ」

 誠史郎さんも寂しげに微笑んだ。ふたりは少し似ているように見えた。

「……行くわ」

 そう呟いた彼女は裕翔くんに優しく笑った。

「貴方のお蔭ね」

 当の裕翔くんはきょとんとした淡褐色の大きな瞳で八千代さんを見ている。

「オレ、何かした?」

 眞澄くんが破顔して、首を傾げた裕翔くんが自らかき乱したままになっていた髪をさらにかき回した。
 ふたりの様子を淳くんが穏やかに微笑んで見つめている。

 レイさんへの執着の理由を思い出せて、誠史郎さんがレイさんのことを少し話してくれたことで八千代さんは納得できたように見えた。

 淳くんが結界を解くと、八千代さんの残留思念は小さな星屑の集合体のようになった。淡く輝きながら空へ昇って行く。


「……さようなら」

 誠史郎さんの唇は確かにそう動いた。
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