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ジャーン、と印象的なストリングスの音が響き渡る。
「あっ、これ……」
それは昔、死んだ母がよく聞いていたとある女性シンガーのインスツルメンタルだった。
「あの曲とそっくりだろ」
黒い画面、波打つ緑色の線を垂直に分断しながら、一本の線が走っていく。
「そりゃ、コード進行が被ることなんてよくあるよ。あえて似せることだってある。でも、メロディーがここまで一緒じゃダメだろ。それを、何が『こんなカッコイイ曲、初めて』だ。常識レベルだぞ、この曲」
樋野はぶつくさ言いながら画面を閉じようとする。
「あのさ」
「何」
「これ、もしかして樋野が作ったの?」
「ああ、まぁ……打ち込んだだけ、だけど」
「いや、それでも凄いって! で、他にもいっぱいあるみたいだけど……こういうタイプの曲好きなんだ?」
「……」
そう言うと樋野は露骨に嫌そうな顔をした。
「いや、馬鹿にしているとかそういうんじゃないから! 俺も好きなんだ、こういうの」
慌ててそう付け加える。
すると樋野はその細い目をぱちりと見開くと、もの珍しそうに英を見た。
「……へぇ」
そんな彼の様子に気を良くした英は、さらに言葉を続けた。
「この時代のこの辺りの曲って、なんかどれもお洒落でさ。もちろん今じゃ使わない演出? みたいなのもあるけれど、そういうのも逆にノスタルジックな感じがして。それに、ただ雰囲気がいいってだけじゃなくて、肝心のメロディーも凄く印象的で、ずっと耳に残るっていうか……って、そんなに意外だった?」
「あ、いや……」
樋野はさっと顔を画面へと戻す。
そして、きまり悪そうに開いたままのフォルダを閉じていった。
と、デスクトップに貼られているとあるフォルダに目が行く。
「ねえ、この『オリジナル』ってのは?」
すると樋野はぎくりと身体を強張らせる。
「もしかして、樋野が作った曲?」
「あ、ああ、まぁ……」
「そうなんだ! ねぇ、聞かせてよ」
すると樋野はさっきより余程分かりやすく眉間にしわを寄せる。
「聞かせるレベルの曲じゃない」
「そんなことないって!」
そう食い下がるも、樋野は頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。
だが、そうなると余計に聞きたくなるというのが人間の性というものだ。
「お願い、聞かせてよ。実は俺もさ、作曲、興味あるんだ」
……まるっきり嘘だった。
だが、その言葉の効果は抜群だったようで、彼は丸くした目をその長い前髪の間から覗かせると、
「……じゃあ、一曲だけ」
と呟くと、すすっとマウスを動かした。
そうして開いた『オリジナル』フォルダには、また例の不思議なアイコンがびっしりと並んでいた。
樋野はそれをしばし眺めた後、その一つをクリックする。
「笑うなよ」
そう念押しされた後、流れ出したその曲。
アップテンポなのにどこか切なく響くそのメロディーのせいで、英の人生は180度、変わってしまったのだった。
「あっ、これ……」
それは昔、死んだ母がよく聞いていたとある女性シンガーのインスツルメンタルだった。
「あの曲とそっくりだろ」
黒い画面、波打つ緑色の線を垂直に分断しながら、一本の線が走っていく。
「そりゃ、コード進行が被ることなんてよくあるよ。あえて似せることだってある。でも、メロディーがここまで一緒じゃダメだろ。それを、何が『こんなカッコイイ曲、初めて』だ。常識レベルだぞ、この曲」
樋野はぶつくさ言いながら画面を閉じようとする。
「あのさ」
「何」
「これ、もしかして樋野が作ったの?」
「ああ、まぁ……打ち込んだだけ、だけど」
「いや、それでも凄いって! で、他にもいっぱいあるみたいだけど……こういうタイプの曲好きなんだ?」
「……」
そう言うと樋野は露骨に嫌そうな顔をした。
「いや、馬鹿にしているとかそういうんじゃないから! 俺も好きなんだ、こういうの」
慌ててそう付け加える。
すると樋野はその細い目をぱちりと見開くと、もの珍しそうに英を見た。
「……へぇ」
そんな彼の様子に気を良くした英は、さらに言葉を続けた。
「この時代のこの辺りの曲って、なんかどれもお洒落でさ。もちろん今じゃ使わない演出? みたいなのもあるけれど、そういうのも逆にノスタルジックな感じがして。それに、ただ雰囲気がいいってだけじゃなくて、肝心のメロディーも凄く印象的で、ずっと耳に残るっていうか……って、そんなに意外だった?」
「あ、いや……」
樋野はさっと顔を画面へと戻す。
そして、きまり悪そうに開いたままのフォルダを閉じていった。
と、デスクトップに貼られているとあるフォルダに目が行く。
「ねえ、この『オリジナル』ってのは?」
すると樋野はぎくりと身体を強張らせる。
「もしかして、樋野が作った曲?」
「あ、ああ、まぁ……」
「そうなんだ! ねぇ、聞かせてよ」
すると樋野はさっきより余程分かりやすく眉間にしわを寄せる。
「聞かせるレベルの曲じゃない」
「そんなことないって!」
そう食い下がるも、樋野は頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。
だが、そうなると余計に聞きたくなるというのが人間の性というものだ。
「お願い、聞かせてよ。実は俺もさ、作曲、興味あるんだ」
……まるっきり嘘だった。
だが、その言葉の効果は抜群だったようで、彼は丸くした目をその長い前髪の間から覗かせると、
「……じゃあ、一曲だけ」
と呟くと、すすっとマウスを動かした。
そうして開いた『オリジナル』フォルダには、また例の不思議なアイコンがびっしりと並んでいた。
樋野はそれをしばし眺めた後、その一つをクリックする。
「笑うなよ」
そう念押しされた後、流れ出したその曲。
アップテンポなのにどこか切なく響くそのメロディーのせいで、英の人生は180度、変わってしまったのだった。
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