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嵐前の静けさ
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翌朝、雨は上がり、雨雲の隙間から朝日が窓に射し込む中、聡は学校へ行く支度をしていた。「おし!」そうひと声かけ、自宅の階段を駆け降り朝食を手短に済まそうとしていると共に朝食を摂っていた美優に瑠璃子が「最近天気予報外れるし、不安定だから折り畳み傘持って行きなさい。」と声をかけると、「私はいつも持参してるのでした。お兄ちゃんに注意した方がいいよ。」美優は顎をあげ自慢げにそう話し、手早く朝食の食器を片付けると「いってきまーす。」と自宅を先に出て行った。
「聡も傘、持って行きなさいよ?台風も近づいているみたいだし。」瑠璃子は美優の食器を洗いながらそう言うと英二をチラリと見た。聡はハッとして、「台風近づいてるの?」と朝食を済ませ新聞を読んでいた英二に訊ねると一つ頷いて「ああ。2、3日中には日本に接近、上陸の恐れもあるな。」湯呑のお茶をひと啜りすると英二は再び新聞に目を落とした。聡は胸の騒つきを覚え、ツユを見た。「今回の台風はかなりデカく勢力の強い台風になりそうな分析だ。」英二の話に聡とツユは顔を見合わせ同じように不安な表情になっていた。
空は先程までの陽射しを雲が遮りツユの不安な思いを表している様であった。自宅を出て住宅街の路地を学校へと向かう聡はお互い不安なまま歩いていた。聡は隣を歩くツユに「来るかな?」と俯むき小さく呟くと「アイレーン?」とツユも小さく返した。聡は俯いたまま「うん。」と小さく頷いてツユを見た。「分からない。でも来ると思っていたほうがいいかも。」口に手を添えるツユのそれは小刻みに震えていた。それはツユの不安と恐怖を物語っていた。その手を見詰め聡はこんなんじゃダメだと己の不安な気持ちを掻き消し奮い立たせるように大きく息を吸い込み吐き出すと、フッと口角を上げ、「大丈夫。ツユは俺が守る。心配すんなって。」少しでもツユの不安、恐怖を和らげようとした。
「そうじゃないの。」
ツユは左右に首を振ると不安な表情のまま聡を見て
「私が心配なのは聡や綾夏さん達に危害が及ばないか。晴翔の時のように失うことが怖いの。」
そう言うとツユも大きく小刻みに息を吸い込み、吐き出した。
「聡、おはよう。」
そこへ健太と綾夏が駆け足で合流してきた。綾夏は昨夜の雨が気になってたらしく「昨夜は雨が降り続いていたね。ツユちゃん、大丈夫?」心配そうに聡とツユに訊ねると、ツユは聡を見てひとつ頷き、「ああ。もう大丈夫みたい。」聡は微笑み綾夏にそう言うと、「でも、今朝も曇り空だしツユちゃんまだ何か不安なことでもあるの?」綾夏の問いに女の勘は鋭いなと感心した聡は一呼吸置いて「ああ。台風が近づいてる。」と一言だけいうと綾夏と健太は驚き、顔を見合わせ「アイレーン。」と言うと「察しがいいな。」聡はかなりデカくなりそうな台風が接近、上陸するかもという話をした。
「アイレーンも来るかな?」
健太は率直に不安を口にした。綾夏も顔を曇らせた。「ああ、多分な。」聡は明るく答えた。健太は一抹の不安を拭えず、綾夏も顔を曇らせたまま聡を見つめていたが、明るく振る舞う聡のツユを不安にさせまいと気遣う想いに気付き、聡のツユに対する優しさに寂しさを感じていた。
「なぁーに、大丈夫さ。俺がツユを守ってみせる。」
軽く答える聡に綾夏は苛立ちを覚え
「聡一人でツユちゃんを守れるわけないでしょ!出来もしない事、簡単に言わないでよね。何カッコつけてんの?キモイのよ!」
綾夏はありったけの言葉を聡に投げ付け先に行ってしまった。それは聡も晴翔の様に死んでしまうかもしれないという不安と、ツユに対する聡の優しさへの嫉妬の気持ちがカフェオレのように濁り混じって溢れ出たものであった。
「綾夏のやつ、何怒ってんだ?」
聡には複雑な女心が解らないようであったが、健太には綾夏の想いがなんとなく解った。健太も寂しい想いになり、それは綾夏の気持ちに鈍感な聡への苛立ちに変わった。
「聡は何も分かっちゃいないよ。」
健太はそう告げ、綾夏の後を追った。聡は怪訝な顔をして「何なんだよ。どいつもこいつも。」小さくボヤいた。
「アイレーンがまだ来るとは分からないし、来ても晴翔の時の様なことは起きないかもしれないし、アイツら動揺しすぎなんだよな。」
そう言って聡は全く不安な様子ではなかった。そして、ツユに目を向けるとその小柄な身体を小刻みに震わせていた。やはり晴翔の事を気に病んでいるのだろうと思った聡であったがそれには気付かぬふりをして平静を装った。そして震えるツユを見て聡はハッと、ある思いに行き着いていた。
その日学校で聡と綾夏は一言も口を聞かなかった。健太もその様子を黙って見ていた。
放課後。聡は手短に帰り支度を済ますと、席を立とうとしていた。そこへ優也がカバンを持って現れた。今日一日の二人の様子を見て何かあったのか問い質すためであった。
「なぁ、聡、綾夏と何かあったのか?今日のお前ら何か変だぞ?」
そう問う優也に聡はそっけなく「別に。」と答えると、「一言も口聞かないのに別な訳ねぇーだろ?」顔をしかめ少し怒ってそう言う優也に聡は一言、「アイレーンが来る。」そう言うと「ま、マジか?」優也は察し、閉口してしまった。「多分な。でも大丈夫。俺がツユを守る。晴翔に出来たんだ。俺にも出来るさ。」聡は手に持ったカバンを肩に乗せると軽く笑った。
「俺にもって、一人でツユちゃんを守るつもりか?」
「ああ。」聡はあっけらかんと答えると、続けて「よくよく考えたら、お前らを危険な目には合わせられない。俺一人で大丈夫さ。」
「大丈夫な訳ないでしょ?」
教室の遠くから二人の様子を見ていた綾夏は聡に詰め寄り食って掛かった。
「聡一人で守れる訳ないでしょ?じゃあ何故ツユちゃんの存在を私達に教えたの?みんなで協力してツユちゃんを守るためじゃないの?聡、あなた、死ぬかもしれないのよ?」
綾夏は語気を強めそう話した。しかし、聡は意に介さず「大丈夫さ。俺は死なない。」そう言い微笑んだ。
「何故そう言い切れるの?私達みんなで守ればいいじゃない!何カッコつけてんのよ!」
綾夏の声は震えて目には薄っすら涙を溜めていた。聡は綾夏を直視せず、綾夏の足元に視線を落としたまま少し微笑んで「さっきも話しただろ?お前らを危険な目に晒したくないんだ。ごめんな。」そう言うと、視線をあげ、綾夏を見詰めにっこり笑った。
「じゃあ、ツユちゃんの事、私達には話さなければ良かったのよ!私達の想いはどうしてくれるの?無責任よ!」
そう言うと綾夏は教室を出て行った。振り向き様、綾夏の瞳から光るものが飛び散った。その様子を廊下から呆然と見ていた健太も綾夏の後を追った。
「聡、なんでだよ?ツユちゃんはみんなで守ろうって話だったじゃないか。カッコつけんなよ。」
優也が諭すように話すと、聡は伏し目がちに笑い、
「ああ。俺も最初はそう思ってた。でも実際今朝アイレーンの存在が近づいているのを知って、そして震えるツユの姿を見ていて、とてつもない危機が迫っていると感じたんだ。そう思ったら、急に怖くなってな。勿論俺自身も怖いが、お前らを巻き込んで失う事はもっと怖くなってな。」
そう言い顎に添える聡の手は小刻みに震えていた。「聡・・・。」優也は普段強気な聡の恐怖の深さを思い測った。
「それなら尚更俺達仲間を頼ってくれたらいいのに。」恐怖に震える聡に寄り添う様に優也は優しく語りかけた。
「それに俺もよく考えたんだ。優也もよく考えてみろよ。ツユは俺にしか見えない。フレアや、多分アイレーンも。そして、ツユ、フレアやアイレーンは優也達には見えない。見えない者から見えてない者をどうやって守るんだ?俺にはアイレーンの攻撃が見えるだろう。フレアの攻撃が見えたように。でもお前達にはその攻撃は多分見えない。そんな危険にお前達を晒すわけにはいかない。その事に気付いたんだ。」
窓から空を見上げる聡は遠い目で微笑み、優也はその微笑みから聡の覚悟の様なものを感じとった。
「悪りぃな。巻き込んでおきながら、協力を断るなんて。綾夏には俺から謝っとくよ。まぁ、すんなり納得してくれるとは思わないがな。」
にっこり目を細めて聡はそう言うと教室を後にした。その様子をツユはずっと黙って見ていた。俯むき、悲しい表情をしながら。そして聡の後を追い教室を出ようと優也とのすれ違い様、優也が、「大丈夫。俺もツユちゃんを守るよ。」優也にはツユは見えていないはずだが、彼には見えている様であり、その言葉はしっかりツユに届いていた。俯むき歩くツユの頬を一筋の涙が伝った。一人教室に残った優也は窓から空を見上げ、ポツリポツリと降り出した雨を見て、自分の言葉が伝わった事を知り、フッと頷き笑った。
綾夏の後を高校の校門近くまで追った健太はそこで「綾夏、待ってくれ。大丈夫なのか?」背後からそう言葉を投げ掛けたが、止まる様子がなかった。歩みを止めない綾夏に苛立った健太は「聡の事が好きなのかよ?」言ってはいけない、しかし聞いてみたかった言葉を発してしまった。その言葉に綾夏は歩みを止め、振り向くと、「あんなバカ、好きなわけないじゃない!聡も健太も、何も分かっちゃいない。」その目からは涙が溢れ零れ落ちていた。その涙が綾夏の本心の全てを物語っていた。健太は悔しかった。綾夏が涙するほど聡の事が好きな事に。健太は唇を噛み締め、そして勢い余って自分の気持ちを告白した、というか、吐き出した。
「俺は、俺は綾夏が好きだ!俺じゃ、ダメなのかよ?」
健太渾身の心からの叫びだった。
「ごめん。そんな事考える気分じゃない。」
綾夏は伏し目がちにそう答えると踵を返し、そのまま立ち去った。一人取り残された健太はその場に呆然と立ち尽くし、空からはポツリと雨が降り出した。
「ははは。」
健太は空を見上げながら笑うと告白してしまった後悔と、フラれた悲しみの波に揉みクチャにされているようであった。降り出した雨が健太の頬を叩く。それは健太の悲しみの涙にも見えた。
「クソだな。」
綾夏への自分の想い、そしてフラれた自分の惨めさを揶揄するようにそう言うと健太は雨に打たれフラフラと家路へと就いた。
下足室で降り出した雨に足止めを食らった聡は空を見上げ、そしてツユの方へと振り向いた。
「ツユ、ごめんな。振り回しちまったな。」
頭を掻きながら申し訳なさそうに聡が言うと、ツユは頭を左右に振り、
「聡や、みんなの気持ちが嬉しい。でも、アイレーンは私じゃなく、聡を狙ってくるかもしれない。彼女はそういう人。そして聡達を守るのはこの私。アイレーンの好きにはさせない。」
頬を拭いしっかりと前を見据えてツユはそう言った。そんなツユを聡は見てにっこり笑って、
「ツユの好きにすればいい。俺も好きにする。俺達ならアイレーンには負けない。そして晴翔の仇を討とう。」
親指を立ててへへへと聡は笑った。ツユも小さく頷くと潤ませた目を細めて微笑んだ。その瞳から溢れんばかりの涙を零しながら。
「聡も傘、持って行きなさいよ?台風も近づいているみたいだし。」瑠璃子は美優の食器を洗いながらそう言うと英二をチラリと見た。聡はハッとして、「台風近づいてるの?」と朝食を済ませ新聞を読んでいた英二に訊ねると一つ頷いて「ああ。2、3日中には日本に接近、上陸の恐れもあるな。」湯呑のお茶をひと啜りすると英二は再び新聞に目を落とした。聡は胸の騒つきを覚え、ツユを見た。「今回の台風はかなりデカく勢力の強い台風になりそうな分析だ。」英二の話に聡とツユは顔を見合わせ同じように不安な表情になっていた。
空は先程までの陽射しを雲が遮りツユの不安な思いを表している様であった。自宅を出て住宅街の路地を学校へと向かう聡はお互い不安なまま歩いていた。聡は隣を歩くツユに「来るかな?」と俯むき小さく呟くと「アイレーン?」とツユも小さく返した。聡は俯いたまま「うん。」と小さく頷いてツユを見た。「分からない。でも来ると思っていたほうがいいかも。」口に手を添えるツユのそれは小刻みに震えていた。それはツユの不安と恐怖を物語っていた。その手を見詰め聡はこんなんじゃダメだと己の不安な気持ちを掻き消し奮い立たせるように大きく息を吸い込み吐き出すと、フッと口角を上げ、「大丈夫。ツユは俺が守る。心配すんなって。」少しでもツユの不安、恐怖を和らげようとした。
「そうじゃないの。」
ツユは左右に首を振ると不安な表情のまま聡を見て
「私が心配なのは聡や綾夏さん達に危害が及ばないか。晴翔の時のように失うことが怖いの。」
そう言うとツユも大きく小刻みに息を吸い込み、吐き出した。
「聡、おはよう。」
そこへ健太と綾夏が駆け足で合流してきた。綾夏は昨夜の雨が気になってたらしく「昨夜は雨が降り続いていたね。ツユちゃん、大丈夫?」心配そうに聡とツユに訊ねると、ツユは聡を見てひとつ頷き、「ああ。もう大丈夫みたい。」聡は微笑み綾夏にそう言うと、「でも、今朝も曇り空だしツユちゃんまだ何か不安なことでもあるの?」綾夏の問いに女の勘は鋭いなと感心した聡は一呼吸置いて「ああ。台風が近づいてる。」と一言だけいうと綾夏と健太は驚き、顔を見合わせ「アイレーン。」と言うと「察しがいいな。」聡はかなりデカくなりそうな台風が接近、上陸するかもという話をした。
「アイレーンも来るかな?」
健太は率直に不安を口にした。綾夏も顔を曇らせた。「ああ、多分な。」聡は明るく答えた。健太は一抹の不安を拭えず、綾夏も顔を曇らせたまま聡を見つめていたが、明るく振る舞う聡のツユを不安にさせまいと気遣う想いに気付き、聡のツユに対する優しさに寂しさを感じていた。
「なぁーに、大丈夫さ。俺がツユを守ってみせる。」
軽く答える聡に綾夏は苛立ちを覚え
「聡一人でツユちゃんを守れるわけないでしょ!出来もしない事、簡単に言わないでよね。何カッコつけてんの?キモイのよ!」
綾夏はありったけの言葉を聡に投げ付け先に行ってしまった。それは聡も晴翔の様に死んでしまうかもしれないという不安と、ツユに対する聡の優しさへの嫉妬の気持ちがカフェオレのように濁り混じって溢れ出たものであった。
「綾夏のやつ、何怒ってんだ?」
聡には複雑な女心が解らないようであったが、健太には綾夏の想いがなんとなく解った。健太も寂しい想いになり、それは綾夏の気持ちに鈍感な聡への苛立ちに変わった。
「聡は何も分かっちゃいないよ。」
健太はそう告げ、綾夏の後を追った。聡は怪訝な顔をして「何なんだよ。どいつもこいつも。」小さくボヤいた。
「アイレーンがまだ来るとは分からないし、来ても晴翔の時の様なことは起きないかもしれないし、アイツら動揺しすぎなんだよな。」
そう言って聡は全く不安な様子ではなかった。そして、ツユに目を向けるとその小柄な身体を小刻みに震わせていた。やはり晴翔の事を気に病んでいるのだろうと思った聡であったがそれには気付かぬふりをして平静を装った。そして震えるツユを見て聡はハッと、ある思いに行き着いていた。
その日学校で聡と綾夏は一言も口を聞かなかった。健太もその様子を黙って見ていた。
放課後。聡は手短に帰り支度を済ますと、席を立とうとしていた。そこへ優也がカバンを持って現れた。今日一日の二人の様子を見て何かあったのか問い質すためであった。
「なぁ、聡、綾夏と何かあったのか?今日のお前ら何か変だぞ?」
そう問う優也に聡はそっけなく「別に。」と答えると、「一言も口聞かないのに別な訳ねぇーだろ?」顔をしかめ少し怒ってそう言う優也に聡は一言、「アイレーンが来る。」そう言うと「ま、マジか?」優也は察し、閉口してしまった。「多分な。でも大丈夫。俺がツユを守る。晴翔に出来たんだ。俺にも出来るさ。」聡は手に持ったカバンを肩に乗せると軽く笑った。
「俺にもって、一人でツユちゃんを守るつもりか?」
「ああ。」聡はあっけらかんと答えると、続けて「よくよく考えたら、お前らを危険な目には合わせられない。俺一人で大丈夫さ。」
「大丈夫な訳ないでしょ?」
教室の遠くから二人の様子を見ていた綾夏は聡に詰め寄り食って掛かった。
「聡一人で守れる訳ないでしょ?じゃあ何故ツユちゃんの存在を私達に教えたの?みんなで協力してツユちゃんを守るためじゃないの?聡、あなた、死ぬかもしれないのよ?」
綾夏は語気を強めそう話した。しかし、聡は意に介さず「大丈夫さ。俺は死なない。」そう言い微笑んだ。
「何故そう言い切れるの?私達みんなで守ればいいじゃない!何カッコつけてんのよ!」
綾夏の声は震えて目には薄っすら涙を溜めていた。聡は綾夏を直視せず、綾夏の足元に視線を落としたまま少し微笑んで「さっきも話しただろ?お前らを危険な目に晒したくないんだ。ごめんな。」そう言うと、視線をあげ、綾夏を見詰めにっこり笑った。
「じゃあ、ツユちゃんの事、私達には話さなければ良かったのよ!私達の想いはどうしてくれるの?無責任よ!」
そう言うと綾夏は教室を出て行った。振り向き様、綾夏の瞳から光るものが飛び散った。その様子を廊下から呆然と見ていた健太も綾夏の後を追った。
「聡、なんでだよ?ツユちゃんはみんなで守ろうって話だったじゃないか。カッコつけんなよ。」
優也が諭すように話すと、聡は伏し目がちに笑い、
「ああ。俺も最初はそう思ってた。でも実際今朝アイレーンの存在が近づいているのを知って、そして震えるツユの姿を見ていて、とてつもない危機が迫っていると感じたんだ。そう思ったら、急に怖くなってな。勿論俺自身も怖いが、お前らを巻き込んで失う事はもっと怖くなってな。」
そう言い顎に添える聡の手は小刻みに震えていた。「聡・・・。」優也は普段強気な聡の恐怖の深さを思い測った。
「それなら尚更俺達仲間を頼ってくれたらいいのに。」恐怖に震える聡に寄り添う様に優也は優しく語りかけた。
「それに俺もよく考えたんだ。優也もよく考えてみろよ。ツユは俺にしか見えない。フレアや、多分アイレーンも。そして、ツユ、フレアやアイレーンは優也達には見えない。見えない者から見えてない者をどうやって守るんだ?俺にはアイレーンの攻撃が見えるだろう。フレアの攻撃が見えたように。でもお前達にはその攻撃は多分見えない。そんな危険にお前達を晒すわけにはいかない。その事に気付いたんだ。」
窓から空を見上げる聡は遠い目で微笑み、優也はその微笑みから聡の覚悟の様なものを感じとった。
「悪りぃな。巻き込んでおきながら、協力を断るなんて。綾夏には俺から謝っとくよ。まぁ、すんなり納得してくれるとは思わないがな。」
にっこり目を細めて聡はそう言うと教室を後にした。その様子をツユはずっと黙って見ていた。俯むき、悲しい表情をしながら。そして聡の後を追い教室を出ようと優也とのすれ違い様、優也が、「大丈夫。俺もツユちゃんを守るよ。」優也にはツユは見えていないはずだが、彼には見えている様であり、その言葉はしっかりツユに届いていた。俯むき歩くツユの頬を一筋の涙が伝った。一人教室に残った優也は窓から空を見上げ、ポツリポツリと降り出した雨を見て、自分の言葉が伝わった事を知り、フッと頷き笑った。
綾夏の後を高校の校門近くまで追った健太はそこで「綾夏、待ってくれ。大丈夫なのか?」背後からそう言葉を投げ掛けたが、止まる様子がなかった。歩みを止めない綾夏に苛立った健太は「聡の事が好きなのかよ?」言ってはいけない、しかし聞いてみたかった言葉を発してしまった。その言葉に綾夏は歩みを止め、振り向くと、「あんなバカ、好きなわけないじゃない!聡も健太も、何も分かっちゃいない。」その目からは涙が溢れ零れ落ちていた。その涙が綾夏の本心の全てを物語っていた。健太は悔しかった。綾夏が涙するほど聡の事が好きな事に。健太は唇を噛み締め、そして勢い余って自分の気持ちを告白した、というか、吐き出した。
「俺は、俺は綾夏が好きだ!俺じゃ、ダメなのかよ?」
健太渾身の心からの叫びだった。
「ごめん。そんな事考える気分じゃない。」
綾夏は伏し目がちにそう答えると踵を返し、そのまま立ち去った。一人取り残された健太はその場に呆然と立ち尽くし、空からはポツリと雨が降り出した。
「ははは。」
健太は空を見上げながら笑うと告白してしまった後悔と、フラれた悲しみの波に揉みクチャにされているようであった。降り出した雨が健太の頬を叩く。それは健太の悲しみの涙にも見えた。
「クソだな。」
綾夏への自分の想い、そしてフラれた自分の惨めさを揶揄するようにそう言うと健太は雨に打たれフラフラと家路へと就いた。
下足室で降り出した雨に足止めを食らった聡は空を見上げ、そしてツユの方へと振り向いた。
「ツユ、ごめんな。振り回しちまったな。」
頭を掻きながら申し訳なさそうに聡が言うと、ツユは頭を左右に振り、
「聡や、みんなの気持ちが嬉しい。でも、アイレーンは私じゃなく、聡を狙ってくるかもしれない。彼女はそういう人。そして聡達を守るのはこの私。アイレーンの好きにはさせない。」
頬を拭いしっかりと前を見据えてツユはそう言った。そんなツユを聡は見てにっこり笑って、
「ツユの好きにすればいい。俺も好きにする。俺達ならアイレーンには負けない。そして晴翔の仇を討とう。」
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