魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

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第三章

無彩色と雑然としたキャンバス

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 朝。
 普段通り制服姿で電車に乗って学校の最寄りの駅へと向かう。

 1学期も今日で終わり。
 そう思うと、なんだか妙な達成感を覚える。

 2年生になってから気付けば数ヶ月。
 早いものだ。
 2年生に上がった頃は内心既に学校生活に飽き始めていたところだって言うのに、今となっては学校が楽しいとまで思うようになった。

 それもこれも人との関わりが増えたからだろう。
 ぼやけたグレー色をした俺の毎日にペンキを持って現れた彼は、乱暴に俺の学校生活というキャンバスに色を塗っていった。
 おかげでキャンバスは大荒れだ。
 元々グレーで塗りつぶされていたところはほとんど残っておらず、今では色鮮やかな見た目に生まれ変わっている。
 智和と同じクラスじゃなかったらこうはいかなかったかもしれないから、彼には本当に感謝しなければならない。

 ただ、俺のキャンバスにはまだグレーが残ったままだ。
 決して塗りつぶすようなことはしない。
 そんなことをしたら面影っていうものがなくなってしまうから。
 でも、グレーが目立っているようじゃ不格好だ。
 だから、後は俺がゆっくり色を塗っていけばいい。

 焦る必要はどこにもないんだ。





 いつもより30分程早く学校に着く。
 まだ校舎内に生徒がいる様子はなく、音のない校舎に蝉の声が響く。
 これも非日常のひとつ。
 非常に趣深い。

 『夏は夜。 月の頃はさらなり、闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。 また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。 雨など降るも、をかし』

 いつか聞いた一節を思い浮かべる。
 名前は……なんて言ったっけな。
 ……忘れた。
 ただ、このように昔の人が言うには、夏は夜が似合うとのことらしい。

 たしかにそう言いたくなる気持ちはわかる。
 俺たち高校生にとって、夏休みというものは取って代わることのできない最大のイベントだ。
 まあ、小学生だろうが中学生だろうが、大学生になって社会人になろうが夏休みというものは最大のイベントなのだろうけど……俺が言いたいのはそういうことじゃない。

 青春の真っ只中。
 その青春を彩るには夏は欠かせない。
 今日の昼を過ぎればこの学校も夏休みに入る。
 真夏の約2週間は行動を制限されることにはなるが、それでも夏はイベントが目白押しだ。
 部活をやっている人は大会があったり。
 有り余った時間を使って旅行に行ったりと、やることは自由だ。

 特に夜といえば花火大会だろう。
 意中の人と手を繋いで暗闇に咲く花を見つめる……なんて青春も実際にあったりする。
 昔の人が示しているものとは違うかもしれないが、これも時代の変化だし、あながち言っていることは間違っていない。

 でも、今時の日本人は損をしていると、俺は言いたい。
 趣なんて露知らず、便利な世の中ただ一つを目指して突き進んでいく。
 そんなご時世だ、花火大会とか大きなイベントは突然残されるが、逆にいえば些細なものは消えていく時代になっている。

 そんな時だからこそ、静まりかえった校舎の中、ただ蝉の声を聞いて時を過ごすなんてことも趣があるというものだ。
 夜なんて今どきはどこも慌ただしい。
 ゆっくり過ごすのも良いものだ。

 ……なんて、ひとり頭の中で昔の人に直接対決を挑もうとしてみたり。

 盛大な茶番劇を自己完結させて、教室に着く。
 もちろん教室内にも人は1人もいない。
 自分の席に鞄を置き、すぐに教室を出る。
 後から来た人のためにエアコンをつけておくことも忘れずに。

 そうして向かった先は職員室。
 ドアの窓から中を覗くと、ちょうど俺が会いたかった人と視線が交わる。
 視線に気付いてこちらに向かってくる。
 少しだけ跳ねる心臓を押さえつけて待つ。

 「おはよう藤崎。 やけに早いな。 朝からどうしたんだ?」
 「おはようございます。 少し先生とお話ししたいことがありまして……今お時間よろしいでしょうか」
 「今か? ちょっと待っててくれ」

 先生は中に戻って数分でまた俺の元に来た。

 「よし、いいぞ。 話を聞こう」
 「あの、先生。 少し長くなってしまうかもしれないのですが……」
 「こんな早い時間に来てる時点でそんな気はしていたよ。 立ち話するのも疲れるだろ。 飲み物でも買って、応接室で話そう」

 そうして、俺と先生は歩き出す。
 途中にある自動販売機で先生からお茶を奢ってもらい、応接室へ。

 「さて、用件は何だ?」

 俺は、自分の心にもう一度確認をとってから、ハッキリと言葉にする。



 「……サッカー部を、辞めさせていただけませんか」
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