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第2章〜踏みしめる新世界〜

ムニモニの森

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太陽の光の多くは木々の葉によって
遮られ万年薄暗い“ムニモニの森”。
フューゼ達はそこを抜け
奴隷商国家でもありエルフの国でもある
“グリーディア”に赴くため歩を進めていた。

「しっかし暗いなここは。アリス、シルビア。大丈夫か?」

「大丈夫だよー!」

「ご心配頂きありがとうございます。ですが私達は夜に生きる者。暗い所は慣れております」

あぁそうか。
アリスはサキュバスでシルビアは
今は違っても元はエンプーサだったか?
夜活動する種族だから暗い所は得意なのか。

「そうか。それならいいんだが少し歩き疲れたから休憩を挟んでもいいかな?」

「まだ歩き始めて30分ほどですが慣れない土地なのでしょうがないですね。どこで休みますか?」

「あそこにある岩がちょうど3つあるよー!」
少し進んだところにある黒い岩を指差すアリス。

「おぉ、いいな。あそこで少し休もうか!」

少し考え込むシルビア。

あの岩……やけに黒い……もしかするとあれは…

「フュゼ様!行くよー!!」
「おぉ!?」
フューゼの手を掴み走り出すアリス。

「あ、ちょっと待ちなさいアリス!ヴァンドラ様!」


「フュゼ様ついたよ!」

「あぁ……シルビアが何か言ってたような気がするんだが……。」

「そう?まぁゆっくりシルビー待とうよ!」

「そうだな……なら先にここに座って待つか」
フューゼ達は岩に腰掛けた。

ぶにっ


あれ?これ柔らかいぞ……というか
岩じゃ……ない?

“ぐにぐににっ”

「うおおお!?何だこれ!」

「きゃー!こ、これは……!」


遅れてきたが近付こうとはしないシルビア。
「ヴァンドラ様!アリス!」

「シルビア!!こいつはいったい何なんだ!」

「“モリナマコ”でございます。ヴァンドラ様」

「モリナマコ……?」

「えぇ……危害を加えなければ特に干渉してこない温和な生き物ですが危害を加えると自衛行動をとります。」

「自衛行動……?大丈夫なのかこれ。」
“ぐにぐにっ”鳴き声のようなものをあげ
蠢くモリナマコ。

「モリナマコは直接攻撃をしてきたりしませんが私は1度その自衛を受けたことがありまして近付きたくないのです。危険性は無いので早く何とかしてください。お願い致します」

何とかしてくださいって……
魔法はあの火を出すやつと
牙を燃やすやつしかわからないんだが
火で追い払えるか?

ポゥ…
フューゼが手に火の玉を浮かべた途端
誰も座っていなかったモリナマコが
フューゼに振り向いた。

「え?」
ビュルビュル!!ドボボ!!
激しい音と共にフューゼに白い何かが吐きかけられる。

うおっ!?何だ!前が見えない!!
というかねばねばする!
なんか生暖かいぶにぶにしたものも
大量に吐きかけられてるんだが!!

「モリナマコは種族全般のスキルとして自衛の為身の危険を感じると白い分泌液と共に自らの内蔵を吐き出す“臓物の雨 ジブレイン”とその臓器を回復するスキル、超回復を持ちます」

先に言えよ!!
そ、そんなことよりいつまで続くんだ
その臓物の雨ジブレインってのは!

「おそらく疑問に思われている事が有ると思いますがそのスキル私が前受けた時は1分ほど続きました。そして気付けば内臓の山に埋まっておりました。モリナマコは体積の9割が内臓を占めておりますので相当な量が……と、話してるうちに止まってきましたね」

ぷぴゅぷぴゅ音は聞こえるが何も見えん!

こうなったらあれを使うか…
詠唱破棄ではまだ使えないみたいだけど
詠唱はシルビアに習ったし
使ってみたかったんだ。

「従順なる我が眷属よ。我に呼応し姿を現せ、“イグニ・シルビア”!」

フューゼの目の前が妖しく光ったと思うと
シルビアが現れた。


「ひっ!!ヴァ……ヴァンドラ様……!?あなたの目の前と言うことは……」

「悪い。何も見えなかったから眷属召喚しちゃった」

「ーーーーっ!!!」
声にならない声を上げ
モリナマコの内臓を一瞬で吹き飛ばすシルビア。

「おぉすごいな。」

「な、何考えてるんですか!!本気で怒りますよ!!」

「いやー眷属召喚使ってみたかったしたくさん使った方が詠唱破棄の近道なんだろ?」

「いやそうですが私の話聞いてましたか!?この生暖かくてねばねばした感触鳥肌が立つんですよ!」

「ははっ、悪い悪い。」

ムッとした表情になり
キョロキョロするシルビア。
突然屈んだと思うと何かを掴み
フューゼに突き付けた。

「何だこれ?石?」

「良く見てください。動いてます。これは内臓を吐ききったモリナマコです」

「おぉ本当だ!動いてる!座れるほどでかかったのにこんなになるのか!」

「そうです。まずは受け取ってください」

「お、おう。」

「それ齧ってください」

「!?」
な、何を言ってるんだシルビアは!
そんなに怒ってるのか!

「ヴァンドラ様はスキルを練習されたいとのことなので夜王解析スティーライズを練習されては如何かと。もしかしたら臓物の雨ジブレインのスキル使えるようになるかもしれませんし」

「えぇ!?こんなスキルいるのか!?というより首どこだよ!!」

「さぁ?わからないのでしたらこうしたらよいのでは?」
フューゼの手からモリナマコを奪うシルビア。

「え?……っっ!!」
そのままフューゼの口に突っ込んだシルビア。

「そうやっていろんな所噛んでくださればいずれ首に当たりますよ。私をこんな所に召喚した罰です」

「ーっ!!ぐむ!」
噛む度に中から
残った内臓が飛び出て来る!!
すっごいねばねばする!!
だけど……美味いぞこれ!
コクがありつつしつこくない……
それでいて濃厚な味わい……
モリナマコ美味い!

っとモリナマコを味わっているうちに
どうやら首を噛んだようだな。
情報が流れてきたぞ。
臓物の雨ジブレイン……。
己の内臓を外に放出する事の出来るスキル。
スキルの獲得に成功。
放出したい臓物に魔力を
集中させ体外に吐き出すイメージを
する事で実行される。詠唱不要。

超回復……。
内部に受けた損傷を
早急に回復することの出来るスキル。
スキルの獲得に成功。
臓物の雨ジブレイン で吐き出した内臓に関しては
即回復が可能。詠唱不要。

……ってあれ?
使えるようになっちゃったんだけど?

「どうですか?ヴァンドラ様。モリナマコのお味は」

「美味しい……じゃなくて臓物の雨ジブレインとか使えるようになったんだけど」

「え?」

「確か内臓に魔力込めて……」

「やめて下さい!ちょっと!!」

「なんだよー新スキルだぞー?というよりアリスはどこいった?」

「え?確かに見かけませんね」

もぞもぞと蠢く臓物の山。

「……まさか」

「ア、アリスー?」


「ぷはー!呼んだー?フュゼ様!」

「……大丈夫か?」

「うん!突然かけられちゃったけど独特の匂いとこの暖かさ好きー!あとねこれ美味しいよ!」

「え!?アリス!?」

「あ、美味いよなやっぱり」

「ヴァンドラ様まで!?」


「シルビーもたべてみなよー!」

「ひぃ!!両手にそんな持ってこないで!」

回り込んで抑えるフューゼ。
「おっと好き嫌いは感心しないなぁシルビア。美味いんだぞ?」


「ひ、ひぃ!!お許しを!近付けないで!」

「ダメだ。アリス、モリナマコの美味さを教えてやれ。」

「うんーー!」



こうしてシルビアにはモリナマコを
存分に楽しんで頂いた。
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