Rain fairy〜雨の妖精〜

久恵立風魔

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雨の妖精

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 翌朝、学校へ向かう聡は例の川岸に差し掛かり彼女が居ないか、見渡したがいなかった。小さく溜め息をつき、川岸を歩いていると「よっ!」と、健太が声をかけてきた。

 「聡、大丈夫なのか?昨日は疲れてたみたいだったけど?」

 「ああ。大丈夫だ。心配かけたな。」

 聡は少し笑って空を見上げた。空は青空が広がっていた。そこへ綾夏と優也も合流した。
 四人それぞれ「おはようー。」と挨拶すると、綾夏と優也に健太が「昨日はちゃんと反省したのか?」と、笑いながらと聞いてきたので、二人はニヤリと笑い、

 「えーと、私達、褒められたのでしたー!」

 「え?どゆこと?」と、健太と聡がキョトン顔をしていると、何でも先日県外からこの街の息子家族の家を訪れようとした老夫婦が重い荷物を持って迷っているところ、下校途中の綾夏と優也が遭遇。優也が荷物を持ってあげ、綾夏がスマホでナビゲートして息子家族の家に送り届けたのだと。名前と学校を聞いていたその老夫婦から息子経由でお礼の菓子折りを貰った、との事であった。

 「ヘェ~、偉いな。」

 そう言う健太に「そうでしょー!」と、胸を張る綾夏と優也に続けて健太が、

 「いや、お前らじゃなくて、そんな些細な善意にお礼を贈るそのお爺ちゃん達の出来た息子さんが、だよ。」

 健太はまた悪戯な笑みで聡も「そうそう。」と、笑いながら頷くと、

 「何なの?この二人!感じ悪いわね!せっかく貰ったお菓子、四人で分けようと思ってたのに、やーめた。」

 慌てて健太と聡は「いやいや、綾夏も優也も偉いよ!うん!流石だ!」と、ゴマを擦ったが、後の祭りであった。

 「このお菓子は二人で食おうぜ。」

 ニヤリと笑う優也に綾夏も横目でニヤリと健太達をみて頷いていた。

 「そんなー。俺達仲間だろ?」

 朝の青空に四人の笑い声が響いていた。

 昼休み。体育館外の片隅で四人はお礼で頂いた菓子折りを山分けして食べていた。

 「このお菓子、美味しいー。何処のお菓子だろ?」

 何故、女子は甘い物が好きで、その反応が大袈裟なのだろうと、聡は冷めた反応をしていたのだが、綾夏に「ほれ、食べてみ。」と、勧められて食べたら、本当に美味しく、聡には珍しく「おお!うめぇー!」と唸りを上げたので他の三人も驚いていた。

 「多分、あのお爺ちゃん達のお土産だったのかもな。うちの県内では見かけないお菓子だ。」

 お菓子を頬張り、冷静にそう分析する優也は「そんなの見りゃあ、分かる。」と三人から突っ込まれていた。その菓子折りののし紙には「佐藤」と書いてあった。健太が箱の裏にある生産会社の住所を見つけ、どうやら鹿児島県のお菓子らしい事がわかった。

 「そういえばお爺ちゃん達、九州の方言ぽい話し方だったかも。」

 綾夏がそう言うと、健太が「繋がったな。」といい、このお菓子は、お爺ちゃんの鹿児島のお土産、と言う結果に行き着いた。

 「ホント、美味しかったな。」

 お菓子を四人で平らげ、聡がそう呟くと、「そういえば」と、健太が昨日の下校時の事を話し出した。

 「昨日さ、聡と一緒に帰っただろ?その時、聡が誰もいない所に話しかけててさ、ビックリしたよ。」

 「えー?それ本当に?聡、どうかしたの?」と、問い掛ける綾夏に、「うん、それがさ」と、聡は話を進めた。

 「おととい、帰る時、凄い雨の日があっただろ?あの時川岸に一人の女の子がいてさ・・・」

 聡は当日の話、そして昨日の夕方再会したが、健太には見えてなかった事などを話した。皆、一様に信じず、健太は「疲れていたのだろう。」と、優也は「聡、お前、変なクスリやってないよな?」また的の外れた事を聞いてきて、綾夏は、

 「へぇ~。聡が女の子に興味持つなんて珍しいね。でも、見えない人だなんて、さては・・・・・」

 勿体ぶって話す綾夏に「さては、なんだよ?」と、答えを急かす聡に、

 「さては、二次元に恋したのかぁー?それで幻覚を見たんじゃね?」

 「あのさぁー。俺がその手のゲームはしてないの、知ってるだろ?」

 聡が呆れて言うと、「いや、その方面に覚醒したのかなって。」ニヤニヤしながら綾夏は話した。

 「とにかく、不思議な子だったんだ。何だか惹きつけられるっていうか、気になってしまうっていうか・・・」

 聡はこの気持ちが分からないでいた。すると、健太が、

 「それって、恋じゃね?」ニッと笑って肘で聡の脇腹を突っついた。

 「そんなんじゃ、ねぇーよ!ただ、いろいろと聞きたい事があるだけだよ。」

 聡は強く否定したが、周りは「え~」と、目を細めて笑っていた。

 「人はその人を知りたいと思った時、恋が始まる。」

 哲学的な事を言う優也に健太が「誰の格言?」と、聞いたら、優也は人差し指を立て「誰でもない、俺の言葉。」と、言い、胸を張っていた。

 「優也が言うといい言葉も薄っぺらく感じるのはどうしてだろう?」

 首を傾げ、真剣な表情でそう言う綾夏に皆、笑っていた。そして、

 「今日もいるかもしれないから皆んなで見に行きましょ?」

 綾夏はそう提案して、放課後、皆で見に行く事になった。

 放課後。四人は例の川岸に到着した。川は静かに流れ、鳥は囀り、いつもの平穏な風景であった。

 「今日はいないみたいね。」

 そう言い、綾夏たちは周りを見渡した。

 「てか、また聡にしか見えてないとか?」健太は聡に確認したが、「いや。」と、聡にも見えていなかった。四人はその子は果たして何者なのだろうと、話し出した。

 「きっと幻よ。」と、綾夏はいい、優也は「多分陸上競技選手。しかも短距離走者。その足の速さで消えたのさ。」と、自信ありげに話すが、三人は苦笑いだった。健太は、

 「幽霊じゃね?」

 思ったままに話し、周りをドン引きさせていた。その可能性もあるが聡は彼女の質感があまりにもリアルな幽霊になる事から、その仮定も却下であった。ただ、三人の同一の意見として、女に興味を持たなかった聡が気になるという彼女の事が、皆も気になるという事で話はまとまった。

 「じゃあな。」

 四人はそれぞれの帰路に着いた。空は晴れて、陽は西へと傾いていた。聡も自宅へと帰り、冷蔵庫の麦茶を飲んでフゥーと、一息つくと、庭の洗濯物を取り込もうと外に出た。ふと、辺りが暗くなっているのに気付き、空を見上げたらさっきまで晴れていた空が嘘のように空一面に雲が広がっていた。聡は何か妙な胸騒ぎを感じ、手早く洗濯物を取り込むと、自宅を出て例の川岸に向かった。

 (彼女がいるかもしれない。)

 勘だった。彼女がいそうな気がする勘がして聡は走った。いつも通る通学路だが、こんなに遠くに感じた事はなかった。息を切らし聡は走って、川岸を遠くに捉えた。誰か立っている。聡は更に走るピッチをあげた。近付くにつれその人物が水色のワンピースを着ており雨守ツユである事が分かった。聡は走るのを止め、息を整えながら彼女に近付いた。彼女はまた川を見つめ、じっと立っていた。聡は少し距離を置いて挨拶した。

 「こんにちは。」

 「あ、小日向君。こんにちは。」

 「今日は何探してるの?」

 聡が笑顔でそう聞くと、ツユは少し伏し目がちで、

 「昨日は突然いなくなってごめんね。」

 そう謝ってきた。聡は「謝る事なんて何もないよ。」と微笑むと、ツユも微笑み返した。彼女の綺麗な青い瞳に吸い込まれそうで、息は弾み、心臓はバクバクとツユに聞こえるのではないかというくらい脈打っていた。それが走ってきたからなのか、恋心からなのか、聡には分からなかった。

 「探しもの?何だろね?」

 ツユは聡の質問をはぐらかすと、今度は「ありがとう。」と、聡に感謝してきた。聡は首を傾げながら微笑んで、「感謝されるような事、何もしてないんだけど?」と、言うと、ツユは、

 「だって、泣いてた私を笑わせてくれたじゃない。」

 「笑わす事なんて簡単な事だよ。いつでも笑わせてあげるよ。」

 聡はそう言い終えると間髪入れず、変顔をしてツユを笑わしにかかった。

 「あはは。イケメンが台無しだよ?」ツユは一頻り笑うと、空を見上げた。ツユの青い瞳に青い空が写り青色に深みを増しているように見えた。

 「やっぱり。小日向君が私を笑わせると、空が晴れる。見て。青空が見えるわ。」

 聡も空を見上げた。確かにさっきまで曇ってた空は晴れ、青空が見えていた。

 「たまたまさ。でも晴れ男だとは良く言われるよ。それもたまたまだと思うけどね。」

 二人見合ってフッと笑い合った。

 「ところで、昨日俺と一緒にいた友達がいただろ?健太っていうんだけど、健太には君の事が見えなかったらしいんだ。悪い冗談だと思うだろ?何であんな嘘ついたんだろ?」

 聡は不可解な顔をしてそうツユに問いかけた。ツユは少し顔色を曇らせて俯くと暫く沈黙した後、「実は」と、聡に話しかけた。

 「実はね、私・・・・・」

 「私?」

 「実は私、妖精なの。」

 「よ、妖精?」

 聡は驚いて、呆気に取られていたが、だんだん笑いが込み上げてきて、

 「あはは。雨守さん、面白いね。そのネタ俺も使おうかな。」

 聡は笑いを堪えるのに必死であった。

 「ちょっ、笑わないでよ。本当に妖精なんだから。だから健太君には私が見えなかったの。健太君は嘘をついてないよ。」

 「ふふふ。その妖精さんは何の妖精なの?」聡はツユの冗談に乗っかったつもりだった。

 ツユは少し不機嫌な顔をして「雨」と答えた。

 「ふーん。雨の妖精か。じゃあ雨の妖精さん、よろしく!」

 そう言うと、聡は右手を出し、握手を求めた。ツユも右手を差し出し聡の右手に手を重ねた。ツユの右手は聡の手をすり抜けた。

 「え?」聡は目を疑った。もう一度、今度は聡からツユの手を掴もうとしたが、すり抜けて掴めない。「えええ!何で?何で掴めないの?」何度も何度も掴もうとするがすり抜けて掴めないでいた。

 ツユは視線を落とし、少し悲しそうな表情をしていた。

 「妖精って本当?じゃあ何で俺には君が見えるの?」

 「分からない。」ツユはボソッと言った。聡は先程よりは冷静さを取り戻し、今ある現状を頭の中で整理していた。そして、一通り考え、整理出来た聡はいくつか質問してもいいかを訊ね、ツユはコクリと一つ頷いた。

 「雨守さんは、妖精として、ここで何してるの?」

 「探しもの。」

 「何を探してるの?」

 「大切なもの。今はまだ話せない。」

 「そか。じゃあ、何処から来たの?」

 「妖精の世界。」

 「妖精の世界?それは何処にあるの?」

 聡は不可思議な話に興味と疑心が交錯していた。

 「私も何て説明したらいいか分からないのだけど、この世界と宇宙との中間、歪みみたいな所といったら分かるかな。」

 よく分からないが、この世界の人間ではない事は分かった。しかし、目の前の彼女の質感、リアリティーはCGやバーチャルリアリティの様なものとは程遠く、そこに存在する人、そのものであった。

 「寝食はどうしてるの?」

 「寝ないし、食べない。それでもどうもない。」

 「ここにいない時はどうしてるの?」

 「一人でこの街を彷徨ってる。」

 「そうか。」

 聡は一通り質問を終わらすと、ツユに一つ提案をした。

 「俺の家に来る?どうせ他の人にも見えないのだし、寝食の心配もないし、何より一人じゃ寂しいだろ?」

 聡は笑顔でそう言うと、「え?いいの?」ツユが聞き返してきたので、「勿論。」と答えると、「小日向君て、優しいのね。」ツユも笑顔を取り戻した。「それと」と、聡は付け足して、

 「小日向君てのはちょっと照れるから聡でいいよ。」

 「ありがとう。聡。じゃあ私の事もツユって呼んで?」

 「OK。了解。じゃあツユ、俺の家に帰ろうか。」そう言い、二人は聡の家へとの帰路に着いた。日は陰り、西の空はすっかり茜色に染まっていた。
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