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しおりを挟む腹立たしい。何がって? ヒロインが。
王都には、貴族でさえ受かることは難しいと言われている、狭き門を突破したものだけが通える学園がある。
そこに一年半前から通っている私──アフェイユ・クロスドは誰もが羨む公爵令嬢だ。
女が憧れるスタイル、見惚れずにはいられない圧倒的な美貌、感服せざるを得ない頭脳。
私を表す言葉は"完璧"の二文字。
当たり前だ。前世の知識をフル活用して完璧を求めたのだから。
私には生まれた時より前世の記憶がある。普通の女性だったと思う。26歳を迎える前の日に死んでしまったけど。
前世の私はドがつくほどのオタク。ちゃんと仕事をして、恋人もいた私はリア充オタク……略してリアオタだったので、それなりに幸せな毎日を送っていたと思う。
オタクにも種類がある。私の場合は恋愛ゲーム、育成ゲーム、シュミレーションゲーム……そう、乙女ゲームにハマりにハマっていた。
バッドエンドを迎えてガチで号泣するほどハマっていた。
当時付き合っていた彼氏は本当に寛容だったと思う。
で、びっくりしたことにオギャーと生まれたこの世界は、死ぬ前の日までやっていた乙女ゲームの世界だった。
ポジションは血も涙もない令嬢。悪役令嬢と敵対する悪役令嬢という、少しややこしい立ち位置。
私は虐めまくっていた従者をヒロインに奪われる、そんな役。
この令嬢、まあ私なわけだが、家庭までは描かれていなかったが、ありがたい事にそこまで悪い家ではなかった。まあ、父は私に無関心で放置プレイ食らってるけど。
母は私が生まれて数年後に病気で亡くなった。
だが、乳母や使用人が常にそばにいたので寂しいとはあまり感じず、また子供の頃から前世の記憶があったためか、大人びていて母親がいないことに悲観はしなかった。
せっかく公爵令嬢という素晴らしい生を授かったのだ。
ゲーム開始時の17歳になったら、さっさと従者でもなんでもヒロインにリボンをつけて贈呈し、スタコラサッサとシナリオから退散してしまおうと思っていた。
──思っていた、はずなのに。私は天使と出会ってしまった。
天使こと、私の従者──ロゼン・ハウスードは原作通り私が8歳の時に我が屋敷へやってきた。ちなみにロゼンは一つ年上だ。
薄汚れていて、痩せていて。背だって私の方が高かった。子爵だったロゼンの家は没落し、親はロゼンを捨てて夜逃げしたらしい。
一人ぼっちのロゼンをたまたま見つけたのが父で、そのまま連れ帰って私の従者にした。
ゲームではスルーしてたけど、そもそも理由もなく連れてくる父がおかしい。
うちも貴族なので隠し子と思われては困る。そんな訳で私の従者になった。
従者になった経緯はゲームで描かれていなかったので、正直雑だなと思ったのは内緒だ。
父にお前の従者だとロゼンを紹介された時、最初は灰色の毛玉かと思った。モサモサで、鼻まである前髪に、体にあっていない服。本当に攻略対象なのか疑ったほどだ。
だが、お風呂に入って綺麗に整えられたロゼンを見た瞬間、衝撃を走った。実際には、そこまで大したことはないだろうと思っていた。結局はゲームの、所詮は絵。一番好きなキャラクターだったとしても、現実はそこまでだろうと。
そう思っていたのに。
さらさら流れる銀色の髪に、アメジストに輝く瞳。どちらかと言うと綺麗よりの顔はゲームと同じで、いやもっと美しい。
ドンピシャだ。ストライク。ホームラン。これは、ロゼン・ハウスードは私のモノだと確信めいたものを感じた。
ロゼンの美しさに劣らないよう自分磨きを頑張った。勉強はもちろん、厳しい訓練、美容のための運動、欠かすことなく毎日行った。
お陰か、自分でもうっとりするくらいの美貌を手に入れた。
ヒロインに目移りされたらたまったものじゃないから本当に頑張った。
私とロゼンは主従関係にある。私は一度たりともロゼンを同等に扱ったことはない。あくまで私の従者だ。
主人な私と従者なロゼンという関係に何度もはあはあと息を荒くしていたのはきっと誰にもバレていない、はず。
私達は2人とも難関試験を突破した。ロゼンは1年早くだけど。
腰まである金色のふんわりとした髪と、同じ金色の瞳を持つ私は誰が見ても美しい。鏡を見る度にうっとりしちゃう。
負けず劣らずロゼンも綺麗で中性的な男性に成長した。
ロゼンの顔を見るだけでヨダレ……幸せだが、今年、ついにヒロインが学園にやって来た。ちなみにこの学園は三年制で、今は2年目である。
隣国から留学生としてやってきたのだ。なんでこの学園は交換留学なんてしているんだ、バカヤロウ。
さらに私と同じクラスである。ゲームのおかげで既に知っていたけどね!
ゲームの内容を大まかに説明するとこうだ。
一年間という期限付きで学園にやってきたヒロイン。そこで出会う過去を持った見目麗しい男達。
優しさと笑顔で心を癒し、彼らと愛を育む。
一年後、隣国へ戻るヒロインを好感度の一番高かった男性が迎えに来る。───という在り来たりな内容。
ゲームの主人公であるヒロインは、桃色の髪に桃色の瞳、守ってあげたくなるような、そんな少女。
ゲームそのままの可愛い少女はあっという間に男達を攻略していった。
この国の王太子、セシル・ガランド。「.......何のことかな」二重人格野郎攻略成功。
公爵子息のフィオ・シェルジェ。「逃げることは許しませんよ」ヤンデレ予備軍攻略成功。
伯爵家の本の虫、アダムトア・リア。「女嫌い、嫌い嫌い」ツンデレ女嫌い攻略成功。
辺境伯に咲く花の双子、アイシャ・レイリー、リイシャ・レイリー。「僕らの方が可愛いよね」腹黒双子攻略成功。
王太子の護衛兼臨時職員、ジルグド・ソレイン。「野郎の護衛より女のケツ追いかけた方が良くね?」ロリコンくたばれクズ野郎攻略成功。
最後に愛しの我が従者、ロゼン・ハウスード。私によるさり気ない妨害と、ロゼンの過去が変わったことによる影響で未だ攻略ならず。
というか、絶対攻略なんてさせない。私のモノだ。
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