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片想い
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翌朝、射し込む朝日と共に目覚めた聡は部屋を見渡した。ツユはいない。ひょっとしたら、昨夜の出来事は夢の中での出来事で今の今まで夢の中にいたのではないかと、聡は不安になった。「ツユ、いる?」聡は寝起きのかすれた声を絞るように出した。しかし、ツユは現れない。聡は起き上がり、再度呼び掛けた。でもツユは現れなかった。
「やっぱり夢見てたのか。」
聡はフッと笑うと大きく溜め息を一つついた。
聡は気持ちを切り替えて、「さぁ!」と自分自身に声をかけ、登校の支度をした。そんなカラ元気もまったく続かなかった。朝食中も瑠璃子に「何ボーっとしてるの?」と注意され、洗面所に立ってても美優に「何いつまでも突っ立ってるの?邪魔。」と、注意される始末であった。
溜め息混じりの通学路をボーっと歩いていた。空は迷惑なくらい快晴だった。
(曇ってればまたツユに会えると思ったのに・・・)
昨夜の事が夢には思えなかった聡は昨夜の様に頬をつねった。痛かった。
(昨夜も痛かった。夢じゃない。)
そう思い、ふと前に目を向けると、例の川岸にツユは立っていた。「いた!」聡は走った。今までで一番早く走った。
「ツユ!」
振り向いたツユは満面の笑みで「おはよう。」と何事もなかったように挨拶してきた。聡は息を切らして前屈みで「良かった。」と、途切れ途切れに声をだした。「ん?」と不可解な顔のツユは何が良かったのか分からなかった。
「朝、突然いなくなったからさ、昨日の事は夢だったのかなと思った。」
聡は素直な気持ちを言葉にした。そして、聡も息切れで歪んだ笑顔で返した。
「あ、ごめんね。聡が着替えたりするからと思って先に出たんだ。学校に行く約束、だったよね?楽しみだな。」
ツユは申し訳なさげに謝り、楽しげに約束の話をした。そんなツユを聡は優しい眼差しで見ていた。とにかく、夢でなかった事にホッとしてた。
「あ、そうだ。」そう言うと聡は学校でのツユとの会話の仕方を打ち合わせた。
「ツユの声は俺にしか聞こえないからいいのだけど、俺の声はみんなに聞こえてしまう。だから俺からの会話はスマホのメモアプリに打ち込む。ツユはそれを後ろから覗いてくれ。そうすれば学校でも会話出来るだろ?」
聡はニコッと笑うとツユも笑い返し、「分かった。」と答えた。そんなやり取りを登校中の低学年の女子小学生が不思議顔で見ていた。
「お兄ちゃん誰と話してるの?」と、聞いてきたので聡は一瞬焦ったが、「妖精と話ししてたんだよ。」と、言うと、「ふーん。嘘つくならもっと分からない嘘ついたほうがいいよ。」といい去っていった。聡とツユは見合ってプッとなり「嘘ついてないのにね。」二人また笑い合った。気付くと遠くに健太の姿が見えた。「健太だ。アイツは頭が切れる。勘付かれないよう気をつけて。」そう言うとツユは一つ頷き健太に視線を向けた。
「よう。健太おはよう。」
「よう。」と、健太は眠そうな顔をして大きなあくびをした。「この人どう見ても頭切れそうには見えないのだけど?」ツユは目を細め横目で健太を見た。その眼差しは疑いの眼差しであった。聡は苦笑いすると、「健太、今朝は眠そうだな?昨日寝たのか?」聡が訊ねると、「ああ。寝たんだが、隣の犬が一晩中吠えてて熟睡出来なくてさ。」そう言い健太は耳の穴をほじった。聡は「お気の毒さま。」と言いニャアと笑った。聡の歯並びのいい白い歯が光る。健太が横目でジロリと睨むと、いつもバカにする仕返しとばかりに聡はニヤニヤしてやった。
「何、ニヤニヤしてるの。キモいわね。」
と、そこへ綾夏が割り込んできた。三人軽く挨拶すると、聡は笑いを収め、スマホを取り出した。「だろ?聡のやつ、俺が昨日寝不足なのを喜んでやがる。」健太が不機嫌に言うと、「何で?」と、綾夏が理由を聞いていた。その間に聡はメモアプリに『綾夏、幼馴染み、性格わるい』と打ち込むとツユは口を押さえプッと笑って「可愛い子だね。」と言うと、『そう?かわいいと思った事ない。』と、打ち、興味ない顔をした。健太の話を聞き終わった綾夏は「犬に罪はない。悪いのは耳栓とか対策を取らなかった健太が悪い。」愛犬家らしい意見で健太を一刀両断した。「ところで、」と話題を変えた綾夏が、
「聡さ、今朝は噂の女の子は川岸に居なかったの?」
「ああ。残念ながらね。」ポーカーフェイスで聡は答えた。そしてメモアプリに、『どうやら綾夏にもツユは見えてないらしい』と打つと友人二人には分からぬよう、ツユに微笑み片目を瞑ってみせた。ツユもにっこりと笑った。
学校に着いた三人はまだ登校していない優也が昨夜SNSにアップしていたモノマネについて話していた。
「見た?優也のモノマネ。」笑いを堪える綾夏はそう言い、
「見た見た。勇気あるよな。」と、健太と聡は苦笑いだった。「よくあのクオリティーで出来るよな。」皆、爆笑した。それはモノマネが面白くて笑ってるのではなく、あまりにもレベルの低く、酷いモノマネだったからであった。
「ヤバかった。また遅刻するとこだった。」
バタバタと優也が登校してきた。「今日は遅刻しなかったな。」健太はニヤケてそう言うと、早速昨夜のモノマネを弄りだした。
「ありゃあ、酷かったな。見てる方が恥ずかしかったぞ?」
「何言ってんだ。最高に似てて震えて鳥肌立つだろ?」
「ああ、寒くてな!」三人揃って優也に突っ込んだ。聡はスマホに『優也、遅刻魔、いいヤツ、筋肉バカ。』と入力するとツユはクスクスと笑った。「みんな、いい人達だね。」ツユはそう言い微笑んだ。『うん。クセはあるけどみんないい奴。』聡はそう続けた。
健太の前で生モノマネを披露しだした優也を尻目に聡は窓の外の青空を見上げてスマホに『ツユが笑顔だと空も快晴だね。』と打ち込むとツユは微笑んだ。
「ねぇ、ねぇ、ところでさ聡の言う噂の女の子って、どんな子なの?」
健太と優也を放置して綾夏は聡に興味津々にそう訊ねた。聡はチラリとツユを見るとツユは小さく頷き、彼女の事を話した。
「彼女は普通の子だよ。ただ、特殊な力があるみたい。」
「それだけ?性格とか見た目とか知りたいのだけど。それに特殊な力って何なの?」
「性格は泣き虫な所があるのかな。いつも水色のワンピース着てる。特殊な力は簡単に言うと、雨女ってことかな。」
「ふーん、泣き虫で雨女。ひょっとしてここ最近のゲリラ豪雨って彼女のせいなんじゃない?最初川岸で会った時も泣いてたのでしょ?あの時も酷い豪雨だったし。」
綾夏のくせに勘がいいと聡は思った。聡は苦笑いして、「人のせいにするなよ。」と言い、スマホに『な?性格悪いだろ?』と打つとツユも苦笑いした。
「別に人のせいにしてないでしょ?冗談よ。」
そう言うと、綾夏は不機嫌に話を続けた。
「それにしても聡にしては偉く彼女の肩を持つのね。ひょっとして彼女の事好きなの?」
ニヤリと笑い目を細めて訊ねた綾夏に聡はすぐ否定しようとしたが、後ろに居るツユに意識がいき、気配を感じながら、
「いい子だよ。綾夏と比べたらはるかにな。そういう意味では好きかな。」
ツユと比べられた綾夏は面白いはずがない。笑顔は一気に引き、鬼の形相で
「女の子同士をを比べるなんて最低。聡の方こそ性格悪いじゃない!」
「綾夏が彼女を悪く言うからだろ?」
「誰も悪くなんていってないじゃない!」
「おいおい、喧嘩かよ。もうすぐ朝礼だ。席に着くぞ。」
優也とのモノマネ談義を中断し、仲裁に入った健太であったが、綾夏も聡も仲直りする様子はなく、二人共不機嫌に綾夏は自分の教室に戻り各々の席に着いた。ツユは自分の事で喧嘩になった事に罪悪感を感じ、苦笑いするしかなかった。
「聡、ごめんね。」
ツユは申し訳なさそうに聡に謝ると、『ツユは悪くないよ。綾夏の性格が悪いのが悪い。』と、スマホに打つとツユは泣きそうになっていた。
ふと、窓際の席の聡は空が急に曇りだし、ポツリと雨が降ってきているのに気付き、ハッとして、後ろを振り向くと、ツユは涙を流さんばかりに青い瞳に涙を溜めていた。
聡は驚きと興味とでスマホをとり、『本当にツユが泣くと雨が降るんだね。』と、打つと、ツユは「だって、私のせいで綾夏さんと聡が喧嘩したままで・・・」と今にも声を上げて泣きそうだったので聡は、『分かった分かった。あとで仲直りするから、泣かないで。』ツユをなだめると、泣き出す寸前で止める事ができ、ツユは目に涙を拭って微笑んだ。そして聡が空を見上げるとみるみる雲が流れ消えていった。
「こら、小日向、朝礼中だぞ。スマホはしまえ。それに空ばかりみるな。落ち着きがないぞ?」
担任の野上の注意もそこそこに聡はツユの力を目の当たりにして落ち着いてなどいられなかった。
(すごい。本当にツユが泣くと雨が降るんだ。ひょっとして綾夏、親父の言っていたゲリラ豪雨の原因はツユなのか・・・。)
そして聡は微笑むツユに小さく笑い返した。
その日の放課後、ツユとの約束通り午前中の早い時間帯に綾夏との仲直りを済ました聡は健太と帰る準備をしていた。綾夏は女友達と約束があるからと先に帰った。帰る間際、「デリカシーない男子諸君、さよなら~。」と言い放ち帰る綾夏に、「聡と一緒にするなよ!」と、迷惑そうに健太が言うと、聡は笑っていた。ツユもつられて笑った。優也はというと、帰りに寄る所があるといい、先に帰ってしまった。
帰り道を聡と健太、そして少し後ろからツユが後を追っていた。話題は綾夏との朝のやり取りだった。
「あのな~、女は比べられるのが一番嫌なんだよ。」
「そうなのか?別にいいじゃねぇか。」
「聡は女心が分かってないな~。」
呆れる健太を尻目にスマホで『そうなの?』と、聡はツユに訊ねると、小さく頷いた。いまいちピンとこない聡は納得出来ずにいたが、ツユがそう言うならそうなのだろうと、納得したフリをした。
(これだから、女は面倒臭いんだよな。)
そう思っている聡に健太が小さな声で訊ねてきた。
「ところで聡さ、綾夏の事どう思ってる?」
「ん?どうって、性格悪いよな。」
「そうじゃなくてさ、あのー、ほら、女として。」
「女として?友達だし、幼馴染みだとしか思わないが?」
「綾夏ここ最近、なんて言うかさ、あのー、可愛くなってね?」
「綾夏が?あははは。あの性格悪い綾夏の何処が可愛いんだよ?」
聡に笑われた健太は頬を紅潮させ、「笑う事ないだろ?」と言い、続けて、
「なんて言うかさ、胸も大きくなって来てるし、何だか色っぽくなってきてね?」
「何だよ、健太、綾夏が好きなのか?」
「バカ!声がデケェよ!」
慌てる健太を聡は大笑いした。そして、「俺は綾夏の事は何とも思っちゃいない。健太が綾夏の事本気なら俺は応援するぜ。」聡は親指を立ててニッコリ微笑んだ。
健太は耳まで赤くして、額の汗を拭い、「おお!それでこそ長年の友!」と、安堵の表情をした。そして、「この事は俺たち男同士の秘密な!」念押しして、聡は健太と別れた。
聡とツユは住宅街を自宅へと帰る中、先程の健太の話をしていた。
「しかし、健太が綾夏の事好きだったとはね。朝のツユの雨降らす力といい、今日は驚く事ばかりだったな。」
「綾夏さんはどう思っているんだろ?」
「健太の事?あいつら頭良い者同士お似合いだよ。さて、どうやってくっつけてやろうか。」
聡は顎に手を添えてあれこれ思案していたらツユが、
「綾夏さんは多分、聡の事が好きだよ。」
「綾夏が?俺を?あははは。それはないね。でも、何でそう思うの?」
「今日綾夏さんと聡とのやり取り見ていて何となく。女の勘かな。」
ツユは女としての率直な思いを言葉にした。
「ふーん。でも、さっきも話したけど、俺は綾夏の事は何とも思ってない。綾夏もそうだと思うけどな。」
そう言うと聡は茜色に染まる空を見上げて、
「俺は前にも話したように雨は嫌いじゃない。でも、ツユを泣かせてしまうと、雨降るんだな。だから、ツユを泣かさないようにする。笑わせてツユを晴れ女にしてあげるよ。」
聡はツユを見てニコッと笑った。その無邪気な笑顔にツユも笑顔になった。しかし、こうして聡と笑い合えるのもあと少しだとツユは覚悟していた。聡に気付かれぬようツユは悲しげに西の空を見詰めた。夕日は赤く沈み込み、明日の快晴を占うようであった。
「やっぱり夢見てたのか。」
聡はフッと笑うと大きく溜め息を一つついた。
聡は気持ちを切り替えて、「さぁ!」と自分自身に声をかけ、登校の支度をした。そんなカラ元気もまったく続かなかった。朝食中も瑠璃子に「何ボーっとしてるの?」と注意され、洗面所に立ってても美優に「何いつまでも突っ立ってるの?邪魔。」と、注意される始末であった。
溜め息混じりの通学路をボーっと歩いていた。空は迷惑なくらい快晴だった。
(曇ってればまたツユに会えると思ったのに・・・)
昨夜の事が夢には思えなかった聡は昨夜の様に頬をつねった。痛かった。
(昨夜も痛かった。夢じゃない。)
そう思い、ふと前に目を向けると、例の川岸にツユは立っていた。「いた!」聡は走った。今までで一番早く走った。
「ツユ!」
振り向いたツユは満面の笑みで「おはよう。」と何事もなかったように挨拶してきた。聡は息を切らして前屈みで「良かった。」と、途切れ途切れに声をだした。「ん?」と不可解な顔のツユは何が良かったのか分からなかった。
「朝、突然いなくなったからさ、昨日の事は夢だったのかなと思った。」
聡は素直な気持ちを言葉にした。そして、聡も息切れで歪んだ笑顔で返した。
「あ、ごめんね。聡が着替えたりするからと思って先に出たんだ。学校に行く約束、だったよね?楽しみだな。」
ツユは申し訳なさげに謝り、楽しげに約束の話をした。そんなツユを聡は優しい眼差しで見ていた。とにかく、夢でなかった事にホッとしてた。
「あ、そうだ。」そう言うと聡は学校でのツユとの会話の仕方を打ち合わせた。
「ツユの声は俺にしか聞こえないからいいのだけど、俺の声はみんなに聞こえてしまう。だから俺からの会話はスマホのメモアプリに打ち込む。ツユはそれを後ろから覗いてくれ。そうすれば学校でも会話出来るだろ?」
聡はニコッと笑うとツユも笑い返し、「分かった。」と答えた。そんなやり取りを登校中の低学年の女子小学生が不思議顔で見ていた。
「お兄ちゃん誰と話してるの?」と、聞いてきたので聡は一瞬焦ったが、「妖精と話ししてたんだよ。」と、言うと、「ふーん。嘘つくならもっと分からない嘘ついたほうがいいよ。」といい去っていった。聡とツユは見合ってプッとなり「嘘ついてないのにね。」二人また笑い合った。気付くと遠くに健太の姿が見えた。「健太だ。アイツは頭が切れる。勘付かれないよう気をつけて。」そう言うとツユは一つ頷き健太に視線を向けた。
「よう。健太おはよう。」
「よう。」と、健太は眠そうな顔をして大きなあくびをした。「この人どう見ても頭切れそうには見えないのだけど?」ツユは目を細め横目で健太を見た。その眼差しは疑いの眼差しであった。聡は苦笑いすると、「健太、今朝は眠そうだな?昨日寝たのか?」聡が訊ねると、「ああ。寝たんだが、隣の犬が一晩中吠えてて熟睡出来なくてさ。」そう言い健太は耳の穴をほじった。聡は「お気の毒さま。」と言いニャアと笑った。聡の歯並びのいい白い歯が光る。健太が横目でジロリと睨むと、いつもバカにする仕返しとばかりに聡はニヤニヤしてやった。
「何、ニヤニヤしてるの。キモいわね。」
と、そこへ綾夏が割り込んできた。三人軽く挨拶すると、聡は笑いを収め、スマホを取り出した。「だろ?聡のやつ、俺が昨日寝不足なのを喜んでやがる。」健太が不機嫌に言うと、「何で?」と、綾夏が理由を聞いていた。その間に聡はメモアプリに『綾夏、幼馴染み、性格わるい』と打ち込むとツユは口を押さえプッと笑って「可愛い子だね。」と言うと、『そう?かわいいと思った事ない。』と、打ち、興味ない顔をした。健太の話を聞き終わった綾夏は「犬に罪はない。悪いのは耳栓とか対策を取らなかった健太が悪い。」愛犬家らしい意見で健太を一刀両断した。「ところで、」と話題を変えた綾夏が、
「聡さ、今朝は噂の女の子は川岸に居なかったの?」
「ああ。残念ながらね。」ポーカーフェイスで聡は答えた。そしてメモアプリに、『どうやら綾夏にもツユは見えてないらしい』と打つと友人二人には分からぬよう、ツユに微笑み片目を瞑ってみせた。ツユもにっこりと笑った。
学校に着いた三人はまだ登校していない優也が昨夜SNSにアップしていたモノマネについて話していた。
「見た?優也のモノマネ。」笑いを堪える綾夏はそう言い、
「見た見た。勇気あるよな。」と、健太と聡は苦笑いだった。「よくあのクオリティーで出来るよな。」皆、爆笑した。それはモノマネが面白くて笑ってるのではなく、あまりにもレベルの低く、酷いモノマネだったからであった。
「ヤバかった。また遅刻するとこだった。」
バタバタと優也が登校してきた。「今日は遅刻しなかったな。」健太はニヤケてそう言うと、早速昨夜のモノマネを弄りだした。
「ありゃあ、酷かったな。見てる方が恥ずかしかったぞ?」
「何言ってんだ。最高に似てて震えて鳥肌立つだろ?」
「ああ、寒くてな!」三人揃って優也に突っ込んだ。聡はスマホに『優也、遅刻魔、いいヤツ、筋肉バカ。』と入力するとツユはクスクスと笑った。「みんな、いい人達だね。」ツユはそう言い微笑んだ。『うん。クセはあるけどみんないい奴。』聡はそう続けた。
健太の前で生モノマネを披露しだした優也を尻目に聡は窓の外の青空を見上げてスマホに『ツユが笑顔だと空も快晴だね。』と打ち込むとツユは微笑んだ。
「ねぇ、ねぇ、ところでさ聡の言う噂の女の子って、どんな子なの?」
健太と優也を放置して綾夏は聡に興味津々にそう訊ねた。聡はチラリとツユを見るとツユは小さく頷き、彼女の事を話した。
「彼女は普通の子だよ。ただ、特殊な力があるみたい。」
「それだけ?性格とか見た目とか知りたいのだけど。それに特殊な力って何なの?」
「性格は泣き虫な所があるのかな。いつも水色のワンピース着てる。特殊な力は簡単に言うと、雨女ってことかな。」
「ふーん、泣き虫で雨女。ひょっとしてここ最近のゲリラ豪雨って彼女のせいなんじゃない?最初川岸で会った時も泣いてたのでしょ?あの時も酷い豪雨だったし。」
綾夏のくせに勘がいいと聡は思った。聡は苦笑いして、「人のせいにするなよ。」と言い、スマホに『な?性格悪いだろ?』と打つとツユも苦笑いした。
「別に人のせいにしてないでしょ?冗談よ。」
そう言うと、綾夏は不機嫌に話を続けた。
「それにしても聡にしては偉く彼女の肩を持つのね。ひょっとして彼女の事好きなの?」
ニヤリと笑い目を細めて訊ねた綾夏に聡はすぐ否定しようとしたが、後ろに居るツユに意識がいき、気配を感じながら、
「いい子だよ。綾夏と比べたらはるかにな。そういう意味では好きかな。」
ツユと比べられた綾夏は面白いはずがない。笑顔は一気に引き、鬼の形相で
「女の子同士をを比べるなんて最低。聡の方こそ性格悪いじゃない!」
「綾夏が彼女を悪く言うからだろ?」
「誰も悪くなんていってないじゃない!」
「おいおい、喧嘩かよ。もうすぐ朝礼だ。席に着くぞ。」
優也とのモノマネ談義を中断し、仲裁に入った健太であったが、綾夏も聡も仲直りする様子はなく、二人共不機嫌に綾夏は自分の教室に戻り各々の席に着いた。ツユは自分の事で喧嘩になった事に罪悪感を感じ、苦笑いするしかなかった。
「聡、ごめんね。」
ツユは申し訳なさそうに聡に謝ると、『ツユは悪くないよ。綾夏の性格が悪いのが悪い。』と、スマホに打つとツユは泣きそうになっていた。
ふと、窓際の席の聡は空が急に曇りだし、ポツリと雨が降ってきているのに気付き、ハッとして、後ろを振り向くと、ツユは涙を流さんばかりに青い瞳に涙を溜めていた。
聡は驚きと興味とでスマホをとり、『本当にツユが泣くと雨が降るんだね。』と、打つと、ツユは「だって、私のせいで綾夏さんと聡が喧嘩したままで・・・」と今にも声を上げて泣きそうだったので聡は、『分かった分かった。あとで仲直りするから、泣かないで。』ツユをなだめると、泣き出す寸前で止める事ができ、ツユは目に涙を拭って微笑んだ。そして聡が空を見上げるとみるみる雲が流れ消えていった。
「こら、小日向、朝礼中だぞ。スマホはしまえ。それに空ばかりみるな。落ち着きがないぞ?」
担任の野上の注意もそこそこに聡はツユの力を目の当たりにして落ち着いてなどいられなかった。
(すごい。本当にツユが泣くと雨が降るんだ。ひょっとして綾夏、親父の言っていたゲリラ豪雨の原因はツユなのか・・・。)
そして聡は微笑むツユに小さく笑い返した。
その日の放課後、ツユとの約束通り午前中の早い時間帯に綾夏との仲直りを済ました聡は健太と帰る準備をしていた。綾夏は女友達と約束があるからと先に帰った。帰る間際、「デリカシーない男子諸君、さよなら~。」と言い放ち帰る綾夏に、「聡と一緒にするなよ!」と、迷惑そうに健太が言うと、聡は笑っていた。ツユもつられて笑った。優也はというと、帰りに寄る所があるといい、先に帰ってしまった。
帰り道を聡と健太、そして少し後ろからツユが後を追っていた。話題は綾夏との朝のやり取りだった。
「あのな~、女は比べられるのが一番嫌なんだよ。」
「そうなのか?別にいいじゃねぇか。」
「聡は女心が分かってないな~。」
呆れる健太を尻目にスマホで『そうなの?』と、聡はツユに訊ねると、小さく頷いた。いまいちピンとこない聡は納得出来ずにいたが、ツユがそう言うならそうなのだろうと、納得したフリをした。
(これだから、女は面倒臭いんだよな。)
そう思っている聡に健太が小さな声で訊ねてきた。
「ところで聡さ、綾夏の事どう思ってる?」
「ん?どうって、性格悪いよな。」
「そうじゃなくてさ、あのー、ほら、女として。」
「女として?友達だし、幼馴染みだとしか思わないが?」
「綾夏ここ最近、なんて言うかさ、あのー、可愛くなってね?」
「綾夏が?あははは。あの性格悪い綾夏の何処が可愛いんだよ?」
聡に笑われた健太は頬を紅潮させ、「笑う事ないだろ?」と言い、続けて、
「なんて言うかさ、胸も大きくなって来てるし、何だか色っぽくなってきてね?」
「何だよ、健太、綾夏が好きなのか?」
「バカ!声がデケェよ!」
慌てる健太を聡は大笑いした。そして、「俺は綾夏の事は何とも思っちゃいない。健太が綾夏の事本気なら俺は応援するぜ。」聡は親指を立ててニッコリ微笑んだ。
健太は耳まで赤くして、額の汗を拭い、「おお!それでこそ長年の友!」と、安堵の表情をした。そして、「この事は俺たち男同士の秘密な!」念押しして、聡は健太と別れた。
聡とツユは住宅街を自宅へと帰る中、先程の健太の話をしていた。
「しかし、健太が綾夏の事好きだったとはね。朝のツユの雨降らす力といい、今日は驚く事ばかりだったな。」
「綾夏さんはどう思っているんだろ?」
「健太の事?あいつら頭良い者同士お似合いだよ。さて、どうやってくっつけてやろうか。」
聡は顎に手を添えてあれこれ思案していたらツユが、
「綾夏さんは多分、聡の事が好きだよ。」
「綾夏が?俺を?あははは。それはないね。でも、何でそう思うの?」
「今日綾夏さんと聡とのやり取り見ていて何となく。女の勘かな。」
ツユは女としての率直な思いを言葉にした。
「ふーん。でも、さっきも話したけど、俺は綾夏の事は何とも思ってない。綾夏もそうだと思うけどな。」
そう言うと聡は茜色に染まる空を見上げて、
「俺は前にも話したように雨は嫌いじゃない。でも、ツユを泣かせてしまうと、雨降るんだな。だから、ツユを泣かさないようにする。笑わせてツユを晴れ女にしてあげるよ。」
聡はツユを見てニコッと笑った。その無邪気な笑顔にツユも笑顔になった。しかし、こうして聡と笑い合えるのもあと少しだとツユは覚悟していた。聡に気付かれぬようツユは悲しげに西の空を見詰めた。夕日は赤く沈み込み、明日の快晴を占うようであった。
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