3 / 4
思い出してくれた
しおりを挟む
そしてその件が落ち着いた頃。私のスマホに芳樹くんから連絡が届いた。『悠人が会いたがっている』と。あの事件の日、悠人に連絡先を渡されていた。『スマホを新しくしたから』と言って。でも、その後は悠人と話すタイミングがなかったし、悠人が私のことを思い出したのだと分かったので、連絡しなかった。だって、別れ話でしょ。そう思った私は数週間、悠人に連絡を入れていなかった。そしたら、ついに芳樹くんから呼び出されてしまった。どうしよう。そう思っていたら、『頼む。このままじゃ悠人が壊れる』との追加の連絡が来たので、仕方なく悠人と会うことにしたのだった。
そして悠人と会う当日。指定されたお店に行ったら、悠人しかいなかった。芳樹くんもいると思っていたのに、2人きりなんて。心の準備ができていない。しかも、そのお店の個室で、周りの声は全く聞こえない。完全に2人の状態になってしまった私は、どうしようかと考えを巡らせていた。そしたら、悠人が口を開いた。
「3年前。事故に遭った時。意識を失う前にあんたのことを思った。今ここで俺が死んだらあんたが悲しむだろうな、って。だから死んじゃいけないなって。結局死なずに済んだけど、俺はあんたのことを忘れてしまった。そして恋人の前で他の女性を抱きしめると言う、やってはいけないことをやってしまった。傷つけて、悪かった」
「いや、あの」
「悪い、最後まで聞いてくれ」
「分かった」
「それから七海や芳樹がよく見舞いに来てくれた。そして違和感を覚えた。俺の知ってる彼女らではない、と。よくよく聞くと、俺は8年前で記憶が途切れていた。だから、彼女たちは俺の記憶の姿とずいぶん変わって大人っぽくなっていた。それからしばらくして記憶が戻った。無事に仕事にも復帰した。だが、何かが心に引っかかっていた。それが何かはずっと分からなかった。そして半年前。2人の結婚式に参列した時、あんたを見かけた。嬉しそうに泣いているあんたを見て、高校生の頃のことを思い出した。そういえば、俺に告白してきた女がいた、と。そして俺が交際を提案したら、すごく嬉しそうに笑って同時に泣いていた女がいた、と。それであんたを、野中友恵を思い出した」
(そう、だったの)
「しかし、結婚式が終わった後あんたを見失ってしまった。七海の関係者席にいたから彼女に聞いたけど、『あの子に関しては何も言えない』と言われてしまい、あんたの家に行ったけど、『何も言わないって娘と約束したから』とあんたのお母さんに言われた。だからあんたが住んでた部屋に行ったけどもう違う人が住んでいたし、あんたが勤めてる会社に行ったけどタイミングが合わなかったのか、いつも会えなかった」
(そうだったの。七海ちゃんもお母さんも何も言わないでくれたんだ)
「そしてこの前。帰りにあんたを見かけた。でも、男と一緒だったからためらったんだ。恋人だったら俺が邪魔者だから。だから、悪いけど後をつけさせてもらった。まあ、そしたら恋人でもなんでもなくて、ただの悪いやつだった。あんたを助けられて良かったと思ったら思わず抱きしめてしまった」
(そっか)
「それで、連絡先を渡したにも関わらず全く連絡が来ないから、芳樹に頼んであんたに連絡をしてもらった。俺が壊れそうだ、って言えばあんたは来ると思って嘘をついたのは、悪かった」
そう話した悠人は、スマホを2台取り出した。
「これは新しくしたスマホ。そしてこっちが昔のスマホ。何度も開けようとしたけどパスワードが分からなかったから開かなくて、新しいのを買ったんだが」
そう言ってその昔のスマホを私に渡してきた。
「え?」
「分かるか? パスワード」
「いや、分からないよ」
「じゃあヒントだ。俺の大事な4桁の数字」
大事な4桁。七海ちゃんの誕生日かな。そう思って打ち込んだけれど開かなかった。
「他には?」
ほか。七海ちゃんに関係する4桁の数字。なんだろう。思いつかない。色々考えていたら悠人が「タイムオーバー」と言って数字を4つ打った。
「ほら、開いた」
その4つの数字は。
「私の誕生日?」
「そう。俺にとって大事な日。あんたが生まれた大事な日」
でも、でも。
「なんで? 付き合ってる時、1度も好きだよ、とか言ってくれなかったじゃん。私が好きだよ、って言ってもいつも、うん、って。本当は、ほんとは、七海ちゃんが忘れられなかったんじゃないの? あの時だって、七海ちゃんのこと抱きしめてたじゃん! 私のことは忘れてたくせに!」
そう言葉を投げつけて私は泣いてしまった。目の前にいた悠人は私の隣に移動してきて、背中をさすりながら優しい声でこう話し始めた。
「俺は、あんたが好きだよ。確かに七海のこと好きだったし、彼女が大学に入って会えなくなって落ち込んだりしたけど、あんたに告白された時はもうあんたのことでいっぱいだったよ。あんたが大好きでたまらなかった。あんたに1度も好きだよ、って言わなかったのは、十分伝わっていると思っていたから。でも、ごめん。ちゃんと言葉にして伝えないといけなかったな。それから、あの日七海を抱きしめたのは、記憶が8年前の状態だったから。8年前は七海が好きだったから。でも今はもう好きじゃない。それから、あんたのことを忘れていたのは、あんたのことをすごく愛していたから。大事だと強く思っている人ほど、忘れてしまいやすいみたいだよ」
悠人からの愛の告白。それが嬉しくて、今までの私にも届いているようで。さらに泣いてしまったのだった。
そして悠人と会う当日。指定されたお店に行ったら、悠人しかいなかった。芳樹くんもいると思っていたのに、2人きりなんて。心の準備ができていない。しかも、そのお店の個室で、周りの声は全く聞こえない。完全に2人の状態になってしまった私は、どうしようかと考えを巡らせていた。そしたら、悠人が口を開いた。
「3年前。事故に遭った時。意識を失う前にあんたのことを思った。今ここで俺が死んだらあんたが悲しむだろうな、って。だから死んじゃいけないなって。結局死なずに済んだけど、俺はあんたのことを忘れてしまった。そして恋人の前で他の女性を抱きしめると言う、やってはいけないことをやってしまった。傷つけて、悪かった」
「いや、あの」
「悪い、最後まで聞いてくれ」
「分かった」
「それから七海や芳樹がよく見舞いに来てくれた。そして違和感を覚えた。俺の知ってる彼女らではない、と。よくよく聞くと、俺は8年前で記憶が途切れていた。だから、彼女たちは俺の記憶の姿とずいぶん変わって大人っぽくなっていた。それからしばらくして記憶が戻った。無事に仕事にも復帰した。だが、何かが心に引っかかっていた。それが何かはずっと分からなかった。そして半年前。2人の結婚式に参列した時、あんたを見かけた。嬉しそうに泣いているあんたを見て、高校生の頃のことを思い出した。そういえば、俺に告白してきた女がいた、と。そして俺が交際を提案したら、すごく嬉しそうに笑って同時に泣いていた女がいた、と。それであんたを、野中友恵を思い出した」
(そう、だったの)
「しかし、結婚式が終わった後あんたを見失ってしまった。七海の関係者席にいたから彼女に聞いたけど、『あの子に関しては何も言えない』と言われてしまい、あんたの家に行ったけど、『何も言わないって娘と約束したから』とあんたのお母さんに言われた。だからあんたが住んでた部屋に行ったけどもう違う人が住んでいたし、あんたが勤めてる会社に行ったけどタイミングが合わなかったのか、いつも会えなかった」
(そうだったの。七海ちゃんもお母さんも何も言わないでくれたんだ)
「そしてこの前。帰りにあんたを見かけた。でも、男と一緒だったからためらったんだ。恋人だったら俺が邪魔者だから。だから、悪いけど後をつけさせてもらった。まあ、そしたら恋人でもなんでもなくて、ただの悪いやつだった。あんたを助けられて良かったと思ったら思わず抱きしめてしまった」
(そっか)
「それで、連絡先を渡したにも関わらず全く連絡が来ないから、芳樹に頼んであんたに連絡をしてもらった。俺が壊れそうだ、って言えばあんたは来ると思って嘘をついたのは、悪かった」
そう話した悠人は、スマホを2台取り出した。
「これは新しくしたスマホ。そしてこっちが昔のスマホ。何度も開けようとしたけどパスワードが分からなかったから開かなくて、新しいのを買ったんだが」
そう言ってその昔のスマホを私に渡してきた。
「え?」
「分かるか? パスワード」
「いや、分からないよ」
「じゃあヒントだ。俺の大事な4桁の数字」
大事な4桁。七海ちゃんの誕生日かな。そう思って打ち込んだけれど開かなかった。
「他には?」
ほか。七海ちゃんに関係する4桁の数字。なんだろう。思いつかない。色々考えていたら悠人が「タイムオーバー」と言って数字を4つ打った。
「ほら、開いた」
その4つの数字は。
「私の誕生日?」
「そう。俺にとって大事な日。あんたが生まれた大事な日」
でも、でも。
「なんで? 付き合ってる時、1度も好きだよ、とか言ってくれなかったじゃん。私が好きだよ、って言ってもいつも、うん、って。本当は、ほんとは、七海ちゃんが忘れられなかったんじゃないの? あの時だって、七海ちゃんのこと抱きしめてたじゃん! 私のことは忘れてたくせに!」
そう言葉を投げつけて私は泣いてしまった。目の前にいた悠人は私の隣に移動してきて、背中をさすりながら優しい声でこう話し始めた。
「俺は、あんたが好きだよ。確かに七海のこと好きだったし、彼女が大学に入って会えなくなって落ち込んだりしたけど、あんたに告白された時はもうあんたのことでいっぱいだったよ。あんたが大好きでたまらなかった。あんたに1度も好きだよ、って言わなかったのは、十分伝わっていると思っていたから。でも、ごめん。ちゃんと言葉にして伝えないといけなかったな。それから、あの日七海を抱きしめたのは、記憶が8年前の状態だったから。8年前は七海が好きだったから。でも今はもう好きじゃない。それから、あんたのことを忘れていたのは、あんたのことをすごく愛していたから。大事だと強く思っている人ほど、忘れてしまいやすいみたいだよ」
悠人からの愛の告白。それが嬉しくて、今までの私にも届いているようで。さらに泣いてしまったのだった。
620
あなたにおすすめの小説
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います
木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。
サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。
記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした
珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。
そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる