女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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ツギノ町編 第二章 色んなやつら、襲来

非常に凶悪なスキルだ

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 んあ……?
 おおう、いつの間にか寝ちまったみたいだ。
 昨夜は腹一杯になるまで食ったからな……。

 窓を覗かなくても、柔らかな陽射しが部屋に入り込んでいるのがわかる。
 鳥の鳴き声と少し冷えた空気が、朝の到来を教えてくれていた。

 ベッドから降りて伸びをすると、自然と欠伸《あくび》がもれる。
 ひとまず顔を洗いに行こう。

 階段を降りて洗面所へ。
 この時間の酒場はまだ営業していないから、廊下も静かだ。

 洗面所の前まで来て中に入ろうとすると、そこには天使がいた。
 顔を洗ったばかりらしく、ちょうどタオルで水滴を拭っているところ。
 それが終わるとすぐに天使はこちらに気が付いた。

「あ……ジン君だ。おはよう」

 ティナ専用スキル「エンジェルスマイル」。
 俺の心を完全に破壊してしまう非常に凶悪なスキルだ。
 
 そして問題なのは威力だけじゃなく、回避する術もないという事。
 微笑みが視界に入るだけで効果は発揮されるのだ。

「ジン君?」

 ティナに見とれて無言で突っ立っていると、その声で我に返った。
 慌てながらも何とか挨拶を返す。

「ああ、おはよう。今日も頑張ろうな」
「うんっ」

 元気に頷くと、ティナは部屋に戻って行った。
 俺もさっさと顔を洗って戻ることにする。
 普段着に着替えて酒場へ。

 酒場は営業こそしていないものの、宿泊客の為に食堂として解放されている。
 料理を注文してから席に座る。
 少し待つとティナが降りて来て、同じ様に注文をしてから席に着いた。

 料理を待つ間に今日の予定を確認する。

「今日はこの後装備を買いに行くけど……ティナは行きたい店とかはあるのか?」

 武器や防具を売っている店は、この町だけでも何件かあるはずだ。
 町の出入り口から宿屋へ、宿屋からギルドへ。
 そうした最低限の移動の最中ですら複数の武器防具屋を見かけた。

 とすれば、この町に何回か来た事のあるティナなら行ってみたいお店というのはあるだろう。
 そう思って聞いてみたのだ。

 ティナの返答は驚く程に早かった。

「うん、普通の武器防具屋も見たいんだけど……たびびとのふくの専門店とかがあってね、そっちを見て回りたいんだ」
「そんなのがあんのか」
「うん。ひのきのぼうやこんぼうの、棒系武器専門店も後から周りたいんだけど……先にそっちから行きたいなって。だめかな?」

 おずおずと上目遣いで聞いて来るティナ。
 だめという事があるのだろうか? いやないだろう。

「全然いいぜ。俺も親父の形見代わりになる武器を買おうと思ってたしな」

 あまり気にしてなかったけど、今の俺は武器を持っていない。
 ティナと一緒に冒険者をやっていくには不自然極まりないと言える。

 俺の言葉を聞いたティナは、胸の辺りに手を添えて安堵の表情を浮かべた。

「そっか……ありがとう」

 程なくして注文した料理が到着。
 パンやスープで構成される朝食をさっさと平らげた。
 宿屋を出る前に、受付の店員さんに武器防具屋について尋ねてみる。

 若い女の人だけど、大人っぽくて少し緊張するな……。

「お姉さん、たびびとのふく専門店と棒系武器専門店に行こうと思ってるんだけど、どこにあるか知ってるか?」

 するとお姉さんは俺の後ろにいるティナを一瞥してから口を開く。

「あら、彼女さんとデートかしら?」
「なっ……」

 思わず言葉に詰まってしまった。
 そう言われてみればこれはデートじゃないか!
 
 ただ単に仲間と装備を買いに行くと捉える事も出来るけど……。
 やばい、そう考えるとちょっと緊張して来たぞ。
 何だか恥ずかしくて、ティナの反応を確かめたりはせずに続けた。

「ま、まあそんな感じ、かな?」
「ふふっ……だったらいいお店を何件か知ってるわよ。地図を持ってるなら場所をチェックしておいてあげるけど」
「頼む。ティナ……地図を」

 そう言いながらティナの方を振り向いて、手を差し出した。
 するとティナは少し俯きがちで、頬をほんのりと赤く染めている。

 はっ、まさかデートと言われてティナも照れている!?
 これは付き合えるやつか……?

 買ったこんぼうを渡しながら告白してみるか。
 「これで俺と突き合ってください」なんつってな……。
 あんまり上手くねえな。

「ジ、ジン君……?」

 気付けばティナが俺に地図を差し出したまま困り顔をしていた。

「ああ、悪い悪い。じゃあこれに頼むぜ」

 それを慌てて受け取り、お姉さんに手渡す。
 お姉さんは俺から地図を受け取ると、ささっと素早く印をつけてくれた。

「はい、これね。それじゃあ行ってらっしゃい」

 地図をこちらに戻すと、お姉さんはそう言って小さく手を振る。
 その顔は終始柔らかい微笑を纏ったままだった。
 扉に向かって歩き出すと、少し強い口調でティナが話しかけて来る。

「綺麗なお姉さんだったねっ」
「ん? ああ、そうだな……」

 そんな会話をしながら外に出た。

 扉を開けると、強い陽射しが目に飛び込んでくる。
 朝起きた時よりも少しだけ暖かくなった空気は、大通りを包む喧騒と相まってどこか気分を高揚させた。
 宿屋の前で、地図を広げて眺めながらティナに尋ねる。

「どの店から周ろうか」
「う~ん……」

 横から真剣な眼差しで地図を見つめるティナ。
 そんなティナの顔を眺めながら、のんびりと答えを待つ。

 お姉さんは地図にチェックを入れてくれただけで、どんなお店なのかという詳細までは書き込まれていない。
 なのにどこから周ろうかすごく悩むティナ……いいな。

「じゃあこれっ! このお店!」
「おおう」

 ティナが地図上の一点を指差す。
 突然声を張り上げるので少しだけ驚いてしまった。
 どうやら区画ごとに順番で見て回るらしい。

 地図と照らし合わせながら方角を確認する。

「このお店なら……あっちの方だな。よし、それじゃ行くか」
「うん」

 お姉さんに入れてもらったチェックの数も結構あるし、時間がかかりそうだ。
 こりゃ今日のクエストはお預けかもな……。
 
 もちろん俺はそれでも一向に構わない。
 むしろティナとデートみたいな事が出来てラッキーと思ってるくらいだ。
 
 目的地に向かいながらも、ティナはきょろきょろと街並みの観察に余念がない。
 そしてやくそうの意匠が施された看板を扉に掲げた店を見付けると、少し感慨に浸る様な表情で呟いた。

「道具屋も何件かあるんだね。装備が整ったらそっちも周りたいな」
「親父さんに連れて来てもらった時って、お店とかは行かなかったのか?」
「うん……食料品店への買い出しがほとんどだったから……特に冒険者が行くようなお店はあまり。でも、ぬののふくはたまに新しいのを買ってもらったりしてて……それで専門店みたいなお店があるのは知ってたの」

 懐かしい日の事を思い出しているのだろう。
 そう話すティナの顔はとても穏やかだった。

 そこは宿屋からそう遠くない、町の南東側にある区画。
 大通りから一つ入った路地にある、盾の意匠が施された看板が目印のお店。
 ぬののふくとたびびとのふく専門店「フェアリーポケット」。

 店の前でもう一度地図を広げて確認する。

「ここだよな? さっきティナが指差したところ」
「うんっ! どんなたびびとのふくがあるのかな~ねえ、早く入ろっ」
「そうあせるなって」

 まるで子供みたいにはしゃぐティナ……いいな。
 少しニヤけながら、俺は何の考えもなく扉を開けた。

「いらっしゃいませ~」

 そんな女性店員の声と共に飛び込んで来た光景に俺は面喰らった。
 店内は内装から品揃えまでが全て女性向けのものだったからだ。
 開店したばかりだから数はいないものの、よく見れば客もほとんどが女性。

「たびびとのふくは……あっちだね」

 たびびとのふくコーナーを指差すと、さっさとそっちに向かうティナ。
 俺はのろのろとその後ろをついて歩く。
 それからティナは鼻歌を歌いながらかわのふくを見始めた。

 移動しながらも、周囲の女性客からの視線が刺さる。
 うっ……居心地悪いな。
 これがあれか、彼女の買い物に付き合わされる男の試練的なやつか。

 なにっ……!? 待てよ……? 彼女だと……?
 そうか……俺は今彼氏としてティナの買い物に付き合わされている……。
 そう考えるとこの試練は理想郷へのパスポートなんじゃないか?

 ちょっと自分でも何を言っているのか良くわからなくなって来た。
 その時ティナが突然こちらを振り返り、自分の身体の前にたびびとのふくを持ってきてから言った。

「ねえジン君! これどうかな?」
「えっ……」

 ティナは目を輝かせながら俺の返答を待っている。
 手に持っているのは、白を基調としたワンピース風のたびびとのふくだ。
 正直に言って可愛いし似合っている……でもそんな事は言えない!

 俺は視線を逸らして頭を掻きながら言った。

「ま、まあいいんじゃねえ?」
「そっかあ」

 聞いてみたもののまだ迷っている段階らしい。
 俺からは視線を外し、手に持ったたびびとのふくをじーっと見つめている。
 別にティナなら何でも似合うと思うんだけどなあ……。

 次にティナは全体的に淡い水色を基調とした、トップスとスカートがセットになっているたびびとのふくを手に取った。
 更に真剣な面持ちでそれを見つめている。

 いつかセイラが言ってたけど、女の子の買い物ってやっぱ長いんだな……。
 
 その時、いつの間にか現れた店員さんがすすすっとティナの横についた。
 長い髪にウェーブがかかっていて、全体的にふんわりとした雰囲気の女性だ。

「試着も出来ますので、どうぞお申し付けくださいね~」
「えっと……は、はいっ……それじゃ、お願いします……!」

 少し恥ずかしかったのか、ティナは顔を赤くしながらそう言った。
 ティナが試着室に入ると、居心地はより一層悪くなる。
 さすがにこの店の中で男一人ってのはきつい。

 やがてティナがカーテンを勢いよく開けて出て来た。

「あら、よくお似合いですよ~」
「あ、ありがとうございます……あ、ジン君は……どうかな?」

 こちらに気付くと、少し照れ臭そうに聞いて来るティナ。

 こちらのたびびとのふくも良く似合っている。
 今のティナの姿は、破壊力だけなら俺の「爆裂剣」よりも上かもしれない。
 二度目なので、今度はすんなりあの台詞を口に出来た。

「ああ、いいと思うぜ」
「そっか……じゃあさっきのと、これにするね」

 試着した服を眺めながら、嬉しそうに言うティナ。
 着替え直して再び試着室から出てくると、店員さんに商品を持ってもらって、二人でカウンターへと向かった。

「ありがとうございました~」

 会計を済ませると、店員さんの挨拶を聞きながら店を後にした。
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