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第一章 新しい生活の始まり
013-5
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着替えて楽器も置いて来たらしい女の人は、さっきより幼く見えた。お化粧も軽く落としたのかも。
「お言葉に甘えてお邪魔するわね」
さっきも思ったけど、声もキレイ。
「私はエスナ。アロシ国の出身よ」
「そりゃ随分遠い所から来たな」
初めて聞く国名だった。ラズロさんは遠い国だと言ったから、僕が見た事のある地図には載ってない国なのかも。
「オレはラズロ。よろしくな」
「僕はノエル」
ノエルさんは名前しか言わなかった。そう言えばラズロさんは平民なのかな? ノエルさんは平民だけど家名があるのは、有名なお家だから?
「僕はアシュリーです」
エスナさんはにっこり微笑んだ。
乾杯するか、とラズロさんが言ったので、ジュースの入った器を手にする。
「新しい出会いと素晴らしい歌に、カンパーイ!」
カンパーイ、と言ってから器を重ねて鳴らし、ジュースを口にする。
「はぁ……美味しいわ」
「料理も遠慮せず食えよ。新しい料理を頼みたいからな」
エスナさんは細い身体だし、そんなに食べられないのでは? と、僕は思ってたんだけど、気持ち良いぐらいにもりもり食べていく。
「歌うとおなか空くのよねー」
なるほど。そうかも知れない。
「アシュリー、飲み物を頼む?」
僕の器に気付いたノエルさんが聞いてきた。
「リンゴも美味しいけど、ブドウも美味しいよ」
「ブドウ?」
「アシュリーは知らないかな?」
頷くと、ノエルさんはちょうど横を通ったお店の女の人にブドウジュースを頼んだ。
「ブドウは、これぐらいの粒が房になって沢山付いてる果物だよ」と、指で丸を作る。
「美味しいわよ」とエスナさん。
しばらくして、運ばれてきたブドウジュースは、真っ黒だった。
「ノエルさん、真っ黒ですよ?」
僕の反応にノエルさんは笑った。
「大丈夫。美味しいから。騙されたと思って飲んでみて」
恐る恐る器に鼻を近付けると、甘い良い匂いがした。リンゴとは違う甘い良い匂い。
口にすると、また、甘くてびっくりする。
濃くて甘い。色からは想像も付かない味だった。
「とっても甘くて美味しいです」
それは良かったよ、とノエルさんは笑顔になる。
「エスナはいつから吟遊詩人をやってるんだ?」
エスナさんは料理を口に入れるのをやめ、口の周りを拭いた。
「八年前からよ」
「一人でか? 女の一人旅はさすがに危ないだろう」
そうなのよ、とエスナさんも頷く。
「そろそろ何処かに腰を落ち着けたいとは思っているの。だから今回が最後の旅になりそう。あ、移動はちゃんと乗合馬車を使ってるのよ。徒歩ではないの」
「それならまだ、安全だな」
乗合馬車は知ってる。村にもたまに寄っていたから。
沢山の人が幌のある馬車に乗って、色んな村に移動する奴だ。
この国では乗合馬車には護衛が付く事が多いから、盗賊や魔物に襲われ難いと聞いた事がある。
テイマーなんかが護衛に付く事が多いみたい。
「良い町はあったか?」
「そうね。港町なんかは旅の途中に寄るのは良かったけど、暮らすとなると閉鎖的な所が多いと聞くし、農村も難しいのよね。私、野良仕事のスキルも無いし」
スキルがなくてもやっていけるけど、ある方が受け入れてもらいやすいって聞く。
「次は何処に行くんだ?」
「冬の間はここで旅銀を貯めて、春になったらコンカ国にでも行こうかな、って思ってるわ」
「じゃあ、しばらくはエスナの歌を聴けるな」
「また聴きに来てくれると嬉しいわ」
それから、エスナさんが行った事のある色んな国の話を聞いているうちに夜も遅くなって来たので、会はお開きになった。
正直に、エスナさんの歌は好きだ。なんだか、村にいた時の事を思い出す。郷愁って言うんだってノエルさんが教えてくれた。
だからエスナさんの歌がしばらくの間聴けるのは、嬉しい。ラズロさんにお願いして、また連れて来てもらいたいな。
「お言葉に甘えてお邪魔するわね」
さっきも思ったけど、声もキレイ。
「私はエスナ。アロシ国の出身よ」
「そりゃ随分遠い所から来たな」
初めて聞く国名だった。ラズロさんは遠い国だと言ったから、僕が見た事のある地図には載ってない国なのかも。
「オレはラズロ。よろしくな」
「僕はノエル」
ノエルさんは名前しか言わなかった。そう言えばラズロさんは平民なのかな? ノエルさんは平民だけど家名があるのは、有名なお家だから?
「僕はアシュリーです」
エスナさんはにっこり微笑んだ。
乾杯するか、とラズロさんが言ったので、ジュースの入った器を手にする。
「新しい出会いと素晴らしい歌に、カンパーイ!」
カンパーイ、と言ってから器を重ねて鳴らし、ジュースを口にする。
「はぁ……美味しいわ」
「料理も遠慮せず食えよ。新しい料理を頼みたいからな」
エスナさんは細い身体だし、そんなに食べられないのでは? と、僕は思ってたんだけど、気持ち良いぐらいにもりもり食べていく。
「歌うとおなか空くのよねー」
なるほど。そうかも知れない。
「アシュリー、飲み物を頼む?」
僕の器に気付いたノエルさんが聞いてきた。
「リンゴも美味しいけど、ブドウも美味しいよ」
「ブドウ?」
「アシュリーは知らないかな?」
頷くと、ノエルさんはちょうど横を通ったお店の女の人にブドウジュースを頼んだ。
「ブドウは、これぐらいの粒が房になって沢山付いてる果物だよ」と、指で丸を作る。
「美味しいわよ」とエスナさん。
しばらくして、運ばれてきたブドウジュースは、真っ黒だった。
「ノエルさん、真っ黒ですよ?」
僕の反応にノエルさんは笑った。
「大丈夫。美味しいから。騙されたと思って飲んでみて」
恐る恐る器に鼻を近付けると、甘い良い匂いがした。リンゴとは違う甘い良い匂い。
口にすると、また、甘くてびっくりする。
濃くて甘い。色からは想像も付かない味だった。
「とっても甘くて美味しいです」
それは良かったよ、とノエルさんは笑顔になる。
「エスナはいつから吟遊詩人をやってるんだ?」
エスナさんは料理を口に入れるのをやめ、口の周りを拭いた。
「八年前からよ」
「一人でか? 女の一人旅はさすがに危ないだろう」
そうなのよ、とエスナさんも頷く。
「そろそろ何処かに腰を落ち着けたいとは思っているの。だから今回が最後の旅になりそう。あ、移動はちゃんと乗合馬車を使ってるのよ。徒歩ではないの」
「それならまだ、安全だな」
乗合馬車は知ってる。村にもたまに寄っていたから。
沢山の人が幌のある馬車に乗って、色んな村に移動する奴だ。
この国では乗合馬車には護衛が付く事が多いから、盗賊や魔物に襲われ難いと聞いた事がある。
テイマーなんかが護衛に付く事が多いみたい。
「良い町はあったか?」
「そうね。港町なんかは旅の途中に寄るのは良かったけど、暮らすとなると閉鎖的な所が多いと聞くし、農村も難しいのよね。私、野良仕事のスキルも無いし」
スキルがなくてもやっていけるけど、ある方が受け入れてもらいやすいって聞く。
「次は何処に行くんだ?」
「冬の間はここで旅銀を貯めて、春になったらコンカ国にでも行こうかな、って思ってるわ」
「じゃあ、しばらくはエスナの歌を聴けるな」
「また聴きに来てくれると嬉しいわ」
それから、エスナさんが行った事のある色んな国の話を聞いているうちに夜も遅くなって来たので、会はお開きになった。
正直に、エスナさんの歌は好きだ。なんだか、村にいた時の事を思い出す。郷愁って言うんだってノエルさんが教えてくれた。
だからエスナさんの歌がしばらくの間聴けるのは、嬉しい。ラズロさんにお願いして、また連れて来てもらいたいな。
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