魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

文字の大きさ
5 / 45
第一章

平凡な日常と彼の姿

しおりを挟む
 数日も経てば文化祭ムードも完全に消えてしまい、平凡な日常が戻ってくる。
 それでも、私はまだ浮ついた気持ちで過ごしていた。

 黒板とチョークが擦れる音。
 生徒のために熱心に授業をする先生の声。
 真面目に授業を受けているつもりなのに、内容は全く頭に入ってこない。
 まるで意識だけが私の体から抜けて独り歩きしているみたいに、無心で黒板に書いてある字をノートに写す。

 耐えきれなくなってふと窓の外を覗いてみると、校庭では他のクラスが体育の授業をしていた。
 空にはどんよりと雲が垂れ込めていて、心にもやがかかったような、そんな気持ちになる。
 
 コートの中に放たれたサッカーボールにわらわらと人が群がる。
 ただでさえじめじめとして蒸し暑い天気なのに、あんな密集するスポーツなんてこれっぽっちもやりたいとは思わない。

 結局、外を見ているのにも飽きてしまって黒板に目を向ける。
 慌てて板書をノートに写すが、一度切れてしまった集中は再び元のレベルを保つのに時間がかかるし、エネルギーも必要だ。

 気を紛らわせる物がなくなり、唐突に睡魔が襲ってくる。
 授業も残り10分。
 これくらいなら眠くても耐えろと思うかもしれないけれど、私にとっては貴重な時間だ。

 大抵、家に帰ってからもギターなどの練習をするから、寝る時間が遅くなってしまって寝不足になることがある。
 特に文化祭が終わってからのここ数日は、褒められたことが嬉しくて練習に熱が入ってしまった。

 この先生は基本的に寝てる人を見ても無視して授業を進めるような人だと認識してるし、授業時間も残り少ないから問題はないはず。
 ありがたく寝させてもらおう。
 ノートを取るのも疲れたし…………。





 そして私は、予想していたよりもずっと早いタイミングで目を覚ますことになった。

 「…………い。 ……い、……せ? ……っ、おい、綾瀬!」

 体を揺すられて、背中から名前を呼ばれたのに気付いてがばっと勢いよく顔を上げる。

 「……ふぇっ!? あっ、ごめん藤崎。 何?」
 「いや、何って……ほら、前」

 振り返ると、そこには苦笑いを作る藤崎の顔があって、言われた通りに前を向く。

 「こら、問題演習中ですよ。 綾瀬さん、この数式を前に出て解いてください」

 意外とこの人怒ると怖そう……って、そうじゃなくて。
 途中まで起きてたから仮に当てられても大丈夫だと高を括っていた。
 教科書を見ても私がノートを取っていたところから進んでしまっていてよくわからない。

 「すいません。 ノート取ってなくてよくわからないです」
 「寝ているということは授業を聞かなくても解けるからじゃなかったんですか? 少なくとも、私はそう解釈したので当てたんです。 周りに聞くなりして解いてください」
 「えぇ……」
 「『えぇ……』じゃありません」

 どうやら先生は怒っているみたいで、私を逃すつもりはないらしい。
 それにしても、私以外にも寝てる人はいたのに、なんでこういうときに限ってみんな起きてるのよ……。
 もしかしてグルなの?
 私をめようとしてたの?
 しかもなんで数学なのよ……英語ならできるのに……。

 頭の中で文句を言いながらどうにか答えを絞り出そうとするが、焦って何も考えられない。
 しかも難しい問題のようで、隣の人に聞いてもわからないと答えられてしまった。
 どうしよう……。

 すると、かさっと小さな音を立てて私の机の中に小さな紙が放り込まれる。
 開けてみると、そこには問題の答えと解法が分かりやすく記されていた。
 一体誰が?
 そう思って振り返ろうとすると、先生が黒板をこつこつと叩いた。
 これ以上怒らせるといけないと思って反射的に立ち上がり、黒板の前でチョークを手に取って答えを記す。

 すると先生は意外そうな顔をして、

 「ちゃんと分かってたのね、解法もばっちり。 ……ごめんなさいね」

 そう言って気を取り直して解説を始める。
 謝られるとなんだか罪悪感を感じるけど、とにかくうまく切り抜けられて良かったと安心した。
 この紙をくれた人にお礼を言いたくて、席に戻って周りをちらちらと見渡してみるも、誰も視線を合わせてくれず、黒板をじっと見て真面目に解説を聞いている。

 でも、私の後ろの席の人だけはわざとらしく窓から外を眺めていた。
 それがなんだか面白くて、私はくすっと笑みをこぼした後に、

 「ありがとう」

 と小声で彼に伝える。
 気付かぬふりをしているみたいだったが、頬がぽっと赤くなったのを見るとなんだかとても可愛く見えてしまった。

 この前初めてちゃんと話して、まだ彼の趣味が何だとか、好き嫌いは何だとかといった小さいことも何も知らないけれど。
 普段の彼を見ていると、何故だか彼が音楽をしている様子が頭に浮かんでは消えていく。
 そしてそれがあまりにも似合っていて、まるで違和感がない。
 それと同時にある1つのことが頭に浮かんで離れてくれない。

 私はそのとある考えを確かめるために、彼と接していこうと思うのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...