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温かい雨
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茶色い濁流に揉まれながら、聡は足掻くように下流に流されていた。そして下流に架かる橋から数メートルのロープが垂れ下がっているのを確認すると、そのロープの方へと向かいそのロープを掴んだ。掴んだはいいが、物凄い水流が聡の身体を打ち付け、ロープを掴んでいるのがやっとの状態であった。必死に堪え、橋の上へと登るチャンスを窺うが濁流がそれを許さなかった。そこへ後を追っていた綾夏が駆けつけてきた。
「聡!」
綾夏は橋の欄干から手を伸ばすとそのロープを掴み聡を引き上げようと試みた。しかし、水流の勢いは強く、女性一人の力では引き寄せるには到底難しい状況であった。
「聡―――っ!」
力む綾夏は、泣きながらロープを引き寄せようと必死であった。それに合わせ聡もロープを伝って手を伸ばし橋の上へとよじ登ろうとしたが濁流がそれを拒んでいた。
「聡、死なないでぇ!」
綾夏の微かに震える悲痛な叫び声が響く。しかし、ロープはビクともせず、ただ時だけが無情にも流れていた。
「綾夏、ありがとう。」
聡は最期を覚悟したのかそう綾夏に告げた。
「聡、いやぁーーー!!」
綾夏は悲鳴にも似た叫び声を上げた。綾夏のロープを掴むその手からは血が滲んでいた。
「聡!綾夏さん!」そこへツユが駆け着けてきた。ツユはひと目その危機的状況を見て、
「綾夏さん、あなたの身体を私に貸して!私なら聡を救える。救ってみせる。大丈夫。すぐに身体は返すから。」
と、ツユは言うと、綾夏の腕に自分の腕を重ねてみせた。すると綾夏の腕に力が漲りロープを少しだけ引き寄せる事が出来た。それを見た綾夏は「いいわ!」と伝えると、「ありがとう。」とツユは言い、綾夏の身体に自分の身体全てを重ねようとした。
「ツユ!ダメだ!それをしたら君は死んでしまう!」
聡は綾夏と重なろうとするツユを制止した。綾夏の「えっ?そうなの?」との問い掛けにツユは「大丈夫。」と一言だけ告げるとそのまま強引に綾夏の身体に自分を重ねた。綾夏の身体は微かに青白く光り、それに伴い綾夏の意識と容姿は消えていき、その姿はツユそのものになった。そしてツユはグイッとロープを引き寄せると聡の腕を掴んだ。ツユに腕を掴まれている現実に聡は「ツユ、君は何てことをしてしまったんだ・・・。」そう涙を流し、ツユの腕を掴み返した。そしてツユが聡を引き上げようとしたその時、上流から大きな倒木が流れてきて聡を直撃し、二人の腕は離れ、聡はまた下流へと流されてしまった。
「聡!」
聡は直撃した倒木に掴まりそのまま下流への流れに身を任せていた。ツユは橋の欄干を飛び越えると、濁流の上を滑るように走り聡の後を追った。
「ツユー!」
聡は叫びながらツユへと手を伸ばした。
「聡―!」
ツユは聡の伸ばした腕を掴むと纏っている青白いオーラを全開にした。すると濁流が高波となり、ツユと聡を水面から押し上げた。そして、さらに下流に架かっている橋の上へと二人は打ち上げられた。
打ち上げられる瞬間、川の水を飲んだ聡は噎せ返るような咳をして暫くその場に蹲っていた。
「聡、大丈夫?」
ツユのその声に応えるように顔を上げた聡は起き上がると、声を詰まらせながら「ツユ、ありがとう。」と伝えた。そして、「この後、ツユはどうなるの?」聡はそう訊ねると、「勿論私は綾夏さんの身体に留まることは出来ない。綾夏さんに身体を返さなきゃ。」ツユは微笑みながらそう話した。
「そしたらツユはどうなるんだ?」
聡は瞳に涙を溜めながら分かっている答えを確かめるように訊ねた。
「私の魂は戻るべき『器』を失ったからこの世界から完全に消えるわ。」
ツユは小さく笑った。
「それは死ぬってことなのか?」
聡のツユから聞いた話が間違いであって欲しいという願いの問いであった。
「そうよ。」ツユは笑顔で答えた。
「嫌だ!死なないでくれ!」
堪えていた涙は決壊し聡は溢れる涙を抑える事が出来ず、声を枯らして懇願した。
「私はね、嬉しいの。晴翔の仇も討てたし、聡達も救えた。それに晴翔がどこにいるかは分からないけどきっと晴翔のいる元へ行けそうな気がするの。」
ツユは聡の両手を掴みじっと見つめて話した。それは聡に己の温もりを最後に伝えるかのように。
「俺は、俺はツユのことが好きなんだ。だから、死なないでくれ。」
その声は擦れ、聡の秘めていた想いと願いが込められた涙と共に溢れ出た言葉であった。
「聡、ありがとう。あなたからもいろんな事教えてもらったね。大切な人を守り助ける事、相手を思いやる心、それも愛情である事、そして幸せで涙する事。私はこの世界から消えてしまうけど、私、今、凄く幸せだよ。本当にありがとう。」
ツユはそう言い微笑むと、細めた瞳から大粒の涙を零れ落とした。そしてツユの身体の青白い光が強みを増してきた。
「そろそろお別れみたい。」
ツユは両目からありったけの涙を流しそう告げた。
「嫌だ・・・。行かないでくれ!」
聡はツユの肩を掴み抱き寄せた。
「綾夏さんと仲良くしてね。私も聡が好きだったわ。愛してる。」
ツユの身体は強く光を放ち、そして光を失おうとしていた。
「ツユ・・・!」
光を失うその前、聡はツユを見詰め顔を近づけ、唇を重ねた。
聡が唇を離し瞼を開けたその先に立っていたのは光を失った綾夏だった。綾夏は目を見開き聡を見詰めていた。その目からは涙が溢れていた。
「私達どうなったの?ツユは?ツユちゃんは?」
状況を掴めない綾夏は聡にそう訊ねると、
「・・・ツユは消えちゃった。きっと晴翔の元へ行ったんだと思う。」
聡が力無くそう告げると二人抱き合ったままその場にしゃがみ込んだ。聡は俯むき小さな声で一言「ツユ・・・。」そう言うと張り上げたい声を抑えるように咽び泣いた。綾夏もツユがこの世から消えた事を悟り、共に泣き崩れた。
二人を温かい雨が打ち付ける。それはまるでツユがさよならとありがとうの別れを告げる涙のように。
「聡!」
綾夏は橋の欄干から手を伸ばすとそのロープを掴み聡を引き上げようと試みた。しかし、水流の勢いは強く、女性一人の力では引き寄せるには到底難しい状況であった。
「聡―――っ!」
力む綾夏は、泣きながらロープを引き寄せようと必死であった。それに合わせ聡もロープを伝って手を伸ばし橋の上へとよじ登ろうとしたが濁流がそれを拒んでいた。
「聡、死なないでぇ!」
綾夏の微かに震える悲痛な叫び声が響く。しかし、ロープはビクともせず、ただ時だけが無情にも流れていた。
「綾夏、ありがとう。」
聡は最期を覚悟したのかそう綾夏に告げた。
「聡、いやぁーーー!!」
綾夏は悲鳴にも似た叫び声を上げた。綾夏のロープを掴むその手からは血が滲んでいた。
「聡!綾夏さん!」そこへツユが駆け着けてきた。ツユはひと目その危機的状況を見て、
「綾夏さん、あなたの身体を私に貸して!私なら聡を救える。救ってみせる。大丈夫。すぐに身体は返すから。」
と、ツユは言うと、綾夏の腕に自分の腕を重ねてみせた。すると綾夏の腕に力が漲りロープを少しだけ引き寄せる事が出来た。それを見た綾夏は「いいわ!」と伝えると、「ありがとう。」とツユは言い、綾夏の身体に自分の身体全てを重ねようとした。
「ツユ!ダメだ!それをしたら君は死んでしまう!」
聡は綾夏と重なろうとするツユを制止した。綾夏の「えっ?そうなの?」との問い掛けにツユは「大丈夫。」と一言だけ告げるとそのまま強引に綾夏の身体に自分を重ねた。綾夏の身体は微かに青白く光り、それに伴い綾夏の意識と容姿は消えていき、その姿はツユそのものになった。そしてツユはグイッとロープを引き寄せると聡の腕を掴んだ。ツユに腕を掴まれている現実に聡は「ツユ、君は何てことをしてしまったんだ・・・。」そう涙を流し、ツユの腕を掴み返した。そしてツユが聡を引き上げようとしたその時、上流から大きな倒木が流れてきて聡を直撃し、二人の腕は離れ、聡はまた下流へと流されてしまった。
「聡!」
聡は直撃した倒木に掴まりそのまま下流への流れに身を任せていた。ツユは橋の欄干を飛び越えると、濁流の上を滑るように走り聡の後を追った。
「ツユー!」
聡は叫びながらツユへと手を伸ばした。
「聡―!」
ツユは聡の伸ばした腕を掴むと纏っている青白いオーラを全開にした。すると濁流が高波となり、ツユと聡を水面から押し上げた。そして、さらに下流に架かっている橋の上へと二人は打ち上げられた。
打ち上げられる瞬間、川の水を飲んだ聡は噎せ返るような咳をして暫くその場に蹲っていた。
「聡、大丈夫?」
ツユのその声に応えるように顔を上げた聡は起き上がると、声を詰まらせながら「ツユ、ありがとう。」と伝えた。そして、「この後、ツユはどうなるの?」聡はそう訊ねると、「勿論私は綾夏さんの身体に留まることは出来ない。綾夏さんに身体を返さなきゃ。」ツユは微笑みながらそう話した。
「そしたらツユはどうなるんだ?」
聡は瞳に涙を溜めながら分かっている答えを確かめるように訊ねた。
「私の魂は戻るべき『器』を失ったからこの世界から完全に消えるわ。」
ツユは小さく笑った。
「それは死ぬってことなのか?」
聡のツユから聞いた話が間違いであって欲しいという願いの問いであった。
「そうよ。」ツユは笑顔で答えた。
「嫌だ!死なないでくれ!」
堪えていた涙は決壊し聡は溢れる涙を抑える事が出来ず、声を枯らして懇願した。
「私はね、嬉しいの。晴翔の仇も討てたし、聡達も救えた。それに晴翔がどこにいるかは分からないけどきっと晴翔のいる元へ行けそうな気がするの。」
ツユは聡の両手を掴みじっと見つめて話した。それは聡に己の温もりを最後に伝えるかのように。
「俺は、俺はツユのことが好きなんだ。だから、死なないでくれ。」
その声は擦れ、聡の秘めていた想いと願いが込められた涙と共に溢れ出た言葉であった。
「聡、ありがとう。あなたからもいろんな事教えてもらったね。大切な人を守り助ける事、相手を思いやる心、それも愛情である事、そして幸せで涙する事。私はこの世界から消えてしまうけど、私、今、凄く幸せだよ。本当にありがとう。」
ツユはそう言い微笑むと、細めた瞳から大粒の涙を零れ落とした。そしてツユの身体の青白い光が強みを増してきた。
「そろそろお別れみたい。」
ツユは両目からありったけの涙を流しそう告げた。
「嫌だ・・・。行かないでくれ!」
聡はツユの肩を掴み抱き寄せた。
「綾夏さんと仲良くしてね。私も聡が好きだったわ。愛してる。」
ツユの身体は強く光を放ち、そして光を失おうとしていた。
「ツユ・・・!」
光を失うその前、聡はツユを見詰め顔を近づけ、唇を重ねた。
聡が唇を離し瞼を開けたその先に立っていたのは光を失った綾夏だった。綾夏は目を見開き聡を見詰めていた。その目からは涙が溢れていた。
「私達どうなったの?ツユは?ツユちゃんは?」
状況を掴めない綾夏は聡にそう訊ねると、
「・・・ツユは消えちゃった。きっと晴翔の元へ行ったんだと思う。」
聡が力無くそう告げると二人抱き合ったままその場にしゃがみ込んだ。聡は俯むき小さな声で一言「ツユ・・・。」そう言うと張り上げたい声を抑えるように咽び泣いた。綾夏もツユがこの世から消えた事を悟り、共に泣き崩れた。
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