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裕翔ルート 1章
時間と密度と距離の関係 2
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並んで歩く公園からの帰り道。
家のすぐそばだったけど周囲には誰もいなくなったから、さっきのことを裕翔くんに確かめてみようと思った。
「裕翔くん、さっきのことだけど……」
己を鼓舞しようとすると、自然に握りこぶしができていた。
「さっき?」
立ち止まると、彼はかわいらしく首を傾げて私を見る。
「バスケして、転んだ時なんだけど……その……」
くりくりとした大きな瞳に真っ直ぐ見つめられると、恥ずかしくて言い出しづらい。
「……ええと」
「ちゅーしたかってこと?」
包み隠さずに言われてしまい、返答に詰まってしまう。
裕翔くんは双眸を細めて、突然オトナの男性みたいな色香を漂わせた。
それにもだけど、私の言いたいことがわかっていたことにもびっくりする。
「みさきはどう思う?」
いたずらっぽく微笑む彼の指先が私の耳朶に触れる。
「え……。ええと……」
ストレートに聞かれて視線が泳ぐ。全身の血液が顔に集まってきたように感じる。耳殻をくすぐるように弄ばれて身を捩ってしまう。
「オレはしちゃったかなーって思ったけど、中途半端はやだよね」
さっきまで一緒にバスケットボールをしてはしゃいでいた裕翔くんとは別の人みたいだ。
整った面が近くなったと思った次の瞬間に、私たちの距離はなくなっていた。
「好きだよ、みさき」
唇が離れると耳元で彼はそう囁いた。呆然としている私に、優しく頬を撫でながら微笑みかけてくれる。
「いつも言い過ぎて本気にしてなかった?」
「そ、そんなことないけど……」
「好きだよ」
今度はおでこにキスされる。思わずひゃっ、と声を上げて肩をすくめてしまうと裕翔くんに悪魔の角としっぽが生えたように見えた。
「みさき、かわいい」
瞼、頬と裕翔くんの唇が軽く触れる。
「誰か来ちゃ……」
言い終える前に唇をキスで塞がれた。頭の芯が痺れたみたいに何も考えられなくなって、甘い吐息がこぼれてしまう。
「今はこれぐらいにしておくね」
私の耳たぶを裕翔くんが甘噛みした。
薄く艶やかに破顔して、裕翔くんはするりと離れていく。
もう一度向かい合った時には、私の良く知っている子犬のように無邪気な少年がそこにいた。
「みさきはオレのこと好き?」
お日さまみたいな明るい笑顔。ちょっと照れてしまうけれど、こくりと頷いた。頬が熱い。
「アリガト」
裕翔くんはかわいらしい満面の笑みを浮かべる。
「晩ごはん何かなー?」
青年と少年の間の彼は、照れ隠しのように回れ右をすると指を絡めて手を繋ぐ。弾むような足取りで家へ向かって歩き始める。私はぼんやりとしたまま引っ張られた。
ころころ変化する裕翔くんは、今どんな表情をしているのだろう。
触れ合った体温に、心臓が高鳴っているのが私だけじゃないと良いなと思った。
T字路を曲がると、直線上にある我が家の前にすらりと立つ青年がいた。裕翔くんはネコが獲物を見つけたみたいな反応をする。
「ハルカだー!」
嬉しそうに笑って繋いだ手を離す。跳ねるように遥さんに駆け寄った。
「シキは?」
裕翔くんは遥さんの隣に並ぶとキョロキョロ辺りを見回す。
「まだ明るいからね」
苦笑してから遥さんが空を仰ぐ。夕方だけど、まだ太陽が優勢だった。すっかり日が長くなっている。
「残念。勝負したかったのに」
「何かご用ですか?」
「みさきちゃんが元気そうだから問題ないよ」
問いに対する答えになっていないけれど、遥さんの笑顔はそれ以上の追及を許さない何かがあるの。
「……お隣は亘理さんのお宅だったんだね」
「遥さんもご存知なかったですか?」
「友達ではないからね。いつ頃からここに住んでいるかわかるかい?」
遥さんに聞かれて、私は記憶を辿る。
「多分……両親が仕事でいなくなってすぐぐらいだった気がします」
「そうなんだ。ありがとう」
少し考えるように形のよい顎に手を当てていた。
「ハルカはヒスイの居場所は知ってる?」
「残念ながら」
遥さんは困ったように曖昧に微笑む。
「ヒスイを捕まえたのはハルカでしょ?」
「人間に害をなす恐れのある吸血種が徘徊しているのは困るからね。依頼があれば排除するのが仕事だから」
そういう名目で翡翠くんを捕らえるように亘理さんの会社に依頼されたのだと思う。
だけど遥さんの言うことは間違っていない。私たちはそういう仕事をしている。
「ハルカってすごく強いの? トールとどっちが強い?」
裕翔くんの目がキラキラしている。
「どうだろう……? 多分、透に負けはしないと思うよ」
にっこり破顔した遥さんだけど隙がない。ゆっくり開いた双眸にスッと冷たい光が通りすぎた気がした。
「もちろん、裕翔くんにも」
「おっ、いいねー。今度オレと勝負してよ」
ぴょんぴょん跳ねながら裕翔くんは遥さんに迫った。大きな瞳は好戦的に輝いている。
「機会があればね」
そんな機会はない方が良いと私は思う。
「透さん、いらっしゃると思いますけど」
「ありがとう。本当にみさきちゃんの顔を見にきただけだから。今度は紫綺も連れてくるよ」
「みさきはオレのだから! 渡さないからね!」
唇を尖らせた裕翔くんに横からぎゅっと抱きつかれる。私は恥ずかしいような嬉しいような、あわあわしてしまう。
遥さんは一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「若いふたりの邪魔なんてしないよ」
その言葉で、裕翔くんは固まってしまう。
「……オレ、本当に若いのかな?」
私たちに向けた言葉なのか、裕翔くんのひとりごとなのか、判断がつかなかった。
家のすぐそばだったけど周囲には誰もいなくなったから、さっきのことを裕翔くんに確かめてみようと思った。
「裕翔くん、さっきのことだけど……」
己を鼓舞しようとすると、自然に握りこぶしができていた。
「さっき?」
立ち止まると、彼はかわいらしく首を傾げて私を見る。
「バスケして、転んだ時なんだけど……その……」
くりくりとした大きな瞳に真っ直ぐ見つめられると、恥ずかしくて言い出しづらい。
「……ええと」
「ちゅーしたかってこと?」
包み隠さずに言われてしまい、返答に詰まってしまう。
裕翔くんは双眸を細めて、突然オトナの男性みたいな色香を漂わせた。
それにもだけど、私の言いたいことがわかっていたことにもびっくりする。
「みさきはどう思う?」
いたずらっぽく微笑む彼の指先が私の耳朶に触れる。
「え……。ええと……」
ストレートに聞かれて視線が泳ぐ。全身の血液が顔に集まってきたように感じる。耳殻をくすぐるように弄ばれて身を捩ってしまう。
「オレはしちゃったかなーって思ったけど、中途半端はやだよね」
さっきまで一緒にバスケットボールをしてはしゃいでいた裕翔くんとは別の人みたいだ。
整った面が近くなったと思った次の瞬間に、私たちの距離はなくなっていた。
「好きだよ、みさき」
唇が離れると耳元で彼はそう囁いた。呆然としている私に、優しく頬を撫でながら微笑みかけてくれる。
「いつも言い過ぎて本気にしてなかった?」
「そ、そんなことないけど……」
「好きだよ」
今度はおでこにキスされる。思わずひゃっ、と声を上げて肩をすくめてしまうと裕翔くんに悪魔の角としっぽが生えたように見えた。
「みさき、かわいい」
瞼、頬と裕翔くんの唇が軽く触れる。
「誰か来ちゃ……」
言い終える前に唇をキスで塞がれた。頭の芯が痺れたみたいに何も考えられなくなって、甘い吐息がこぼれてしまう。
「今はこれぐらいにしておくね」
私の耳たぶを裕翔くんが甘噛みした。
薄く艶やかに破顔して、裕翔くんはするりと離れていく。
もう一度向かい合った時には、私の良く知っている子犬のように無邪気な少年がそこにいた。
「みさきはオレのこと好き?」
お日さまみたいな明るい笑顔。ちょっと照れてしまうけれど、こくりと頷いた。頬が熱い。
「アリガト」
裕翔くんはかわいらしい満面の笑みを浮かべる。
「晩ごはん何かなー?」
青年と少年の間の彼は、照れ隠しのように回れ右をすると指を絡めて手を繋ぐ。弾むような足取りで家へ向かって歩き始める。私はぼんやりとしたまま引っ張られた。
ころころ変化する裕翔くんは、今どんな表情をしているのだろう。
触れ合った体温に、心臓が高鳴っているのが私だけじゃないと良いなと思った。
T字路を曲がると、直線上にある我が家の前にすらりと立つ青年がいた。裕翔くんはネコが獲物を見つけたみたいな反応をする。
「ハルカだー!」
嬉しそうに笑って繋いだ手を離す。跳ねるように遥さんに駆け寄った。
「シキは?」
裕翔くんは遥さんの隣に並ぶとキョロキョロ辺りを見回す。
「まだ明るいからね」
苦笑してから遥さんが空を仰ぐ。夕方だけど、まだ太陽が優勢だった。すっかり日が長くなっている。
「残念。勝負したかったのに」
「何かご用ですか?」
「みさきちゃんが元気そうだから問題ないよ」
問いに対する答えになっていないけれど、遥さんの笑顔はそれ以上の追及を許さない何かがあるの。
「……お隣は亘理さんのお宅だったんだね」
「遥さんもご存知なかったですか?」
「友達ではないからね。いつ頃からここに住んでいるかわかるかい?」
遥さんに聞かれて、私は記憶を辿る。
「多分……両親が仕事でいなくなってすぐぐらいだった気がします」
「そうなんだ。ありがとう」
少し考えるように形のよい顎に手を当てていた。
「ハルカはヒスイの居場所は知ってる?」
「残念ながら」
遥さんは困ったように曖昧に微笑む。
「ヒスイを捕まえたのはハルカでしょ?」
「人間に害をなす恐れのある吸血種が徘徊しているのは困るからね。依頼があれば排除するのが仕事だから」
そういう名目で翡翠くんを捕らえるように亘理さんの会社に依頼されたのだと思う。
だけど遥さんの言うことは間違っていない。私たちはそういう仕事をしている。
「ハルカってすごく強いの? トールとどっちが強い?」
裕翔くんの目がキラキラしている。
「どうだろう……? 多分、透に負けはしないと思うよ」
にっこり破顔した遥さんだけど隙がない。ゆっくり開いた双眸にスッと冷たい光が通りすぎた気がした。
「もちろん、裕翔くんにも」
「おっ、いいねー。今度オレと勝負してよ」
ぴょんぴょん跳ねながら裕翔くんは遥さんに迫った。大きな瞳は好戦的に輝いている。
「機会があればね」
そんな機会はない方が良いと私は思う。
「透さん、いらっしゃると思いますけど」
「ありがとう。本当にみさきちゃんの顔を見にきただけだから。今度は紫綺も連れてくるよ」
「みさきはオレのだから! 渡さないからね!」
唇を尖らせた裕翔くんに横からぎゅっと抱きつかれる。私は恥ずかしいような嬉しいような、あわあわしてしまう。
遥さんは一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「若いふたりの邪魔なんてしないよ」
その言葉で、裕翔くんは固まってしまう。
「……オレ、本当に若いのかな?」
私たちに向けた言葉なのか、裕翔くんのひとりごとなのか、判断がつかなかった。
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