魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

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第二章

内に秘めたもの

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 「本日はありがとうございました。 気をつけ、礼っ」

 形式ばった挨拶を済ませて、俺たちはようやくこの張り詰めた空気から解放される。

 「楽、あいつと一緒に帰るか? なんで来てるのか分からないけど」
 「俺もさっぱりだ。 どっちみち帰る方向は同じになるけど……」

 周囲を見渡す。
 まだ他の奴らも帰る準備をしている段階だから、このままいくと帰るのは同じになるだろう。
 そこで俺が女子と歩いていたらどうなるか。
 想像するのはそう難しくない。

 俺はさっさと着替えを済ませ、制汗剤をつけると誰よりも早く立ち上がった。

 「じゃあ、俺はもう帰るな。 お疲れ」
 「おう、お疲れ様」

 軽い会話を交わし、ここに来るときに入ってきた門を通って外に出る。

 その門の横に、先ほどの人物が立っていた。
 音楽部の話もあったことだし、まだ綾瀬なら来てもわかる。
 ただ、どう考えてもこの場に来る必要がないはずの彼女に俺は疑問をぶつける。

 「…………椎名、どうしてここに?」
 「さあ、どうしてでしょうか。 気が向いたのでちょっと来てみました」
 「綾瀬は?」
 「多分学校で自主練してるかと」
 「1人で来たんだよな? 誰に会いに来たんだ?」
 「わかってるから一番最初に出てきたんじゃないですか?」

 これ以上深掘りしても特に何もないことを俺は悟り、ゆっくりと歩き出す。
 勉強会のときにわかったことだが、俺と椎名と綾瀬は最寄り駅が近いらしい。

 「いつから見てたんだ?」
 「質問ばっかりじゃないですか。 見られたくなかったんですか?」
 「いや、そういうわけじゃないけど……さ。 公式戦とかならまだしもただの練習試合だし、そもそも俺って上手い方じゃないし……」
 「今日のプレーを見てたら全くそうは思えませんが」

 ジトっとした視線を向けられる。
 人間は精密機械ではない。
 常に同じ状態でいられるわけでもないし、調子が良い時もあれば悪い時もある。

 「たまたま今日は調子が良かっただけだ」
 「そういうことにしておきます」
 「……本当にわかってるのか?」
 「わかってます。 謙遜してるだけですよね?」
 「いやだから…………まあいっか」

 俺の反応を見てくすくすと笑みをこぼす椎名。
 ただ単にからかっているだけなのだろう。
 最初に出会ってからそれほど期間が経っているわけではないが、少しずつ彼女との距離も近付いているような気がする。

 しばしの沈黙。
 女子と2人きりの帰り道。
 俺は決してコミュ障ではない。
 ではないが……こういう場面には慣れていない。

 そもそも女子と付き合ったこともなければ、誰かに一途な想いを抱いたこともなかった。
 そこまで恋愛経験もなければ、逆に気にしないという手立てもあるのだろうが、それは男として無理な話だ。

 隣にいる椎名の容姿は整っていてスタイルも良い。
 性格上、誰にでも気さくに話しかけたりすることがないから友人はそこまで多くなさそうだが、男子内では評判が上がったりもしている。
 要するに何が言いたいのか?
 めちゃくちゃ緊張してる。

 「あの」
 「……っ!」

 突然声がかかって俺は肩を跳ねさせるが、彼女はそんな俺の様子に気付くこともなくぼんやりと空を見つめている。

 「…………」
 「…………どうした?」

 俺が聞き返すと、彼女は俺に視線を戻して首を横に振る。

 「やっぱりなんでもないです」

 大抵、そう言うときは何かがあるものだ。

 「あー……なんかうまく会話繋げなくてごめんな……」
 「あっ、いや、そこは気にしなくて大丈夫っていうか……。 私もあんまり得意ではないですし…………」

 再び静寂が訪れる。
 うん、余計に気まずくなったな。
 結局彼女が何故来たのかもまだ聞けていない。

 少しずつ攻めていくか。

 「それで、今日試合を見てどうだった? 面白かったか?」
 「そうですね……やっぱりサッカーは奥深いと思いましたよ」

 奥深い、か。
 なんとなく着眼点が普通の人とは違うような印象を受ける。
 智和のプレーは誰が見てもわかるほど目立っていたし、自分で言うのもなんだが俺のプレーも割と印象的なはずだが。

 「サッカーが奥深いって言うのは……なんていうか珍しいな」
 「そうですかね?」
 「あくまで俺の個人的な推測……まあ言うなれば偏見になるけど、サッカーとかスポーツを見ている人の大半は細かいところを気にしてないと思うんだ。 良いプレーがあればそこに目がいく」
 「確かに、さっきの試合は良いプレーが何度もありましたね。 特に二ツ橋くん。 彼が上手いという噂は聞きましたけど、予想よりも凄かったです」

 少し興奮した様子を見せる。

 「流石だよな。 視野が広くてスペースがよく見えてる。 完璧だよ」
 「それだけでしょうか」
 「え?」

 彼女は俺の言葉に対して意味深な発言を投げかける。
 まるでまだ何かを知っているように。

 「二ツ橋くんが本当に凄いのは、単純な技術やサッカーセンスだけじゃないと思うんですよね」
 「じゃあ逆に何があるんだ?」
 「心理。 それもサッカーに限らないものだと私は思います」

 そう言って彼女は鞄からノートとシャーペンを取り出し、小難しい顔で1分ほどノートに筆を走らせると、俺にノートを突き出すようにして見せる。

 「この場面、彼のポテンシャルの高さが最も表に出たと思われる場面です」

 そこに描いてあったのは簡略化されたピッチの図。
 俺が点を決めたシーンだ。
 そしてその図には、俺や智和はもちろん、味方や相手選手を含めた22人全員の位置と体の向き、そしてその動き方までもが事細かに記されていた。
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