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忠珍鱈

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英が最後の音を奏で終えると、部屋に静寂が戻ってくる。

「……どうだった」
ギターを置いて恐る恐る隣を見る。
「……」
駈は腕を組んだままじっと黙っていた。

「何でもいいんだ、思ったことを言ってほしい」
「……」
「なあ、何か言ってくれよ」
そんな情けない声が出てしまう。

そうやって急かしてくる英に、駈はうーん、と小さく唸った。
「別に、勿体付けているわけじゃないんだ。俺だって……分からないんだよ」

駈は胡坐を解くと、膝を抱えるように座り直す。
そこに顔を埋めるようにしながら、ぽつりぽつりと語り出した。

「さっきの曲を聴いて、まず初めに思ったんだ。お前らしい曲だな、って。でもさ……その『らしさ』って何なんだろうなって……そう考えだしたら、よく分からなくなってきて」

駈はテーブルのコップをぼうっと眺めている。
英はその横顔をひたすら見つめていた。

「もちろん作曲家にとって、そういう『らしさ』ってのはある種、強みでもあるんだろうな。それだけ人々に認知され、受け入れられているって証みたいなもんだしさ」
「……そうなのかな」
自信なさげにそう言うと、駈は「ああ」と強く肯定した。

「お前が作る曲ってさ、やっぱりどこか、大多数に確実に刺さる部分ってのがあると思うんだよ。だってそれがなきゃ、こんなに馬鹿みたいに何度もヒットしないだろ?」
「馬鹿みたいに、っていうのは余計だけどな」
そう返せば、駈は声を出して笑った。

「でも、そういう他人受けする部分が、そのままお前の『らしさ』になってしまっているんだとしたら……そして、お前がそれに、無意識にでも寄せてしまっているんだとしたら――それって、何か違うだろ?」
「……」
「というか、そんなびくびくしたお前なんて、よっぽどないっての」

すっきりした切れ長の目を細めて、駈が笑う。
その表情は、高校時代によく、あの視聴覚室で自分に向けられていたもので――

次の瞬間、英は彼へとその腕を伸ばしていた。


「わっ! ちょっ、英……!」
突然その腕に抱き込まれ、駈はバランスを崩しながら声を上げた。

「おい、なんだよいきなり……っ」
「……」
英は黙ったまま、その腕に力を込めた。

あの日、すっぽりと覆いかぶさるようにして抱き締めた学ランの後姿。
あれから十年以上が過ぎ、今、その体温をシャツ越しに感じている。

どくどくと胸が高鳴っていく。
その一方で、その温かさは英の冷えて乾いた心を穏やかに満たしていくようだった。


どのくらいそうしていたのだろう。

「なあ……気は済んだか?」
抜け出すことを諦め腕の中で大人しくなっていた駈が、英の胸に手を付く。
ぐっと力を込められ、二人の間に距離ができる。
呆れの中に心配を隠した顔で、駈はこちらを見上げていた。

「……」
何と返せばいいか分からない。
そもそも、気が済むとか済まないとかではないのだ。衝動的に抱きしめてしまった、それだけだった。
でも、それをありのまま言うわけにもいかず、英は口を閉ざしてしまう。

無言のまま俯く英に、駈はやれやれとため息を吐いた。
「ったく……こっちは真剣に考えてやってるってのに……意見が欲しいんじゃなかったのかよ」

駈が怒るのはもっともだった。
「……ごめん」

だが、そうやって項垂れる英の耳に聞こえてきたのは、小さな笑い声だった。

顔を上げると、膝を抱え直した駈が眉を下げてこちらを見ていた。

「お前ってさ、昔からそうだよな」
「……へ?」
「急に叫んでみたり、抱きしめてみたり……ほんと、自分勝手でさ」
「いや、そんなこと」
……ない、と言い切るには思い当たることがあまりに多すぎた。

気まずげな表情を浮かべる英に、駈はまたくすりと笑う。
そして、英の方をちらりと見ると、今度はわずかにその唇を尖らせた。

「別に今更、お前の性格にどうこう言いたいってわけじゃない。ただ、少し……不公平だな、って思ったんだ」
「不公平……?」
駈はひとつ頷くと、その目をそっと伏せた。

「だって……俺ばっかりがいつも、お前に振り回されているんだから」


そんな顔をするから……という理由は、やっぱり『自分勝手』なのだろう。

それでも、英は胸を突き上げるものに抗うことなどできなかった。
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