その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第一章

故郷

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 実は鹿児島へ帰省する予定は、元々なかった。彼女と共にどこかへ行きたい思いと、実家の両親を安心させたい思いから、鹿児島行きを決めたのだ。

 と、言うのも、俺の両親は事あるごとに結婚を急かしてくる。両親は言う。『あんたが結婚して、家族を持つことが一番の親孝行なのだよ』と。
 俺もそれは痛いほど分かっていた。
 だから両親に友人としてではあるが、彼女を紹介して、少しでも安心感を与えたかったのだ。

 羽田空港で待ち合わせた俺達は飛行機に乗り込み、一路、鹿児島へと向かった。

 「はぁ。鹿児島って意外と涼しいのね。」

 鹿児島での彼女の第一声だった。南国とは言え、そこまで暑くはないことに驚き、喜んでいた。

 「そうだね。逆に東京の方がヒートアイランド何たらで、暑いかも。」

 鹿児島は周りを海と山に囲まれた、自然豊かな土地柄だ。ディズニーランドの様なアミューズメントは少ないが、自然を満喫するなら良い場所だ。

 「何処から行きたい?」

 「桜島!」

 俺の問いかけに即答した彼女。子供のようにはしゃぐ彼女が、日に照らされて、キラキラ輝いて見えた。

 俺達は空港近くのレンタカーを借り、久々の地元をドライブしながら桜島へと向かった。

 道中、車内では俺の得意とするものまね大会となっていた。

 「やぁ~くそくを、破りましたねぇ~。」

 「あ、喪黒福造!」

 「正解。」

 「ちょっと似すぎて気持ち悪い。」

 「それは最高の誉め言葉だよ。」

 顔をしかめながらそう言う彼女に笑顔で応えた俺。その後もルパン三世、某有名俳優、有名芸人等、俺の得意とするモノマネのレパートリーを惜しみなく披露した。

 そもそも、閉鎖された車中だからこそ出来たものまねであり、普段の日常では恥ずかしくて、決して披露出来るものではなかった。その低クオリティーは本人が一番分かっていたのであった。そして、その後も得意のものまねは続いた。彼女を退屈させないように、 俺は必死だった。彼女を笑顔にしたく、また、鹿児島へ来たことを良かったと思ってもらうために。

 彼女は俺の繰り出すものまねに、笑って応えてくれた。俺は楽しそうな彼女を見て、少し安心した。

 桜島へは、鹿児島市から出るフェリーを使うことにした。海の上からの桜島の眺めが圧巻なのを俺は知っていた。それを彼女に見せたかったのだ。

 「うわぁ!すごい!」

 潮の香る海風を全身に浴び、フェリーの甲板から眺める桜島に感動する彼女。その彼女の横顔を見て嬉しかった俺は喜びを隠せなかった。

 「これが桜島なのね。確かに雄大。あの岩肌を見てると、脈々と生きてる山なんだなって思う。」

 「うん。ここからの景色を雫さんに見せたかったんだ。」

 「ありがとう。」

 風にかき乱される髪をかきあげ、俺に微笑み返す彼女。俺は桜島を見上げ、心の中で、ありがとうと、呟いた。

 「あとね、この船のうどんが旨いんだよね。食べてみる?」

 「郷に入っては郷に従えって言うから、食べてみるわ」

 そのうどんは桜島までの短時間で食べられる様シンプルなうどんではあるが、何故か絶品であるのだ。

 「ホント!美味しい。何だか懐かしい味ね。」

 「そうでしょ。」

 彼女のホクホクの笑顔に俺も笑顔になった。

 桜島へと上陸した俺達は、この桜島をどう満喫しようかと話し合った。

 「取りあえず、一周してみる?」

 「ええ。いいわね!」

 俺の提案に笑顔で即答する彼女。

 「でも、車じゃ嫌。あ、レンタサイクルってあるんだ。あそこでレンタサイクル借りましょうよ。」

 「えぇぇ!自転車で、かい?」

 「あはは。そうよ。」

 車中で披露した、マスオさんのものまねで驚く俺に対して、さらりと答えた彼女は、やる気満々の顔だった。

 体力に自信のない俺は渋々レンタサイクルを借り、二人で桜島一周へと、こぎ出した。

 「わぁぁ。気持ちいいね。」

 海から吹き付ける風が頬を伝い、撫でてゆく。右手には海が広がり、左手には岩肌がゴツゴツとうねりを成していた。

 「そうだね。」

 息切らし、絞り出すように答えた俺は満身創痍だった。

 彼女は持ち前の体力でスイスイ進んで行く。俺は付いて行くのに必死だった。彼女の背中を追いかけ、彼女が振り向く度、その笑顔に笑顔で応えたのだが、自分のその笑顔が苦笑いなのが自分でも分かった。

 「おーい。おじさん、がんばれー。」

 「おっ、おじさんて。」

 笑顔でおちょくる彼女に冗談で返す余裕のない俺は息を切らしながら小さく呟いた。

 そんな中で桜島の麓に住む住人の方とすれ違いざまに挨拶を交わした。

 「活火山なのに麓には人が住んでるだなんて、鹿児島県人、どんだけ逞しいの?」

 確かに彼女の言う通りだ。桜島は活火山。そこには人と自然の驚異とが共存している姿があった。

 桜島を一周し終わり、ヘトヘトにへこたれた俺はいまだ元気な彼女を尻目にスポーツドリンクをがぶ飲みした。

 「楽しかったなぁ。もう一周、する?」

 「あははは。ご勘弁を。」

 「ふふふ。冗談よ。」

 苦笑いする俺に戯けて笑う彼女にはまだ余裕が感じられた。やはりジムで鍛えてるのは伊達じゃないようだ。

 桜島を後にした俺達は、暮れゆく景色を車窓から眺め、夕食をどうするかを話した。

 「実は実家の両親に、友人を連れて夕食を実家で一緒に食べるかもって話をしてあるのだけど、どう?」

 「お邪魔にならないのかな。」

 一瞬、戸惑いの表情を見せた彼女は、俺の顔を覗き込むようにしてそう言った。

 「大丈夫だよ。両親もきっと喜ぶよ。」

 笑顔で話す俺に彼女は笑顔で頷き、夕暮れの空遠くを見つめていた。

 実家では母親がご自慢の手料理を準備して帰りを待っていた。

 「ただいま。」

 「あら。おかえりなさい。早かったのね。」

 玄関口で母親が出迎え、父親も追って笑顔で出迎えてきた。

 「うちの親父とお袋。こちらは、鈴木雫さん。東京でお世話になっている友人の一人。よろしくね。」

 少し緊張して、ぎこちない紹介になったが、お互い笑顔で挨拶を交わした。

 「鈴木雫と申します。雄大さんには東京でいつもお世話になっております。今夜は夕食にお誘い頂きありがとうございます。」

 「いいえ~。こちらこそ雄大がいつもお世話になってるみたいで。堅苦しい挨拶は抜きにしてどうぞあがってくださいな。」

 母親は珍しく嬉しそうな表情だった。父親も先程からニヤニヤが止まらない。うちの実家は田舎によく有りがちな瓦葺きの平屋造りで、縁側に畳敷きの和室という間取りの家だった。

 「素敵な家。綺麗だし。」

 「そう?田舎に有りがちな家だよ。」

 和室の客間で回りを見渡しそう呟く彼女に、俺は素っ気なく答えた。俺からすれば当たり前の環境なのだが、都会育ちの彼女にしてみれば、興味の対象なのだろう。

 「お兄ちゃん、お帰り。」

 奥には離婚して実家に戻ってきている妹家族もいた。

 「ゆうちゃん、おかえりー。」

 高校生の姪っ子に中学生の甥っ子も出迎えてくれた。

 「おう、元気にしてた?こちら姪の千秋。そして甥の弘也。こちらは東京の鈴木雫さん。よろしくね。」

 そう言うと姪っ子と甥っ子はニヤニヤしながら、

 「よろしくお願いします。ところでゆうちゃんが彼女連れて帰ってくるって、明日は雨降るんじゃね?」

 無邪気にからかう姪っ子と甥っ子に、

 「こらこら、雫さんは俺の大事な友人だ。失礼のない様に。」

 と、諭すと、

 「まださん付けなんだ。まぁ、これからってとこかな。」

 と、更にからかうので、

 「あのね、大人をからかうものじゃないのだよ。」

 「あはは。OK。そう言う事にしとこか。」

 「雫さんごめんね。」

 そう言う俺に、

 「賑やかでいいですね。何だか温かい雰囲気。」

 笑顔でそう応える彼女は楽しそうだった。

 「ささ、こちらへ。料理は準備出来てるわよ。」

 母にそう促され、和室へ。

 「うわぁ。凄いごちそう!」

 彼女が驚くのも無理はない。母親が準備していたのは、鹿児島の郷土料理がメインの夕食だった。銀色に光るキビナゴの刺身に、豚肉を黒糖で煮込んだナンコツ、一見、豚汁のようだが煮込んだ大豆がアクセントのさつま汁、その他にも天ぷらや、刺身盛りなど、俺から見てもかなりの力の入れようの料理に俺すらも驚いていた。

 「お口に合うか分からないけど、どうぞ召し上がってくださいね。」

 さらりとそう言って食事を勧める母は本当に嬉しそうだった。俺も久し振りの母の手料理に舌鼓を打った。

 彼女も料理に興味津々だった。特に鹿児島の郷土料理への関心は高いようで、素材の仕入れ先から、料理のレシピにまで、かなり突っ込んで母に聞いていた。

 「料理するの?」

 そう問う俺に頷く彼女は何でも魚は丸ごと仕入れて自分でさばくほどの料理好きなのだそうで、

 「このキビナゴって魚、とても美味しいですね。是非一度さばいてみたいです。」

 そう笑顔で話す彼女に母はしかめっ面で、

 「キビナゴは見ての通り小さい魚でしょ。包丁ではさばくの大変よ。キビナゴはね、指で開くの。コツさえ掴めば簡単だけど、なにぶん、小さいから苦労するわよ。」

 「大丈夫です。こんなに美味しいお魚食べるのであれば苦労は厭いません。今度、機会があったら是非ご教授願います。」

 笑顔でそう言う彼女に気分を良くしたのか、母も彼女に微笑み返し、いつになるやら分からぬ約束を二人は交わして意気投合していた。

 そんな二人を俺も眺めて、ほのぼのした気分になっていた。

 「雄大、仕事はどうだ?順調か?」

 そう訊ねる父に、

 「ああ。キツイし安月給だけど、順調だよ。デカい仕事も受注できて、やり甲斐もあるよ。」

 「そうか。」

 言葉少なに父はそう言った。男同士、少ない言葉でもそこから察するものがあるのだろう。お互いそれで通じ合えた様に感じた。

 「今夜はご馳走さまでした。とても美味しかったです。」

 余り遅くまで居ると迷惑になるのではと思ったのであろう。彼女は、我が家を発つ準備を始めた。

 「あら、もう帰られるの?うちに泊まっていかれたらいいのに。」

 そう言って引き留める母に、でも・・・お邪魔になるのではないですかと、少し照れながら答える彼女。

 「大丈夫。客間も空いてるし、布団も準備出来るから。」

 笑顔で実家に泊まる事を促す俺。

 「でも・・・」

 少し戸惑う彼女は何だか申し訳なさそうだった。

 「でも?大丈夫。雫さんの寝込みを襲ったりしませんよ。安心してください。」

 おどける俺に母が続けて

 「もし、雄大に不穏な動きがあったら私が雄大のお尻を蹴飛ばしてあげるから大丈夫よ。」

 「あははは。ありがとうございます。では、お世話になります。」

 こうして、彼女はオレの実家に泊まることになった。

 俺は彼女がお風呂に入っている間に客間をかたづけて布団を敷き、今では倉庫と化していた俺の部屋にこもり例のスマホを取り出しいろいろ聞いてみた。

 「OK、ゴーグル。雫さんは今回の旅をどう思ってる?」

 「雫さんは今回の旅を楽しんでいます。」

 「OK、ゴーグル。じゃあ、雫さんは俺の、佐藤雄大の両親や家族の事はどう思ってる?」

 「彼女は雄大さんの両親や家族に対してとても良い印象を持っています。」

 俺は彼女の俺の両親への印象がとても気になっていた。それは心の何処かで彼女との結婚をうっすらと期待し、思っていたからであろう。俺は自分の気持ちの核心部分を聞いてみたくなった。

 「OK、ゴーグル。雫さんは、俺と、佐藤雄大と結婚したいと思ってる?」

 「分かりません。」

 (え?)

 「OK、ゴーグル。おいおい。心まで検索出来るんだろ?なんで分からないんだよ。」

 「彼女の心の中に雄大さんとの結婚と言う選択項目がまだ存在していません。なので、検索出来ませんでした。」

 (そうなのか・・・)

 「OK、ゴーグル。じゃあ、どうすれば雫さんの気持ちを検索出来る?」

 「彼女に結婚を意識させるキーワードを雄大さんが与えれば、雄大さんとの結婚と言う選択項目が発生することでしょう。」

 (なるほどな!)

 俺はすぐに思い付いたのは、鹿児島南部の指宿市にある知林ヶ島であった。
 知林ヶ島は干潮時、島と陸を繋ぐ砂道が出現し、歩いて渡れることから、縁結びの島にもなっていた。

 (彼女にこの話をして、島へ渡ったなら俺との結婚を意識させる事が出来るかもな。)

 そして俺はスマホに明日の知林ヶ島の干潮時間を検索して、その時間に合わせてスケジュールを頭の中で組み立てた。

 そうしているうちに彼女がお風呂からあがってきた。

 「一晩の宿に加え、お風呂まで頂いてしまって、ありがとうございます。」

 お風呂上がりの彼女は、シャンプーの香りをほのかに漂わせ、頬は少し紅潮し、俺はつくづく女性から漂うシャンプーの香りに弱いなと感じていた。

 「明日の予定なんだけど、指宿市方面に行きませんか?砂蒸し温泉もいいですし、ちょっと連れて行きたい所もあるので。」

 止まらないドキドキを隠しながら俺は落ち着き払って話した。

 「わぁ!いいですね。砂蒸し温泉、一度体験してみたかったんです。」

 「そう。きっといい旅になると思うよ。」

 「うん。楽しみだなぁ。」

 はしゃぐ彼女に早く寝ることを勧め、おやすみの挨拶を交わしてそれぞれの部屋に入った二人。

 俺は半分倉庫の俺の部屋のベッドに潜り、天井を見上げ、彼女とひとつ屋根の下で眠ることへ高揚感を感じていた。そして、あのスマホを取り出しこう訊ねた。

 「OK、ゴーグル。明日、上手く行くかな?」

 「きっと、大丈夫ですよ。」

 「あはは。こいつ、励ましてもくれるのか。」

 俺は小さく笑って、部屋の電気を消した。
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