祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
38 / 145
5章

愛の病 5

しおりを挟む
 透さんはソファーに腰かけると長い足を組む。

「念のためなんやけど、俺が除霊してる間、狙われてるひとらの護衛を頼みたいねん」

「そんなにヤバいやつなのか?」
「怨霊と生き霊のハイブリッド、とでも言うたらええんかな。突然分離でもされたら厄介や」

 のんびり語る透さんからそれほど緊迫感は感じないけれど、大変な仕事だと言うことわかる。
 それでもこの平常心を保てると言うのは、透さんはこれまでどれだけの危険な仕事をこなしてきたのだろう。

「センセは相手したことある?」

 透さんはふたり分のコーヒーを淹れて運んできてくれた誠史郎さんに尋ねる。

「怨霊も生き霊もありますが、それが混ざったものとなると残念ながら」

 僅かに首を横に振る。すると透さんは残念そうに大きく息を吐いた。

「そうか。俺も初めてなんや。生き霊だけでも説得できへんかなーと思たんやけど……もう全然話が通じん状態やった。みさきちゃんのおじーちゃんは、あんな疲れることよう頑張れるわ」
「周は特別ですよ」

 誠史郎さんは小さく微笑んで先刻まで座っていた位置に戻る。


 怨霊は娘さんで、生き霊はその方のお母さんだそうだ。
 娘さんはいろいろあって引きこもりになっていて、時間をかけて少しずつ外に出られるようになった時に、近所のコンビニエンスストアの優しい男性店員さんに恋をしたそう。

  だけどバイトの大学生だった彼には同じ大学に恋人がいて、娘さんは偶然お店の近くでふたりが仲睦まじく歩く姿を目撃。何も言えないまま娘さんの秘めた想いは儚く散った。

 そこから前向きに進むことができれば良かったのだけど、娘さんは報われなかった想いの昇華のために、図書館やインターネットで調べた方法で彼の恋人へ呪詛を送り始めた。

 幸か不幸か、引用した書物に間違った形式のものが掲載されていたり、娘さんに素養がなかったようでそれは成就しなかった。

 だけど行き過ぎた呪術の使用が周囲の良くないものを呼び起こし、引き寄せてしまったみたい。

 表向きは原因不明の病気と言うことになっているけれど、娘さんは命を落とし怨霊となった。

 その後、毎日のように怨み辛みを聞いていたお母さんが、娘さんが苦しんで亡くなったのは店員さんとその恋人のせいだと憎しみを抱くようになったらしい。

 お母さんには霊能力があったようで、娘さんの怨霊に自身の生き霊を融合、透さんのいうところのハイブリッドを生み出し大学生さんたちの日常の侵食を始めたそう。

 大学生の男性とその恋人さんはポルターガイストや金縛り、夜中にふと目が覚めると窓の外に無数の黒い影がいて中へ入り込もうとしていたりと、ずいぶん怖い思いをしたそうだ。

 偶然、店員さんの友人にオカルト好きの人がいて、その人の知り合いのセミプロのような人がとりあえずの対策を立ててくれた。
 そのため大事には至らなかったけれど、まだ霊障は続いているらしい。

 ひとを呪わば穴ふたつ。
 私たちのように除霊や浄霊、悪魔祓いなどを生業としている者達もそういった能力を使うけれど、プロはきちんと自分に跳ね返ってくるものを受け流すすべをそれぞれに持っている。
 我が家に張られている結界もそのひとつ。

 そんな術を知らないお母さんは、全てをその身で引き受けている。
 今では精神に異状をきたしているそうで、透さんが退けても元に戻れる可能性は低いみたい。

「半日で良くそこまで調べられたな」
「まさか。いろんな人の英断のおかげで、俺にお鉢が回ってきただけや」

 感心していた眞澄くんに透さんはニヒルに笑って見せる。

「あんまり悠長なことも言うてられへん状態やねん。そっちの流儀とは違うから、手伝い頼んで申し訳ないけど、明日の夕方から、いける?」
「学校終わってからで良いのか?」
「それはもちろん」

 みんなの打ち合わせを聞いていたはずが、私はいつの間にかひとりの思考に沈んでしまっていた。

 悪霊と生霊になってしまった親子に何があったのかはわからないけれど、ひとつ歯車が狂ってしまうとそこから転げ落ちるように闇の中へ入り込んでしまうことは往々にしてあると思う。

 私はまだ目の当たりにしたことはないけれど、両親やみんなの様子を見ていて、人間の暗い部分に触れてしまうことの多い仕事なのだと感じていた。

 そしてそれに引きずられかけたとしても、きちんと戻ってこられる強靭な精神が必要だということも。

「何考えてるん?」

 その声にはっとして顔を上げると、覗き込んでくる透さんの秀麗な面があった。ちょっとどきりとしてしまったけれど、落ち着いて透さんの目を見る。

「あの、私も行かせてください。もちろん、お仕事の邪魔はしません」
「……最初から力押しやで?」

 私は緊張にきつく拳を握って、覚悟を決めて深く頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

処理中です...