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1章
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いつの間にか立ち上がり、カタリーナの側に来た母が、そっと頭をなでる。カタリーナは母の暖かい手のひらを感じると余計に涙が溢れてくるようだった。
「いいんですか?わがままを言っても」
そばで微笑みながら頭を撫でてくれる母は返事はせずに優しい目線を送り続けてくれている。
「本当は寂しいのです。年下で、ずっと可愛く思っていた男の子がいつの間にか成長して遠くに行ってしまった気がして。今回も辺境への視察で多くのことを学び成長している王子が離れて行ってしまったようで寂しいのです。こんなに離れることがなくて知らなかっ・・・会いたいんです。」
ポツリポツリと話し始めたカタリーナの言葉は王子への想いで溢れて居た。
「カタリーナは王子を弟のように可愛がっていたから、どうしても戸惑ってしまうわよね」
周りから見れば姉弟のようにみられていたが、前世の記憶を取り戻して間もない頃は自分の子供のように感じていた。容姿は王子ほど整っていなかったが、黒髪・黒目はどこか日本人を思い浮かべるものがあるのだ。もちろんそんなことは口が裂けても言えないが。曖昧な表情を浮かべるカタリーナに母は続ける。
「頑張らなくていいから、少しだけ伝えてみたら?会いたいでも、寂しいでも何でもいいから。王子の気持ちは王子にしか分からないんだから、あなたが想像しても仕方ないわよ。カタリーナができるのは・・・まずは伝えることね」
カタリーナは前世の記憶を取り戻し、子どもの体のなかに大人の心が存在しどこかアンバランスになっていた。その結果、人に頼れなくなってしまっていたのだ。前世の記憶を取り戻す、カタリーナだけだった頃の甘えていた記憶が気恥ずかしく少し壁を作ってしまっていた。それが相談できない自分を作りだし、王子の婚約者である立場が弱音を吐き出させることをやめさせた。王妃教育は、他人に感情を読ませない表情を作らせ、言葉の誘導術を教えた。年下の王子は、将来の伴侶であったが、その幼さからカタリーナに『頼る』という選択肢を与えることができなかった。
今までのカタリーナの性格を変えるのは難しいだろう。それでも、母の話の中で自身か頑なになっていた部分があったことに気づく。カタリーナは周りに相談できていない自分に気づくことができたのだ。
母とカタリーナの無言の時間が部屋の中に訪れる。母は無理に話をする様子はなく時折カタリーナの頭や背中を側で撫でてくれていた。少しずつカタリーナも気持ちが落ち着き涙がとまると今度はこの状況が恥ずかしくなってくる。でも決して嫌な時間ではなかった。こんな風に母に甘えたのはいつぶりだろうかと考える。
「あなたは本当に賢いわ。知識も教養もあり、慎ましさも持っている。決して驕らず、周りの話を聞くこともできるわ。王子の婚約者として十分よくやっているわ。きっとあなたは将来素敵な王妃になるわ。それでもいつまでも私の娘なことに代わりはないの。あなたが王妃になれば私もあなたの臣下の一人となるけれど、母であることは変わらないしずっとあなたを愛してる。だから、なんでも良いから話してちょうだい。頼ってもらえるって、嬉しいことなのよ」
母の言葉にカタリーナはまた目頭が熱くなってくる。目をつぶり、それからゆっくり開けることでどうにか涙が溢れるのをこらえることができた。
「ありがとうございます。少し、手紙を書いてみようかと思います。お母様、また話を聞いてもらってもいいですか?」
気恥ずかしさから少しだけ目をふせたままカタリーナは話す。
「いつでも話ぐらい聞くわよ。むしろ聞かせてほしいくらいだわ。でも、旦那様には内緒よ?」
「お父様に話すのは恥ずかしいわ」
クスクスと笑いながら話すカタリーナはここ数日では見られなかった、すっきりとした表情をしている。
「旦那様はあなたの事が可愛くて仕方ないから、王子に取られたと思えばきっと小さな嫌がらせをするわ。もしかすると、嫌がらせで執務の量を増やしちゃうかも」
冗談めいた母の話に、カタリーナに声をだして笑う。
「カタリーナと話せてよかったわ。あなたの笑顔も見て安心したことだしこれで失礼するわね。そんなに無理に手紙書く必要はないんだから、無理はしないでね。おやすみなさい。」
そう言って母はあっさりとカタリーナの部屋を後にする。一人になった部屋でカタリーナは机に向かって手紙を書き始める。手紙を書くカタリーナは口元に笑みを浮かべており、それはここ1ヶ月みることができない表情であった。
手紙はあっけないほどにあっさりと書き上がり、翌日の朝侍女に渡した。4日以内に王子のもとに届くことだろうと思いながら庭を散歩していると、見たことのある騎士から声がかかった。手紙を頼んだ侍女とともにカタリーナの元を訪れたのだ。以前王子の護衛を任せられていたはずの騎士は、今は王都に残っているらしい。
「お約束もないのに声をかけてしまい申し訳ありません。カタリーナ様から王子に届ける手紙があるお話を聞きまして、私たちもちょうど出す予定の手紙があったのでよければ一緒に届けさせていただければと思い声をかけさせていただいたのですが。いかがでしょうか?」
騎士からの話は嬉しいものであったが、こんな私的なものを頼むなど迷惑ではないかと心配になる。
「嬉しいお誘いありがとうございます。ですが、騎士様はお仕事で手紙を送ってらっしゃるのでしょう?私の個人的な手紙でご迷惑かけるわけにはいきませんわ」
「いえ、そんなことはありません。私的な手紙であっても、カタリーナ様からの手紙であれば王子の日々のやる気に繋がるので、それは十分に私たちが届ける価値のあるものです。ご安心ください」
騎士から食い気味に話される。勢いに押され、どう断れば良いかすこし悩んでしまうが、公私を混同するわけにはいかない。少し考えていると、そこに急足で現れたのはルルーシュだった。
「姉上、どうしたの?」
少し息をきらせて話すルルーシュに疑問をいだく。飄々とした様子で過ごすことの多い弟が息をきらせるほど急いでいることは稀だ。
「騎士様が私の手紙も一緒に王子に届けてくれると言って下さるのだけど、申し訳なくて。それほど急ぐ内容でもないからお断りしていたのよ。」
ルルーシュからも断ってほしい気持ちを込めて状況の説明をする。
「せっかくだから、お願いしたら?手紙なんて1枚届けるのも2枚届けるのも変わらないよ。それに、昨日言ったじゃない。王子が姉上からの手紙を待ってるって。」
騎士の勢いも凄かったが、ルルーシュの勢いもすごく、気圧される部分がある。そして、勢いに押される形となり渋々とエステルは了承することになった。それに安堵のため息をもらしたルルーシュと護衛騎士の両者は目と目を合わせると小さく頷きあう。王子のことで苦労をかけ続けられている二人からすると、これで一つ悩みのタネが消えることになり小さな喜びを目線だけで分かち合った。そんなことを露ほども知らないカタリーナは二人の中の良さげな様子を見て首を傾げるのだった。
「いいんですか?わがままを言っても」
そばで微笑みながら頭を撫でてくれる母は返事はせずに優しい目線を送り続けてくれている。
「本当は寂しいのです。年下で、ずっと可愛く思っていた男の子がいつの間にか成長して遠くに行ってしまった気がして。今回も辺境への視察で多くのことを学び成長している王子が離れて行ってしまったようで寂しいのです。こんなに離れることがなくて知らなかっ・・・会いたいんです。」
ポツリポツリと話し始めたカタリーナの言葉は王子への想いで溢れて居た。
「カタリーナは王子を弟のように可愛がっていたから、どうしても戸惑ってしまうわよね」
周りから見れば姉弟のようにみられていたが、前世の記憶を取り戻して間もない頃は自分の子供のように感じていた。容姿は王子ほど整っていなかったが、黒髪・黒目はどこか日本人を思い浮かべるものがあるのだ。もちろんそんなことは口が裂けても言えないが。曖昧な表情を浮かべるカタリーナに母は続ける。
「頑張らなくていいから、少しだけ伝えてみたら?会いたいでも、寂しいでも何でもいいから。王子の気持ちは王子にしか分からないんだから、あなたが想像しても仕方ないわよ。カタリーナができるのは・・・まずは伝えることね」
カタリーナは前世の記憶を取り戻し、子どもの体のなかに大人の心が存在しどこかアンバランスになっていた。その結果、人に頼れなくなってしまっていたのだ。前世の記憶を取り戻す、カタリーナだけだった頃の甘えていた記憶が気恥ずかしく少し壁を作ってしまっていた。それが相談できない自分を作りだし、王子の婚約者である立場が弱音を吐き出させることをやめさせた。王妃教育は、他人に感情を読ませない表情を作らせ、言葉の誘導術を教えた。年下の王子は、将来の伴侶であったが、その幼さからカタリーナに『頼る』という選択肢を与えることができなかった。
今までのカタリーナの性格を変えるのは難しいだろう。それでも、母の話の中で自身か頑なになっていた部分があったことに気づく。カタリーナは周りに相談できていない自分に気づくことができたのだ。
母とカタリーナの無言の時間が部屋の中に訪れる。母は無理に話をする様子はなく時折カタリーナの頭や背中を側で撫でてくれていた。少しずつカタリーナも気持ちが落ち着き涙がとまると今度はこの状況が恥ずかしくなってくる。でも決して嫌な時間ではなかった。こんな風に母に甘えたのはいつぶりだろうかと考える。
「あなたは本当に賢いわ。知識も教養もあり、慎ましさも持っている。決して驕らず、周りの話を聞くこともできるわ。王子の婚約者として十分よくやっているわ。きっとあなたは将来素敵な王妃になるわ。それでもいつまでも私の娘なことに代わりはないの。あなたが王妃になれば私もあなたの臣下の一人となるけれど、母であることは変わらないしずっとあなたを愛してる。だから、なんでも良いから話してちょうだい。頼ってもらえるって、嬉しいことなのよ」
母の言葉にカタリーナはまた目頭が熱くなってくる。目をつぶり、それからゆっくり開けることでどうにか涙が溢れるのをこらえることができた。
「ありがとうございます。少し、手紙を書いてみようかと思います。お母様、また話を聞いてもらってもいいですか?」
気恥ずかしさから少しだけ目をふせたままカタリーナは話す。
「いつでも話ぐらい聞くわよ。むしろ聞かせてほしいくらいだわ。でも、旦那様には内緒よ?」
「お父様に話すのは恥ずかしいわ」
クスクスと笑いながら話すカタリーナはここ数日では見られなかった、すっきりとした表情をしている。
「旦那様はあなたの事が可愛くて仕方ないから、王子に取られたと思えばきっと小さな嫌がらせをするわ。もしかすると、嫌がらせで執務の量を増やしちゃうかも」
冗談めいた母の話に、カタリーナに声をだして笑う。
「カタリーナと話せてよかったわ。あなたの笑顔も見て安心したことだしこれで失礼するわね。そんなに無理に手紙書く必要はないんだから、無理はしないでね。おやすみなさい。」
そう言って母はあっさりとカタリーナの部屋を後にする。一人になった部屋でカタリーナは机に向かって手紙を書き始める。手紙を書くカタリーナは口元に笑みを浮かべており、それはここ1ヶ月みることができない表情であった。
手紙はあっけないほどにあっさりと書き上がり、翌日の朝侍女に渡した。4日以内に王子のもとに届くことだろうと思いながら庭を散歩していると、見たことのある騎士から声がかかった。手紙を頼んだ侍女とともにカタリーナの元を訪れたのだ。以前王子の護衛を任せられていたはずの騎士は、今は王都に残っているらしい。
「お約束もないのに声をかけてしまい申し訳ありません。カタリーナ様から王子に届ける手紙があるお話を聞きまして、私たちもちょうど出す予定の手紙があったのでよければ一緒に届けさせていただければと思い声をかけさせていただいたのですが。いかがでしょうか?」
騎士からの話は嬉しいものであったが、こんな私的なものを頼むなど迷惑ではないかと心配になる。
「嬉しいお誘いありがとうございます。ですが、騎士様はお仕事で手紙を送ってらっしゃるのでしょう?私の個人的な手紙でご迷惑かけるわけにはいきませんわ」
「いえ、そんなことはありません。私的な手紙であっても、カタリーナ様からの手紙であれば王子の日々のやる気に繋がるので、それは十分に私たちが届ける価値のあるものです。ご安心ください」
騎士から食い気味に話される。勢いに押され、どう断れば良いかすこし悩んでしまうが、公私を混同するわけにはいかない。少し考えていると、そこに急足で現れたのはルルーシュだった。
「姉上、どうしたの?」
少し息をきらせて話すルルーシュに疑問をいだく。飄々とした様子で過ごすことの多い弟が息をきらせるほど急いでいることは稀だ。
「騎士様が私の手紙も一緒に王子に届けてくれると言って下さるのだけど、申し訳なくて。それほど急ぐ内容でもないからお断りしていたのよ。」
ルルーシュからも断ってほしい気持ちを込めて状況の説明をする。
「せっかくだから、お願いしたら?手紙なんて1枚届けるのも2枚届けるのも変わらないよ。それに、昨日言ったじゃない。王子が姉上からの手紙を待ってるって。」
騎士の勢いも凄かったが、ルルーシュの勢いもすごく、気圧される部分がある。そして、勢いに押される形となり渋々とエステルは了承することになった。それに安堵のため息をもらしたルルーシュと護衛騎士の両者は目と目を合わせると小さく頷きあう。王子のことで苦労をかけ続けられている二人からすると、これで一つ悩みのタネが消えることになり小さな喜びを目線だけで分かち合った。そんなことを露ほども知らないカタリーナは二人の中の良さげな様子を見て首を傾げるのだった。
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