私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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2章

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そうこう過ごすうちに、エヴァトリスとカタリーナの婚姻の儀まで30日と迫っていた。つまり今日は、異世界から現れた聖女とカタリーナが初めて顔を合わせる日である。嫉妬する気持ちが全くないわけではないが、どのような少女なのか、カタリーナは少しだけ興味もあった。今回現れた聖女様は王宮内でも評判の良い少女ではあったが、神殿にある日記を見る限り今までの聖女様方の戸惑いは大きい。前世の記憶まで話すわけにはいかないが、カタリーナ自身は少しでも役に立てるのではないかと思うところもあったのだ。

そこで数日前のエヴァトリスとのやりとりを思い出し、カタリーナは口元に笑みを浮かべた。
数日前、真剣な表情でカタリーナの部屋に来たエヴァトリスが話し始めたのはこうだ。
「リーナ、ごめん。聖女様との顔合わせをする日なんだけれど、父上より聖女様のエスコートをするように命じられてしまって、当日リーナの側にいることができないんだ。」
捨てられた子犬の様な目をしたエヴァトリスにカタリーナは思わず笑ってしまう。
「仕方ありませんわ。聖女様の事は公然の秘密の様なもの。殿下以外にエスコートをお願いするのもおかしな話ですもの。かと言って、聖女様が一人でというのも変な話ですしね。私は元々王妃様の隣に席を準備していただいていたので大丈夫ですよ」
正直な話をすれば、多少の不安もありエヴァトリスに側にいてもらいたいと思う気持ちもあるが、カタリーナ以上に悲しんでいる人が目の前にいたため、毒気を抜かれてしまった。カタリーナのフォローの言葉も届いていないように消沈しているのはまさに捨てられた子犬のようだ。
「では、終わった後少しの時間ですが二人でお茶をしませんか?」
そう提案したカタリーナに目を輝かせたエヴァトリス。
「リーナとお茶!もちろんだよ!!何時間だって付き合うよ。」
エヴァトリスの変わり身の早さにカタリーナが思わず笑みを浮かべると、エヴァトリスは恥ずかしそうに少しだけ顔を赤くするのだった。カタリーナは時折見せる年相応、もしかすると少しだけ幼く見えるエヴァトリスのこんな様子を見るのが好きだった。
このまま穏やかに二人の時間を過ごせますように・・・、それがカタリーナのささやかな願いだった。

部屋の上座中央に国王のための椅子が準備してありその隣に王妃、王妃の隣の席はカタリーナとなっている。
「大丈夫?」
時折王妃からはそんな言葉がかけられ、国王からは声かけはないものの、申し訳なさそうな視線が向けられる。その度にカタリーナは
「大丈夫です。」
と笑顔を向けながら返事をした。そう、ここまで来たのだから腹をくくるしかないのだ。それほど、長くもない時間をそうやって過ごすと聖女の訪室が告げられる。

エヴァトリスのエスコートを受け優雅に歩く少女を見てカタリーナは目を見開く。
王妃が褒めただけのことはあり、異世界からの聖女の所作は高位貴族の令嬢そのものだった。エスコートを受ける姿にも余裕さえみられる。だが、カタリーナはそんな所作よりも、聖女の顔から目が離せなかった。15歳と話しを聞いていた聖女は白い肌に、黒いロングのストレート。エヴァトリスの黒髪と揃いの色はどこかの侍女が話した通り、番のようにもみられた。だが、そんな事は最初からわかっていた事だ。過去の聖女たちが日本語で日記を書いていたのだから、今回も日本人である可能性は十分にあったのだ。カタリーナが驚いているのは、それとはまた別のことだった。

異世界の聖女が目の前までやってくると、見事なまでのカーテシーで挨拶を行う。
「初めまして、カナと申します。よろしくお願いいたします。」
カタリーナにとって、見慣れた顔・聞き慣れない声で聖女は挨拶をする。カタリーナの動揺とは裏腹に、聖女は笑みを浮かべた余裕の表情だ。国王と王妃は聖女の所作に満足げに頷いており、カタリーナの異変には気づかない。
「うそ・・・。」
小さく呟いたカタリーナの声は誰にも届かない。だが、カタリーナがその顔を見間違える事は絶対にない。それは、嘘であって欲しいというカタリーナの小さな願いから生まれた言葉だった。
「村上 佳奈」
小さくカタリーナが呟いた名前。どうして今までこの名前を忘れていたのかカタリーナは分からない。



目の前に立っていたのは前世のカタリーナの姿だった。

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