女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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ツギノ町編 第二章 色んなやつら、襲来

お父さん許しませんよ

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 たびびとのふくを買えてご機嫌なのか、ティナは鼻歌交じりに歩いている。
 頃合いを見計らって、地図を広げながら聞いた。

「次はどうする? たびびとのふくは買ったし、ここから近い棒系武器専門店にでも行ってみるか?」
「うん、じゃあそうしよっかな」

 上機嫌な様子で頷くティナ。
 俺たちは、ここから一番近い棒系武器専門店に足を向けた。
 店に向かう途中、歩きながらティナに聞いてみる。

「なあティナ。さっきの店、本当にぬののふくとたびびとのふくしか売ってなかったけど……あれでちゃんと経営出来てんのか?」

 俺の質問に、ティナはきょとんとした顔をした。
 でも、すぐにハッとした表情になって答える。

「そっか、ジン君ってこの辺りの出身じゃないんだよね」
「あ、ああ。まあな」

 具体的にどこかを聞かれると困るので、少し動揺しながらそう答えた。
 でもその心配は杞憂に終わる。
 俺の出身地には触れず、ぴしっと人差し指を立ててティナは説明を始めた。

「ほら、ツギノ町の周りってスライムやゴブリンばっかりで、あまり強いモンスターが出ないじゃない?」
「ああ、そうだな」
「だからね、ここだとぬののふくやたびびとのふくが一番売れるんだよっ」

 そう言ってティナはドヤ顔になった。
 言葉足らずなティナ……いいな。

 恐らくはこういう事だ。
 
 この町にはゴブリンやスライムしか狩れない様な低レベルの冒険者が多い。
 そしてたびびとのふく以上に防御力の高い……例えばかわのよろいなんかを買えるくらいの冒険者になると、首都やらに旅立っていってしまうのだろう。
 だからこの町で一番需要があるのは、たびびとのふく以下の防具なのだ。

 それに加えて防具というのは消耗品だ。
 特にぬののふくやたびびとのふくはすぐだめになるから、買い替え需要も多い。

 そして、同じ防具ならよりお洒落な物を並べた方が売れる。
 だからこの町にはぬののふくやたびびとのふく専門店がたくさんあるんだろう。

 でも、ここでティナにそれらを確認するような真似はしない。
 以前に俺の脳内会議にて、積極的に褒めて行く方針で決定したからだ。
 むしろここは褒めるチャンスでしかない。

「なるほどな。ティナは物知りなんだな」
「でしょっ。何でも聞いてっ」

 えっへん、と威張るティナ……いいな。
 俺はティナのこのポーズを見るために生きているといっても過言ではない。
 何でもとは言うけど、スリーサイズとかを聞いたら怒るだろうな……。

 目当ての店は「フェアリーポケット」と同じ区画にあったのですぐに着いた。
 棒系武器専門店、「こんぼうコンボ」。

 ちなみに「フェアリーポケット」もこの「こんぼうコンボ」も、他の武器防具屋と看板は同じだ。
 これは客の混乱を防ぐ為の決まりらしい。

 扉を開けて中に入ると、客の入りはそこそこだ。
 でもさっきの店程じゃないとはいえ、またしても女性客が多い。
 
 今思えば、宿屋のお姉さんが地図にチェックを入れて場所を教えてくれたのは、どれも女性向けの店なのだろう。
 とはいえ、今回はちゃんと男性客もいるので居心地はそこまで悪くない。

「わあ~、色んなこんぼうがあるね」

 感嘆の声をあげながら、ティナは早速こんぼうを見て回っている。
 その横で、俺も自分が使う武器の品定めをする事にした。

 しっかし、ひのきのぼうやこんぼうの専門店って何だよと思ってたけど……。
 ぬののふくやたびびとのふく専門店なんかと要領は同じだ。
 需要がどうしてあるのかとかも同じ原理なんだろう。

 店には、色んなデザインのひのきのぼうとこんぼうがずらりと並ぶ。
 グリップのところに布を巻いて、そこに絵が描かれている。

 棒の色が違うものもあるけど、基本の勝負ポイントは布に描かれた絵になっているらしい。
 ここは女性に人気の店というだけあって、花や星をはじめ、犬や猫などの可愛いものが描かれたこんぼうが中心だ。

 ティナが並べられたこんぼうから一つを手に取って俺に見せて来た。

「見て見てジン君! ソフィア様だよ!」
「おっ、そんなのもあんのか」

 そのこんぼうには、布に妖精姿のソフィア様の絵が描かれている。
 ソフィア様は下界にふらりと遊びに来る事があって、その際にはどういうわけかここに描かれている様な小さい妖精の姿になっている事が多い。
 
 下界じゃなく、天界に遊びに来る時もそうだ。
 神界にいる時はずっと普通の姿らしいけど……何が基準なんだろうな。
 とはいえ、妖精姿のソフィア様も可愛いので不満はない。

「とりあえずこれはキープかな」

 ティナはソフィア様がデザインされたこんぼうを気に入ったらしい。
 それを手に持ったまま、別のこんぼうを見始めた。

 ふと、ソフィア様のこんぼうが置いてあった場所の近くにゼウスのこんぼうが置いてあるのを見つける。
 それを手に持ってティナに見せてみた。

「おいティナ、ゼウスのこんぼうもあるぞ」
「ジン君……。ゼウス様を呼び捨てにしちゃだめだよ?」

 子供を叱る様な口調で、デザインよりも先にそちらをツッコまれた。
 眉間に皺を寄せるティナ……いいな。

 そう言えばあのじいさん、地上では尊敬されてるんだっけか……。
 いや、別に天界でも尊敬されてはいるけどな。
 それはともかく、何とかティナの機嫌を直さなければ。

「悪い悪い、小さい頃からゼウス様を尊敬しすぎててな、まるで友達みたいに感じちゃう時があるんだよ」

 自分で言ってて吐き気がするけど今はしょうがない。
 そう言うとティナは少し驚いた後、花が咲いた様に表情を明るくした。

「へえっ~ジン君の家もゼウス教だったんだね! 私の家もそうなんだ!」
「おっ奇遇だな。やっぱあの髭とか安心感があっていいよな」
「うんうん」

 嬉しそうな顔で頷くティナ。
 適当に言っただけなんだけど、どうやらあの髭には人間を安心させる効果があるらしい。
 でもまああの無駄な髭はジジイの数少ないチャームポイントの一つではある。

 俺も昔、あれが気になりすぎて「精霊剣技」の練習がてらに斬り落とした事があるくらいだ。
 もちろんめちゃめちゃ怒られた事は言うまでもない。

 もう一度手に持ったこんぼうを差し出しながら聞いてみる。

「じゃあティナ、こんぼうもゼウス様のやつにするか?」
「えっ……う~ん、こんぼうはいいかなぁ……」

 ティナは顎に指を当て、少し難しい顔で悩みながらそう言った。
 おいジイさん、お前人気ねえぞ。
 しょうがねえ俺が買ってやるとするか……。

「そうか。じゃあ俺がこのこんぼうを買うぜ」
「うん、ジン君には似合ってるし、いいと思うよ」

 エンジェルスマイルでそう言って来るティナ。
 似合ってる、というのがどういう意味なのかはあまり考えないようにしよう。

 まあ、ゼウスのこんぼうを選んだのはそこまで嫌々というわけでもない。
 この店のこんぼうは可愛いものが基本で、他に俺に似合うものがほとんどないからだ。
 そんなわけであまり迷う事もなく、さっさとカウンターに持って行った。

 会計を済ませてティナのところに戻る。
 ティナはまだどのこんぼうにするか悩んでいる様だ。

 左手にソフィア様のこんぼうを持ったまま、次々に色んなこんぼうを右手に持っては難しい顔をして見比べている。
 急かすこともせず、その横でぼーっとしながらのんびりと待つ。

 すると、店の奥に何やら物騒な武器を見付けた。
 ガラスケースに入れられているので、お値段が張るやつなのだろう。
 棒と、棘がたくさん付いた鉄球を鎖でつないだ武器だ。
 ケースの下に値札があり、「モーニングスター」と書かれている。

 天界にはない武器だな。
 ケースの前まで来てそれを眺めていると、ティナもこちらに寄って来た。

「ジン君、何見てるの?」

 俺の横に並んで一緒に武器を眺める。
 距離が近いので緊張するし、何だかいい匂いもして来た。
 既に武器の事はどうでもよくなってしまっている。

 その時、怖いものを見た様な顔になってティナが呟いた。

「うわぁ……これで殴られたらすごく痛そうだね……」
「痛いで済めばいい方じゃないか?」

 思わずツッコんでしまったけど、ティナはあまり気にしてないみたいだ。
 そのまま武器をじっと見つめながら言った。

「私もいつか、こんな武器を装備出来る日が来るのかなぁ」

 いやいや、こんなゴツイ武器を装備するなんてお父さん許しませんよ。
 ティナにはぬいぐるみとかで戦って欲しい。
 鉄とかで作れば攻防一体の装備になるし、案外いいんじゃないか?

 そんな事を言えば怒られるので、別の方向で否定しておこう。

「ティナにはもっと剣とかの方が似合うと思うけどな」
「そ、そっか……ありがと……」

 どういうわけかティナは照れている。
 こちらには視線を向けないまま、俯いて頬を赤く染めていた。
 剣が似合うと言われたのが嬉しいのだろうか。

 そんなやり取りを交わして気が済んだのか、ティナはこんぼうコーナーに戻って行った。
 俺も一緒に移動する。

「う~ん、どれも可愛いけど、やっぱりソフィア様のが一番かなぁ」

 右手に持ったこんぼうをじっと見つめながら、ティナはそう言った。
 悩んだ末に、ソフィア様がデザインされたこんぼうに決めたらしい。

 一応確認の為に聞いてみた。

「それに決めたのか?」
「うん、待たせちゃってごめんね」
「気にすんなって。それじゃ会計して来るから待っててくれ」

 ティナの手からこんぼうをひょいっと取り上げた。
 するとティナはこちらを向いて、潤んだ瞳に震えた声でお礼を言って来る。

「あっ……あの……ありがとう」
「どういたしまして」

 笑顔でそう言ってカウンターに向かい、会計を済ませたのだった。
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