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怪奇事変 監視員
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ある豪邸の監視を任された会社がある。
それは空き巣を狙った犯罪などを防止する目的もあるが、一番は“雇い主”がとても心配性と言う事である。
「先輩、これで良いんですか?」
男は隣で監視映像に目を離し頷く。
「ああ、問題ない。兎に角、俺等は24時間、リアルタイムでこの家族を監視するのが目的だ」
「今更ですが、どうしてそんな事を?」
「心配性なんだってよ、旦那の方が過度に、理由は分からないけど金払いは良いらしい、うちの会社の社長との昔の仲で特別にって」
「自分なら24時間監視なんて嫌ですね」
「俺もだ。普通に考えて牢獄に監修されてる犯罪者と同じ扱いじゃねーかって思うよ」
カップ麺を食しながら答える先輩に、自分もコンビニで買ってきた弁当を食す。
基本的にこの監視カメラを通して見えるモニター部屋は幾つかあるが、此処は特段特別になっている。
先ほど出たこの会社の社長の親友と言う事で特別に監視されている友人専用のモニター室と言った所だ、出入りは原則お手洗いのみで、8時間交代となっている。
モニターには複数の部屋が観察されており、室内の隅々まで見れてしまう為、当然――
「リアルタイムで見れるのは――毎回キャストが同じなのは興奮しねーな」
「先輩、下品ですよ」
当然、秘め事なども包み隠さず丸裸にされている状態である。
それは子供達も同様だった。
初日なんて風呂で子供たちが入る映像なども映されており、未成熟な身体を見てしまった際は、目を潰したくなった。
「よく奥さんも許しましたよね」
「ああ、つうか……知らないのか?」
「はい?」
「此処に来てから何年だっけ?」
「まだ1年です」
「なら知らねーか」
ずるずるっと容器の中にある麺を啜り答える。
「あの家はな、ある“理由”が原因で監視対象になってるって噂だぜ」
「理由ですか?」
「ああ、なんでも家の中で怪奇現象が起こるらしい、原因も分からない、専門家を呼んでも解決できない、謎だらけだ」
空になった容器の中に、割り箸を投げつける様に放り、背もたれに寄りかかる。
「存在するのかね……“幽霊”なんて」
「……“幽霊”……ですか」
それは確かに分からない。
怪奇現象などこの1年監視モニターを通じて見てても何も映らなかったし、そんな所に遭遇した事はなかったから尚の事、今の話は驚きを隠せない。
「まぁ、居ても居なくても、金が入れば俺としてはどちらでも構わないなんだけどな~」
携帯を片手に先輩はモニターの至る所を調べている。
自分も食事をしながらモニターを覗き込んでいると、ふわりっと何か白い影の様なモノが洗面所辺りで通ったような気がした。
気になってその場所を巻き戻すと、やはり白い影は浮かびあがっていた。
「先輩、これ」
「ん?」
気になった白い影を指さし先輩に報告すると、しばらく目を細めて見ていたが空笑いをして直ぐに携帯に目を落とす。
「きっと埃か何か舞ったんだろ、んな重要な事じゃねーよ」
「……そう…ですかね」
明らかに埃が舞った様には見えないこの白い影……気のせいか、人の顔の様に映って見えるのは自分の目の錯覚だろうかと考えるが止めた。
しばらくそんな事をしていると、渦中の夫妻も事を済ませ就寝している様子だった。
子供部屋では男の子と女の子が寝ている。
「(可哀想に、こんな年端もいかない子達も監視対象なんて、きっと成長した時に知ったら最悪な気持ちになるだろうな)」
自分なら到底受け入れがたいと思いながら、同情する。
階段に目を通した時に、薄っすらとだがやはり――白い影が映り込んでいた。
階段の手すりを掴む手の様な形。
先輩に聞こうと見るも、携帯のゲームに夢中の様で、これは話しかけたら怒られそうだと思う。
「(それに自分の勘違いって線も……あるよな)」
切り替え、2階を重点的にモニターで監視するもそれ以降はあの白い影は映り込んでこなかった。
時間は夜間の2時辺り……だが突然、電気が点灯し、消灯した。
「先輩!」
「どうした~?」
気の抜けた返事と共に、携帯から目を離した先輩もそれを見て焦る様にモニターに食いつく。
「……マジで白い影が、“動いてる”?」
「……自分は“歩いてる様に”見えました、それに――」
先ほど映った映像を巻き戻し見せると、やはり電気が点灯し、直ぐに消灯したのはモニターの記録に残っていた。
「不自然に電気が付いて、直ぐに消えたんです!」
「そりゃ住民の誰かが――」
そこでモニターを巻き戻していくと、全員が――就寝していたのだ。
「これってよ、絶対に――」
「異常……ですね、怪奇現象ってやつです」
「……上に報告取って監視強化するぞ、念のため、上司から社長の耳に入る様にしてもらう事も大切だな」
「はい!」
そうして、今日と言う日が始まるの日となる監視。
今までしてきた監視は恐らく序の口にすらならなかったのだろう……この監視が後に大変な事になるとは、まだこの2人には知る余地もなかった。
そこから約1週間が経った。
怪奇現象はモニターで何度か観測しており、必ず決まって深夜の2時から起きる現象とされている。
これについては既に上に報告済みで、この監視されている家族達にも報告が伝わっており、家族は今まで寝室をわけて寝ていたが、必ず寝る時は一か所の部屋に集まって寝ると言う習慣をつけた。
これによって夫婦の営みもなくなった事に、先輩が愚痴っていたが、自分が同じ立場ならそうすれであろうと思い、選択としては良い判断だと思う。
「また来たぜ」
「白い影ですか?」
「……今度は地下室だ、白……じゃなくて黒だな」
「……自分聞いた事ありますよ、つうかテレビとかでも見た事あります……心霊系の」
「確か“黒い影”はヤバイ奴なんだってな?って事はこの家に事態に悪霊が住み着いて悪さをしてたって証拠になるじゃねーか」
「でも霊体の仕業なんて物理学無視してますし、実証できないですよ、この家族だって既に霊媒師の人に頼んでるぐらいですから」
「こう言っちゃなんだが、見てる分には面白いんだけどな……」
「不謹慎ですよ、先輩」
「まぁ俺達がやれる事はモニターで監視して異常があれば上に報告を出す……ぐらいしかできないからな~」
そう言いながら煙草に火を点けて、一服吸う。
確かに自分達がやれる範囲は限定されているし、それ以上に深追いする事はできない。
と言うよりもしてはならないっと言う方が現実的だ、何故ならばこれは完全に業務外だからだ。
実は自分達以外のシフトに入ってる者には、この様な現象が映っている事は確認がとれてないのだ。
暇な時間に録画を再生してみたが、確かにその様なモノは見つかっておらず、自分達の時間帯の怪奇現象を見て他のシフトの者も驚いていた。
丑三つ時とは聞いた事があるが……いや、それ以上にそんなルールが当てはまるのだろうか?
霊現象体験している家族は信じるかもしれないが、自分は……どちらかと言えば、あまり信じられない。
「ん?」
モニターの1か所にノイズの様なものが混じる画面が著しくおかしくなる。
「ほら、まただ」
煙草を吸いながら、パソコンを操作して、そのモニターをアップする」
だがそこの映し出されたのは今まで見た事ない場所であった。
「コレ……なんでしょうね?」
「……さぁ…な。この家の……何処だ?」
部屋の作りは六畳ぐらいの部屋、だがハッキリと違う――と断言できるところがある、それは――
「和式?」
「畳に何て……ありましたっけ?」
この家は全て洋式の内装に仕上げられており、和室の部屋がないのだ。
地下室があるぐらいだから、隠し部屋があってもおかしくはないが、もしそうならその場所にも監視カメラが設置されてるはず。
もしかして……此処の住人さえ気づかない“隠された部屋”と言う事だろうか?
そうなればすぐにこの事を上司に報告し、移住民に報告しなければと思うも、画面は先ほどの和式からまた洋式の今までの部屋の作りに変わっていた。
「おかしいな……機械の故障か?」
「とりあえず、自分は簡単に報告書作って上に出しときますんで」
「頼んだ」
そこから忙しなく動き、気づけば交代する時間帯になったものの、流石に今回の件は異常と言う事もあって残業となった。
だが、その残業も数分で終わった。
何故なら先ほど移された和式の部屋など“録画に乗っていなかった”のだから。
そこから数日経った頃に、更に異常が発生した。
なんと今回は夜間帯の時間ではなく、日中に起きた出来事だったと言う。
日勤シフトの話では急にモニターの画面にノイズが走ったと思ったら、画面が洋式の部屋から和式の部屋に変わったと言う。
これは数日前に自分達が上層部に報告書として出した内容と合致しており、念のために録画してあった物を再生してみたが――やはりそこにはその和室の部屋がなかった。
「……なんで」
「先輩?」
「あ?あ、ああ…なんでもねー」
明かに動揺した先輩の様子が心配になるも、まずはこの異常事態をなんとかしなければならない。
録画されていなかった点や謎の儂の部屋もそうだが、もしかしたらこちらのモニターや機材の不具合と言う可能性もなくはない。
念のため修理業者を呼び点検をしてもらったが異常なしとの事。
その日――異常は2回検出された。
1度目は日勤の、そして2度目は夜間のーー自分たちの時間帯だった。
またあの和室が表示されたのだ。
「クソ!なんだよ、これ!!」
先輩は日中から様子がおかしい。
そう言えば、他のモニターに異常がないか確認をとったが、やはりあの“白い影”も“黒い影”も見当たらず、住民は安心して寝ている状態。
ただ一台のモニターに表示された“和室”だけが不気味に表示されるのであった。
そして――その日以降、先輩は体調不良を訴え、休みが頻繁になった。
先輩が休みに入ってから別の方がパートナーとなったが、仕事に忠実で先輩とは正反対だった。
室内には異常はなく、そして――約束の2時の時間帯になった時に、やはり異常が出始めた。
「先輩、モニターが」
「ん?」
今度は逆の立場で先輩と呼ばれる自分は後輩の言葉に異常をきたしているモニターをチェックすると、そこには――
「……なんで?」
「……どうか…されましたか?」
「この部屋……いや、この人は……君の前任者だ」
「え?」
そこには和室で缶ビールを片手にテレビを観ている先輩の姿だった。
「これってそもそも社長の親戚の頼みで親戚の家を監視するモニターですよね?」
「ああ、おかしい……なんで、先輩のが?」
誰かの悪戯?嫌がらせ?
そんな事をしてなんの得になる……そう思考を巡らせているときに、あの時の先輩の顔が浮かんでくる。
蒼顔になった表情、今なら鮮明に思い浮かべる。
もしあの和室が自分の部屋だとしたら……あの反応にも頷ける。
「報告書のまとめ方はわかるかい?」
「はい、報告書に書きますが、先輩は?」
「ちょっと電話してくる」
そうして離れた場所で先輩の電話を鳴らすも、時間は夜間。
失礼なのを承知で電話をしているも、中々繋がらずモニターにも変化がない。
もしこのタイミングで電話を取ったらこのモニターの不具合ではない事は証明される、何せリアルタイムで――
『もしもし』
「あ……」
モニター越しの先輩が面倒臭そうに携帯を取り、片手に携帯を耳に押し当てている。
これでモニターの不具合ではない事は証明された。
「あ、あの、すみません、先輩」
『なんだ、お前か……どうした?』
「い、いえ……すみません、体調が悪いの、長引いてるって聞いたので心配で」
『はは、大丈夫だよ、おかげさまでゆっくり休ませてもらってる』
片手に缶ビールを口に含みながら答える先輩はやはりモニターの声と行動が一致している。
やはり…不具合なのではない、何故社長の友人宅の家の一台が先輩の部屋に変わっている?
消えない疑問は尽きないが、此処でまた自分が不安な事を言えば先輩はそれに対して酷く気持ちが落ち着かなく、休まらないだろう。
「そうですか、元気そうならなによりです、でも体調だけは気を付けて」
『ああ、ありがとう』
「それでは――」
携帯を切ると同時に先輩も耳から携帯を離し、乱暴に机に放り投げテレビを視聴し続ける姿が映り込んだ。
「先輩、コレで宜しいでしょうか?」
「え?あ、ああーーうん、問題ない」
「分かりました、提出してきます」
「あ!ちょっと!」
急ぎ足になる後輩を止める。
「報告書は俺から出しておくよ、大丈夫、手柄を取るつもりはないから、君がちゃんと報告書を纏めたって書いとくから、1つお願いされてくれないかな?」
「えっと……なにを?」
「あの監視モニターを見ていて欲しい、そしてできれば録画してあるはずだからもう一度記録を見て欲しい」
「さっき確認しましたが……分かりました」
「お願いね」
そう言って部屋を後にした。
自分を落ち着かせるためだ。
様々な推測、憶測が頭を過るが、今はやはり先輩に過度なストレスを与えない為と、上司にこの事を報告する際に告げ口をするげきだろうと思い、部屋を後にした。
数週間後――
今度はモニターの一部にまた変化が起きた。
今度は洋室であるものの、それは社長の友人宅ではなく、全く違う別室となっていた。
「……この部屋の間取り、俺のと一緒……」
「え!?」
「いや、偶然?でもなんで……」
「……」
相変わらず先輩の様子は一部のモニターで監視はできるものの、録画では一切映る事はない。
不思議な事に、逆に録画で映りだされているのは本来映っていなくてはならない友人宅の内装だけである。
なのにリアルタイムで、自身で見た目線では違う場所が映りだされているこの現象に、自分も上司も、そして当事者たちも困惑していた。
そして――先輩同様に、後輩も翌日から欠勤をする事となり、会社と話し合いの末、病気による休職になる事になった。
先輩と後輩が休職期間に入ってから数か月が経つ。
その間、入れ替わりが合ったが、何れもモニターに異常が見られ、新しく配属された人も、ヘルプで来た人も、皆が口を揃えて体調不良を訴えていた。
大丈夫なのは、今の所自分だけと言う事で、基本はヘルプは付ける予定だが、此処まで休まれてしまうと人材的にも厳しいとの事で、ワンオペになる事になった。
当然給料面は上げてくれるとの約束で、好きな時に決まった休憩をして監視を引き続きしてほしいとの事。
報告書に際しても急ぎの用事が無いと判断した場合は翌日に回しても良いとの事だ。
弁当を頬張りながらモニターを見つめている。
そのうちのモニターの数台は幾つか違う風景が映し出されており、何れも此処で同じように仕事をした仲間達の姿だった。
そう言えば休憩室で奇妙な話を聞いた事がある。
此処には元々優秀な“監視員”が居たとされており、不慮の事故によって他界してしまったそうだ。
その怨念が2時を回ると巡回してる様に、足音がフロアに響いて不気味だと言う噂だ。
「フ……」
思わず鼻で笑ってしまう。
良くある怪談話に何をそこまで怯えているのか分からない。
だが――そう言う自分は恐怖で震えていた、何故ならこの話には続きがあるからだ。
その“監視員”も巡回だけではなくモニターの監視員として働いていた経験があり、何か怪しい物があったりした際はすかさずそのモニターを凝視していたそうだ。
そう――今のこのモニターに映るメンバーの様に。
「……あ?」
モニターに一瞬“黒い影”が映った様な気がする。
凝視してみるが家族には問題なし、他の休職メンバーにも問題はない。
安堵するも次の瞬間――氷付いた。
モニターの一部がまた移り変わりこの部屋になっているからだ。
その後ろ姿には見覚えがある……自分だ、そこには自分が居る。
カメラの位置を見る、カメラはジッとこちらを見つめているだけ。
恐る恐る振り返ると、振り返る姿が映し出された自分の姿が現れ――笑っていた。
「うわぁあぁぁぁ!!?」
驚きながらもその部屋を後にする。
無我夢中で走る最中、電子ロックを掻い潜ると、今まで聞こえなかった“音”が響く。
コツコツっとゆっくりとした足音、これから向かう先の階段、或いはエレベータだ。
「クソ!なんだよ!?」
慌てた様子で元の場所に戻り、モニター室ではなく、別の場所に身を隠すと、音はゆっくりと近づきながら――自分の隠れている部屋に立ち止まった。
息を殺し、気配を悟られない様、必死に身を隠す。
コツ…コツ…っと音だけが響き、やがて思いドアを開ける音と共に、部屋がバタンっと閉じる。
恐る恐る身を出してみると、モニター室に“黒い影”がまる人型の様に形になっており、それを紛れもない“この世の者”ではない“ナニカ”だった。
それが何かを見つめている事に気づき、見える位置にゆっくりと移動しながらそれを見つめると――
「ッ!?」
モニターは先ほどのモニター室から自分の居る部屋――否、自分の居る場所を映していた。
と、突然消灯する明かり。
真っ暗で何も見えない中、見えたのは――不気味に笑っている目と口だけが鮮明に映った“怪物”だった。
その後は当然、自分も先人たちと同じようにあの部屋には入れなくなってしまった。
モニターを直視する事はおろか、あのビルに入る事すら抵抗がある。
それに――
「あの“黒い影”はモニターじゃなく……実在していたんだ……」
あの光景を見た本人だから言える。
“黒い影”はモニター越しではなく、モニター室の中……厳密には、まだあの建物の何処かに居る。
あの噂……恐らく先輩も後輩も、同僚たちも全員聞いていただのだろう……怪談話。
それは――実話だったのだ。
今も――まだあの建物の中で“監視員”は何かを監視しているのだろう。
それが何かは分からないが、自分は彼が“怪しいと感じた人物”ではないかと推測している。
今も――何処か離れた場所で監視されている様な視線を感じる。
例えば――あのモニター室から。
第十九怪 モニター室の監視員
それは空き巣を狙った犯罪などを防止する目的もあるが、一番は“雇い主”がとても心配性と言う事である。
「先輩、これで良いんですか?」
男は隣で監視映像に目を離し頷く。
「ああ、問題ない。兎に角、俺等は24時間、リアルタイムでこの家族を監視するのが目的だ」
「今更ですが、どうしてそんな事を?」
「心配性なんだってよ、旦那の方が過度に、理由は分からないけど金払いは良いらしい、うちの会社の社長との昔の仲で特別にって」
「自分なら24時間監視なんて嫌ですね」
「俺もだ。普通に考えて牢獄に監修されてる犯罪者と同じ扱いじゃねーかって思うよ」
カップ麺を食しながら答える先輩に、自分もコンビニで買ってきた弁当を食す。
基本的にこの監視カメラを通して見えるモニター部屋は幾つかあるが、此処は特段特別になっている。
先ほど出たこの会社の社長の親友と言う事で特別に監視されている友人専用のモニター室と言った所だ、出入りは原則お手洗いのみで、8時間交代となっている。
モニターには複数の部屋が観察されており、室内の隅々まで見れてしまう為、当然――
「リアルタイムで見れるのは――毎回キャストが同じなのは興奮しねーな」
「先輩、下品ですよ」
当然、秘め事なども包み隠さず丸裸にされている状態である。
それは子供達も同様だった。
初日なんて風呂で子供たちが入る映像なども映されており、未成熟な身体を見てしまった際は、目を潰したくなった。
「よく奥さんも許しましたよね」
「ああ、つうか……知らないのか?」
「はい?」
「此処に来てから何年だっけ?」
「まだ1年です」
「なら知らねーか」
ずるずるっと容器の中にある麺を啜り答える。
「あの家はな、ある“理由”が原因で監視対象になってるって噂だぜ」
「理由ですか?」
「ああ、なんでも家の中で怪奇現象が起こるらしい、原因も分からない、専門家を呼んでも解決できない、謎だらけだ」
空になった容器の中に、割り箸を投げつける様に放り、背もたれに寄りかかる。
「存在するのかね……“幽霊”なんて」
「……“幽霊”……ですか」
それは確かに分からない。
怪奇現象などこの1年監視モニターを通じて見てても何も映らなかったし、そんな所に遭遇した事はなかったから尚の事、今の話は驚きを隠せない。
「まぁ、居ても居なくても、金が入れば俺としてはどちらでも構わないなんだけどな~」
携帯を片手に先輩はモニターの至る所を調べている。
自分も食事をしながらモニターを覗き込んでいると、ふわりっと何か白い影の様なモノが洗面所辺りで通ったような気がした。
気になってその場所を巻き戻すと、やはり白い影は浮かびあがっていた。
「先輩、これ」
「ん?」
気になった白い影を指さし先輩に報告すると、しばらく目を細めて見ていたが空笑いをして直ぐに携帯に目を落とす。
「きっと埃か何か舞ったんだろ、んな重要な事じゃねーよ」
「……そう…ですかね」
明らかに埃が舞った様には見えないこの白い影……気のせいか、人の顔の様に映って見えるのは自分の目の錯覚だろうかと考えるが止めた。
しばらくそんな事をしていると、渦中の夫妻も事を済ませ就寝している様子だった。
子供部屋では男の子と女の子が寝ている。
「(可哀想に、こんな年端もいかない子達も監視対象なんて、きっと成長した時に知ったら最悪な気持ちになるだろうな)」
自分なら到底受け入れがたいと思いながら、同情する。
階段に目を通した時に、薄っすらとだがやはり――白い影が映り込んでいた。
階段の手すりを掴む手の様な形。
先輩に聞こうと見るも、携帯のゲームに夢中の様で、これは話しかけたら怒られそうだと思う。
「(それに自分の勘違いって線も……あるよな)」
切り替え、2階を重点的にモニターで監視するもそれ以降はあの白い影は映り込んでこなかった。
時間は夜間の2時辺り……だが突然、電気が点灯し、消灯した。
「先輩!」
「どうした~?」
気の抜けた返事と共に、携帯から目を離した先輩もそれを見て焦る様にモニターに食いつく。
「……マジで白い影が、“動いてる”?」
「……自分は“歩いてる様に”見えました、それに――」
先ほど映った映像を巻き戻し見せると、やはり電気が点灯し、直ぐに消灯したのはモニターの記録に残っていた。
「不自然に電気が付いて、直ぐに消えたんです!」
「そりゃ住民の誰かが――」
そこでモニターを巻き戻していくと、全員が――就寝していたのだ。
「これってよ、絶対に――」
「異常……ですね、怪奇現象ってやつです」
「……上に報告取って監視強化するぞ、念のため、上司から社長の耳に入る様にしてもらう事も大切だな」
「はい!」
そうして、今日と言う日が始まるの日となる監視。
今までしてきた監視は恐らく序の口にすらならなかったのだろう……この監視が後に大変な事になるとは、まだこの2人には知る余地もなかった。
そこから約1週間が経った。
怪奇現象はモニターで何度か観測しており、必ず決まって深夜の2時から起きる現象とされている。
これについては既に上に報告済みで、この監視されている家族達にも報告が伝わっており、家族は今まで寝室をわけて寝ていたが、必ず寝る時は一か所の部屋に集まって寝ると言う習慣をつけた。
これによって夫婦の営みもなくなった事に、先輩が愚痴っていたが、自分が同じ立場ならそうすれであろうと思い、選択としては良い判断だと思う。
「また来たぜ」
「白い影ですか?」
「……今度は地下室だ、白……じゃなくて黒だな」
「……自分聞いた事ありますよ、つうかテレビとかでも見た事あります……心霊系の」
「確か“黒い影”はヤバイ奴なんだってな?って事はこの家に事態に悪霊が住み着いて悪さをしてたって証拠になるじゃねーか」
「でも霊体の仕業なんて物理学無視してますし、実証できないですよ、この家族だって既に霊媒師の人に頼んでるぐらいですから」
「こう言っちゃなんだが、見てる分には面白いんだけどな……」
「不謹慎ですよ、先輩」
「まぁ俺達がやれる事はモニターで監視して異常があれば上に報告を出す……ぐらいしかできないからな~」
そう言いながら煙草に火を点けて、一服吸う。
確かに自分達がやれる範囲は限定されているし、それ以上に深追いする事はできない。
と言うよりもしてはならないっと言う方が現実的だ、何故ならばこれは完全に業務外だからだ。
実は自分達以外のシフトに入ってる者には、この様な現象が映っている事は確認がとれてないのだ。
暇な時間に録画を再生してみたが、確かにその様なモノは見つかっておらず、自分達の時間帯の怪奇現象を見て他のシフトの者も驚いていた。
丑三つ時とは聞いた事があるが……いや、それ以上にそんなルールが当てはまるのだろうか?
霊現象体験している家族は信じるかもしれないが、自分は……どちらかと言えば、あまり信じられない。
「ん?」
モニターの1か所にノイズの様なものが混じる画面が著しくおかしくなる。
「ほら、まただ」
煙草を吸いながら、パソコンを操作して、そのモニターをアップする」
だがそこの映し出されたのは今まで見た事ない場所であった。
「コレ……なんでしょうね?」
「……さぁ…な。この家の……何処だ?」
部屋の作りは六畳ぐらいの部屋、だがハッキリと違う――と断言できるところがある、それは――
「和式?」
「畳に何て……ありましたっけ?」
この家は全て洋式の内装に仕上げられており、和室の部屋がないのだ。
地下室があるぐらいだから、隠し部屋があってもおかしくはないが、もしそうならその場所にも監視カメラが設置されてるはず。
もしかして……此処の住人さえ気づかない“隠された部屋”と言う事だろうか?
そうなればすぐにこの事を上司に報告し、移住民に報告しなければと思うも、画面は先ほどの和式からまた洋式の今までの部屋の作りに変わっていた。
「おかしいな……機械の故障か?」
「とりあえず、自分は簡単に報告書作って上に出しときますんで」
「頼んだ」
そこから忙しなく動き、気づけば交代する時間帯になったものの、流石に今回の件は異常と言う事もあって残業となった。
だが、その残業も数分で終わった。
何故なら先ほど移された和式の部屋など“録画に乗っていなかった”のだから。
そこから数日経った頃に、更に異常が発生した。
なんと今回は夜間帯の時間ではなく、日中に起きた出来事だったと言う。
日勤シフトの話では急にモニターの画面にノイズが走ったと思ったら、画面が洋式の部屋から和式の部屋に変わったと言う。
これは数日前に自分達が上層部に報告書として出した内容と合致しており、念のために録画してあった物を再生してみたが――やはりそこにはその和室の部屋がなかった。
「……なんで」
「先輩?」
「あ?あ、ああ…なんでもねー」
明かに動揺した先輩の様子が心配になるも、まずはこの異常事態をなんとかしなければならない。
録画されていなかった点や謎の儂の部屋もそうだが、もしかしたらこちらのモニターや機材の不具合と言う可能性もなくはない。
念のため修理業者を呼び点検をしてもらったが異常なしとの事。
その日――異常は2回検出された。
1度目は日勤の、そして2度目は夜間のーー自分たちの時間帯だった。
またあの和室が表示されたのだ。
「クソ!なんだよ、これ!!」
先輩は日中から様子がおかしい。
そう言えば、他のモニターに異常がないか確認をとったが、やはりあの“白い影”も“黒い影”も見当たらず、住民は安心して寝ている状態。
ただ一台のモニターに表示された“和室”だけが不気味に表示されるのであった。
そして――その日以降、先輩は体調不良を訴え、休みが頻繁になった。
先輩が休みに入ってから別の方がパートナーとなったが、仕事に忠実で先輩とは正反対だった。
室内には異常はなく、そして――約束の2時の時間帯になった時に、やはり異常が出始めた。
「先輩、モニターが」
「ん?」
今度は逆の立場で先輩と呼ばれる自分は後輩の言葉に異常をきたしているモニターをチェックすると、そこには――
「……なんで?」
「……どうか…されましたか?」
「この部屋……いや、この人は……君の前任者だ」
「え?」
そこには和室で缶ビールを片手にテレビを観ている先輩の姿だった。
「これってそもそも社長の親戚の頼みで親戚の家を監視するモニターですよね?」
「ああ、おかしい……なんで、先輩のが?」
誰かの悪戯?嫌がらせ?
そんな事をしてなんの得になる……そう思考を巡らせているときに、あの時の先輩の顔が浮かんでくる。
蒼顔になった表情、今なら鮮明に思い浮かべる。
もしあの和室が自分の部屋だとしたら……あの反応にも頷ける。
「報告書のまとめ方はわかるかい?」
「はい、報告書に書きますが、先輩は?」
「ちょっと電話してくる」
そうして離れた場所で先輩の電話を鳴らすも、時間は夜間。
失礼なのを承知で電話をしているも、中々繋がらずモニターにも変化がない。
もしこのタイミングで電話を取ったらこのモニターの不具合ではない事は証明される、何せリアルタイムで――
『もしもし』
「あ……」
モニター越しの先輩が面倒臭そうに携帯を取り、片手に携帯を耳に押し当てている。
これでモニターの不具合ではない事は証明された。
「あ、あの、すみません、先輩」
『なんだ、お前か……どうした?』
「い、いえ……すみません、体調が悪いの、長引いてるって聞いたので心配で」
『はは、大丈夫だよ、おかげさまでゆっくり休ませてもらってる』
片手に缶ビールを口に含みながら答える先輩はやはりモニターの声と行動が一致している。
やはり…不具合なのではない、何故社長の友人宅の家の一台が先輩の部屋に変わっている?
消えない疑問は尽きないが、此処でまた自分が不安な事を言えば先輩はそれに対して酷く気持ちが落ち着かなく、休まらないだろう。
「そうですか、元気そうならなによりです、でも体調だけは気を付けて」
『ああ、ありがとう』
「それでは――」
携帯を切ると同時に先輩も耳から携帯を離し、乱暴に机に放り投げテレビを視聴し続ける姿が映り込んだ。
「先輩、コレで宜しいでしょうか?」
「え?あ、ああーーうん、問題ない」
「分かりました、提出してきます」
「あ!ちょっと!」
急ぎ足になる後輩を止める。
「報告書は俺から出しておくよ、大丈夫、手柄を取るつもりはないから、君がちゃんと報告書を纏めたって書いとくから、1つお願いされてくれないかな?」
「えっと……なにを?」
「あの監視モニターを見ていて欲しい、そしてできれば録画してあるはずだからもう一度記録を見て欲しい」
「さっき確認しましたが……分かりました」
「お願いね」
そう言って部屋を後にした。
自分を落ち着かせるためだ。
様々な推測、憶測が頭を過るが、今はやはり先輩に過度なストレスを与えない為と、上司にこの事を報告する際に告げ口をするげきだろうと思い、部屋を後にした。
数週間後――
今度はモニターの一部にまた変化が起きた。
今度は洋室であるものの、それは社長の友人宅ではなく、全く違う別室となっていた。
「……この部屋の間取り、俺のと一緒……」
「え!?」
「いや、偶然?でもなんで……」
「……」
相変わらず先輩の様子は一部のモニターで監視はできるものの、録画では一切映る事はない。
不思議な事に、逆に録画で映りだされているのは本来映っていなくてはならない友人宅の内装だけである。
なのにリアルタイムで、自身で見た目線では違う場所が映りだされているこの現象に、自分も上司も、そして当事者たちも困惑していた。
そして――先輩同様に、後輩も翌日から欠勤をする事となり、会社と話し合いの末、病気による休職になる事になった。
先輩と後輩が休職期間に入ってから数か月が経つ。
その間、入れ替わりが合ったが、何れもモニターに異常が見られ、新しく配属された人も、ヘルプで来た人も、皆が口を揃えて体調不良を訴えていた。
大丈夫なのは、今の所自分だけと言う事で、基本はヘルプは付ける予定だが、此処まで休まれてしまうと人材的にも厳しいとの事で、ワンオペになる事になった。
当然給料面は上げてくれるとの約束で、好きな時に決まった休憩をして監視を引き続きしてほしいとの事。
報告書に際しても急ぎの用事が無いと判断した場合は翌日に回しても良いとの事だ。
弁当を頬張りながらモニターを見つめている。
そのうちのモニターの数台は幾つか違う風景が映し出されており、何れも此処で同じように仕事をした仲間達の姿だった。
そう言えば休憩室で奇妙な話を聞いた事がある。
此処には元々優秀な“監視員”が居たとされており、不慮の事故によって他界してしまったそうだ。
その怨念が2時を回ると巡回してる様に、足音がフロアに響いて不気味だと言う噂だ。
「フ……」
思わず鼻で笑ってしまう。
良くある怪談話に何をそこまで怯えているのか分からない。
だが――そう言う自分は恐怖で震えていた、何故ならこの話には続きがあるからだ。
その“監視員”も巡回だけではなくモニターの監視員として働いていた経験があり、何か怪しい物があったりした際はすかさずそのモニターを凝視していたそうだ。
そう――今のこのモニターに映るメンバーの様に。
「……あ?」
モニターに一瞬“黒い影”が映った様な気がする。
凝視してみるが家族には問題なし、他の休職メンバーにも問題はない。
安堵するも次の瞬間――氷付いた。
モニターの一部がまた移り変わりこの部屋になっているからだ。
その後ろ姿には見覚えがある……自分だ、そこには自分が居る。
カメラの位置を見る、カメラはジッとこちらを見つめているだけ。
恐る恐る振り返ると、振り返る姿が映し出された自分の姿が現れ――笑っていた。
「うわぁあぁぁぁ!!?」
驚きながらもその部屋を後にする。
無我夢中で走る最中、電子ロックを掻い潜ると、今まで聞こえなかった“音”が響く。
コツコツっとゆっくりとした足音、これから向かう先の階段、或いはエレベータだ。
「クソ!なんだよ!?」
慌てた様子で元の場所に戻り、モニター室ではなく、別の場所に身を隠すと、音はゆっくりと近づきながら――自分の隠れている部屋に立ち止まった。
息を殺し、気配を悟られない様、必死に身を隠す。
コツ…コツ…っと音だけが響き、やがて思いドアを開ける音と共に、部屋がバタンっと閉じる。
恐る恐る身を出してみると、モニター室に“黒い影”がまる人型の様に形になっており、それを紛れもない“この世の者”ではない“ナニカ”だった。
それが何かを見つめている事に気づき、見える位置にゆっくりと移動しながらそれを見つめると――
「ッ!?」
モニターは先ほどのモニター室から自分の居る部屋――否、自分の居る場所を映していた。
と、突然消灯する明かり。
真っ暗で何も見えない中、見えたのは――不気味に笑っている目と口だけが鮮明に映った“怪物”だった。
その後は当然、自分も先人たちと同じようにあの部屋には入れなくなってしまった。
モニターを直視する事はおろか、あのビルに入る事すら抵抗がある。
それに――
「あの“黒い影”はモニターじゃなく……実在していたんだ……」
あの光景を見た本人だから言える。
“黒い影”はモニター越しではなく、モニター室の中……厳密には、まだあの建物の何処かに居る。
あの噂……恐らく先輩も後輩も、同僚たちも全員聞いていただのだろう……怪談話。
それは――実話だったのだ。
今も――まだあの建物の中で“監視員”は何かを監視しているのだろう。
それが何かは分からないが、自分は彼が“怪しいと感じた人物”ではないかと推測している。
今も――何処か離れた場所で監視されている様な視線を感じる。
例えば――あのモニター室から。
第十九怪 モニター室の監視員
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