魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

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第二章

私らしさ

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 「ありがとうございました~」

 お会計をして外に出る。
 空には橙がほんのりと色を残していて、日中に比べて涼しくなった帰り道には虫たちが爽やかな四重奏を奏でている。

 「結構歌ってたんだな」
 「そうだね。 どこか行きたいところはある? デートも終盤だよ?」

 前屈みになって藤崎の顔を覗き込みながらそう言うと、『はいはい』と軽くあしらわれてしまった。
 なんだか適当に流されたような気がしてもう少し攻めてやろうかとも思ったけど、目を逸らして若干頬を赤らめる彼を見て、私も恥ずかしくなって彼から目を背ける。

 駅まではそう遠くない。
 デートだなんだと散々言っておいて何だけど、お互いに恋愛感情など持ち合わせているわけでもなく、特に2人きりの状況でドキドキするとかいうことはない。
 ただ、人間というのはどうしても雰囲気に流されてしまう生き物なのだろう。

 黄昏時。
 道の脇に並んだお洒落な店から漏れる光が、控えめに大気を彩る。
 時間の流れがゆっくりになって、心に平穏が流れるとともに、胸の奥で曖昧な形をした感情が揺れる。

 もし今、隣を歩く彼が突然想いを打ち明けてきたら。
 そんなことを不意に思っては、恥ずかしくなってすぐにかき消す。

 こんな気分になるのも状況が状況だから、仕方ない。

 「なぁ」
 「!?」

 突然声をかけられて反射で肩を跳ねさせる。
 ほら。
 余計な意識をするとこうなる。

 「……どした?」
 「あ、いや……なんでもない。 藤崎こそ、なんかあった?」
 「えっと……うん。 あのさ」
 「うん。 何?」
 「カフェにでも寄っていかないか?」
 「え?」
 「え?」

 思いがけない言葉が聞こえてきて彼に訊き返すと、彼が間の抜けた顔をしているのを見て笑ってしまう。

 「なんで笑ってるんだよ。 なんかおかしかったか?」
 「ん~? 藤崎、髪にゴミついちゃってるよ」
 「え、本当に? どこだ?」
 「嘘です~」
 「おい」

 からかわれて見るからに不機嫌な表情を作る彼にまた私は笑う。

 「いいよ。 行こっか」
 「ん」

 そこからまた無言の時間が続く。
 まさか淡白な彼が誘ってくるとは思わなかった。
 カフェに向かう途中で、誘うのがちょっと恥ずかしかったのか、視線をゆらゆらと彷徨わせていた彼を思い出すとなんだか可愛く思えてきて、また笑ってしまう。
 『なんだこいつ』とでも言いたげな表情を向けられたのには少し腹を立てたけど、一言も話さずに歩を進める。

 「いらっしゃいませー!」

 カフェにはパソコンの前で必死に手を動かす人がいれば、どっかりと椅子に座って本を読む人もいるし、友達と楽しそうに話す人もいる。

 カフェというたった1つの空間の中に、普通ならば混ざることのない雰囲気が同居している。
 私はカフェのこういった特殊な雰囲気が好きだ。

 「とりあえず、席どうする。 中は混んでて席空いてなさそうだけど」
 「中空いてないんなら外の席でいいんじゃない? 暑くも寒くもない、ちょうどいい気温だし」
 「そうするか。 とりあえず、俺は外の席取って待ってるから、先に買ってきていいよ」
 「ん、ありがとっ」

 お言葉に甘えて私は列に並ぶ。
 いつも通りマンゴーのアイスティーを頼んで、彼が待っているであろう場所に向かう。

 「おかえり。 早かったな」
 「うん、意外と並んでなかったよ」
 「そっか。 じゃあ行ってくるよ」
 「はーい」

 彼の後ろ姿を見送って、冷たい液体を流し込む。
 甘酸っぱさを舌の上で転がしながら、私はこの後どうするかを考えていた。
 彼と1対1で話せるのはそれほど多くない。
 機会を作ろうと思えば作れなくもないけど、彼が応じるかどうかは別だし。

 頭の中でいくつもの考えが浮かんでは消えていく。
 そうしているうちに藤崎は飲み物を片手に戻ってきた。

 「そんな曇った顔してどうしたんだよ」

 その後に彼が続けた言葉は私の頭の中をうろつく霧を払う。

 「綾瀬らしくない」

 そうだ。
 こんなのは私じゃない。

 「藤崎、話したいことがあるんだけど」
 「何?」

 頭の中で繰り返した言葉を形にする。

 「私と音楽やろ?」
 「…………はぁ?」

 こうして、私は私らしい行動を選択した。
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