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第二章
閉ざされた扉、ノックの音
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私が彼に対して誘いの言葉を口にすると、彼の表情が一気に曇る。
まだ彼の心の奥底には音楽に対する嫌悪感が眠っているみたいだ。
「どうしてまたそんなことを?」
「私が藤崎とやりたいから。 ただそれだけの話」
食い気味に私は話を進める。
きっと余裕を与えると彼はうまく逃げるだろうから、それなら強引にでも話を進めたい。
それでも無理なら、また他を考えるしかない。
「私はどうしても藤崎と音楽がしたいの」
「嫌だ」
「どうして?」
「嫌なものは嫌なんだよ」
彼の淡白さからくる言葉が私の心をじわじわと抉る。
でもこれは話す前から分かってたこと。
これくらいで引く気はない。
「それってサッカー部に入ってるから、辞めたくないってこと? それなら気にすることない。 音楽部は基本的に兼部しても大丈夫だし、練習はバンドごとに決められてるから基本は自主練で、時間があるときに集まって練習すればいい」
「……違う」
私の言葉は多くを言わずに否定される。
まだ引かない。
話し方が強引で攻撃的になりすぎないように注意をしながら、優しく彼に言葉をかける。
「実力に関しては心配することないよ。 藤崎の歌は多分他のどのボーカルよりも上手いと思うし、これからまだまだ伸ばせるとーー」
「違うんだよ」
突然彼が語気を強め、思わず首を竦めてしまう。
彼は私の様子を見て『悪い』と小さく謝る。
それから彼は、一語一語慎重に言葉を選んで喋り始めた。
「俺が音楽部に入らない理由も、そもそも音楽から身を遠ざけている理由も、部活がどうとかじゃないんだ」
「なら、何?」
言うか言うまいか逡巡したのちに、思い口を開く。
「俺は…………音楽をやる自分が許せないんだ」
「それって……藤崎が、藤崎自身を許せないってこと?」
「そうだよ。 俺は音楽をやるべきじゃない」
「どうして…………? あんなに歌が上手いのに……」
「歌が上手い、か……。 もし俺が歌が上手くなければ、こうなることもなかったと思うんだけどな……」
「その話、聞かせてくれない?」
彼と接するうえで、この話は知っておかなければいけない。
そう悟った私は、なるべく優しい声を意識して彼に声をかけた。
彼の語ってくれた過去は、音楽をしている私にとって良くも悪くも大きな衝撃を与えるものだった。
バンドを作ったはいいものの、時間だけが過ぎてゆく日々。
ライブに参加しても見向きもされない。
それどころか罵声を浴びせられる私とは正反対の人生を彼は歩んできたのだ。
歌うことが大好きな少年はクラスメイトに誘われてバンドのボーカルに。
歌に対する想いと持ち続けていた向上心からその少年は徐々に、確実に実力をつけていく。
1回目のライブを成功させてもまだ高みを目指す少年は、成功を知って大きく成長を遂げる。
2回目のライブでも大成功を収め、学校ではある程度の知名度を得た少年たちは今後のライブにも期待がかかるが、3回目のライブを最後に早くも解散してしまう。
そして少年はサッカー部に転部し、のらりくらりと生きて今に至る。
これだけを聞くと、才能を開花させた少年の話だ。
しかし、この話には違和感がある。
バンド結成から解散までが早いことだ。
バンド解散、ということは実質退部を意味する。
部活動は特定の事情がなければ基本的に3年間やり通すのが普通だろう。
ただ、彼らは1年も経たずに解散してしまった。
この話には、裏がある。
「解散の理由って、何?」
これ以上踏み込むのには勇気が必要だった。
しかし、彼をバンドのメンバーとして勧誘する以前に、私は彼の友達でありたい。
どっちにしろ、避けては通れない道だと考えた私は、彼の心にある閉ざされた扉をノックするように穏やかに聞いた。
俯く。
もしかしたらこれ以上は教えてくれないのかもしれない、そう思っていたが、彼は心を開いてくれた。
「解散の理由は、至って単純。 ……俺と他のメンバーとの、音楽に対する価値観の相違だ」
「価値観の相違?」
彼は再び淡々と語り始める。
まだ彼の心の奥底には音楽に対する嫌悪感が眠っているみたいだ。
「どうしてまたそんなことを?」
「私が藤崎とやりたいから。 ただそれだけの話」
食い気味に私は話を進める。
きっと余裕を与えると彼はうまく逃げるだろうから、それなら強引にでも話を進めたい。
それでも無理なら、また他を考えるしかない。
「私はどうしても藤崎と音楽がしたいの」
「嫌だ」
「どうして?」
「嫌なものは嫌なんだよ」
彼の淡白さからくる言葉が私の心をじわじわと抉る。
でもこれは話す前から分かってたこと。
これくらいで引く気はない。
「それってサッカー部に入ってるから、辞めたくないってこと? それなら気にすることない。 音楽部は基本的に兼部しても大丈夫だし、練習はバンドごとに決められてるから基本は自主練で、時間があるときに集まって練習すればいい」
「……違う」
私の言葉は多くを言わずに否定される。
まだ引かない。
話し方が強引で攻撃的になりすぎないように注意をしながら、優しく彼に言葉をかける。
「実力に関しては心配することないよ。 藤崎の歌は多分他のどのボーカルよりも上手いと思うし、これからまだまだ伸ばせるとーー」
「違うんだよ」
突然彼が語気を強め、思わず首を竦めてしまう。
彼は私の様子を見て『悪い』と小さく謝る。
それから彼は、一語一語慎重に言葉を選んで喋り始めた。
「俺が音楽部に入らない理由も、そもそも音楽から身を遠ざけている理由も、部活がどうとかじゃないんだ」
「なら、何?」
言うか言うまいか逡巡したのちに、思い口を開く。
「俺は…………音楽をやる自分が許せないんだ」
「それって……藤崎が、藤崎自身を許せないってこと?」
「そうだよ。 俺は音楽をやるべきじゃない」
「どうして…………? あんなに歌が上手いのに……」
「歌が上手い、か……。 もし俺が歌が上手くなければ、こうなることもなかったと思うんだけどな……」
「その話、聞かせてくれない?」
彼と接するうえで、この話は知っておかなければいけない。
そう悟った私は、なるべく優しい声を意識して彼に声をかけた。
彼の語ってくれた過去は、音楽をしている私にとって良くも悪くも大きな衝撃を与えるものだった。
バンドを作ったはいいものの、時間だけが過ぎてゆく日々。
ライブに参加しても見向きもされない。
それどころか罵声を浴びせられる私とは正反対の人生を彼は歩んできたのだ。
歌うことが大好きな少年はクラスメイトに誘われてバンドのボーカルに。
歌に対する想いと持ち続けていた向上心からその少年は徐々に、確実に実力をつけていく。
1回目のライブを成功させてもまだ高みを目指す少年は、成功を知って大きく成長を遂げる。
2回目のライブでも大成功を収め、学校ではある程度の知名度を得た少年たちは今後のライブにも期待がかかるが、3回目のライブを最後に早くも解散してしまう。
そして少年はサッカー部に転部し、のらりくらりと生きて今に至る。
これだけを聞くと、才能を開花させた少年の話だ。
しかし、この話には違和感がある。
バンド結成から解散までが早いことだ。
バンド解散、ということは実質退部を意味する。
部活動は特定の事情がなければ基本的に3年間やり通すのが普通だろう。
ただ、彼らは1年も経たずに解散してしまった。
この話には、裏がある。
「解散の理由って、何?」
これ以上踏み込むのには勇気が必要だった。
しかし、彼をバンドのメンバーとして勧誘する以前に、私は彼の友達でありたい。
どっちにしろ、避けては通れない道だと考えた私は、彼の心にある閉ざされた扉をノックするように穏やかに聞いた。
俯く。
もしかしたらこれ以上は教えてくれないのかもしれない、そう思っていたが、彼は心を開いてくれた。
「解散の理由は、至って単純。 ……俺と他のメンバーとの、音楽に対する価値観の相違だ」
「価値観の相違?」
彼は再び淡々と語り始める。
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