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【閑話】引いても駄目なら押してみな!
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イライラする。
あともうちょっとなのに、上手くいかない。
全部言われた通りにやったのに、何がいけないのか分かんない。
最後がどうしても上手くいかない。
前の聖女が張った結界が消せない。そこにあるのは分かってて、消そうと祈るんだけど、びくともしない。
私付きの侍女に聞いたら、これまでは結界が消えてから張っていたんだって。もしくは、もう消えそうですー、って時に。
張れるまでの期間、魔物が襲って来るんじゃないのって聞いたら、その時に騎士団が活躍したり、魔族から買った魔法陣なんかが役に立つんだって。
だから、私のやってるコトは、誰もやったコトがないって言う……あの王子……ホントムカつく!
絶対に、報酬はたっぷりもらって帰る!!
結界は、実は触れる。普通の人は触れないらしいんだけど、聖女だからなのか、私は触れちゃう。
私付きの侍女にも、ホラ、コレだよ、って教えても、見えないし触れなかった。
ドームみたいにフィルモア王国をすっぽりと包んだ結界は、柔らかい。
でも、引っ張っても破れない。伸びる。ゴムみたい。じゃあ、と尖ったものでツンツンと刺しても、やっぱりゴムみたいな感じの反応をさせて、穴は空かない。
力いっぱい叩いたり、尖ったもので力を込めて刺すと、鉄みたいに硬くなる。生きてるみたいでびっくりした。
そんな訳だったから、引っ張っても破けないし、穴も開けられないし、壊せないし、消せない。
ちなみに本来の結界の寿命はかなり先。
気にせず結界を張れば良いやと最初は思ってた。
でも、駄目なんだよね。
今ある結界にピッタリくっつくように結界を張ってみたら、吸収された。あ、もしかしてこれで結界同士が融合しちゃって、強度増して、私のおシゴト終了? 完了? ミッションコンプリート?
そう思った私は王太子に話した。王太子は直ぐに使いをやって結界を調べに行かせた。
結界の強度って調べられるの?
答えは、失敗。
聖女によって張られた結界の強度は変わらないんだって。だけど、持続する期間はピッタリ同じではなくって、誤差があるみたい。
あとどのぐらいの年数もつか、というのは魔法とやらで分かるらしくって。
私の結界を吸収したけど、その年数に変化はなかったらしい。
吸収された分は何処いったんだ、とクレーム入れたいけど、ナイんだってさ。質量保存の法則は何処いったんだ。
王太子としても結界存続中に張り直すのは初のココロミだから、情報を共有したいと言われてて、定期的に王太子とは報告がてらお茶してた。出されるお菓子も美味しい。
お茶とお菓子が格段に美味しくなったのは、リサさんのお陰らしい。あの人、見た目だけじゃなくって、頭良くて、こんなのまで得意らしい。ちょっと神さまに優遇され過ぎだ、って抗議したい。でもあの人、見た目の所為で大変な思いしかしてないもんね……あの話聞いた時、ドン引きした。マジあるんだ、目が合っただけでとか。ガチストーカーじゃん。
以前私に、嫌なら帰って良いと強気な発言をしていた王太子も、私の試行錯誤の結果を見て考えを改めたらしく、厳しいコトを言って来ない。
って言うかあの時以来言われたコトない。あの後、王太子、謝ってきたし。
この世界の価値観で物を考えてしまっていた、すまない、って。
リサさんが言ってくれた言葉が効果あったっぽい。
それからは優しい。
私が張る結界に今ある結界を吸収させれば良いのでは?
もしかして私って天才?! と思ったけど、どうやって? ……気合?
キモチを込めてみたものの、駄目だった。あっさりと私の結界は吸収されてしまった。
ストレスが溜まる毎日。
リサさんはしあわせそうで良いなー、なんて思ってたら、まさかのイケメン獣王が突然リサさんを自分の番だって言い出して、騎士団長との婚約が保留になった。
運命の恋だ、とか、二人の男に取り合われるとかすごっ! って思ってたけど、リサさんはあんまり笑わなくなってしまった。営業スマイルは見る。
でも、前なら普通に見てた笑顔が、見れなくなった。言葉も少なくなった。
……番って何なのかな? 獣人は運命の相手だとか、魂の伴侶だとか言うけど、いくら感じられるのが獣人だけでも、相手だって何か感じるものがあっても良いと思う。それが無いって時点で、それ、運命の相手じゃないと思う。
獣人が勝手にそう思ってるだけで。
リサさんは、騎士団長と一緒にいる為にこの世界に残るって決めたんであって、獣王の番になる為じゃない。
あまり周囲と接点のない私の耳にも入ってくる、獣王と結婚した方がこの国のメリットがあるって話。
ムカついて仕方なかった。
リサさんはこっちの世界の人間じゃないのに、何でアンタたちの為に獣王のお嫁さんにならないといけないの?!
王太子は前に言ってた。
結界が張れたら日本に帰って良いって。張らなくても帰って良いって言われてたけど。
だから、私は早く結界を張って、帰れるようにしたい。
獣王に騎士団長が負けて、リサさんがあの獣王の奥さんになる前に、私がリサさんを連れて帰る!
リサさんは優しいけど、時折厳しいコトも言う。
でも、私のコトを思って言ってるって分かるから、傷付かない。
親だって、私のコトを思って言ってくれてるか疑わしい時だってあるのに。
赤の他人の、私が召喚されるのに巻き込まれただけなのに、親身になってくれる。
リサさんはいつも私を見てくれる。話す時に相手の目を見て、ってよく言うけど、リサさんを見てて分かった。人の目を見て話すって、多分こう言うコト。
私が何を感じて、考えてるのか、ちゃんと考えてくれてる。その上で私に言ってくれる。
出会って間もないけど、リサさんが大好きだ。
こんなお姉さんが欲しかったって思う。
彼氏が欲しいって思ってたけど、分かったんだよね。
自分を分かってくれる、自分を受け入れてくれる、自分をちゃんと見てくれる人が欲しかったんだって。
リサさんを不幸にする獣王に、リサさんはあげられない。しあわせになるのは獣王だけ。
今日は獣王と騎士団長の二回戦目。これで騎士団長が負けたら、勝負は獣王の勝ちになっちゃう。
三回戦もあるけど、そんな悠長なコト言ってられない。
終わったらソッコーで獣王はリサさんを連れてくに違いないし。
だから、結界を張らなくちゃいけない。
張って、それで、獣王が勝ったら、三回戦の前にリサさんを連れて帰るって決めたんだから。
毎日毎日、結界を作ってたから、お手の物って奴で、あとは前の結界を何とかするだけ。
「押しても駄目なら引いてみな、って言うけど、全然駄目じゃん! 引いても駄目なら、押してやる!!」
作り上げた結界を勢いよく今の結界にぶつける。
どうせまた吸収されるに決まってるけど、受け止めろコンチクショー!!
私の作った結界が、前聖女の結界に勢いよくぶつかった。
ドン! とおなかに響く震動がきて、足元が揺れて、私の結界と、元から合った結界が壊れた。
あちこちから悲鳴が聞こえる。
「聖女様!」
侍女たちが寄って来て私を囲む。守ろうとしてくれてるのか、怖いからしがみついて来たのかは分かんないけど。
囲まれて、私が見れたのは空だけで。
空に亀裂が走って、ビキビキビキッ、と耳に響く音をさせる。前にテレビで見た、流氷を砕く音に少し似てた。
砕けた結界の破片が、空からキラキラさせながら降ってくる。
揺れも収まって、あまりにキレイで、破片に見惚れていたら、外から叫ぶ声が聞こえた。
「魔物が入って来た!!」
あともうちょっとなのに、上手くいかない。
全部言われた通りにやったのに、何がいけないのか分かんない。
最後がどうしても上手くいかない。
前の聖女が張った結界が消せない。そこにあるのは分かってて、消そうと祈るんだけど、びくともしない。
私付きの侍女に聞いたら、これまでは結界が消えてから張っていたんだって。もしくは、もう消えそうですー、って時に。
張れるまでの期間、魔物が襲って来るんじゃないのって聞いたら、その時に騎士団が活躍したり、魔族から買った魔法陣なんかが役に立つんだって。
だから、私のやってるコトは、誰もやったコトがないって言う……あの王子……ホントムカつく!
絶対に、報酬はたっぷりもらって帰る!!
結界は、実は触れる。普通の人は触れないらしいんだけど、聖女だからなのか、私は触れちゃう。
私付きの侍女にも、ホラ、コレだよ、って教えても、見えないし触れなかった。
ドームみたいにフィルモア王国をすっぽりと包んだ結界は、柔らかい。
でも、引っ張っても破れない。伸びる。ゴムみたい。じゃあ、と尖ったものでツンツンと刺しても、やっぱりゴムみたいな感じの反応をさせて、穴は空かない。
力いっぱい叩いたり、尖ったもので力を込めて刺すと、鉄みたいに硬くなる。生きてるみたいでびっくりした。
そんな訳だったから、引っ張っても破けないし、穴も開けられないし、壊せないし、消せない。
ちなみに本来の結界の寿命はかなり先。
気にせず結界を張れば良いやと最初は思ってた。
でも、駄目なんだよね。
今ある結界にピッタリくっつくように結界を張ってみたら、吸収された。あ、もしかしてこれで結界同士が融合しちゃって、強度増して、私のおシゴト終了? 完了? ミッションコンプリート?
そう思った私は王太子に話した。王太子は直ぐに使いをやって結界を調べに行かせた。
結界の強度って調べられるの?
答えは、失敗。
聖女によって張られた結界の強度は変わらないんだって。だけど、持続する期間はピッタリ同じではなくって、誤差があるみたい。
あとどのぐらいの年数もつか、というのは魔法とやらで分かるらしくって。
私の結界を吸収したけど、その年数に変化はなかったらしい。
吸収された分は何処いったんだ、とクレーム入れたいけど、ナイんだってさ。質量保存の法則は何処いったんだ。
王太子としても結界存続中に張り直すのは初のココロミだから、情報を共有したいと言われてて、定期的に王太子とは報告がてらお茶してた。出されるお菓子も美味しい。
お茶とお菓子が格段に美味しくなったのは、リサさんのお陰らしい。あの人、見た目だけじゃなくって、頭良くて、こんなのまで得意らしい。ちょっと神さまに優遇され過ぎだ、って抗議したい。でもあの人、見た目の所為で大変な思いしかしてないもんね……あの話聞いた時、ドン引きした。マジあるんだ、目が合っただけでとか。ガチストーカーじゃん。
以前私に、嫌なら帰って良いと強気な発言をしていた王太子も、私の試行錯誤の結果を見て考えを改めたらしく、厳しいコトを言って来ない。
って言うかあの時以来言われたコトない。あの後、王太子、謝ってきたし。
この世界の価値観で物を考えてしまっていた、すまない、って。
リサさんが言ってくれた言葉が効果あったっぽい。
それからは優しい。
私が張る結界に今ある結界を吸収させれば良いのでは?
もしかして私って天才?! と思ったけど、どうやって? ……気合?
キモチを込めてみたものの、駄目だった。あっさりと私の結界は吸収されてしまった。
ストレスが溜まる毎日。
リサさんはしあわせそうで良いなー、なんて思ってたら、まさかのイケメン獣王が突然リサさんを自分の番だって言い出して、騎士団長との婚約が保留になった。
運命の恋だ、とか、二人の男に取り合われるとかすごっ! って思ってたけど、リサさんはあんまり笑わなくなってしまった。営業スマイルは見る。
でも、前なら普通に見てた笑顔が、見れなくなった。言葉も少なくなった。
……番って何なのかな? 獣人は運命の相手だとか、魂の伴侶だとか言うけど、いくら感じられるのが獣人だけでも、相手だって何か感じるものがあっても良いと思う。それが無いって時点で、それ、運命の相手じゃないと思う。
獣人が勝手にそう思ってるだけで。
リサさんは、騎士団長と一緒にいる為にこの世界に残るって決めたんであって、獣王の番になる為じゃない。
あまり周囲と接点のない私の耳にも入ってくる、獣王と結婚した方がこの国のメリットがあるって話。
ムカついて仕方なかった。
リサさんはこっちの世界の人間じゃないのに、何でアンタたちの為に獣王のお嫁さんにならないといけないの?!
王太子は前に言ってた。
結界が張れたら日本に帰って良いって。張らなくても帰って良いって言われてたけど。
だから、私は早く結界を張って、帰れるようにしたい。
獣王に騎士団長が負けて、リサさんがあの獣王の奥さんになる前に、私がリサさんを連れて帰る!
リサさんは優しいけど、時折厳しいコトも言う。
でも、私のコトを思って言ってるって分かるから、傷付かない。
親だって、私のコトを思って言ってくれてるか疑わしい時だってあるのに。
赤の他人の、私が召喚されるのに巻き込まれただけなのに、親身になってくれる。
リサさんはいつも私を見てくれる。話す時に相手の目を見て、ってよく言うけど、リサさんを見てて分かった。人の目を見て話すって、多分こう言うコト。
私が何を感じて、考えてるのか、ちゃんと考えてくれてる。その上で私に言ってくれる。
出会って間もないけど、リサさんが大好きだ。
こんなお姉さんが欲しかったって思う。
彼氏が欲しいって思ってたけど、分かったんだよね。
自分を分かってくれる、自分を受け入れてくれる、自分をちゃんと見てくれる人が欲しかったんだって。
リサさんを不幸にする獣王に、リサさんはあげられない。しあわせになるのは獣王だけ。
今日は獣王と騎士団長の二回戦目。これで騎士団長が負けたら、勝負は獣王の勝ちになっちゃう。
三回戦もあるけど、そんな悠長なコト言ってられない。
終わったらソッコーで獣王はリサさんを連れてくに違いないし。
だから、結界を張らなくちゃいけない。
張って、それで、獣王が勝ったら、三回戦の前にリサさんを連れて帰るって決めたんだから。
毎日毎日、結界を作ってたから、お手の物って奴で、あとは前の結界を何とかするだけ。
「押しても駄目なら引いてみな、って言うけど、全然駄目じゃん! 引いても駄目なら、押してやる!!」
作り上げた結界を勢いよく今の結界にぶつける。
どうせまた吸収されるに決まってるけど、受け止めろコンチクショー!!
私の作った結界が、前聖女の結界に勢いよくぶつかった。
ドン! とおなかに響く震動がきて、足元が揺れて、私の結界と、元から合った結界が壊れた。
あちこちから悲鳴が聞こえる。
「聖女様!」
侍女たちが寄って来て私を囲む。守ろうとしてくれてるのか、怖いからしがみついて来たのかは分かんないけど。
囲まれて、私が見れたのは空だけで。
空に亀裂が走って、ビキビキビキッ、と耳に響く音をさせる。前にテレビで見た、流氷を砕く音に少し似てた。
砕けた結界の破片が、空からキラキラさせながら降ってくる。
揺れも収まって、あまりにキレイで、破片に見惚れていたら、外から叫ぶ声が聞こえた。
「魔物が入って来た!!」
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