彼の親に振り回されました

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もう大丈夫(1)

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 近くの公園に来た誠一は、杏夏に自分の荷物を持たせて帰らせないようにした上で、公園内の自動販売機に飲み物を買いに行っていた。

「お待たせ。はい。君、リンゴジュース好きだったよね」

 そう言って誠一はリンゴジュースを杏夏に渡し、自身は彼女の隣に僅かな隙間を空けて腰を降ろした。

「まずは、急に連れ出してごめん。仁志さんから浩経由で、君が合コンに行くことを聞いたんだ。いてもたってもいられなくて、幹事にお願いして参加させてもらった。君に会いたくて」

 そう言った誠一は何も言葉を発さない杏夏の顔を覗き込んだ。その目には涙がにじんでいた。

「泣いているの?」
「なんで、なんで、もうあきらめようと思ったのに、そのタイミングで会いたい、なんて言うの? 婚約者いるんでしょ? 私、邪魔だよね? 今も誰かに見られていたらお父さんいなくなっちゃう」
「大丈夫。君のお父さんに危害は加わらないし、僕たちが話していても誰にも何も言われないよ」
「え?」

 そう言った杏夏は顔を上げて誠一をの目を見た。

「でも、婚約者」
「うん。全部話すね」

 そう言った誠一は、先日父親から聴いた話を杏夏に話した。


「え、うそでしょ? 津末のお父さんに振り回されてたの?!」
「うん、そうみたい。僕もこの前知ったんだよね」
「っていうか、津末社長なの? お父さんそこで働いているの?」
「そうだよ。本当に僕の情報遮断していたんだね」
「うっ、ごめん。諦めようと思って」
「待ってて、って言ったじゃん。あの時はこうなると思わなかったけど、婚約者問題を片づけたら君に告白するつもりだったのに」
「だって、その前にあんなこと言われちゃったし、津末も私のこと見向きもしなかったじゃん」
「まあ、そうだね。君を見ると話したくなると思って我慢してた」

 その後杏夏と誠一は高校時代のこと、大学時代のこと、今現在のことを報告し合った。

「もう、こんな時間だね。君は明日仕事?」
「うん。津末は?」
「僕も仕事。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「そうだね」
「何さみしそうな顔してるの?」
「そ、そんな顔してない」
「ふーん。まあいいけど。それより君、僕の連絡先ブロックしてるでしょ。解除してね」

 そう言われた杏夏は、誠一の目の前でブロックを解除した。

「ん。どうも。また連絡するから、ちゃんと返事してね」
「え、連絡くれるの?」
「言ったでしょ。婚約者問題が解決したら告白するつもりだったって」
「でもそれって、高校時代の話じゃないの?」
「今もだよ」
「え?」
「まあ、君のことだから、『今の津末のことよく知らないからすぐに恋人は無理。しばらくは友人関係でよろしく』って言うだろうから、今すぐには言わないけどね」
「……」
「どうしたの?」
「今、じゃだめ?」
「っ!」

 目に涙をためて誠一を見上げる杏夏は誠一の決意を揺るがすには十分だった。誠一は杏夏を抱きしめた。

「わっ」
「好きだ。いや、好きという言葉では伝えきれないくらい君が好きだ。本当に大好きだ」
 そう言った誠一は杏夏と体を離し、彼女の目を見つめて言った。
「必ずあなたを幸せにします。寺東杏夏さん、僕と結婚前提のお付き合いをしてください!」
「はいっ!」

 杏夏は告白の返事とともに誠一に抱き着いた。

 その後、誠一は杏夏の部屋まで彼女を送り届けた。
「ここが君の部屋?」
「そう、あまり広くないけどね」
「ふーん。この部屋に男を入れたことは?」
「お父さんと業者の人だけだよ」
「そう」
「安心した?」
「うん、安心した」
「……」
「何驚いてるの?」
「昔の津末なら、『別に』って言うのに」
「昔はね。今はもう君の恋人だから。思ったことはちゃんと言わないと。君に離れていかれたら辛い」
「ふふ。そっか」
「にやにやしすぎ」
 誠一は杏夏の頬をつまみながら呟いた。
「じゃあ、僕は帰るね」
「うん、送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。戸締りきちんとするんだよ」

 そう言った誠一は笑顔を浮かべながら杏夏のアパートを後にした。

 杏夏と誠一が交際を開始してしばらく経ったころあるお店の個室に、杏夏、誠一、彩花、浩が集まっていた。

「というわけで、寺東さんと付き合うことになりました」
「付き合うことになりました」

 杏夏と誠一は、彩花と浩に交際開始の報告をしていた。

「おめでとう! 嬉しい!」

 そう言って彩花は泣きながら杏夏を抱きしめ、浩は、

「そうか。良かったな。おめでとう」

 と言って誠一と握手をした。

 そして誠一は、彩花と浩に父親とのこと、今の自分の事をかいつまんで話したのだった。

「え、それ本当なの?」
「まじか……」

 2人は絶句していたものの、しばらくして頭が回転するようになったのか、

「でも、それでも杏夏のこと諦めずにいたのすごい素敵。ちゃんと会いに行ってくれたの杏夏の友人として嬉しい」
「そうだったのか。急に会えなくなってびっくりしたが、そういうことだったのか」

 と言った。

 その後は高校時代の話や現在の話などを遅くまで語り合ったのだった。
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