40 / 45
第三章
無彩色と雑然としたキャンバス
しおりを挟む
朝。
普段通り制服姿で電車に乗って学校の最寄りの駅へと向かう。
1学期も今日で終わり。
そう思うと、なんだか妙な達成感を覚える。
2年生になってから気付けば数ヶ月。
早いものだ。
2年生に上がった頃は内心既に学校生活に飽き始めていたところだって言うのに、今となっては学校が楽しいとまで思うようになった。
それもこれも人との関わりが増えたからだろう。
ぼやけたグレー色をした俺の毎日にペンキを持って現れた彼は、乱暴に俺の学校生活というキャンバスに色を塗っていった。
おかげでキャンバスは大荒れだ。
元々グレーで塗りつぶされていたところはほとんど残っておらず、今では色鮮やかな見た目に生まれ変わっている。
智和と同じクラスじゃなかったらこうはいかなかったかもしれないから、彼には本当に感謝しなければならない。
ただ、俺のキャンバスにはまだグレーが残ったままだ。
決して塗りつぶすようなことはしない。
そんなことをしたら面影っていうものがなくなってしまうから。
でも、グレーが目立っているようじゃ不格好だ。
だから、後は俺がゆっくり色を塗っていけばいい。
焦る必要はどこにもないんだ。
いつもより30分程早く学校に着く。
まだ校舎内に生徒がいる様子はなく、音のない校舎に蝉の声が響く。
これも非日常のひとつ。
非常に趣深い。
『夏は夜。 月の頃はさらなり、闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。 また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。 雨など降るも、をかし』
いつか聞いた一節を思い浮かべる。
名前は……なんて言ったっけな。
……忘れた。
ただ、このように昔の人が言うには、夏は夜が似合うとのことらしい。
たしかにそう言いたくなる気持ちはわかる。
俺たち高校生にとって、夏休みというものは取って代わることのできない最大のイベントだ。
まあ、小学生だろうが中学生だろうが、大学生になって社会人になろうが夏休みというものは最大のイベントなのだろうけど……俺が言いたいのはそういうことじゃない。
青春の真っ只中。
その青春を彩るには夏は欠かせない。
今日の昼を過ぎればこの学校も夏休みに入る。
真夏の約2週間は行動を制限されることにはなるが、それでも夏はイベントが目白押しだ。
部活をやっている人は大会があったり。
有り余った時間を使って旅行に行ったりと、やることは自由だ。
特に夜といえば花火大会だろう。
意中の人と手を繋いで暗闇に咲く花を見つめる……なんて青春も実際にあったりする。
昔の人が示しているものとは違うかもしれないが、これも時代の変化だし、あながち言っていることは間違っていない。
でも、今時の日本人は損をしていると、俺は言いたい。
趣なんて露知らず、便利な世の中ただ一つを目指して突き進んでいく。
そんなご時世だ、花火大会とか大きなイベントは突然残されるが、逆にいえば些細なものは消えていく時代になっている。
そんな時だからこそ、静まりかえった校舎の中、ただ蝉の声を聞いて時を過ごすなんてことも趣があるというものだ。
夜なんて今どきはどこも慌ただしい。
ゆっくり過ごすのも良いものだ。
……なんて、独り頭の中で昔の人に直接対決を挑もうとしてみたり。
盛大な茶番劇を自己完結させて、教室に着く。
もちろん教室内にも人は1人もいない。
自分の席に鞄を置き、すぐに教室を出る。
後から来た人のためにエアコンをつけておくことも忘れずに。
そうして向かった先は職員室。
ドアの窓から中を覗くと、ちょうど俺が会いたかった人と視線が交わる。
視線に気付いてこちらに向かってくる。
少しだけ跳ねる心臓を押さえつけて待つ。
「おはよう藤崎。 やけに早いな。 朝からどうしたんだ?」
「おはようございます。 少し先生とお話ししたいことがありまして……今お時間よろしいでしょうか」
「今か? ちょっと待っててくれ」
先生は中に戻って数分でまた俺の元に来た。
「よし、いいぞ。 話を聞こう」
「あの、先生。 少し長くなってしまうかもしれないのですが……」
「こんな早い時間に来てる時点でそんな気はしていたよ。 立ち話するのも疲れるだろ。 飲み物でも買って、応接室で話そう」
そうして、俺と先生は歩き出す。
途中にある自動販売機で先生からお茶を奢ってもらい、応接室へ。
「さて、用件は何だ?」
俺は、自分の心にもう一度確認をとってから、ハッキリと言葉にする。
「……サッカー部を、辞めさせていただけませんか」
普段通り制服姿で電車に乗って学校の最寄りの駅へと向かう。
1学期も今日で終わり。
そう思うと、なんだか妙な達成感を覚える。
2年生になってから気付けば数ヶ月。
早いものだ。
2年生に上がった頃は内心既に学校生活に飽き始めていたところだって言うのに、今となっては学校が楽しいとまで思うようになった。
それもこれも人との関わりが増えたからだろう。
ぼやけたグレー色をした俺の毎日にペンキを持って現れた彼は、乱暴に俺の学校生活というキャンバスに色を塗っていった。
おかげでキャンバスは大荒れだ。
元々グレーで塗りつぶされていたところはほとんど残っておらず、今では色鮮やかな見た目に生まれ変わっている。
智和と同じクラスじゃなかったらこうはいかなかったかもしれないから、彼には本当に感謝しなければならない。
ただ、俺のキャンバスにはまだグレーが残ったままだ。
決して塗りつぶすようなことはしない。
そんなことをしたら面影っていうものがなくなってしまうから。
でも、グレーが目立っているようじゃ不格好だ。
だから、後は俺がゆっくり色を塗っていけばいい。
焦る必要はどこにもないんだ。
いつもより30分程早く学校に着く。
まだ校舎内に生徒がいる様子はなく、音のない校舎に蝉の声が響く。
これも非日常のひとつ。
非常に趣深い。
『夏は夜。 月の頃はさらなり、闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。 また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。 雨など降るも、をかし』
いつか聞いた一節を思い浮かべる。
名前は……なんて言ったっけな。
……忘れた。
ただ、このように昔の人が言うには、夏は夜が似合うとのことらしい。
たしかにそう言いたくなる気持ちはわかる。
俺たち高校生にとって、夏休みというものは取って代わることのできない最大のイベントだ。
まあ、小学生だろうが中学生だろうが、大学生になって社会人になろうが夏休みというものは最大のイベントなのだろうけど……俺が言いたいのはそういうことじゃない。
青春の真っ只中。
その青春を彩るには夏は欠かせない。
今日の昼を過ぎればこの学校も夏休みに入る。
真夏の約2週間は行動を制限されることにはなるが、それでも夏はイベントが目白押しだ。
部活をやっている人は大会があったり。
有り余った時間を使って旅行に行ったりと、やることは自由だ。
特に夜といえば花火大会だろう。
意中の人と手を繋いで暗闇に咲く花を見つめる……なんて青春も実際にあったりする。
昔の人が示しているものとは違うかもしれないが、これも時代の変化だし、あながち言っていることは間違っていない。
でも、今時の日本人は損をしていると、俺は言いたい。
趣なんて露知らず、便利な世の中ただ一つを目指して突き進んでいく。
そんなご時世だ、花火大会とか大きなイベントは突然残されるが、逆にいえば些細なものは消えていく時代になっている。
そんな時だからこそ、静まりかえった校舎の中、ただ蝉の声を聞いて時を過ごすなんてことも趣があるというものだ。
夜なんて今どきはどこも慌ただしい。
ゆっくり過ごすのも良いものだ。
……なんて、独り頭の中で昔の人に直接対決を挑もうとしてみたり。
盛大な茶番劇を自己完結させて、教室に着く。
もちろん教室内にも人は1人もいない。
自分の席に鞄を置き、すぐに教室を出る。
後から来た人のためにエアコンをつけておくことも忘れずに。
そうして向かった先は職員室。
ドアの窓から中を覗くと、ちょうど俺が会いたかった人と視線が交わる。
視線に気付いてこちらに向かってくる。
少しだけ跳ねる心臓を押さえつけて待つ。
「おはよう藤崎。 やけに早いな。 朝からどうしたんだ?」
「おはようございます。 少し先生とお話ししたいことがありまして……今お時間よろしいでしょうか」
「今か? ちょっと待っててくれ」
先生は中に戻って数分でまた俺の元に来た。
「よし、いいぞ。 話を聞こう」
「あの、先生。 少し長くなってしまうかもしれないのですが……」
「こんな早い時間に来てる時点でそんな気はしていたよ。 立ち話するのも疲れるだろ。 飲み物でも買って、応接室で話そう」
そうして、俺と先生は歩き出す。
途中にある自動販売機で先生からお茶を奢ってもらい、応接室へ。
「さて、用件は何だ?」
俺は、自分の心にもう一度確認をとってから、ハッキリと言葉にする。
「……サッカー部を、辞めさせていただけませんか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる