祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
36 / 145
5章

愛の病 3

しおりを挟む
 恋愛相談と言うのは、誰にすれば良いのだろう。

 まず高校の友達を思い浮かべたけれど、何かの拍子に関係のない人の耳に入って学校の中で噂になったら、淳くんや眞澄くん絡みのことなので大変な事態になるのは目に見えているのでできない。

 次に考えたのは、みやびちゃん。だけどみやびちゃんは猫だし、淳くん贔屓だから候補から外した。

 それからイズミさん。だけどイズミさんは眞澄くんが大のお気に入りだと聞いた。私が同じ立場なら、そんな話は聞きたくないと思うから言えない。

 珠緒さんは夜しか会えないから、家を私ひとりで出られない。ここに来てもらって話を聞いてもらうのは気が引ける。

 お母さんに話すのは恥ずかしいし、お父さんは泣きそうだし、お祖父ちゃんはフワッとしたことしか言ってくれなかったし。

 インターネットの掲示板とかは犯罪に巻き込まれたりしそうで怖い。どういうものと繋がっているかわからないから危険だ。あの空間は良くないモノも多い。

 お風呂に入ってパジャマに着替えた私は、大きなため息をついた。
 他に誰もいなくなったリビングのソファーの上で膝を抱える。何となく自室より、広い場所にいたかった。

 自分のことは自分で悩んで何とかするしかない。だけど誰かに聞いてもらいたい気持ちもある。

 夜の静寂に私の呼吸音が溶けるみたいだ。

  みんなそれぞれの部屋でもう眠ってしまったのか、とても静かだ。

 ふと私の脳裏にひとりの男性が思い浮かんだ。

  優しそうだったし、話を聞いてくれそうな気がした。でも居場所もわからない上に、一度会ったことがあるだけ。透さんのお兄さんだし。

  もしかしたら敵対してしまうかもしれない人だ。

「はあああぁ……」

 ひとりきりなのでつい油断して、膝に額をつけて声を出してしまった。

「みさき、悩み事?」

 頭の上に降ってきた声に私は驚いて顔を上げる。

「裕翔くん……!」

 恥ずかしいところを見られてしまった。おろおろしていると、ペットボトルを片手に持ったお風呂上がりの裕翔くんがどさりと身体を投げ出すように隣に座った。

「珍しいね。こんな時間にここにいるの」

 そう言われて時計を見て、もう少しで日付が変わろうという時間になっていたことに気づく。

 少し首を傾けて裕翔くんは私を覗き込む。大きな双眸は吸い込まれそうに澄んでいて、珠緒さんがいた時のことを思い出してしまった。

 とても照れくさくなって視線を逸らしてしまう。

「裕翔くんだって」

 裕翔くんを直視できなくて、膝を抱えていた自分の指先を見ていた。頬が熱い。

「みさきがいたからさ」

 スポーツドリンクを一口飲んだ気配のする裕翔くんの方向へ、ゆっくり首を動かしてしまう。

 目が合うとテーブルにペットボトルを置いた彼に手首を掴まれた。そのまま引っ張られた私はバランスを崩して膝枕されるような体勢になってしまう。

「ちゃんとこっち見て」

 顔を上げると少し翳った小悪魔のような微笑みが浮かんでいる。

 確かに私は最近、変な意識ばかりしてしまってちゃんとみんなの顔を見られていなかったかもしれない。

「……そんなにじっと見られるのも恥ずかしいけど」
「えっ、あ、ごめんね」

 パッと裕翔くんから離れて、彼の横顔が正面になる角度でソファーの座面に正座する。

 裕翔くんも同じようにソファーの上で正座をして私と向かい合った。そしていつものニコッとした人懐こい笑みを見せてくれる。

 肩の力がふっと抜けたような気がした。気持ちが楽になると自然に口角が上がった。

 改めて裕翔くんの顔を見て、ふと思い出したことがあった。

「そういえば、さっき何を言いかけてたの?」
「さっき?」
「透さんに連れて行かれちゃう前……」

 ああ、とポンと掌を打った裕翔くんはまたあどけない少年から打って変わって妖艶な微笑を唇の端に載せて私の右手を取る。ころころと変わる表情は猫の目のようだ。

「オレを頼ってほしいなって。オレはみさきの1番になりたい」

 中指の第2関節辺りに裕翔くんの唇がそっと触れた。

「オレたち出会ってからまだ日が浅いけど、好きって気持ちはそういうのカンケーないって思う。みさきといるとさ、心がぽかぽかして、なんかすごい楽しいんだ」

 大きな瞳が上目遣いでこちらを真剣に見つめている。私は呼吸が上手くできなくなるような気がした。

「好きだよ。オレはみさきの1番近くにいたい」

 裕翔くんの言葉はどこまでも真っ直ぐに突き進む。

「みさきにもそう想ってもらえるようにがんばるから、見ててね」

 凝視されて戸惑いながら頷くと、満面の笑みを浮かべた裕翔くんのキスが同じところに落ちてきた。

「約束だよ。じゃ、おやすみ」

 白い歯を見せて裕翔くんは爽やかに去っていく。
 私も今日はもう寝て、起きたらしっかり顔を上げてみんなと向き合おうと思った。




 †††††††




 誰もいない深夜の研究室で翡翠の状態のチェックを行いながら理沙子は迷っていた。

 武藤眞澄の身体を手に入れたい。彼女の独断でそれを実行して良いものだろうか。実行するとして、その手段はどうすれば良いのだろう。社長の耳にいれるべきか。

 翡翠が独断で動き回ってくれたのは幸運だった。白の眷属となった吸血種と対で産まれたと互いに言っている者の身体が手に入った。欲を言えば水谷淳と名乗る、琥珀と呼ばれていた白の眷属もここへ連れて来られると研究が捗る。

 社長もあれほど傍にいるのだから、黙って眺めていないで研究への協力を申し出てみればよいのにと思わなくもない。しかし言わないのは彼なりに何か考えがあるのだろう。

 吸血種は伝承の生物とされているが、ごく少数ではあるけれども全世界に確かに存在する。

 彼らがいつ頃、どのように産まれたのかはわかっていない。純血種と呼ばれる生まれながらの吸血種は、人間のように母体から産まれるのかさえ定かではない。過去に何体か被験者として扱ったが、誰も自身の出自をわかっていなかった。

 この国では、吸血種はいくつかの勢力が存在する。

 翡翠の属する人間とは敵対しようという思想の集団。真堂周によって作り出された人間との共存を選んだ組織。
 紫綺や理沙子のようにどこにも与せず生きている者もいる。純血種も、元は人間だった者もいる。

 吸血種に血を吸われ、人間から吸血種に変化できる条件はわかっていない。白の眷属になれる条件も然りだ。

 理沙子のいる会社は表向きは遺伝子研究をしていることになっているが、実は吸血種にまつわることを専門に研究している。知る人ぞ知る研究室だが、スポンサーは大口が多い。

 中には吸血種を暗殺者として期待しているところもある。理沙子のように自制心を持った吸血種を支配下に置くことができれば確かに有能な刺客だろう。

  人間と同じ姿をした生き血を啜るものは、物語の中にしか存在しないという常識が何よりの彼らの強みで、ヒトにはない能力をいろいろ有している。

 だが彼女のようになるには時間も労力も必要だ。何より、吸血種に変化できる人間が圧倒的に少ない。1度死んで吸血種として甦るための素地の謎を解明できていない。

 ひょっとすると、永遠に解けないエニグマの可能性もある。生まれながらの吸血種は人間に従うことを厭う者が多い。

 社長はそういった悪意や悪用はわかった上で研究している。彼自身が白の血の持ち主であることも関係しているのかもしれない。

 今、社長が欲しているモノは何か。それを的確に読み取る能力は誰にも負けないと理沙子は自負している。

 確実に彼の眷属となれるのならば、今すぐにでも血を飲み干したい。そしてこの身を研究材料として差し出す覚悟もあった。そのためにも武藤眞澄の遺伝子を調べたい。

 そこで理沙子はふと気づいた。投げ出したはずの命にとても執着している。何も見返りはいらないと思っていたつもりが、やはり社長の傍らにいたい。彼の役に立つ存在だと認識されたい。

 吸血種となってまでこの感情に振り回されるとは。整った翡翠の寝顔を見ながら理沙子は舌打ちをしたい気分になった。

 本当に愛情というのは厄介だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...