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序章

現世の最期

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おっす!
俺の名前は萌渕 優もえぶち ゆう
高校まではちょっぴり充実した
毎日を送ってたけど、 
大学を卒業してからは
年々友達が少なくなって
今では友達と言えるやつは0!

おまけに気づけば知り合い以外の人と
喋るのも苦手になって
心の中だけでは饒舌な32歳童貞だ!!
現在はコンビニのバイトで頑張ってるぜ!

さて、なんでこんな独り言を
心で呟いているかと言うと、
人生最悪のピンチだからだ。

「お、おいっ……!聞いているのかっ……!」

不意に怒鳴られ下げていた目線をあげる。
そこには真紅のレスラーマスクを身につけた
鼻の高い男が包丁をこちらに向けている。

「早くっ……だせっ!有り金……全部っ……!!」

「あぁ……はい。ちょっとお待ちを」

驚くほど落ち着いている。
まぁ理由は簡単。
ここで金を渡したところで
俺に1円も損は無いし
マニュアルでも決まってるから責任も無い。

しかもこんな奴は刺す気なんか
さらさらないし金さえ渡せばすぐに去るだろう。

……そんなことより気になるのは……。

「お前…最近入った佐藤じゃないか?その声…その鼻……」

ビクッとする鼻高レスラー。

「は、はぁ?何とち狂ったこと言ってやがるっ!早く金を詰めろっ!」

「知ってると思うが現金ほとんど無いぞ?」

「はっ…!そうはいかねぇっ……いるんだろ……?だせよ……店長……!!」

あぁ……そういうことか。
店長のポケットマネー狙いか。 
ブランド財布だけど
千円札とポイントカードで
厚み出してるの知ってるんだろうか佐藤は?

「残念だけどいないよ店長」

「嘘をつけっ…!シフトは把握済みっ……!間違いは無いっ……!!」

「知らないかもしれないけど店長は月1で3日間フィリピン旅行に行くんだけど今ちょうどその期間なんだよ」

「ななっ……なんだとっ!?」

「お金は渡すから帰ってくれないかな?そろそろ喋るのきついんだけど……」


そんな不毛なやり取りを上から見ている何かが1人。
『悪人発見ですっ…!間引かないと!』

ポゥッ……。
その人物の手に光が集まる。

『悪意ある者を間引き、この世界に平穏をもたらせ!トラックドーン!』

ギュギュギュギュギュ!
どこならとも無く大型トラックが現れ
コンビニのレスラーに向かって突っ込む。

その勢いと轟音に気付くレスラー佐藤。
「うおおおっ……!!」
ガラガラガガーン!!!
派手に突っ込むトラック。
間一髪よけるレスラー佐藤。

「え……?」

しかしその避けた先には萌渕が居た。

「あれ?うそ……?マジか……?」
思考が追いつかない。
遅れて痛みが来る。
しかしすぐにそれも感じられなくなった。

「おっ俺はっ……!そんなつもりじゃ……!」

うろたえるレスラー佐藤を尻目に
萌渕は崩れ落ちていく。

「俺の人生……。なんだったんだ……。」
なんとか漏れ出た最期の言葉。
そして萌渕の視界は赤く染まり、黒くなった。
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