魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

文字の大きさ
30 / 45
第二章

私らしさ

しおりを挟む
 「ありがとうございました~」

 お会計をして外に出る。
 空には橙がほんのりと色を残していて、日中に比べて涼しくなった帰り道には虫たちが爽やかな四重奏を奏でている。

 「結構歌ってたんだな」
 「そうだね。 どこか行きたいところはある? デートも終盤だよ?」

 前屈みになって藤崎の顔を覗き込みながらそう言うと、『はいはい』と軽くあしらわれてしまった。
 なんだか適当に流されたような気がしてもう少し攻めてやろうかとも思ったけど、目を逸らして若干頬を赤らめる彼を見て、私も恥ずかしくなって彼から目を背ける。

 駅まではそう遠くない。
 デートだなんだと散々言っておいて何だけど、お互いに恋愛感情など持ち合わせているわけでもなく、特に2人きりの状況でドキドキするとかいうことはない。
 ただ、人間というのはどうしても雰囲気に流されてしまう生き物なのだろう。

 黄昏時。
 道の脇に並んだお洒落な店から漏れる光が、控えめに大気を彩る。
 時間の流れがゆっくりになって、心に平穏が流れるとともに、胸の奥で曖昧な形をした感情が揺れる。

 もし今、隣を歩く彼が突然想いを打ち明けてきたら。
 そんなことを不意に思っては、恥ずかしくなってすぐにかき消す。

 こんな気分になるのも状況が状況だから、仕方ない。

 「なぁ」
 「!?」

 突然声をかけられて反射で肩を跳ねさせる。
 ほら。
 余計な意識をするとこうなる。

 「……どした?」
 「あ、いや……なんでもない。 藤崎こそ、なんかあった?」
 「えっと……うん。 あのさ」
 「うん。 何?」
 「カフェにでも寄っていかないか?」
 「え?」
 「え?」

 思いがけない言葉が聞こえてきて彼に訊き返すと、彼が間の抜けた顔をしているのを見て笑ってしまう。

 「なんで笑ってるんだよ。 なんかおかしかったか?」
 「ん~? 藤崎、髪にゴミついちゃってるよ」
 「え、本当に? どこだ?」
 「嘘です~」
 「おい」

 からかわれて見るからに不機嫌な表情を作る彼にまた私は笑う。

 「いいよ。 行こっか」
 「ん」

 そこからまた無言の時間が続く。
 まさか淡白な彼が誘ってくるとは思わなかった。
 カフェに向かう途中で、誘うのがちょっと恥ずかしかったのか、視線をゆらゆらと彷徨わせていた彼を思い出すとなんだか可愛く思えてきて、また笑ってしまう。
 『なんだこいつ』とでも言いたげな表情を向けられたのには少し腹を立てたけど、一言も話さずに歩を進める。

 「いらっしゃいませー!」

 カフェにはパソコンの前で必死に手を動かす人がいれば、どっかりと椅子に座って本を読む人もいるし、友達と楽しそうに話す人もいる。

 カフェというたった1つの空間の中に、普通ならば混ざることのない雰囲気が同居している。
 私はカフェのこういった特殊な雰囲気が好きだ。

 「とりあえず、席どうする。 中は混んでて席空いてなさそうだけど」
 「中空いてないんなら外の席でいいんじゃない? 暑くも寒くもない、ちょうどいい気温だし」
 「そうするか。 とりあえず、俺は外の席取って待ってるから、先に買ってきていいよ」
 「ん、ありがとっ」

 お言葉に甘えて私は列に並ぶ。
 いつも通りマンゴーのアイスティーを頼んで、彼が待っているであろう場所に向かう。

 「おかえり。 早かったな」
 「うん、意外と並んでなかったよ」
 「そっか。 じゃあ行ってくるよ」
 「はーい」

 彼の後ろ姿を見送って、冷たい液体を流し込む。
 甘酸っぱさを舌の上で転がしながら、私はこの後どうするかを考えていた。
 彼と1対1で話せるのはそれほど多くない。
 機会を作ろうと思えば作れなくもないけど、彼が応じるかどうかは別だし。

 頭の中でいくつもの考えが浮かんでは消えていく。
 そうしているうちに藤崎は飲み物を片手に戻ってきた。

 「そんな曇った顔してどうしたんだよ」

 その後に彼が続けた言葉は私の頭の中をうろつく霧を払う。

 「綾瀬らしくない」

 そうだ。
 こんなのは私じゃない。

 「藤崎、話したいことがあるんだけど」
 「何?」

 頭の中で繰り返した言葉を形にする。

 「私と音楽やろ?」
 「…………はぁ?」

 こうして、私は私らしい行動を選択した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...