祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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裕翔ルート 2章

冷たい海 8

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 カイさんは裕翔くんの求めに応じないまま、誠史郎さんからの連絡で駆けつけた警察官に連行された。
 起き上がらなかったカイさんの家族の遺体がどこかに隠されているはずだから、警察はそれを探すことになりそうだ。

 まだ完全に終わっていないけれど、口の中にざらりと砂が広がったような不快感が残った。

 だけど落ち込んでいる暇はない。
 会うことをちょっと躊躇してしまう人や妖怪と話をしないといけない。上手くまとめられなければ女郎蜘蛛と戦わなきゃいけなくなるし、長谷部さんが死んでしまうかもしれない。

 猶予はないけれど、みんな疲れていたので今夜は引き上げた。



 お風呂に入ってから自室に戻る。ベッドに仰向けに寝転んで、ため息をつきながら目を閉じる。サクヤさんを冷たく見下ろした裕翔くんが瞼の裏に蘇った。

 あの瞳は、何かある。きっと亘理さんのところで裕翔くんが実験体にされていたことに関係していると思う。

 亘理さんの会社は裕翔くんに何をさせようとしていただろう。
 初めて会ったときの裕翔くんは、今より子供の姿をしていた。

 私はシーツの上でぎゅっと拳を握る。

 1番大切な、守りたい人。

 そう思った瞬間に思い出したのは、ひまわりのようなキラキラした笑顔。そしてここで指を絡めてキスをした時は、知らない男の人みたいな表情をしていた裕翔くん。

 今すぐ会いたい。顔を見て抱き締めたい。
 あんな風になって1番不安なのはきっと裕翔くん自身だ。

 起き上がってドアを開けようとノブに手をかける。その瞬間に戸がこちらに向かってきて私の額にぶつかった。

「ごめん! 大丈夫!?」

 私の気持ちが通じたのか、裕翔くんがそこにいた。心配してくれている表情だ。お風呂上がりみたいで髪が少し濡れている。

 それで痛みなんて感じなくなる。思わず裕翔くんに抱きついていた。

「みさき?」

 裕翔くんは少し驚いたような声を上げた。私は腕に力を込めてさらに彼を抱き締める。

「どうしたの?」

 くすりと小さく笑いながら、裕翔くんは私の頭を撫でてくれる。

「……一緒にいたいと思ったら、裕翔くんが来てくれたから」

 ぐりぐり額を裕翔くんに擦り付ける。

「入っていい?」

 こくんとうなずいて、裕翔くんとふたりで部屋に入ってドアを閉める。

 今日はみやびちゃんが部屋にいない。本当のふたりきり。
 そう思ったとたんに急に恥ずかしくなった。顔が熱くなる。

 もじもじした私の額に裕翔くんはキスをした。

「かわいい」

 甘くささやいた裕翔くんの唇が今度は目蓋にそっと触れる。

 背伸びをして私から唇を重ねた。すぐに裕翔くんの舌が私の口の中に侵入してくる。

「……ん……っ」

 ベッドへ誘導されているのがわかった。

 優しく私をマットレスに寝かせて彼が覆い被さってくると、バネの軋む音がする。
 裕翔くんの頭を抱えるように腕を絡ませた。彼は動きを止めて、私に身を委ねる。

「……みさきには敵わないなー」

 くぐもった声がぽつりとこぼれた。
 何だか愛しくて裕翔くんの髪を指ですくようになでる。同じシャンプーを使っているのに、少し違う香りのように感じた。とろけてしまいそうなほど魅惑的な匂いだ。

「ありがと」

 軽やかに楽しげに整った唇で紡いだ裕翔くんは、私をぎゅっと抱き締めてくれる。

「もういっこ、ワガママ言ってもいい?」

 はにかんで少し細められた目元にどきどきする。裕翔くんが珍しくちょっと照れているように見えた。

「名前、呼んで。みさきがいっぱい呼んでくれたらオレはずっとオレでいられるから」

 胸がきゅっと苦しくなった。

「裕翔くん……」
「くんはいらないよ」

 唇がかすかに触れるだけの短いキス。

「ゆう、と……」

 くん、と続きそうになった言葉を唇を閉じて堪える。
 裕翔くんは艶やかに微笑んで私の髪を一房すくうとそれに口づけた。

 その表情は色っぽい大人の男性だ。

「みさき」
「ゆうと」

 ゆっくり、穏やかに唇を重ねる。静かに互いの体温を感じ合っていた。

 耳朶に柔らかく吐息が触れる。この先起こることを想像して、身体がひとりでに緊張した。

 ぎゅっと目を閉じて待った。

 裕翔の熱は衣擦れの音と共に私の隣へ動く。目を開くと裕翔が私の横で目を閉じていた。

「安心したらすごい眠くなってきた……」

 大きなあくびをする裕翔。
 その様子にほっとしたような、残念なような複雑な気持ちになる。

 ちらりと横目で私を見た裕翔は頬を緩めた。手をつなぐと目蓋を閉じる。

「好きだよ、みさき」
「……私も、好き」
「だいすき……」

 驚くほど早く裕翔は眠りに落ちた。もう安らかな寝息を立てている。

 私は手をつないだまま裕翔の横顔を眺めていた。無邪気な寝顔が微笑ましいのに、切ない。

「ずっと一緒だよ」

 聞こえていないと思うけれど、伝えたくなった。この先起こる何があっても、ふたりで乗り越えていく。そう決めたから。

 部屋の明かりを消すと裕翔が鮮明になったように感じられた。柔らかくて少し冷たい手が愛しい。

 起こさないように気をつけながら、手の甲にはらりと口づけた。
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