私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

閑話 ルルーシュの憂鬱2

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翌日、殿下と話す前に姉と話さなくてはと思いお茶に誘う。殿下の残念な部分も話す可能性があるため、あまり周りに聞かれたくない。結果人払いをした室内で行うことにした。
姉弟で腹の探り合いをする気もないためストレートに質問してくる姉に頭が痛くなった。本当に何も気づいていないようなのだ。あれだけ小さい頃から殿下を可愛がってきたのだから姉にも情はあるはずだ。それが全く恋愛面に結びついていない。あるとしても家族愛。現状、姉はただの政略結婚としか認識していない上に、歳の近い令嬢を当てがおうとさえしていた。元々令嬢とのお茶会を姉が勧めたことを知った時あれだけ爆発したのだ。そんな話しをされたらきっと殿下は再起不能だ。ここまでくると姉が恋愛感情を抱いた事があるかすら疑問に思えてきたため、殿下の居ない間にと思い聞いてみた。
「姉さんは人を好きになったことがないの?」
もうちょっと聞き様はあったかもしれないが、あそこまで真剣に姉だけを思い続ける殿下が可哀想なり少しキツイ言い方になってしまったのは仕方がない事だろう。結果から言えば姉にはかけらの恋愛経験もなかった。言われてみれば当然だった。8歳で婚約者候補、15歳で婚約成立、相手は王子様でありよそ見など許されない立場だ。だが、それならば、殿下をみればよいのだ。年の差はあるが殿下はまっすぐに姉を見てくれている。政略結婚であっても幸せな家庭を築ける可能性があるのに、殿下に向き合おうとしない姉が何を考えているのかわからなかった。終いにはまた、殿下に女性を当てがう話になる。姉なりに殿下のことを思っているのは分かるが筋違いもいいところだ。
話しをどうにか修正しなくてはいけないと思うがどのタイミングで話を区切るか悩んでいると廊下から何かをぶつけたような大きな音がした。その後にドアから荒い足音で立ちさる音がする。嫌な予感がする中入り口のドアを開けるとそこにいたのは青い顔をした家令だった。小さな声で、先ほどまで殿下がドアの前で話を聞いていたことを知らされた私は思わず
「最悪だ」
と一言つぶやき目元を手で覆い隠し天井を仰ぎ見るのだった。 元々午後に約束があったのに何で来たのか殿下にも怒りが湧く。しかし、殿下の事だ。姉のことが気になり待っていられなかったのだろうと簡単に予測できてしまうから、怒りの感情はあっという間に呆れに変わっていった。
この状況で何を考えているのかクスクス笑っている姉にイラついたのは仕方のないことだろう。なぜなら、尻拭いをこれから私がしなくてはいけないのだからだ。
何はともあれ、まずは情報収集だ。姉が殿下のことを恋愛対象として認識してくれれば全ては解決するのだから。そういう意味も込めて
「姉さんは殿下のことをどう思ってるの?」
考えあぐねているのだろう。無言の時間が続く中、突然姉が微笑んだ。いつもと違いすこし気の抜けたような笑顔に、こんな顔を初めて見たと家族ながらに思った。そして、姉は話し始めた。今までの経緯について。聞いて後悔した。聞かなければ今まで通り、側で想いを聞いていた殿下に肩入れすることができたが、もうこれ以上はできないと感じたからだ。家族だからこそ、姉の想いと決意を知らなくてはいけないと思う後悔もあり、相反する思いに押しつぶされそうになる。1つの視点でしか見ることのできない視野の狭さが嫌になった。姉は8歳で婚約者候補になり、15歳で正式な婚約者となる間に心づもりをしていたのだ。恋や夢に心踊らされる時期に8歳年下の子どもと結婚しなくてはいけない事を。相手が結婚可能な歳には自分が行き遅れになっていること。故に子どもができない可能性もあり、場合によっては女性としてみてもらえないかもしれないことを。それがどれほど辛いことか男である私には想像することしかできない。
それでも、国のために婚約を決め、殿下の幸せのために女性を当てがおうとしていることを私は知ってしまった。頑なにもなるだろう、それが自分の道しるべだと決めたのが8歳、その想いを忘れずに今日に至った彼女の想いを変えることは難しい。殿下に愛されない、殿下が誰かと相思相愛の関係になる事を見守るのが役目だと思う事で自分を守ろうとしているのかもしれない。政治的なパートナーとして並び立つ、殿下が安らげる女性を側妃に添えて見守っていくことを矜持としているのかもしれない。姉の『殿下に愛されるはずがない』というか思いも頑なになりすぎているが、そう思うことで自分を守ろうとしているのであれば仕方がないのかもしれない。殿下の想いに気づいて欲しいと感じながらも、姉の王妃としての覚悟を感じることができた。鈍感でどうしようもない姉だが、殿下への忠義は本物だ。国を守っていく思いにも偽りはない。私もここに誓おう。殿下と姉への忠義を、国を支える柱の一本となる覚悟を。その思いを込めて話す
しまう。
「姉さんにとっては私も、殿下もまだまだ子どもかもしれませんし、頼りなく思う時も多いと思います。ですが、いつまでも子どもでもありませんし、子どもである気もありません。いつまでも守られる立場に甘んじる気もありません。姉さんの気持ちと覚悟が嬉しく思いますが、これからは未来の王妃を守れるような立場になれるよう勤めていきます。姉上の意思が無駄にならぬようこの国に、殿下につかえていきたいと思います」
私の言葉を聞いて涙ぐむ姉の姿がそこにはあった。私の言葉が少しでも届いてくれたのであればと思い少しだけ笑みを浮かべながらハンカチを差し出す。
「約束があるので殿下のところに行ってきます。きっと落ち着かずに過ごしていると思うので」
よし、こここらが本番だ。殿下の執務室の空気がどれほど淀んでいるか考えたくもないが、これができるのは私だけだ。笑顔がひきつるのはどうしようもないと思いながら気合いを入れ直し部屋を出て玄関へ向かう。入り口には馬車が準備してあるはずだ。少し重い足取りを自覚しながら気合を入れなおし、私は公爵家を後にした。
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