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第一章
平凡な日常と彼の姿
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数日も経てば文化祭ムードも完全に消えてしまい、平凡な日常が戻ってくる。
それでも、私はまだ浮ついた気持ちで過ごしていた。
黒板とチョークが擦れる音。
生徒のために熱心に授業をする先生の声。
真面目に授業を受けているつもりなのに、内容は全く頭に入ってこない。
まるで意識だけが私の体から抜けて独り歩きしているみたいに、無心で黒板に書いてある字をノートに写す。
耐えきれなくなってふと窓の外を覗いてみると、校庭では他のクラスが体育の授業をしていた。
空にはどんよりと雲が垂れ込めていて、心にもやがかかったような、そんな気持ちになる。
コートの中に放たれたサッカーボールにわらわらと人が群がる。
ただでさえじめじめとして蒸し暑い天気なのに、あんな密集するスポーツなんてこれっぽっちもやりたいとは思わない。
結局、外を見ているのにも飽きてしまって黒板に目を向ける。
慌てて板書をノートに写すが、一度切れてしまった集中は再び元のレベルを保つのに時間がかかるし、エネルギーも必要だ。
気を紛らわせる物がなくなり、唐突に睡魔が襲ってくる。
授業も残り10分。
これくらいなら眠くても耐えろと思うかもしれないけれど、私にとっては貴重な時間だ。
大抵、家に帰ってからもギターなどの練習をするから、寝る時間が遅くなってしまって寝不足になることがある。
特に文化祭が終わってからのここ数日は、褒められたことが嬉しくて練習に熱が入ってしまった。
この先生は基本的に寝てる人を見ても無視して授業を進めるような人だと認識してるし、授業時間も残り少ないから問題はないはず。
ありがたく寝させてもらおう。
ノートを取るのも疲れたし…………。
そして私は、予想していたよりもずっと早いタイミングで目を覚ますことになった。
「…………い。 ……い、……せ? ……っ、おい、綾瀬!」
体を揺すられて、背中から名前を呼ばれたのに気付いてがばっと勢いよく顔を上げる。
「……ふぇっ!? あっ、ごめん藤崎。 何?」
「いや、何って……ほら、前」
振り返ると、そこには苦笑いを作る藤崎の顔があって、言われた通りに前を向く。
「こら、問題演習中ですよ。 綾瀬さん、この数式を前に出て解いてください」
意外とこの人怒ると怖そう……って、そうじゃなくて。
途中まで起きてたから仮に当てられても大丈夫だと高を括っていた。
教科書を見ても私がノートを取っていたところから進んでしまっていてよくわからない。
「すいません。 ノート取ってなくてよくわからないです」
「寝ているということは授業を聞かなくても解けるからじゃなかったんですか? 少なくとも、私はそう解釈したので当てたんです。 周りに聞くなりして解いてください」
「えぇ……」
「『えぇ……』じゃありません」
どうやら先生は怒っているみたいで、私を逃すつもりはないらしい。
それにしても、私以外にも寝てる人はいたのに、なんでこういうときに限ってみんな起きてるのよ……。
もしかしてグルなの?
私を嵌めようとしてたの?
しかもなんで数学なのよ……英語ならできるのに……。
頭の中で文句を言いながらどうにか答えを絞り出そうとするが、焦って何も考えられない。
しかも難しい問題のようで、隣の人に聞いてもわからないと答えられてしまった。
どうしよう……。
すると、かさっと小さな音を立てて私の机の中に小さな紙が放り込まれる。
開けてみると、そこには問題の答えと解法が分かりやすく記されていた。
一体誰が?
そう思って振り返ろうとすると、先生が黒板をこつこつと叩いた。
これ以上怒らせるといけないと思って反射的に立ち上がり、黒板の前でチョークを手に取って答えを記す。
すると先生は意外そうな顔をして、
「ちゃんと分かってたのね、解法もばっちり。 ……ごめんなさいね」
そう言って気を取り直して解説を始める。
謝られるとなんだか罪悪感を感じるけど、とにかくうまく切り抜けられて良かったと安心した。
この紙をくれた人にお礼を言いたくて、席に戻って周りをちらちらと見渡してみるも、誰も視線を合わせてくれず、黒板をじっと見て真面目に解説を聞いている。
でも、私の後ろの席の人だけはわざとらしく窓から外を眺めていた。
それがなんだか面白くて、私はくすっと笑みをこぼした後に、
「ありがとう」
と小声で彼に伝える。
気付かぬふりをしているみたいだったが、頬がぽっと赤くなったのを見るとなんだかとても可愛く見えてしまった。
この前初めてちゃんと話して、まだ彼の趣味が何だとか、好き嫌いは何だとかといった小さいことも何も知らないけれど。
普段の彼を見ていると、何故だか彼が音楽をしている様子が頭に浮かんでは消えていく。
そしてそれがあまりにも似合っていて、まるで違和感がない。
それと同時にある1つのことが頭に浮かんで離れてくれない。
私はそのとある考えを確かめるために、彼と接していこうと思うのだった。
それでも、私はまだ浮ついた気持ちで過ごしていた。
黒板とチョークが擦れる音。
生徒のために熱心に授業をする先生の声。
真面目に授業を受けているつもりなのに、内容は全く頭に入ってこない。
まるで意識だけが私の体から抜けて独り歩きしているみたいに、無心で黒板に書いてある字をノートに写す。
耐えきれなくなってふと窓の外を覗いてみると、校庭では他のクラスが体育の授業をしていた。
空にはどんよりと雲が垂れ込めていて、心にもやがかかったような、そんな気持ちになる。
コートの中に放たれたサッカーボールにわらわらと人が群がる。
ただでさえじめじめとして蒸し暑い天気なのに、あんな密集するスポーツなんてこれっぽっちもやりたいとは思わない。
結局、外を見ているのにも飽きてしまって黒板に目を向ける。
慌てて板書をノートに写すが、一度切れてしまった集中は再び元のレベルを保つのに時間がかかるし、エネルギーも必要だ。
気を紛らわせる物がなくなり、唐突に睡魔が襲ってくる。
授業も残り10分。
これくらいなら眠くても耐えろと思うかもしれないけれど、私にとっては貴重な時間だ。
大抵、家に帰ってからもギターなどの練習をするから、寝る時間が遅くなってしまって寝不足になることがある。
特に文化祭が終わってからのここ数日は、褒められたことが嬉しくて練習に熱が入ってしまった。
この先生は基本的に寝てる人を見ても無視して授業を進めるような人だと認識してるし、授業時間も残り少ないから問題はないはず。
ありがたく寝させてもらおう。
ノートを取るのも疲れたし…………。
そして私は、予想していたよりもずっと早いタイミングで目を覚ますことになった。
「…………い。 ……い、……せ? ……っ、おい、綾瀬!」
体を揺すられて、背中から名前を呼ばれたのに気付いてがばっと勢いよく顔を上げる。
「……ふぇっ!? あっ、ごめん藤崎。 何?」
「いや、何って……ほら、前」
振り返ると、そこには苦笑いを作る藤崎の顔があって、言われた通りに前を向く。
「こら、問題演習中ですよ。 綾瀬さん、この数式を前に出て解いてください」
意外とこの人怒ると怖そう……って、そうじゃなくて。
途中まで起きてたから仮に当てられても大丈夫だと高を括っていた。
教科書を見ても私がノートを取っていたところから進んでしまっていてよくわからない。
「すいません。 ノート取ってなくてよくわからないです」
「寝ているということは授業を聞かなくても解けるからじゃなかったんですか? 少なくとも、私はそう解釈したので当てたんです。 周りに聞くなりして解いてください」
「えぇ……」
「『えぇ……』じゃありません」
どうやら先生は怒っているみたいで、私を逃すつもりはないらしい。
それにしても、私以外にも寝てる人はいたのに、なんでこういうときに限ってみんな起きてるのよ……。
もしかしてグルなの?
私を嵌めようとしてたの?
しかもなんで数学なのよ……英語ならできるのに……。
頭の中で文句を言いながらどうにか答えを絞り出そうとするが、焦って何も考えられない。
しかも難しい問題のようで、隣の人に聞いてもわからないと答えられてしまった。
どうしよう……。
すると、かさっと小さな音を立てて私の机の中に小さな紙が放り込まれる。
開けてみると、そこには問題の答えと解法が分かりやすく記されていた。
一体誰が?
そう思って振り返ろうとすると、先生が黒板をこつこつと叩いた。
これ以上怒らせるといけないと思って反射的に立ち上がり、黒板の前でチョークを手に取って答えを記す。
すると先生は意外そうな顔をして、
「ちゃんと分かってたのね、解法もばっちり。 ……ごめんなさいね」
そう言って気を取り直して解説を始める。
謝られるとなんだか罪悪感を感じるけど、とにかくうまく切り抜けられて良かったと安心した。
この紙をくれた人にお礼を言いたくて、席に戻って周りをちらちらと見渡してみるも、誰も視線を合わせてくれず、黒板をじっと見て真面目に解説を聞いている。
でも、私の後ろの席の人だけはわざとらしく窓から外を眺めていた。
それがなんだか面白くて、私はくすっと笑みをこぼした後に、
「ありがとう」
と小声で彼に伝える。
気付かぬふりをしているみたいだったが、頬がぽっと赤くなったのを見るとなんだかとても可愛く見えてしまった。
この前初めてちゃんと話して、まだ彼の趣味が何だとか、好き嫌いは何だとかといった小さいことも何も知らないけれど。
普段の彼を見ていると、何故だか彼が音楽をしている様子が頭に浮かんでは消えていく。
そしてそれがあまりにも似合っていて、まるで違和感がない。
それと同時にある1つのことが頭に浮かんで離れてくれない。
私はそのとある考えを確かめるために、彼と接していこうと思うのだった。
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